【完結】抱かれたい男No.1の王子様が恋をしたのは、美姫と名高いウサギ獣人の隣にいたグリーンイグアナ獣人でした

鬼ヶ咲あちたん

文字の大きさ
12 / 35

十二話 それぞれの婚前

しおりを挟む
 アドリアナがロドリゴに提案したことは、レオノールの躾け方についてだった。



「部下たちが、レオノールさまの面倒を見るのを嫌がっています。これを何とかしないことには、隊長になりたがる者は出ないでしょう」

「そうだな、ネックになるだろうと、先ほどの議会でも話題に上がっていた」

「そこで考えたのですが、レオノールさまを兵士見習いにしてはどうでしょうか?」

「……え?」

「これまで王族は男性に限り兵役についてきましたが、今は軍にも女性騎士や女性兵士が増えました。ここはひとつ、レオノールさまが先陣を切って、初の女性王族兵士として――」

「待て待て待て! 思い切り過ぎじゃないか!?」

 

 ロドリゴは慌て、のんびりした態度をかなぐり捨てる。

 そして思い出すのだった。

 アドリアナはこういう人物だったと。

 王族のロドリゴの尻を、なんの躊躇もなく引っ叩く人物だったと。



「部下たちも、兵士見習いと思えばレオノールさまを厳しく躾けられるでしょう。いい案だと思います」

「……本気か?」

「レオノールさまも、衆人環視の中で第四部隊の伝統を学べば、心が入れ替わります。どこかの誰かのように」



 アドリアナがにっこりと微笑むので、ロドリゴは鳥肌が立った。

 そして心の中でレオノールに詫びた。



(もう俺ではアドリアナを止められない。――レオノール、骨は拾ってやる)



 その日、レオノールの第四部隊への入隊が決まり、無事にアドリアナの後任が選ばれたのだった。



 ◇◆◇



「坊ちゃま、花嫁衣装は3点ほど作っておきましょう。アドリアナさまには、その中から選んでいただくのがいいですよ」

「3点で足りるかな?」

「三か月の間にお針子たちは、花嫁衣装以外のアドリアナさまのドレスも制作するんですからね。あまり無茶を言っては駄目ですよ」

 

 それもそうか、とバーナビーは思い直す。

 アドリアナが必要とするものを、全て自分で揃えたいバーナビーによって、王城には国外から多くの商隊が呼ばれていた。

 次はそこで身の回りの品を選ばなくてはならない。



「婆や、衣装のことは任せる。私は商人たちに会ってくるよ」

「はい、行ってらっしゃいませ」



 恭しく頭を下げる婆やとお針子たちを残し、バーナビーは溌溂と歩く。

 なにしろ婚姻届を出してまだ数日の新婚だ。

 どうしても、知らず幸せオーラを振りまいてしまう。

 

「待たせたね、私のお嫁さんに相応しいものは、全て買い取るよ」



 気前のいい発言をしながら商人たちの待つ控え室に入ってきたバーナビーに、その場は沸き立つ。

 情報の早い商人たちがさっそく、爬虫類獣人むけの商品をバーナビーに紹介する。

 

「こちらは、爬虫類獣人の鱗を美しく保つためのクリームです。ぜひ、バーナビー殿下のお嫁さまに」

「うん、いいね!」



 勧められるままに、どんどん購入していくバーナビー。

 これまで、抱かれたい男No.1として貢がれることはあっても、貢ぐことはなかった。

 使われることなく22年間貯められていたバーナビーの私財が、ここにきてようやく動き出したのだ。

 お金の動きに敏感な商人たちにとって、大変な稼ぎ時だった。

 しかも金に糸目をつけないバーナビーが、惜しげもなく大枚をはたくので、この控え室は熱狂の坩堝と化した。



「私の美しいアナの黒髪を映すには、これくらい大きな鏡がいいかもしれない」

「この翡翠色はアナの鱗の色に似ている。これと同じシリーズの食器をまとめて買おう」

「アナは吸い込まれるような金の瞳をしているんだ。そんな煌めく金のシャンデリアはあるかい?」

 

 その後、惚気まじりのバーナビーの話をずっと聞かされた商人たちによって、アドリアナの容姿とバーナビーの溺愛ぶりは世界中に広まる。



 バーナビーが報酬を弾み、職人たちが奮起したおかげで、ふたりの新居は三か月以内に完成した。

 バーナビーが特注した日当たりのいいテラス、水遊びができるプール、温度と湿度の調整ができる孵卵部屋も、素晴らしい出来栄えだった。

 そこへバーナビーが買いまくった、アドリアナ仕様の生活用品や家具が運び込まれる。

 アドリアナの衣装室には、お針子たちが頑張った色とりどりのドレスが並ぶ。

 これで、いつアドリアナが嫁いできても大丈夫な環境が整った。

 バーナビーは首を長くして、その日を今か今かと待つのだった。

 

 ――獣人国にいるロドリゴのもとに、商人たちの噂が伝わるころ、アドリアナにはこんな二つ名がついていた。



「『金と翡翠に愛されし黒蝶真珠の君』だと? はっはっは、これは一体誰のことだ?」



 腹を抱えて大笑いするロドリゴは知らない。

 この噂が巡り巡って、やがてアドリアナの出生の秘密を暴くことになるのだと。



 ◇◆◇



 ようやく三か月が過ぎ、アドリアナがエイヴリング王国へ嫁ぐ日が近づいてきた。

 予定通りに獣人国を出発し、式の日に間に合うように道程を進んだ。

 式に参列するロドリゴたちも、アドリアナと一緒に入国しようとしたが、どうやら手続きが滞っているようだった。



「どうしたんだろうなあ? 前はもっとスムーズに入国できたのに」

「結婚式が間近とあって、エイヴリング王国も忙しいのかもしれませんよ」



 ロドリゴと付き人は、馬車の中でのんきに会話している。

 アドリアナだけは先に入国することができたのだが、残りの獣人たちは国境の前の町で一泊することとなった。



「式に間に合わんということはないだろう。せっかくの旅だ、ゆっくりしよう」

 

 エイヴリング王国が手配してくれた宿でくつろいでいるロドリゴに、付き人がこんな噂をひろってきたのは夕方も過ぎてからだった。



「大変ですよ、ロドリゴさま。この宿だけで、かなりの数の王族がいます。どうやらアドリアナさまとバーナビー殿下の結婚式を、各国がお忍びで見に来ているようです」

「お忍びで? 正式に招待されていない国が?」

「そうです。さすが抱かれたい男No.1の結婚式だと思いましたが、どうもそれだけではないようです。ちょっときな臭い話も小耳に挟んでしまって……」



 付き人が言うには、バーナビーに縁談を断られ続けた女王や王女が、憎きアドリアナを一目見てやろうと押しかけているのだとか。

 容姿や生まれに、ケチをつけたくてしょうがない風だったと付き人は顔をしかめる。

 ロドリゴも顔を曇らせた。

 アドリアナは獣人国が誇る最強の戦士だ。

 それこそ、どこに出しても恥ずかしくないと思っている。

 しかし、それは戦士としての話で、花嫁となるとロドリゴにも自信がなかった。



「女王や王女か……もしかしなくても、レオノールみたいなのばかりじゃないだろうな? これ以上、アドリアナの怒りに、俺は触れたくないんだが……」



 ついつい尻尾がひゅんとなってしまうロドリゴだ。

 実は第四部隊に入隊したあとも、レオノールは散々アドリアナに手間をかけさせた。

 そしてついに、レオノールは公開お尻ぺんぺんの刑を受けることになったのだ。

 そのときのアドリアナの怒りはすさまじかった。

 可愛い部下が、頑張って隊長職を引継ぎ指導しているのを邪魔するレオノールに、アドリアナは一切の容赦をしなかった。

 舐めた態度だったレオノールが、一発目で声を失い、二発目で生理的な涙を流し、三発目でか細く許しを請い、最終的には立ち上がることもできず失神した。

 そのときの鬼気迫るアドリアナに、ロドリゴは奥歯をガタガタ震わせたものだ。



「もうアドリアナはエイヴリング王国の王子妃なんだから、何かあってもバーナビー殿下が何とかしてくれることを期待しよう」

 

 丸投げを決めたロドリゴは、翌朝すっきりした顔つきで国境を超える。

 アドリアナとバーナビーの結婚式は、二日後に迫っていた。
しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

贖罪の花嫁はいつわりの婚姻に溺れる

マチバリ
恋愛
 貴族令嬢エステルは姉の婚約者を誘惑したという冤罪で修道院に行くことになっていたが、突然ある男の花嫁になり子供を産めと命令されてしまう。夫となる男は稀有な魔力と尊い血統を持ちながらも辺境の屋敷で孤独に暮らす魔法使いアンデリック。  数奇な運命で結婚する事になった二人が呪いをとくように幸せになる物語。 書籍化作業にあたり本編を非公開にしました。

【完結】異世界転移した私、なぜか全員に溺愛されています!?

きゅちゃん
恋愛
残業続きのOL・佐藤美月(22歳)が突然異世界アルカディア王国に転移。彼女が持つ稀少な「癒しの魔力」により「聖女」として迎えられる。優しく知的な宮廷魔術師アルト、粗野だが誠実な護衛騎士カイル、クールな王子レオン、最初は敵視する女騎士エリアらが、美月の純粋さと癒しの力に次々と心を奪われていく。王国の危機を救いながら、美月は想像を絶する溺愛を受けることに。果たして美月は元の世界に帰るのか、それとも新たな愛を見つけるのか――。

前世で私を嫌っていた番の彼が何故か迫って来ます!

ハルン
恋愛
私には前世の記憶がある。 前世では犬の獣人だった私。 私の番は幼馴染の人間だった。自身の番が愛おしくて仕方なかった。しかし、人間の彼には獣人の番への感情が理解出来ず嫌われていた。それでも諦めずに彼に好きだと告げる日々。 そんな時、とある出来事で命を落とした私。 彼に会えなくなるのは悲しいがこれでもう彼に迷惑をかけなくて済む…。そう思いながら私の人生は幕を閉じた……筈だった。

獣人の世界に落ちたら最底辺の弱者で、生きるの大変だけど保護者がイケオジで最強っぽい。

真麻一花
恋愛
私は十歳の時、獣が支配する世界へと落ちてきた。 狼の群れに襲われたところに現れたのは、一頭の巨大な狼。そのとき私は、殺されるのを覚悟した。 私を拾ったのは、獣人らしくないのに町を支配する最強の獣人だった。 なんとか生きてる。 でも、この世界で、私は最低辺の弱者。

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました

iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

【完結】モブのメイドが腹黒公爵様に捕まりました

ベル
恋愛
皆さまお久しぶりです。メイドAです。 名前をつけられもしなかった私が主人公になるなんて誰が思ったでしょうか。 ええ。私は今非常に困惑しております。 私はザーグ公爵家に仕えるメイド。そして奥様のソフィア様のもと、楽しく時に生温かい微笑みを浮かべながら日々仕事に励んでおり、平和な生活を送らせていただいておりました。 ...あの腹黒が現れるまでは。 『無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない』のサイドストーリーです。 個人的に好きだった二人を今回は主役にしてみました。

処理中です...