【完結】勇者はクズの自覚がない~「私の価値も分からない男と、一緒にいるつもりはないわ!さようなら!!!」から始まる旅~

鬼ヶ咲あちたん

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11話 弱肉強食の世界

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「魔王様に挑むよりも、大事な目的? そんな珍妙なことを言う勇者は初めてね」

「たいていの勇者が、こちらの世界での名誉や富に目がくらんで、魔王城へ討伐に向かうのよ」

「私たち魔物が進化して、聖力をエネルギーに変換できるようになったのも知らず、精液を搾り取られる馬鹿ばかりだったわ」



 つまり欲望に忠実なやつが、これまで勇者に選ばれていたってわけか。

 それなら自慢じゃないが、色欲だらけの勇者もしっかり条件に当てはまる。

 やや気まずさを感じながらも、人魚たちから情報を引き出す。



「ここまで来たのは、魔王城を目指していたんじゃなくて……俺の相棒の、足取りを追っていたんだ。ピンク色のスライムなんだが――」

「ひぃいいいい!!」



 ざばん、と音を立てて、人魚たちが湖に潜る。

 透明度のせいで、三人が水底に張り付いて、息をひそめているのが見えた。



「おい、まだ話の途中だぞ?」

『相棒? あのピンク色のスライムが?』

『怖い怖い怖い怖い』

『どうりで、一瞬でお姉さまが……』



 水中から聞こえるのは、意味不明な内容が多いが、気になる点があった。



「あいつを見たんだな? どっちへ向かった?」



 人魚たちは揃って、ビシリと魔王城のある雪山を指さした。

 嫌な予感ほど当たるものだ。

 がくりと勇者は肩を落とす。



「そうか……雪山へ行ったのか」

『きっと魔王様に挑戦する気よ!』

『あんなに強いんだもの。今頃すでに、トップの座は代わっているかもしれないわ』

『……たかがスライムと侮った一番上のお姉さまは、戦いに敗れてフナにされてしまったのよ』

「フナにされた? スライムが魔物を、昇華したってことか?」



 昇華は勇者の、専売特許じゃなかったのか。

 勇者の頭は混乱する。

 人魚たちはまだ恐ろしいのか、いまだ水面から顔を出さない。

 それでも、自分たちが見たままを教えてくれた。

 

『下級のスライムは通常、自分より小さな獲物を襲うの』

『ピンク色のスライムは手のひらサイズだったから、お姉さまは油断したんだわ』

『握りつぶそうとしたお姉さまに対して、突如スライムは巨大化したのよ!』



 危ない! と声を上げ、近くにいた人魚たちは、姉に注意を促したそうだ。

 

『だけど遅かった。ピンク色のスライムの強さは、常軌を逸していたわ』

『素早くお姉さまを捕らえると、問答無用で体内に取り込み、エネルギーを根こそぎ吸い取ったの』

『そのせいで、お姉さまは魔物の姿を保てなくなったのよ』



 昇華とは原理が違うようだが、結果が同じならば、それはほぼ昇華と言えるのではないか。



「だからそんなに、怯えているんだな」

『フナにされたくないもの! 私たちはすぐに逃げたわ!』

『妹にも、それを教えようと思っていたのに、あの子ったらどこにもいなくて……』

『やっと見つけたと思ったら、本物の勇者に昇華されてるんだもの』



 目も当てられないわ、と人魚たちは首を振った。

 なるほど、と勇者は納得する。



「五人姉妹のうち二人もフナにされたんじゃ、俺を警戒するのも当たり前か」

 

 勇者ではなく、魔物が魔物を昇華した。

 あり得ない場面を目撃した人魚たちは、はっきりと動揺している。



『そっちこそ、ピンク色のスライムが相棒ってどういうこと?』

『スライムが昇華の真似事をしたのは、あなたが何かを教えたから?』

『下級の魔物に上級の魔物がしてやられるなんて、普通じゃないのよ?』



 じとっと睨まれるが、思い当たる節がない。

 むしろ勇者が教えて欲しかった。

 

「あいつとは、魔王討伐の旅の最初の頃に出会って、それからしばらく一緒にいた。たびたび、性的欲求不満の解消を手伝ってもらったが――」

『原因はそれじゃないかしら?』

『ピンク色のスライムに、聖力をあげたってことでしょう?』

『だけど……下級の魔物だったら、通常そこで昇華されるわよね?』

「精液をあいつの表面に塗りつけたら、じわじわと体内へ吸収していた。でも、それだけだ。本人には、何の変化も起きなかったぞ」



 4人で考えるが、誰にもスライムの謎は解けない。

 勇者は別の疑問を口にした。

 

「あいつが姉の人魚から奪ったエネルギーって、何なんだ?」



 魔物は食べ物を必要としない。

 それはピンク色のスライムと旅する中で、得た知識だった。

 ならばエネルギーとは、魔物の動力源なのだろうか。

 そう予想した勇者だったが、人魚たちは否定する。

 

『魔物がレベルアップをするのに必要なものよ』

『勇者の聖力をエネルギーに変換できない下級の魔物は、誰かから奪うしかないの』

『私たちの中で、お姉さまは最も強かった。そのエネルギーを吸い取ったのだから、スライムは既に下級ではないはずよ』



 勇者は首をかしげる。

 ピンク色のスライムが、これまでに何かを襲っているのを、見た覚えがない。



「旅をしていた頃は、そんなにガツガツしてるイメージは、無かったけどなあ」

『魔王様に挑むと決めて、気が変わったんじゃない?』

『あんな特殊な技を使えるなら、私だって手あたり次第に、魔物のエネルギーを吸いまくるわ』

『強くなればそれだけ、この弱肉強食の世界を長く生き延びられるものね』



 常日頃からあまり覇気のない勇者には、人魚たちの上昇志向が理解できない。

 そんな勇者へ、人魚たちは上には上がいると教えてくれる。

 

『特級の魔物なんかは、定期的にやってくる勇者の血肉を喰らって、力を増強していると聞くわ』

『それが特級レベルの強さを、維持する秘訣なの』

『勇者の聖力が、最もエネルギー転換効率がいいから』

「……王様によって送り込まれてくる勇者は、魔物にとっては栄養剤だったってことか」

 

 残酷な事実が明らかになった。



「聖力を持つ勇者がやってくるたびに、魔物へエネルギーが蓄積されていく。そうして魔物は強くなり、同時に魔王も強くなる……こりゃあ、キツいな」

 

 魔物を昇華をする聖力を持っているのは、別の世界から召喚された勇者のみ。

 栄養剤にされているとは知らず、いつか勇者が魔王を倒してくれると信じて、王様たちは召喚の儀式をし続けている。



「なんて負の連鎖だ」



 未来に待つのが、単なる無駄死にだと分かって、勇者は辟易した。
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