【完結】抱かれたい男No.1の王子様が恋をしたのは、美姫と名高いウサギ獣人の隣にいたグリーンイグアナ獣人でした

鬼ヶ咲あちたん

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十一話 尻を叩かれる

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「十分すぎるほどです。……そうですね、あとは孵卵のための部屋があれば」



 アドリアナはグリーンイグアナ獣人なので、子ではなく卵を産む。

 産んだ卵が孵るまでに二か月ほどかかるのだが、その間、卵を見守る部屋が必要だった。

 卵は上下をひっくり返すと死んでしまうので、転がらずに適温適湿が保てる場所がいい。

 アドリアナの説明に、ロドリゴだけでなくバーナビーも口を開けた。



「アナ、すでに私たちの子のことまで考えてくれるなんて。そんなに積極的だと、私は自分を抑えきれる自信がありません」

 

 バーナビーがアドリアナの手にキスをし始める。

 いろいろ感極まったようだ。

 しかし、ロドリゴは別の意味で驚いていた。



(このふたり、どちらも俺の想像の上を行く。王族の挙式準備を三か月で済ませようとするバーナビー王子といい、いきなり孵卵のための部屋を求めるアドリアナといい――ある意味、お似合いなんじゃないのか?)



「……では、その三か月で、アドリアナには後任の指名と引継ぎをしてもらおうかな。慶事だが、アドリアナがいなくなるのは悲しいよ」

 

 ロドリゴが無理やり話を進めようとすると、バーナビーがそれに反応した。



「もしかして、ロドリゴ陛下はアドリアナのことが!? アナ、あなたを国に返しても大丈夫でしょうか? 二度と国から出られないように、監禁されたりはしませんか!?」

「いやいやいや! どうしてそうなる!?」

「アナに対する、惜しむ気持ちを感じました。アナ、もしかして私よりも陛下のような逞しい男が好きですか? 私も、もっと鍛えますから!」

 

 勝手に捨てられる想像をして、それに反旗を翻そうとするバーナビー。

 アドリアナは笑い出す。



「ふふふ、変な人ですね、バーニーは。私を監禁しようだなんて、無理な話です。それに……毛深い男はちょっと」

 

 アドリアナが、ロドリゴのたてがみのような髪と髭を見た。

 あのたてがみが背中まで続き、さらには下半身も毛むくじゃらであることをアドリアナは知っている。

 パンツ一枚にさせたのはアドリアナだからだ。

 そしてその毛にガードを許さないほどの威力で、ロドリゴの尻を張り倒したのもアドリアナだ。

 しかし、アドリアナの言葉を聞いて、バーナビーは奮起する。



「分かりました! 私はムダ毛のお手入れに、今以上に力を入れます! アナに気に入ってもらえるように、ツルツルに脱毛しますね!」



 産毛しかないようなバーナビーが脱毛について熱弁をふるっているので、毛深い男代表のロドリゴは噴き出しかけた。

 それにしても今日は、知らないことがどんどん出てくる日だ。

 おかしくてロドリゴは自然と笑顔になる。

 そしてバーナビーを納得させるために、黒歴史すら披露する気になった。



「安心してください、バーナビー殿下。俺は見習い兵士時代に、新人教官だったアドリアナに懲罰として尻を叩かれた男だ。それ以来、俺にとってアドリアナは恐怖の対象でしかない」

「え? それはご褒美ではないのですか?」

 

 顔を輝かせたバーナビーに、ロドリゴの笑顔が一瞬で真顔になった。

 バーナビーはそれに気づかず、アドリアナにねだっている。



「アナ、何をしたらお尻を叩いてもらえるのですか? 私はできれば、尻尾で叩いてもらいたいのですが」



 バーナビーの可愛いおねだりに、さすがのアドリアナも固まっている。

 お互いに、知らないことはまだまだありそうな二人だった。



 ◇◆◇



 アドリアナは帰国の準備を進める。

 以前、感じていたような寂しさはない。

 また戻ってくると分かっているから、気持ちは沈まなかった。

 次にエイヴリング国に来るときは、故郷の獣人国とはお別れだ。

 きっとそのときには、寂寥感に襲われるだろう。

 

 バーナビーは奔走していた。

 何しろ自分が設けた期間は三か月だ。

 その間に、アドリアナを迎え入れる準備を整えなくてはいけない。

 素敵な夜を演出しようと、奮闘した先日のことを思い出す。

 アドリアナのことを考えて、あれもこれもしたいとワクワクしたものだ。

 それを三か月もの間、味わえるのだ。

 バーナビーが張り切らないはずがなかった。

 

 ふたりは、これからしばらくの別れを経験する。

 出会ってまだ数日とは言え、想いを確かめ合ったふたりにとって、初めての試練だ。

 だが、お互いへの気持ちを深め合う、よい機会になるかもしれない。

 ふたりの結婚を喜ばしく思う者たちは、温かくそれを見守るのだった。



 ◇◆◇



 必ず帰ってきて欲しいと、何度もバーナビーに念押しされて出国したエイヴリング王国から、アドリアナたちは獣人国へ戻ってきていた。

 ロドリゴはさっそく締結した通商条約の詳細について議会に報告し、さらに付け加えて、アドリアナがバーナビーに嫁ぐことも報告した。

 議会はどよめいた。

 主に三つの意見によって。



「抱かれたい男No.1のバーナビー王子が、あのアドリアナ隊長を見染めたというのですか?」



 こちらの意見は主に武官の男性陣から上がった。

 いずれもアドリアナの軍人としての手腕を高く評価しつつも、「あれを嫁にするのか?」と驚愕している顔つきだ。



「アドリアナ隊長が嫁いでしまわれたら、誰がレオノールさまを制御するのですか?」



 こちらの意見は主に武官の女性陣から上がった。

 アドリアナ親衛隊と言っても過言ではない彼女たちは、アドリアナの慶事を喜びながらも、暴れ兎を抑える役目が誰に回ってくるのか戦々恐々としている。



「我が国最強の戦士が、いなくなってしまうのですか!?」



 震えあがるように叫んだのは主に文官たちだった。

 武官たちと違って、アドリアナを戦神のごとく崇拝している節がある文官たちは、まるで城が攻め落とされたかのように顔を青ざめさせている。



(アドリアナの結婚が及ぼす影響は、各所にありそうだな)



 紛糾する議会を、ロドリゴはのんびりと眺めるのだった。



 ◇◆◇

 

 その頃、アドリアナは後継を任命するため、部下たちを集めていた。

 一列に並んだ部下たちに、アドリアナは声をかける。



「立候補したい者はいるか? 隊長になれば仕事は増えるが、部屋は個室になるぞ」



 アドリアナにとっては、隊長とはその程度のものだったのだが、部下たちにとっては違うようだ。



「隊長~、その仕事、誰にでも出来るものじゃないんですよ~」

「そうですよ! あの暴れ……レオノールさまを押さえつけられるのは、隊長ぐらいしかいないんですから」

「きっと今頃は、軍の上層部でも揉めてるでしょうねえ」

「その光景が目に浮かぶわ……」



 今回の旅に同行させた新人たちだけでなく、中堅からも青息吐息の声が漏れる。

 発情したレオノールに手がかかることは確かだ。

 時と場所を選ばず発情しがちなレオノールには、常に抑制剤が処方されている。

 それを面倒くさがって飲まないレオノールに、あの手この手で薬を飲ませてきたアドリアナだ。

 ときには腕力に訴えたこともある。



「お前たちが、レオノールさまに負けるとは思えないがな?」

 

 アドリアナは部下たちのたくましい体を見る。

 みな、鍛え上げた筋肉がきれいについている女性騎士だ。



「いやいや、隊長みたいに容赦なく尻を叩けませんよ」

「不敬罪とか言われたら、たまらないもんね」

「ヒステリー起こして噛み付かれたことあるし」



 部下たちはこれまでの被害を思い出して、苦い顔をしていた。

 アドリアナは、レオノールの存在が思っていた以上に隊長職への障害になっていると知る。

 それをなんとかしないことには、可愛い部下たちに隊長の仕事は任せられない。

 

「よし、分かった。陛下にかけあってこよう。お前たちが安心して仕事が出来るように」



 のんびりしていたロドリゴは、こうして別の意味でアドリアナに尻を叩かれることになるのだった。
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