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十四話 めでたしめでたし
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その後の私たちの話をしようと思う。
カールが捕縛されたことでアッカーマン侯爵家は没落、代わりにケップラ侯爵家が台頭した。
これには私が王太子妃になったことも絡んでいるのだろう。
侯爵家の中でどこが一番格上なのか、そんなことはどうでもいいと言っていたお父さまは、あちこちの貴族から顔を繋ぎたいと言い寄られてげんなりしている。
また、お母さまにもたくさんのお茶会の招待状が届いていて、「体はひとつなのにねえ」と苦笑いしているとか。
むしろこの流れに乗ろうと勢いづいているのは、未婚の妹のアデーレだ。
自らを高く売り込むチャンスとばかりに、複数の令息とお見合いをしたらしい。
王太子妃候補だったときとは、ヤル気が雲泥の差だ。
どうしてそのヤル気をもっと早く発揮しなかったのか。
「何を言っているのよ、お姉さま! ヤル気がなかったのはコンラート殿下のほう! 私は常にヤル気に満ちていたわよ! そんな私のヤル気を削ぐほどのヤル気のなさをコンラート殿下が発揮したのよ!」
人生のすべてが退屈だったというコンラート殿下の倦怠感が、本来は熱意にあふれるアデーレにも伝播してしまい、すっかりなあなあの関係で落ち着いてしまったのだそうだ。
むしろ残りの二人の候補者たちが、王太子妃になる意欲を持ち続けていたことが、アデーレには奇怪に映ったらしい。
「あの二人はコンラート殿下というよりは、将来の王妃の座を狙っていたものね。コンラート殿下本人のことはどうでもよかったのではないかしら?」
王太子妃候補の一人だったクマリクク王国のサザリー王女は、今は婚約を発表したディーター王弟殿下と愛を育んでいる。
筋肉について熱く語り合うふたりは、昼も夜も仲がいいのだとコンラート殿下が教えてくれた。
(夜も? もしかして、すでに――?)
もう一人の王太子妃候補者だったファーベルグ公爵家のエルダ嬢は、ハイノ殿下の立派な追っかけになっているという。
ちょっと高慢なイメージがあったエルダ嬢だが、すっかり恋する乙女になって、その瞳の中にハートがきらめいているのが見えたとマルテが驚きの証言をしていた。
そして、私とコンラート殿下の間には、後継者となる男の子が産まれた。
産み月が近づくにつれて不安が増していった私を、コンラート殿下は言葉通り誠心誠意尽くして支えてくれた。
陣痛が始まってからは、ずっと腰をさすってくれたり、汗を拭いてくれたり、手を握って励ましてくれたり。
かいがいしく看病する姿に、王宮中の使用人たちが「さすが我らが王太子殿下」と感涙したという。
私はどちらかというと苦しんでいる姿を見られたくないと思っていたのだが、コンラート殿下から「苦しいときこそ傍に居たい」と言われて、無事に胸がキュン死した。
赤ちゃんが産まれた次の日には、国王陛下と王妃殿下から、お祝いがたくさん届けられた。
ケップラ侯爵家からは、代表してアデーレがお見舞いにやってきた。
赤ちゃんを抱っこしてもらって、実家の近況を聞いて。
さあそろそろお暇をというときに、アデーレがマルテと目くばせを交わしあっていたのは、なんの暗号だったのかしら。
(もしかしていまだ囮事件を根に持っていて、コンラート殿下が私に何かしないか警戒しているんじゃないでしょうね?)
嫌な想像だったが、あながち外れていなさそうだ。
私はこれからコンラート殿下の隣に並び立ち、国王陛下と王妃殿下の御代をともに支えていく。
ライプニッツ王国の永年の平和に貢献し、次代を育て、いずれは私たちも国の礎となる。
聖女さまを模した運命の儀式で結ばれた私たちだから、おとぎ話の終わりのように、めでたしめでたしで今生の幕を閉じようとコンラート殿下と決めた。
「私の方が年上だから、たぶん先に天に召されると思うのです。ちゃんと待っているので、コンラート殿下はゆっくりと来てくださいね」
そう言ったら、コンラート殿下を号泣させてしまった。
そしてどちらが先になっても、恨みっこなしにしようと約束した。
その日まで、私はコンラート殿下と生きていく。
しっかりと前を見て。
◇◆◇
今代宰相の記録簿より――。
≪広大な国土を誇るライプニッツ王国。
そのすみずみまで健全なる統治を行き渡らせるためにも、王族の血が途絶えることは避けねばならない。
あまたの王族による目の行き届いた善政を敷くことで、すべての国民が幸福を享受できるからだ。
今代国王陛下の元には、異母弟が一人、息子が二人いる。
異母弟はクマリクク王国の第三王女と婚姻を結び、一人の息子と二人の娘に恵まれた。
息子のうち王太子である兄はケップラ侯爵家の長女と婚姻を結び、二人の息子と二人の娘に恵まれた。
息子のうち第二王子である弟はファーベルグ公爵家に臣下し長女と婚姻を結び、三人の娘に恵まれた。
『壁尻の儀』により繋がれた縁はしっかりと太く、王家に力強い子孫をもたらしてくれた。
ここに今代宰相として、今代国王陛下が執り行われた『壁尻の儀』の成功を記す≫
カールが捕縛されたことでアッカーマン侯爵家は没落、代わりにケップラ侯爵家が台頭した。
これには私が王太子妃になったことも絡んでいるのだろう。
侯爵家の中でどこが一番格上なのか、そんなことはどうでもいいと言っていたお父さまは、あちこちの貴族から顔を繋ぎたいと言い寄られてげんなりしている。
また、お母さまにもたくさんのお茶会の招待状が届いていて、「体はひとつなのにねえ」と苦笑いしているとか。
むしろこの流れに乗ろうと勢いづいているのは、未婚の妹のアデーレだ。
自らを高く売り込むチャンスとばかりに、複数の令息とお見合いをしたらしい。
王太子妃候補だったときとは、ヤル気が雲泥の差だ。
どうしてそのヤル気をもっと早く発揮しなかったのか。
「何を言っているのよ、お姉さま! ヤル気がなかったのはコンラート殿下のほう! 私は常にヤル気に満ちていたわよ! そんな私のヤル気を削ぐほどのヤル気のなさをコンラート殿下が発揮したのよ!」
人生のすべてが退屈だったというコンラート殿下の倦怠感が、本来は熱意にあふれるアデーレにも伝播してしまい、すっかりなあなあの関係で落ち着いてしまったのだそうだ。
むしろ残りの二人の候補者たちが、王太子妃になる意欲を持ち続けていたことが、アデーレには奇怪に映ったらしい。
「あの二人はコンラート殿下というよりは、将来の王妃の座を狙っていたものね。コンラート殿下本人のことはどうでもよかったのではないかしら?」
王太子妃候補の一人だったクマリクク王国のサザリー王女は、今は婚約を発表したディーター王弟殿下と愛を育んでいる。
筋肉について熱く語り合うふたりは、昼も夜も仲がいいのだとコンラート殿下が教えてくれた。
(夜も? もしかして、すでに――?)
もう一人の王太子妃候補者だったファーベルグ公爵家のエルダ嬢は、ハイノ殿下の立派な追っかけになっているという。
ちょっと高慢なイメージがあったエルダ嬢だが、すっかり恋する乙女になって、その瞳の中にハートがきらめいているのが見えたとマルテが驚きの証言をしていた。
そして、私とコンラート殿下の間には、後継者となる男の子が産まれた。
産み月が近づくにつれて不安が増していった私を、コンラート殿下は言葉通り誠心誠意尽くして支えてくれた。
陣痛が始まってからは、ずっと腰をさすってくれたり、汗を拭いてくれたり、手を握って励ましてくれたり。
かいがいしく看病する姿に、王宮中の使用人たちが「さすが我らが王太子殿下」と感涙したという。
私はどちらかというと苦しんでいる姿を見られたくないと思っていたのだが、コンラート殿下から「苦しいときこそ傍に居たい」と言われて、無事に胸がキュン死した。
赤ちゃんが産まれた次の日には、国王陛下と王妃殿下から、お祝いがたくさん届けられた。
ケップラ侯爵家からは、代表してアデーレがお見舞いにやってきた。
赤ちゃんを抱っこしてもらって、実家の近況を聞いて。
さあそろそろお暇をというときに、アデーレがマルテと目くばせを交わしあっていたのは、なんの暗号だったのかしら。
(もしかしていまだ囮事件を根に持っていて、コンラート殿下が私に何かしないか警戒しているんじゃないでしょうね?)
嫌な想像だったが、あながち外れていなさそうだ。
私はこれからコンラート殿下の隣に並び立ち、国王陛下と王妃殿下の御代をともに支えていく。
ライプニッツ王国の永年の平和に貢献し、次代を育て、いずれは私たちも国の礎となる。
聖女さまを模した運命の儀式で結ばれた私たちだから、おとぎ話の終わりのように、めでたしめでたしで今生の幕を閉じようとコンラート殿下と決めた。
「私の方が年上だから、たぶん先に天に召されると思うのです。ちゃんと待っているので、コンラート殿下はゆっくりと来てくださいね」
そう言ったら、コンラート殿下を号泣させてしまった。
そしてどちらが先になっても、恨みっこなしにしようと約束した。
その日まで、私はコンラート殿下と生きていく。
しっかりと前を見て。
◇◆◇
今代宰相の記録簿より――。
≪広大な国土を誇るライプニッツ王国。
そのすみずみまで健全なる統治を行き渡らせるためにも、王族の血が途絶えることは避けねばならない。
あまたの王族による目の行き届いた善政を敷くことで、すべての国民が幸福を享受できるからだ。
今代国王陛下の元には、異母弟が一人、息子が二人いる。
異母弟はクマリクク王国の第三王女と婚姻を結び、一人の息子と二人の娘に恵まれた。
息子のうち王太子である兄はケップラ侯爵家の長女と婚姻を結び、二人の息子と二人の娘に恵まれた。
息子のうち第二王子である弟はファーベルグ公爵家に臣下し長女と婚姻を結び、三人の娘に恵まれた。
『壁尻の儀』により繋がれた縁はしっかりと太く、王家に力強い子孫をもたらしてくれた。
ここに今代宰相として、今代国王陛下が執り行われた『壁尻の儀』の成功を記す≫
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