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二話 妃候補者たち三人の諸事情

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 エルダは、ファーベルグ公爵家の一人娘で19歳だ。
 四年前に15歳で王太子妃候補になったときは、まだ青すぎるのでは?と嫌味も言われた。
 王家との縁を欲しがった父様が権力を最大限に行使して、無理やり私を候補にねじ込んだと聞いた。
 王家側にしたら迷惑なことだったかもしれない。
 しかしあれから四年が経過し、まだ王太子妃は選ばれていない。
 最高齢の王太子妃候補者は23歳になったはずだ。
 私から見れば、もう完全な年増だ。
 逆に今の私の年齢は、王太子妃にちょうどいいのではないだろうか。
(これから世継ぎを産む体は若い方がいい)
 エルダは自分が選ばれると信じて疑っていなかった。

 先月、王太子殿下の誕生日を祝うパーティが催され、もちろん私もそこに招待された。
 父様は、そのパーティで最終的に選ばれた妃の発表をするのではないかと考えていたらしい。
 残念ながら空振りに終わったのだけどね。
 当日、私は自慢の金髪をゆるやかに巻いて若々しい山吹色のドレスに身を包み、コンラート殿下とダンスを踊るときには魅力的に見える角度でほほ笑んだ。
 これで頬を赤くしなかった令息はいなかったが、さすが王太子殿下には通用しない。
 そっけなくされることはないけれど、熱く見つめられることもない。
 私とコンラート殿下はそんな距離感だった。
 そんなとき、ファーベルグ公爵家に王命が届けられる。
 『壁尻の儀』への招集状だ。
 お断りすると王太子妃候補から外されてしまうので、必ず伺うとお返事をする。
 初めて聞く儀式だけど、一体何をするのかしら?
 父様も儀式の内容を知らないようだった。
 ただ、コンラート殿下との体の相性を見るそうだから、全身隈なく綺麗にして行けばいいと言われた。
 いよいよ張り艶のある若肌の出番よ。
 これから一か月かけて体を磨き上げなくちゃ!

 ◇◆◇

 サザリーは、ライプニッツ王国に隣接するクマリクク王国の第三王女で21歳だ。
 王太子妃候補として大使館での長期滞在を許可されている。
 色白で痩身が多いライプニッツ王国の女性とは異なり、褐色の肌に紫髪、金色にきらめく瞳の下には泣き黒子、豊満でぷりぷりとした色気のある体つきが自慢だ。
 クマリクク王国はライプニッツ王国ほど国土は広くないけれど、その歴史は長い。
 こうしてライプニッツ王国と血縁になるための王太子妃候補を送り込める程度には。
 数多いる王女のうち、送り込むのは誰にしようかと悩む父王に、サザリーは自分にして欲しいとお願いをした。
 ライプニッツ王国の取り澄ました高位貴族令嬢なんかに負けはしない。
 必ずや私が王太子妃の座を射止めて、国益をもたらして見せると宣言した。
 血気盛んで好戦的な性格を買われ、サザリーはこの国にやってきた。

 大使館の職員たちとコンラート殿下の好みを調べたりしているが、いまだ結果は出せていない。
 悔しい思いをしているところに、王命が届けられた。
 『壁尻の儀』への招集状だ。
「王女様、この『壁尻の儀』についてはクマリクク王国に資料があったはずです。数百年前にも執り行われた古の儀式であるとか」
 職員の機転により、取り急ぎ国元から少ないながらも情報が届けられた。
 それによると『壁尻の儀』とは、王族の伴侶を決めるために執り行われる秘儀で、選考の対象となる女性の純潔は問わず、露出した下半身のみで王族の寵愛を競うのだという。
「なんだ、意外と簡単じゃない。つまりは女性器の具合でコンラート殿下を落とせということでしょう?」
「しかも純潔は問わずとありますね。これはまたしても国元に協力を仰ぐべきではないでしょうか」
「確かに一理あるわ。有能な高級男娼を多数こちらに呼び寄せましょう。実地で訓練してもらうのが一番効果があるはずよ。これから一か月かけて、徹底的にテクニックを仕込んでもらわなくては!」
 朝晩問わず、閨のレッスンに励むサザリーに、大使館中の職員が声援を送った。

 ◇◆◇

 アデーレは、ケップラ侯爵家の次女で23歳だ。
 四年前に19歳で王太子妃候補として選出されたとき、20歳のコンラート殿下と一番年齢が近いことから注目されてしまったが、妃候補者たちの中では一番爵位が低く、どうして自分が選ばれたのか不思議に思っていた。
 しかし選ばれたことは事実、アデーレが妃候補者に名を連ねたことで姉クリスタの嫁ぎ先が変わってしまった。
 私たちと同じ侯爵家ではあるが、より格上のアッカーマン侯爵家から婚約の打診が来たのだ。
 遠縁でもいいから王家と繋がりたい貴族など大勢いる。
 その中でもアッカーマン侯爵家は野心家で、当時21歳だった姉にはすでに婚約者がいたにも関わらず、ケップラ侯爵家が断れないと踏んで嫡男との婚約を申し込んできたのだ。
 仕方なく、無理やり横入りしてきたアッカーマン侯爵家へ婚約先を変更、かなり揉めたが1年後には結婚した。
 そもそもケップラ侯爵家を見下していたアッカーマン侯爵家だ。
 そんなところへ嫁いだ姉の心労は、傍から見るよりつらいものだっただろう。
 一年後、妊娠したことが分かって、姉は嬉しそうに報告しに来てくれた。
 さげすまれ、罵られ、身を縮こませるように過ごしていたアッカーマン侯爵家での姉の唯一の希望が赤ちゃんだったのだ。
「ようやく赤ちゃんが出来たの。これまでさんざんお義母さまから石女だと怒られてきたけど、やっと違うと証明できたわ。男の子でも女の子でもいいの。無事に生まれて来てくれたら、それだけで十分よ」
「お姉さま、妊娠している間くらい実家に帰ってきてはどう?そんな姑のいる家では落ち着かないでしょう?」
「ありがとう。心配してくれて嬉しいわ。だけど許してもらえないでしょうね」
「旦那さまにお願いしても駄目なの?」
「あの人は義両親の言いなりだもの。私のお願いを聞いてくれたことなどないわ」
 本当にとんでもない家だ!
 こんなところに姉が嫁ぐ羽目になったのも、王太子妃候補に選ばれてしまった私のせいだと悔やんだ。
 だが姉の苦労はこれで終わりではなかった。
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