【完結】必ず死因との縁を切ってみせます!~このままでは私の大切な人が、みんな帰らぬ人になってしまうので~

鬼ヶ咲あちたん

文字の大きさ
14 / 76

13話 最初の目的地

しおりを挟む
「グラナド侯爵令嬢は……名簿に名前がありませんね。どうやら、お茶会には不参加のようです」

「アダンという子息も生意気だし、グラナド侯爵家はレオナルド殿下に対して無礼ですね!」



 ナスのような顔をした側近候補がわざとらしい溜め息をつくと、玉ねぎのような頭をした側近候補がキャンキャンと憤る。

 レオナルドの執務室にまで押しかけて、我らこそが将来の側近であると大きな顔をする二人へ、レオナルドは感情のこもらない笑みを浮かべた。



「いいんだよ。ファビオラの予定を、把握していなかったこちらが悪い」

 

 それは側近候補たちの調査不足で、いわゆる不手際だったのだが、本人たちは分かっているのかいないのか、いつまでも矛先を納めない。



「レオナルド殿下からのお誘いを断るなんて、あり得ません!」

「どうやらグラナド侯爵家は家族そろって、貴族としての振る舞いが分かっていないようです」



 かつてグラナド侯爵トマスが、アラーニャ公爵オラシオと政策を巡って争っていたことを、側近候補たちは揶揄した。



「宰相閣下と財務大臣、公爵家と侯爵家、どちらが上かなんて子どもでも理解していますよ!」

「情勢を読めない愚か者は、いずれ消えゆくでしょう」



 長いものには巻かれろ、というのが側近候補たちの考えなのだろう。

 だからこそ、レオナルドの側近になるのが出世の道と信じ、こうして腰巾着をしているのだ。



(最終的には、仕事のできる者を側近に選ぶと知ったら、どんな顔をするのか)



 その基準なら、この二人は絶対に除外される。

 家格が高いだけで威張り散らしているような人物に、レオナルドは用はない。

 

(僕はファビオラを愛でるのに忙しいから、代わりに国政を任せられる者でなくては困る。……例えば、すでに紳士科で頭角を現している、ファビオラの弟のような)



 何をさせてもそつがなく、上級生からも下級生からも、教師陣からもアダンは評判がいい。

 八方美人だという誹りは、貴族にとっては最高の誉め言葉だろう。



(宰相を任されているアラーニャ公爵は、学生時代から宰相補佐を務めていたそうだ。それほどの神童でなくてもいいんだけどね)



 まだアダンの悪口を言い合っている側近候補たちを、レオナルドは冷めた目で眺めた。

 そして手の中にある、お茶会に参加する令嬢の名簿に視線を落とす。

 一番上に記入されているのは、従妹であるエバの名前だ。

 16歳になったレオナルドの婚約者候補として、最も相応しいと真っ先に選ばれたのだろう。



「エバ、ね……幼馴染だからこそ、王太子妃には向かないと、僕は知っているんだよね」



 レオナルドがうっかり零した言葉を、側近候補たちは慌てて拾う。



「だったら、うちの姉はどうですか?」

「いいえ、私の妹こそ、昔からレオナルド殿下をお慕いしております」

「お前の妹は10歳で、まだ幼いだろう? うちの姉なら、レオナルド殿下と年齢的にも――」



 また意味のないやり取りが始まる。

 何の楽しみもなくなったお茶会の準備を、レオナルドは暇そうな彼らへ丸投げすることにした。



 ◇◆◇◆



 ファビオラたちを乗せた馬車は、数名の護衛に囲まれ、最初の目的地であるエルゲラ辺境伯領を目指していた。

 道中、15歳のファビオラ、19歳のルビー、21歳のモニカと、年齢が近い三人は、身分に関係なく様々な話に花を咲かせる。

 無事にエルゲラ辺境伯邸へ辿り着くと、叔父リノや叔母アルフィナへ挨拶を済ませ、さっそく人工薪を製造する工場を案内してもらった。



 広大な土地を利用して建設している工場は、すでに大部分が完成し、あとは人工薪の製造に必要な設備の到着を待つばかりだった。

 

「大きいわね。グラナド侯爵領にある工場の、数倍はあるわ」



 場内を見渡してファビオラが感心していると、隣でルビーが資料をめくる。



「グラナド侯爵領での消費量から換算して、ヘルグレーン帝国ではその数十倍の販売が見込まれるから……ひょっとしたら2年目は、増築が必要になるかもしれないわ」



 最初は丁寧な口調で話していたルビーだったが、ファビオラたっての願いで、砕けた口調に改めてもらった。

 そこには、これから商会の会長と副会長として、忌憚なく意見を交わし合いたいという、ファビオラの願いが込められている。

 

「この広さでも、まだ足りないのね。それだけの販売経路を、ヘルグレーン帝国で確保できたらの話でしょうけど……」

「なに言ってるの、売れるに決まってるじゃない。あんな画期的な薪、どこにもないんだから!」



 ルビーが人工薪に太鼓判を押す。

 あらかじめルビーには、グラナド侯爵領で製造した人工薪を、使用してもらっていた。

 

「私には薪として使う方法しか思いつかなかったけれど、ルビーさんには他のアイデアがあるのよね?」

「試してみないと分からないから、あまり大きな口は叩きたくないけれど、成功したら収益を跳ね上げられるはずよ」



 謙虚にしているが、ルビーの瞳は自信にあふれている。

 大陸を股にかける商人になると豪語していたのは、本心からだったのだろう。

 頼もしいパートナーに出会えたことを、ファビオラも心強く思う。



「ルビーさんがいてくれて良かったわ。両親の前では気丈に振る舞ったけれど、きっと私一人だったら右往左往していたもの」

「ファビオラさんはまだ学生じゃない。それが当たり前よ。私には少しだけ実地の経験があるから、なんとなく儲かりそうな匂いを嗅ぎつけられるだけ」

 

 そう言って、ルビーが鼻をちょんと触った。

 愛嬌のある仕種に、ファビオラがくすりと笑う。



「今年中には設備も搬入されるから、そうしたら稼働の確認と試作品の製造をしましょう。ルビーさんのアイデアが実現できるのかどうかも、その時点で分かるだろうし。次の長期休暇まで、私は学校があるから動けないけれど――」

「そのことに関して提案があるの。この旅が終わっても、私はカーサス王国へは戻らずに、ヘルグレーン帝国の商都を拠点にしようと思うわ。ファビオラさんに先立ってヘルグレーン帝国で暮らして、その空気感を掴みたいから」

「空気感?」

「私たちはカーサス王国の民でしょう? だからどうしても、カーサス王国の常識に囚われてしまうわ。それが功を奏す場合もあるかもしれないし、そうじゃないかもしれない」

「なるほど……ヘルグレーン帝国を、肌で知りたいってことね?」



 これも商科の授業で習った。

 相手が何を欲しているのか、それを正しく見極めなくては、押し売りになってしまう。

 こちらがいいものだと思っていても、価値観が違えば意見は変わる。

 商売を継続したいのならば、備えていなくてはならない大切な視点だ。



「ファビオラさんはまだ3年も学校生活があるし、行動できるのも長期休暇中に限られるでしょう? だから現地入りするのは、私が適任だと思うのよ」



 不慣れな土地で暮らすのは、大変じゃないだろうか。

 ファビオラの表情に、そんな気持ちが出ていたのだろう。

 ルビーはにっこりと笑って見せる。



「大丈夫よ。もともと私は実家を飛び出して、一人でやる覚悟だったんだから」



 気丈なルビーだが、身分は男爵令嬢だ。

 女性だけでは不都合もあるだろう。

 ファビオラは、こっそり用心棒を雇おうと決めた。



「この後は国境を越えて、ヘルグレーン帝国のヴィクトル辺境伯へご挨拶をするわ。私たちの商会の後ろ盾になってくださるの」

「持ってきた人工薪を、実際に使ってもらうんでしょう?」

「気に入ってもらえるといいんだけど……」



 高貴な人にとって、薪なんて興味のある品物ではないだろう。

 ファビオラが少し自信を無くしていると、モニカが励ましてくれる。



「お嬢さま、虫の心配をしなくていい薪は、きっと受け入れてもらえますよ。身分の貴い人ほど、立派な調度品を持っているものですから」



 だがファビオラには、モニカの言葉の意味が分からなかった。

 

「虫と立派な調度品には、どんな関係があるの?」

「天然の薪についている虫は、木製の家具を齧って穴を空けるんです。だから通常、部屋へ薪の予備は置かず、その都度、外から運び込むんですよ」



 グラナド侯爵家では、人工薪だから暖炉のそばに山と積まれていた。

 エルゲラ辺境伯家では、自然が豊かすぎて誰も虫なんて気にしてなかった。

 その結果、ファビオラは薪と虫と調度品に、相関があると気づかなかったのだ。



「知らなかった。単純に、貴族は虫が苦手なんだとばかり思ってたわ」

「自信を持ってください。歴史ある調度品がある屋敷ほど、お嬢さまの製造する人工薪を欲しがるはずです」

 

 モニカのおかげで、ファビオラの気持ちは高揚した。

 ぐっと拳を握ると力強く宣言する。


「ヘルグレーン帝国に、私たちが人工薪の流行を作り出しましょう!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』

鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」 公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。 だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。 ――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの? 何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。 しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。 それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。 そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。 温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。 そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。 「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」 「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」 離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。 そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。

「君は完璧だから、放っておいても大丈夫」と笑った夫。~王宮から私が去ったあと「愛していた」と泣きついても、もう手遅れです~

水上
恋愛
「君は完璧だから、放っておいても大丈夫だ」 夫である王太子はそう笑い、泣き真似が得意な見習い令嬢ばかりを優先した。 王太子妃セシリアは、怒り狂うこともなく、静かに心を閉ざす。 「左様でございますか」 彼女は夫への期待というノイズを遮断し、離縁の準備を始めた。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

白い結婚で結構ですわ。殿下より、私の自由のほうが大事ですので

鍛高譚
恋愛
「第二王子との婚約? でも殿下には平民の恋人がいるらしいんですけど? ――なら、私たち“白い結婚”で結構ですわ。お好きになさってくださいな、殿下」 自由気ままに読書とお茶を楽しむのがモットーの侯爵令嬢・ルージュ。 ある日、突然“第二王子リオネルとの政略結婚”を押しつけられてしまう。 ところが当の殿下は平民の恋人に夢中で、 「形式上の夫婦だから干渉しないでほしい」などと言い出す始末。 むしろ好都合とばかりに、ルージュは優雅な“独身気分”を満喫するはずが…… いつしか、リナという愛人と妙に仲良くなり、 彼女を巡る宮廷スキャンダルに巻き込まれ、 しまいには婚約が白紙になってしまって――!? けれどこれは、ルージュが本当の幸せを掴む始まりにすぎなかった。 自分を心から大切にしてくれる“新しい旦那様”候補が現れて、 さあ、思い切り自由に愛されましょう! ……そして、かの王子様の結末は“ざまぁ”なのか“自業自得”なのか? 自由気ままな侯爵令嬢が切り開く、 “白い結婚破談”からの痛快ざまぁ&本当の恋愛譚、はじまります。

ソウシソウアイ?

野草こたつ/ロクヨミノ
恋愛
政略結婚をすることになったオデット。 その相手は初恋の人であり、同時にオデットの姉アンネリースに想いを寄せる騎士団の上司、ランヴァルド・アーノルト伯爵。 拒否に拒否を重ねたが強制的に結婚が決まり、 諦めにも似た気持ちで嫁いだオデットだが……。

白い結婚を告げようとした王子は、冷遇していた妻に恋をする

夏生 羽都
恋愛
ランゲル王国の王太子ヘンリックは結婚式を挙げた夜の寝室で、妻となったローゼリアに白い結婚を宣言する、 ……つもりだった。 夫婦の寝室に姿を見せたヘンリックを待っていたのは、妻と同じ髪と瞳の色を持った見知らぬ美しい女性だった。 「『愛するマリーナのために、私はキミとは白い結婚とする』でしたか? 早くおっしゃってくださいな」 そう言って椅子に座っていた美しい女性は悠然と立ち上がる。 「そ、その声はっ、ローゼリア……なのか?」 女性の声を聞いた事で、ヘンリックはやっと彼女が自分の妻となったローゼリアなのだと気付いたのだが、驚きのあまり白い結婚を宣言する事も出来ずに逃げるように自分の部屋へと戻ってしまうのだった。 ※こちらは「裏切られた令嬢は、30歳も年上の伯爵さまに嫁ぎましたが、白い結婚ですわ。」のIFストーリーです。 ヘンリック(王太子)が主役となります。 また、上記作品をお読みにならなくてもお楽しみ頂ける内容となっております。

逆行転生、一度目の人生で婚姻を誓い合った王子は私を陥れた双子の妹を選んだので、二度目は最初から妹へ王子を譲りたいと思います。

みゅー
恋愛
アリエルは幼い頃に婚姻の約束をした王太子殿下に舞踏会で会えることを誰よりも待ち望んでいた。 ところが久しぶりに会った王太子殿下はなぜかアリエルを邪険に扱った挙げ句、双子の妹であるアラベルを選んだのだった。 失意のうちに過ごしているアリエルをさらに災難が襲う。思いもよらぬ人物に陥れられ国宝である『ティアドロップ・オブ・ザ・ムーン』の窃盗の罪を着せられアリエルは疑いを晴らすことができずに処刑されてしまうのだった。 ところが、気がつけば自分の部屋のベッドの上にいた。 こうして逆行転生したアリエルは、自身の処刑回避のため王太子殿下との婚約を避けることに決めたのだが、なぜか王太子殿下はアリエルに関心をよせ……。 二人が一度は失った信頼を取り戻し、心を近づけてゆく恋愛ストーリー。

家族から邪魔者扱いされた私が契約婚した宰相閣下、実は完璧すぎるスパダリでした。仕事も家事も甘やかしも全部こなしてきます

さら
恋愛
家族から「邪魔者」扱いされ、行き場を失った伯爵令嬢レイナ。 望まぬ結婚から逃げ出したはずの彼女が出会ったのは――冷徹無比と恐れられる宰相閣下アルベルト。 「契約でいい。君を妻として迎える」 そう告げられ始まった仮初めの結婚生活。 けれど、彼は噂とはまるで違っていた。 政務を完璧にこなし、家事も器用に手伝い、そして――妻をとことん甘やかす完璧なスパダリだったのだ。 「君はもう“邪魔者”ではない。私の誇りだ」 契約から始まった関係は、やがて真実の絆へ。 陰謀や噂に立ち向かいながら、互いを支え合う二人は、次第に心から惹かれ合っていく。 これは、冷徹宰相×追放令嬢の“契約婚”からはじまる、甘々すぎる愛の物語。 指輪に誓う未来は――永遠の「夫婦」。

処理中です...