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リザ
ヴィンゼ狼虎庵 共和国協定千四百三十四年立夏
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途中ヴィンゼの狼虎庵によると、見慣れない男二人が働いていた。
「父様!おかえりなさいっ!」
その声に振り向くとユエが勢いのままに飛び込んできた。
その声に男たち二人がこちらを見て、帽子をとって会釈した。
「ポインタル・ペロドナーさんとミック・センセジュさん。父様を待っている間手伝ってくれてたの」
いつも一緒のソラがいない。
「ソラとあと、おねえちゃんたちはどうした」
「三人でお屋敷のお掃除してる。お掃除の他に父様のご用事とか絶対一人じゃ無理だもん。危なくはないよ。私たちこう見えても名士だもん。お父様のいない間に私が死んだら二人が疑われるってふたりともわかってくれたもの」
男たちがふたりとも手を止めてこちらにやってきた。
「おかえりなさいまし。お久しぶりです。ゲリエの旦那」
「転がり込んで、お嬢さんがたにはお世話になっとります。ゲリエさん」
二人して手を差し出してきたので、上から叩いてやる。
「ふたりとも生きていたか。ペロドナーは手紙をよこしていたから知っていたが、センセジュも生きていたとはな」
「実はマキンズもここまで一緒だったんですが、お嬢さん方に早打ち勝負で負けまして、拗ねて帰っちまいやした」
センセジュが言った。
「ソラもユエも荒野の女としては大したものなのよ。馬もないって言うからメイヤあげちゃったけど良いよね」
「かわいがってたじゃないか」
ユエの誇らしげな言葉にマジンは驚く。
「メイヤだったら迷子になっても帰ってこれるもん。可愛がってくれていると良いけど」
「帰るって何処へ帰ったんだ」
「知らない。荒野の男は荒野が家だって言ってた」
「まるでガキの言い分だな。間違っちゃいないが」
そういえば、いろいろ威勢ばかり良い男だった。
「で、二人はなんでまたここで娘の手伝いをしてくれているんだ」
「わたしたち、こよお関係を結んだの。ユエ、二人の雇用主なの」
マジンの脇で背伸びをするように手を伸ばしてユエが説明した。
「ペロドナーさんはお手紙で仕事探してます。って書いてたし、センセジュさんはお仕事探しに父様に会いに来たっていうの。で、姉様たちも父様が御用でお出かけになっちゃったからお屋敷のいろいろが片付かなくて困ってたから、父様が帰ってくるまでお二人に働いてもらうことにしたの」
「ま、そんなわけでさ。こっちなら保安官の目も届くし、デカートからの通り道で会えるからってことで、厄介になっているところです」
少し前には向かいにパン屋もでき、ゆるやかに賑わってきたヴィンゼの町のハズレというほどのところではなくなり始めていた。
「町中で拳銃使って遊ぶなって言ったろ」
「しょうがないじゃない。マキンズさん、ガキガキうるさいんだもん。オシメ取れたかとかお漏らししてないかとか失礼しちゃう。父様が厠に下水を引いてくれてからはオネショしてません」
思い出してユエがプリプリと怒る。
「早打ち勝負ったって目の前に空き瓶置いて五発射つって割とよくある危なくないやつですよ」
ペロドナーがユエを弁護するように言った。
ソラとユエの持っている銃は男たちのソレとは違って細い錐のような弾で、瓶の中身が詰まっていても四つ五つ撃ちぬくようなモノだった。マジンの懸念は流れ弾が被害を出さないかであったわけだが、男たちは無邪気に娘たちの技量を賞賛した。
一応骸炭の袋の山の手前に鉄板を起こして壁にして、その手前に骸炭を積むくらいはしていたらしい。
「だいたい危ないっていったら、子供だけでお店を任せて遠くにお出かけしちゃう、父様のほうがずっと危ないと思うの」
ユエにそう言われてしまえばしょうがない。
「で、どうなんだ。二人の働きぶりは」
「力もあるし、挨拶もできるし、町の人もいい人達だって言ってます。姉様一人だと配達先でお手伝いお願いすることがあったから、そこも全然違うし、大人の人ふたりだと滑車をいちいちかけないでいいから、その分早いし助かっています。ホントはマキンズさんもいて欲しかったのよ」
ちょっとさみしそうにユエは言った。
「ま、しょうがないさ。どこかでまた会ったらそう言ってみるといい」
死んでてもおかしくはないとは思ったが、マジンもそこは流石に黙っていた。
「仕事の様子は飲み込めたかな」
マジンは男たちに尋ねてみた。
「だいたい」
センセジュが引きつって苦労した慣れない微笑み混じりに答えた。
「今日の作業は」
「明日の分は水張って冷やしてるんで、氷室の中の作業はおしまいです。大きく水汲む用もないですし、釜の圧は十分なんで後で一回、日が落ちてから一回見てってところです」
ペロドナーがはきはきと答える。一週間の割には覚えが早い。
「明日回るところは」
「まだ覚えちゃいませんが、台帳の見方は教わりました」
センセジュが答えた。
「二人がきてからお寝坊しても間に合うの」
「そうか。そしたら、夜はふたりに任せていいかな。無電の使い方は教わっているかな」
「いえ、それはまだ」
「教えておく。そんなに難しくない。何かあったら使ってくれ」
ふたりは居間の壁際の絡繰の使いみちに興味を持っていた。マジンの操作でしばらくすると部屋のベルが鳴り、向こうからアルジェンの声が聞こえたのにふたり揃って驚いた。マジンはアルジェンに帰ってきたことを伝えるとふたりに操作を説明した。
そうしていると、ユエが、たてかけてあった絵図を示した。
「使い方の説明は書いておきました。なぜ電気が空中を伝わって声になるのかの説明も書いてあります。あと、壊れた時に確かめるところが書いてあります」
「今日は親子で過ごすことにするよ」
マジンは穴あきの半金貨を二枚机においた。
「――シャバ祝いだ。あと、娘の面倒を見てくれてありがとう」
狼虎庵の機関車のガスが減っていたので、圧力容器を積み替えて空のタンクを積んで帰ることにした。
ユエはこの春からの出来事を帰りの道でずっと語っていた。
今年、滑車から落ちた樽に轢かれかけたりという事故があって、アルジェンが幾日か歩けなかったのだけれど、ある晩、誕生日の贈り物にマジンが作った首飾りから花の匂いがするものが広がって、朝になっていたらアルジェンが治っていたとユエは語った。
「これも、すごい道具だったのね。これも父様の発明なの?」
そう言ってユエが胸元から取り出したペンダントには金と銀のスミレの花びらで支えられた小さな魔血晶が輝いていた。
「作ったのはボクだけど、発明ってことはしてないな。それでもっていうならお前たちの母様の発明かな」
マジンがそう言うとユエは目を輝かせて母の話をねだった。
そういえば、二人の両親は魔法使いの村の出だったか。と思いだした。
マジンの中ではステアの思い出は料理と植物といろいろな歌、中でも生活の知恵ででっち上げたような料理の作り方や仕立て物や風呂の準備や焚き火の組み方やらそういう歌が思い出に残っている。
今も時々料理の献立を考えるときに鼻歌に導かれて別の料理をこしらえてしまったりする。
ソラもユエも料理の歌はアルジェンが料理の度に歌うので随分覚えていて、アイスクリンの歌がお気に入りだった。ハチミツと白身で角を立つほどとろみを付けて牛乳と黄身に香りづけのブランデーに柑橘つけたものを少し。冷やしながらかき混ぜてなじませて、冷やす。狼虎庵の裏メニューであまりたくさん作れないけれど、売るなら買いたいというお客さんも付いている、夏の日の特製メニューだった。
そういえば、どうやってステアはアイスクリンを作ってくれたろう。
旅の空ではたまに生まれる卵とヤギの乳を雪を塩で溶かして作ってくれたことがあったはずだ。
そんなことを思い出しながら、歌いながら家路を急いだ。
そういえば、アンモニアを水に溶かすとやっぱり冷えるんだが、なんでつかわなかったんだったかな。と思いだした。結局、ポンプを使わないといけなかったこととアンモニアを飛ばすために沸かした水が冷えるのを待つのに大きな装置が必要になるからだった。
その後、骸炭炉でアンモニアをつくるようになってから分流の都合で専用の大型冷凍機が必要になって今となってはどっちが良いのかも怪しいが、最初のうちはアンモニア水を効率よく作る方法も思いついていなかったし、そうしているうちに工作が手馴れてきて擦り音のしないような部品を当たり前に作れるようになっていた。
アイスクリンの歌を歌いながらマジンはそんなことを考えていた。
「父様!おかえりなさいっ!」
その声に振り向くとユエが勢いのままに飛び込んできた。
その声に男たち二人がこちらを見て、帽子をとって会釈した。
「ポインタル・ペロドナーさんとミック・センセジュさん。父様を待っている間手伝ってくれてたの」
いつも一緒のソラがいない。
「ソラとあと、おねえちゃんたちはどうした」
「三人でお屋敷のお掃除してる。お掃除の他に父様のご用事とか絶対一人じゃ無理だもん。危なくはないよ。私たちこう見えても名士だもん。お父様のいない間に私が死んだら二人が疑われるってふたりともわかってくれたもの」
男たちがふたりとも手を止めてこちらにやってきた。
「おかえりなさいまし。お久しぶりです。ゲリエの旦那」
「転がり込んで、お嬢さんがたにはお世話になっとります。ゲリエさん」
二人して手を差し出してきたので、上から叩いてやる。
「ふたりとも生きていたか。ペロドナーは手紙をよこしていたから知っていたが、センセジュも生きていたとはな」
「実はマキンズもここまで一緒だったんですが、お嬢さん方に早打ち勝負で負けまして、拗ねて帰っちまいやした」
センセジュが言った。
「ソラもユエも荒野の女としては大したものなのよ。馬もないって言うからメイヤあげちゃったけど良いよね」
「かわいがってたじゃないか」
ユエの誇らしげな言葉にマジンは驚く。
「メイヤだったら迷子になっても帰ってこれるもん。可愛がってくれていると良いけど」
「帰るって何処へ帰ったんだ」
「知らない。荒野の男は荒野が家だって言ってた」
「まるでガキの言い分だな。間違っちゃいないが」
そういえば、いろいろ威勢ばかり良い男だった。
「で、二人はなんでまたここで娘の手伝いをしてくれているんだ」
「わたしたち、こよお関係を結んだの。ユエ、二人の雇用主なの」
マジンの脇で背伸びをするように手を伸ばしてユエが説明した。
「ペロドナーさんはお手紙で仕事探してます。って書いてたし、センセジュさんはお仕事探しに父様に会いに来たっていうの。で、姉様たちも父様が御用でお出かけになっちゃったからお屋敷のいろいろが片付かなくて困ってたから、父様が帰ってくるまでお二人に働いてもらうことにしたの」
「ま、そんなわけでさ。こっちなら保安官の目も届くし、デカートからの通り道で会えるからってことで、厄介になっているところです」
少し前には向かいにパン屋もでき、ゆるやかに賑わってきたヴィンゼの町のハズレというほどのところではなくなり始めていた。
「町中で拳銃使って遊ぶなって言ったろ」
「しょうがないじゃない。マキンズさん、ガキガキうるさいんだもん。オシメ取れたかとかお漏らししてないかとか失礼しちゃう。父様が厠に下水を引いてくれてからはオネショしてません」
思い出してユエがプリプリと怒る。
「早打ち勝負ったって目の前に空き瓶置いて五発射つって割とよくある危なくないやつですよ」
ペロドナーがユエを弁護するように言った。
ソラとユエの持っている銃は男たちのソレとは違って細い錐のような弾で、瓶の中身が詰まっていても四つ五つ撃ちぬくようなモノだった。マジンの懸念は流れ弾が被害を出さないかであったわけだが、男たちは無邪気に娘たちの技量を賞賛した。
一応骸炭の袋の山の手前に鉄板を起こして壁にして、その手前に骸炭を積むくらいはしていたらしい。
「だいたい危ないっていったら、子供だけでお店を任せて遠くにお出かけしちゃう、父様のほうがずっと危ないと思うの」
ユエにそう言われてしまえばしょうがない。
「で、どうなんだ。二人の働きぶりは」
「力もあるし、挨拶もできるし、町の人もいい人達だって言ってます。姉様一人だと配達先でお手伝いお願いすることがあったから、そこも全然違うし、大人の人ふたりだと滑車をいちいちかけないでいいから、その分早いし助かっています。ホントはマキンズさんもいて欲しかったのよ」
ちょっとさみしそうにユエは言った。
「ま、しょうがないさ。どこかでまた会ったらそう言ってみるといい」
死んでてもおかしくはないとは思ったが、マジンもそこは流石に黙っていた。
「仕事の様子は飲み込めたかな」
マジンは男たちに尋ねてみた。
「だいたい」
センセジュが引きつって苦労した慣れない微笑み混じりに答えた。
「今日の作業は」
「明日の分は水張って冷やしてるんで、氷室の中の作業はおしまいです。大きく水汲む用もないですし、釜の圧は十分なんで後で一回、日が落ちてから一回見てってところです」
ペロドナーがはきはきと答える。一週間の割には覚えが早い。
「明日回るところは」
「まだ覚えちゃいませんが、台帳の見方は教わりました」
センセジュが答えた。
「二人がきてからお寝坊しても間に合うの」
「そうか。そしたら、夜はふたりに任せていいかな。無電の使い方は教わっているかな」
「いえ、それはまだ」
「教えておく。そんなに難しくない。何かあったら使ってくれ」
ふたりは居間の壁際の絡繰の使いみちに興味を持っていた。マジンの操作でしばらくすると部屋のベルが鳴り、向こうからアルジェンの声が聞こえたのにふたり揃って驚いた。マジンはアルジェンに帰ってきたことを伝えるとふたりに操作を説明した。
そうしていると、ユエが、たてかけてあった絵図を示した。
「使い方の説明は書いておきました。なぜ電気が空中を伝わって声になるのかの説明も書いてあります。あと、壊れた時に確かめるところが書いてあります」
「今日は親子で過ごすことにするよ」
マジンは穴あきの半金貨を二枚机においた。
「――シャバ祝いだ。あと、娘の面倒を見てくれてありがとう」
狼虎庵の機関車のガスが減っていたので、圧力容器を積み替えて空のタンクを積んで帰ることにした。
ユエはこの春からの出来事を帰りの道でずっと語っていた。
今年、滑車から落ちた樽に轢かれかけたりという事故があって、アルジェンが幾日か歩けなかったのだけれど、ある晩、誕生日の贈り物にマジンが作った首飾りから花の匂いがするものが広がって、朝になっていたらアルジェンが治っていたとユエは語った。
「これも、すごい道具だったのね。これも父様の発明なの?」
そう言ってユエが胸元から取り出したペンダントには金と銀のスミレの花びらで支えられた小さな魔血晶が輝いていた。
「作ったのはボクだけど、発明ってことはしてないな。それでもっていうならお前たちの母様の発明かな」
マジンがそう言うとユエは目を輝かせて母の話をねだった。
そういえば、二人の両親は魔法使いの村の出だったか。と思いだした。
マジンの中ではステアの思い出は料理と植物といろいろな歌、中でも生活の知恵ででっち上げたような料理の作り方や仕立て物や風呂の準備や焚き火の組み方やらそういう歌が思い出に残っている。
今も時々料理の献立を考えるときに鼻歌に導かれて別の料理をこしらえてしまったりする。
ソラもユエも料理の歌はアルジェンが料理の度に歌うので随分覚えていて、アイスクリンの歌がお気に入りだった。ハチミツと白身で角を立つほどとろみを付けて牛乳と黄身に香りづけのブランデーに柑橘つけたものを少し。冷やしながらかき混ぜてなじませて、冷やす。狼虎庵の裏メニューであまりたくさん作れないけれど、売るなら買いたいというお客さんも付いている、夏の日の特製メニューだった。
そういえば、どうやってステアはアイスクリンを作ってくれたろう。
旅の空ではたまに生まれる卵とヤギの乳を雪を塩で溶かして作ってくれたことがあったはずだ。
そんなことを思い出しながら、歌いながら家路を急いだ。
そういえば、アンモニアを水に溶かすとやっぱり冷えるんだが、なんでつかわなかったんだったかな。と思いだした。結局、ポンプを使わないといけなかったこととアンモニアを飛ばすために沸かした水が冷えるのを待つのに大きな装置が必要になるからだった。
その後、骸炭炉でアンモニアをつくるようになってから分流の都合で専用の大型冷凍機が必要になって今となってはどっちが良いのかも怪しいが、最初のうちはアンモニア水を効率よく作る方法も思いついていなかったし、そうしているうちに工作が手馴れてきて擦り音のしないような部品を当たり前に作れるようになっていた。
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