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漂着
ヴィンゼ 共和国協定千四百三十一年 処暑
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諍いに荒れ果てた開拓村に馬車が流れてきた。
ぶちまけてしまえば、時勢を知らぬバカが転がり込んできたか、ということで大した意味はない。
しかし、今は時勢が悪すぎる。
普段であれば他所からの新入りが入ってくれば懐具合のカモ加減を覗き込むついでに喧嘩をふっかける連中も、今は土の中だ。
辺境の開拓村にいるような連中は明日死んで当然でなお生きているような者共ばかりだったから、顔を合わせれば、まだ生きていたか、というのは日々の挨拶だったが、それでも村の半数からが鉛玉で死ぬというのは心穏やかというわけもない。
もともと殺風景な開拓村の広場が血の匂いと煤の香りで一段と荒んでいる中に、四頭立てのやたらと立派な馬に牽かせた馬車がやってきたのは誰の目にも奇怪に映った。
州の司法が応援をよこすとして本庁からは半月はかかるし、返り討ちにあった挙げ句に町を丸焼けにする騒ぎになった検事の鼻息を考えれば、州の司法が応援を準備している様子ではなかった。
巡回検事に率いられた百人ばかりの賞金稼ぎという者共は、開拓村の命知らずな農夫たちをして頼もしく感じる強者達に見えたわけだが、結果は無残なものだった。
とはいえ、現場を偵察して報告した保安官には結果が予想できていたらしい。
おかげで村人の半数は夜逃げ同然ではあったが、ひとまず逃げ出すことに成功した。
そして今、いくらかが自分たちの家に帰ってきて、戦場になって焼き討ちにあった自分の家の有様を確かめている。
開拓村は奴隷や馬牛といういくらかの労働力を支えにしているわけだが、そういう財産の大凡は主が逃げ出しておとなしく控えて従いついてくるようなものばかりというわけではなく、家屋敷納屋や畑という財産ことごとくを丸焼けにされ命のあることを喜ぶことすらできない農場主もいた。
もちろん、これを機に別の土地に逃げ出したものも多い。
一旦でも野伏悪党匪賊のたぐいが居着いて司法が調伏に失敗したとあれば、当然に二度三度村は襲われる。
土地を捨てることも勇気の一つであったし、乾いた痩せた土地であれば愛着や執着を感じるよりは命を拾う方がマシな選択でもある。
流民として奴隷狩りにあって再び奴隷の身分に落とされるとして、開拓村の多くの者達は奴隷上がりでもある。
公営競売を経たとして満足ゆくほどの主家に買われることは珍しいが、それでも匪賊風情に嬲りものにされるよりはマシなはずだ。
そう思えば、あえて身分を支える土地を手放す者も少なくはない。
避難を指導した保安官はここ数日に開拓地のあちこちをめぐり、被害の状況を確認して歩いていた。
そういう時勢であったから、くたびれているが仕立てのよろしい馬車の主について人々が遠巻きながら厳しい目を向けていたのは当然でもあった。
大人扱いするにはいかにも年若い少年と、幼子と言っていい年つきの亜人の娘ふたりと、まだ男か女かも見分けもつかない赤子が二人。
道と呼べる道のない荒んだ荒れ野の東側を渡ってくるにはいささか奇妙な馬車の一行だったが、こればかりは子供用と思えぬ簡素ながら丁寧な作りの棺桶が馬車の積み荷にあった。
中には少年の妻が眠っているという。
関係の真偽はともかく、村を上げての葬儀を流れ仕事のようにおこなったばかりの心中には同情も湧いた。
後に流通王あるいは共和国鉄道皇帝と尊敬あるいは揶揄されることになるゲリエ・マキシマジンが公式に共和国の記録に記述されたのは、この日が初めてになる。
もちろん彼は自分の能力に無自覚ばかりというわけではなかったが、多くの人々がそうであるように自らの必要に応じて必要の求めると考えるところを為していたに過ぎない。
多くの偉人の業績がそうであるように後に振り返れば魔法に見える事柄の多くは、いくらかの偶然と才能という天恵や魔法に支えられていたのかもしれないが、やはり多くの人々がそうであるように為せると信じたことを為せる侭に為したというだけに過ぎない。
無論、同じことを何者かが為したとして他の何者かと同じ結果に至ることは稀であり、それこそが魔法だということも言える。
無為に風に帰した業績を人々の目に見えないからと言って、先人の事業の努力がなかったとは言えず、つまりはたまたま彼が為したことが成果を結んだというだけに過ぎない。
魔法が人の望みをそのままに叶えるものだとして、そうそうたやすく語られるのは御伽噺としても面白くはない。
しかしかつて確かに魔法というものはこの世に存在した。
そして魔法によって全ては夢に帰した。
幾度となく。
ぶちまけてしまえば、時勢を知らぬバカが転がり込んできたか、ということで大した意味はない。
しかし、今は時勢が悪すぎる。
普段であれば他所からの新入りが入ってくれば懐具合のカモ加減を覗き込むついでに喧嘩をふっかける連中も、今は土の中だ。
辺境の開拓村にいるような連中は明日死んで当然でなお生きているような者共ばかりだったから、顔を合わせれば、まだ生きていたか、というのは日々の挨拶だったが、それでも村の半数からが鉛玉で死ぬというのは心穏やかというわけもない。
もともと殺風景な開拓村の広場が血の匂いと煤の香りで一段と荒んでいる中に、四頭立てのやたらと立派な馬に牽かせた馬車がやってきたのは誰の目にも奇怪に映った。
州の司法が応援をよこすとして本庁からは半月はかかるし、返り討ちにあった挙げ句に町を丸焼けにする騒ぎになった検事の鼻息を考えれば、州の司法が応援を準備している様子ではなかった。
巡回検事に率いられた百人ばかりの賞金稼ぎという者共は、開拓村の命知らずな農夫たちをして頼もしく感じる強者達に見えたわけだが、結果は無残なものだった。
とはいえ、現場を偵察して報告した保安官には結果が予想できていたらしい。
おかげで村人の半数は夜逃げ同然ではあったが、ひとまず逃げ出すことに成功した。
そして今、いくらかが自分たちの家に帰ってきて、戦場になって焼き討ちにあった自分の家の有様を確かめている。
開拓村は奴隷や馬牛といういくらかの労働力を支えにしているわけだが、そういう財産の大凡は主が逃げ出しておとなしく控えて従いついてくるようなものばかりというわけではなく、家屋敷納屋や畑という財産ことごとくを丸焼けにされ命のあることを喜ぶことすらできない農場主もいた。
もちろん、これを機に別の土地に逃げ出したものも多い。
一旦でも野伏悪党匪賊のたぐいが居着いて司法が調伏に失敗したとあれば、当然に二度三度村は襲われる。
土地を捨てることも勇気の一つであったし、乾いた痩せた土地であれば愛着や執着を感じるよりは命を拾う方がマシな選択でもある。
流民として奴隷狩りにあって再び奴隷の身分に落とされるとして、開拓村の多くの者達は奴隷上がりでもある。
公営競売を経たとして満足ゆくほどの主家に買われることは珍しいが、それでも匪賊風情に嬲りものにされるよりはマシなはずだ。
そう思えば、あえて身分を支える土地を手放す者も少なくはない。
避難を指導した保安官はここ数日に開拓地のあちこちをめぐり、被害の状況を確認して歩いていた。
そういう時勢であったから、くたびれているが仕立てのよろしい馬車の主について人々が遠巻きながら厳しい目を向けていたのは当然でもあった。
大人扱いするにはいかにも年若い少年と、幼子と言っていい年つきの亜人の娘ふたりと、まだ男か女かも見分けもつかない赤子が二人。
道と呼べる道のない荒んだ荒れ野の東側を渡ってくるにはいささか奇妙な馬車の一行だったが、こればかりは子供用と思えぬ簡素ながら丁寧な作りの棺桶が馬車の積み荷にあった。
中には少年の妻が眠っているという。
関係の真偽はともかく、村を上げての葬儀を流れ仕事のようにおこなったばかりの心中には同情も湧いた。
後に流通王あるいは共和国鉄道皇帝と尊敬あるいは揶揄されることになるゲリエ・マキシマジンが公式に共和国の記録に記述されたのは、この日が初めてになる。
もちろん彼は自分の能力に無自覚ばかりというわけではなかったが、多くの人々がそうであるように自らの必要に応じて必要の求めると考えるところを為していたに過ぎない。
多くの偉人の業績がそうであるように後に振り返れば魔法に見える事柄の多くは、いくらかの偶然と才能という天恵や魔法に支えられていたのかもしれないが、やはり多くの人々がそうであるように為せると信じたことを為せる侭に為したというだけに過ぎない。
無論、同じことを何者かが為したとして他の何者かと同じ結果に至ることは稀であり、それこそが魔法だということも言える。
無為に風に帰した業績を人々の目に見えないからと言って、先人の事業の努力がなかったとは言えず、つまりはたまたま彼が為したことが成果を結んだというだけに過ぎない。
魔法が人の望みをそのままに叶えるものだとして、そうそうたやすく語られるのは御伽噺としても面白くはない。
しかしかつて確かに魔法というものはこの世に存在した。
そして魔法によって全ては夢に帰した。
幾度となく。
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