【完結】抱かれたい男No.1の王子様が恋をしたのは、美姫と名高いウサギ獣人の隣にいたグリーンイグアナ獣人でした

鬼ヶ咲あちたん

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五話 祝宴の最中に

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 侍女たちの手によって、外見だけは完璧なレディになったアドリアナを、バーナビーが迎えにきた。



「アナ、今夜のあなたの美しさには、どんな女神も敵いません。その輝きで、私の目が潰れそうです」



 相変わらず過剰な美辞麗句に、アドリアナは固まってしまわないよう気合いを入れた。

 こんなのは行軍訓練と思えばいい、と違う方向に勇ましく。

 そんなアドリアナの心中を知らないバーナビーはウキウキで、それこそ天にも昇りそうだった。



(やっぱりドレスも似合う! 軽装鎧も良かったけど! 首から肩、胸から腰、腰から尻尾、このラインが艶めかしくて――お針子さんたち、最高の仕事をしてくれた!)



 嬉しくて嬉しくて、兄の王太子クレイグが、あれ? という顔をしているのも気づかない。

 アドリアナとファーストダンスを踊り、両国間の友好と個人的な溺愛を周りにアピールする。

 獣人国の人々は「素敵ね」とうっとりするだけのイエローダイヤモンドだが、この国の貴族たちはあれが初代女王が身につけた特級クラスの国宝だと知っている。

 うっとりどころか、顔を青ざめさせていた。

 バーナビーのアドリアナへの執着の重さに、ドン引きしたからだ。



 さすが、アドリアナのダンスは完璧だった。

 軸がしっかりしているので、常に背筋が伸びて美しい。

 少しバーナビーが大きく振り回しても、なんなくついてくる。

 回転するのにあわせて、バーナビーが選んだ青色のドレスが翻る。

 そのときにチラリと見える尻尾の色っぽさに、さきほどからバーナビーはすっかりやられている。

 

(あの尻尾の先に、キスしてもいいかな。ずっと下から上にキスしていって、ぜひ付け根はねっとり舐めさせてもらいたいものだ)



 そんな不埒なことを考えているとは、バーナビーの美顔からは少しも伺えない。

 だがバーナビーはそういう男だ。

 ジェントルの仮面をかぶりつづけ、アドリアナを祝宴の間中、腕から離さず独り占めし続けた。



 ◇◆◇



 クレイグは焦っていた。

 後ろに控えていた護衛騎士に、すぐさま確認を取る。



「おい、どういうことだ? バーナビーが懸想しているのはウサギちゃんじゃないのか?」

「あれを見たら違うようですね」



 クレイグと護衛騎士の視線の先では、デレデレしたバーナビーがグリーンイグアナ獣人の女性騎士とダンスをしている。

 他の者には分からないだろうが、クレイグには分かる。

 バーナビーがバレないように、女性騎士の胸が自分の胸にあたる位置まで、彼女の腰を引き寄せていることが。

 これ以上引き寄せると、女性側にいやらしいと思われてしまう、ギリギリの近さを攻めている。



(そんな線引きばかり上手くなって……)



 しかし女性の扱いにかけては、バーナビーは天下一品だ。

 グリーンイグアナ獣人の彼女を、とても楽しませているようだ。

 

「まずい、まずいぞ……どうやら本命は間違いなくグリーンイグアナ獣人の彼女のようだな」

「どうしますか? すでにバーナビーさまの部屋の鍵は、レオノールさまに届けてしまったんですよね?」

「そうだ。しかも、『いつでも夜這いに使っていいよ』と俺のコメントつきで!」



 ああああ、と頭を抱えるクレイグ。

 

「レオノールさまを探して、鍵を返してもらうしかありませんね」

「それが、妹は体調を崩して祝宴は欠席するとロドリゴ陛下から連絡があったんだ。つまり、ウサギちゃんはこの会場にはいない」

「離宮で休まれているのではないですか? 訪ねてみましょうか?」

「そうしてくれるか? そして、鍵は手違いだったと、返してもらってくれ」



 護衛騎士が礼をしてその場から立ち去る。

 それを見て壁際に待機していた別の護衛騎士がクレイグの後ろに控えた。

 何かあったときはこうして、交代することになっている。

 クレイグは心労が大きすぎて、とても祝宴を楽しめない。

 早く鍵が手元に戻ってこないことには、心臓に悪いことこの上なかった。

 この後、なかなか戻ってこない護衛騎士に胃が痛くなったクレイグは、会場に用意された椅子にぐったりと座り込む羽目になるのだった。



 ◇◆◇



 離宮では、レオノールが夜這いの準備をしていた。

 ダフネは止めましょうと反対したが、またしてもあっけなくレオノールに強行される。

 

「見なさいよ! ちゃんと王太子のサインだってあるんだから! これは推奨された夜這いなのよ! きっと獣人国とのつながりを求めているのだわ!」



 ここにふたつの国を結ぶ子を宿すわよ! とレオノールは腹をさすっている。

 ダフネは何度も王太子の手紙の文面を確認したが、レオノールを諦めさせる要素はどこにもなかった。

 

「さあ、あのスケスケのネグリジェを出しなさい! 丈が短いピンクのやつよ! バーナビーさまに可愛がってもらうチャンスがあるんじゃないかと、準備しておいてよかったわ!」

「本気ですか? あれは本職の人が着るものですよ!?」

「なあに? ネグリジェに本職とかあるの?」

「あれはネグリジェではなく……本職の人の下着というか……」

 

 ダフネはレオノールに、娼婦という言葉を使わずになんとか説明をしようとしたが、土台無理だった。



「なんでもいいから持って来なさい! 私は先に体を磨いているわ!」



 レオノールが踊るように浴室に向かう。

 がっくりと肩を落としたダフネが、レオノールの荷物の中から『丈が短いピンクのネグリジェ』を探し出す。

 びらりと持ち上げてみるが、やっぱり下着にしか見えない。

 下着だってもっと、布の面積があるはずだ。



「これじゃ体のどこも隠せやしませんよ、レオノールさま」



 しぶしぶダフネはそれを持って、浴室に入っていった。

 レオノールが、爪を磨けだの、髪を編めだの、浴室でギャーギャー命令するので、ダフネだけでなくレオノールの部屋に控えていた使用人は、全て浴室で手伝いをさせられた。

 だから誰一人として、レオノールの部屋の扉がノックされていることに気がつかなかった。

 王太子の護衛騎士がやってきたと、門番が伝えにきていたのだ。

 しかし中から返事がないため、門番はすごすごと帰っていく。

 そして護衛騎士に報告をするのだった。



「どうやらレオノールさまは、部屋にはいらっしゃいません。お留守のようです」

「え? 体調を崩して休まれているのでは?」

「体調というか尻というか、まあ、そうだったと思いますが、今は誰も部屋にいないようなんです」



 ここで護衛騎士はピンとくる。

 もしかしてもう夜這いを決行しているのでは?

 これは大変だと、護衛騎士は礼もそこそこに、離宮から王城へ取って返した。

 そしてバーナビーの部屋に駆け込むのだが、そこにはバラの花びらをまき散らしている婆やしかいなかった。



「どういうことだ? レオノールさまはどこに行かれたんだ?」



 もしかしてすれ違ったかもしれないと、護衛騎士は離宮と王城をつなぐルートを、すべてチェックして回る。

 そして本当にレオノールとすれ違ってしまうのだ。
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