石炭と水晶

小稲荷一照

文字の大きさ
上 下
40 / 248
リザ

セントーラ・マイエツシ

しおりを挟む
 セントーラの体は彼女が自慢するだけあって、よく熟れ鍛えられた牝の体をしていた。
 リザの体のような仕立て上がり卸したての服のような張り付く感じとは違って、上等の服がそうであるようにスウっと肌を走らせると、サッと開いて落ち着くそういう馴染み方をする体だった。
 五年か十年のうちにはリザもこういう体になるのだろうと思うが、今はセントーラの体の熟れ方の絶妙さに溺れるしかなかった。
 快楽を素直に楽しむ女を絶頂させることが楽しい。
 マジンはすっかり愉しんでいた。
 確か扉をふたりでくぐり閂を落として鈴を鎖で下げた辺りまでは、セントーラのヴィンゼ来訪の真意を問いただすつもりだった。
 セントーラが無言のまま服を脱ぎ、リザを貪るようにして以来の女の香りを嗅いでも、まだマジンは先に話をするつもりでいた。
 家人が増えやることが増えとしている間に、館で一人で考えるのに煮詰まり飽きて女を抱いて湧いた頭に水を指しに町に出るということも減った。
 羞恥や理性を投げ捨てていたのは、セントーラの方だったといえる。
 尤も面倒を押し通りたい側からすれば、理性なぞ邪魔なだけでそういう意味ではセントーラも充分戦術的打算に基づいた狂騒であった。
 セントーラは戸口をくぐって、立ったまま服を脱いだ時点ですっかり体が温まっており、マジンを脱がせながら勃起を高め、マジンを跨ぐように股を割りそのまま寝台に押し倒した。
 ふたりはそのまま激しくお互いを貪っていたが、先にセントーラの体力が尽きた。
 普通の酒場女はもうちょっとおざなりだ。
 おざなりというよりも、仕事の付き合いとして男の性欲に付き合うことはあっても、自分の体力の限界に挑むようなことはしない。
 日々の活計としてあたりまえだ。
 それでもセントーラの体はマジンを求めるように反応を続け、快楽を拒否しないことで、マジンのさらなる興奮と快感を引き出していた。
 陽の光が傾いたと云うには早い時間からふたりは絡まるように繋がりだし、日が落ちて部屋の壁の隙間から下の酒場の灯りが漏れるようになっても、つながった体を解くことを諦めたように絡まっていた。
 マジンの脳裏にはセントーラの妊娠の可能性について思うところがなかったわけではないけれど、商売女が孕むことで男が腹の子を持参金代わりに引き取る、ということも人手の必要な辺境ではよくあることで、セントーラほどの器量良しの体躯であれば、孕んだと知って廃業を口に出せば、子どもや嫁の引き取り手も現れるだろう。
 セントーラはマジンの頭越しにむこうを見ることができるくらいの体躯の女だったから、誰もが嫁に欲しがるだろうと思った。
 実のところ、ヴィンゼの農夫の細君には酒場女上がりは多い。
 辺境の真剣は街場の真剣とは言葉の意味が異なる。
 農場の女房や後妻に収まった女達はこの数年で十五人ばかりもいて、面付き合わせやすい街場の男の女房に収まった肝の太い者もふたりいた。
 辺境の貞操を疑わせるような、しかしその意味の重大さから実際には貞節と奔放と淫乱不貞の境界はほとんど破られない関係を辺境の男女もマジンも知っていて、馴れればそれも楽しいと感じていた。
 そんなことを考えていたらマジンは不意に尿意をもよおしたように、昂ぶりとは別に精を放っていた。
 股間を貼り付けたままマジンの胸の上に猫のように丸まって居眠りをしていたセントーラは、体の中で起こったことに気がついて目が覚めたようで、とろけた目つきのままにやりと笑うと腰を蠢かせた。
「入るよ~」
 ロゼッタの声と閂に下げた鈴の音にセントーラの下から体を引きぬき這い出すようにマジンは身を起こすが、セントーラはロゼッタの声に気づかないかのようにマジンの股ぐらに吸い付いた。
「ヤカンとタライ持ってきた。……なにまだ盛ってんの。食事出来ちゃったよ」
「オマタ洗って」
 セントーラは男の股ぐらに顔を埋めたまま体液の滴る股間を開いてロゼッタに示す。
「食事持ってくるよ」
 ロゼッタは取り合わず、湯浴み用のヤカンとタライを置いてそう言うと出て行った。
「いつもはやってくれるんだけど。まぁだいたい男が帰った後に頼むけど」
「……ボクと話したいことがあったんじゃないのか」
 二人の体液で汚れたマジンの股間を飴のようにねぶるセントーラにマジンは尋ねる。
 マジンはセントーラが喉まで飲み込むようにしゃぶっていた陰茎を引き出した隙に立ち上がった。
 裸のまま大きな真鍮のタライに浅く湯を張り、手ぬぐいを絞ると股間を拭うマジンをセントーラは気だるげに眺めていた。
「もうおしまい?」
「朝までは、いるよ」
 濯いで濁った泡が浮かんだ湯を窓から捨てると、ヤカンに残った湯でもう一回、手ぬぐいを濯いでマジンは顔を拭った。
「風呂のほうがいいな」
 そう言ってマジンは濯いでいた手ぬぐいを絞ってセントーラに投げてよこす。
「贅沢ね」
 マジンの言葉にセントーラは気怠げに応えた。
 旧来と同じようにヤカンとタライを頼む客も多いが、女に薦められて風呂を使うものも増えた。たまの贅沢で風呂だけ使う者もでてきたくらいには、ヴィンゼもちょっとは金回りが良くなっている。銅貨三枚でタライの湯を使うのも風情だが、半銀貨三枚で女と湯屋を借りるのも悪く無い。
 窓の外の秋の風が寒かったのか、セントーラは裸のままリネンをたぐり寄せるようにくるまった。


 戸口の外で音がして閂が上がると手桶を持ったロゼッタが現れた。
「食事持ってきた。……なんでアンタ服着てないのさ。だらしなくぶらぶらさせてないで前くらい隠しなよ」
 机と椅子をベッドに寄せて三人分の席を作り、食事にした。
「で、なんで遥々お越しなのか、そろそろ聞かせちゃもらえないか」
「ロゼッタがあなたのこと思い出して色々言ってたから、会いに来たの」
 名前が出たことにロゼッタが驚く。
「ロゼッタがボクの名前を出したことでお前はなにを思いついたんだ」
「別れた時は弟みたいな年齢だったけど今はどうかなぁって」
 ベッドの縁からでは机の皿は少し、遠く身を乗り出すようにして皿に向かうとセントーラの張りのある形の良い胸元が肩からかけているリネンからこぼれ落ちる。
「念願かなって会えてよかったな。じゃぁ用はおしまいだな」
「惚れ直しちゃった」
 おどけたようにセントーラは言った。
「それで、ボクになにをさせたいんだ」
「側女として置いていただいて、たまに御情けいただいて、肌ツヤ磨かせていだだければそれで満足。体の相性は良いと思うの。私達。毎年だって子供産んであげちゃう」
 マジンは椅子をベッドに少し寄せ、手を伸ばしてセントーラの頬を撫でる。
「そうか……」
 優しげな手にセントーラが身を寄せたところで、マジンは耳たぶをつまんで引っ張った。
「いたい!いたいっいたい!」
「まじめに話をする気がないなら、作法院まで送り届けるぞ。誰の名前で入ってたか知らんが、今度はボクの名前でカネを積んで二度と出て来られないようにしてやる」
「いたい!わかった。ごめんなさい。許して!いたい!訳を話すから許して!」
 折檻を受けているわけでないロゼッタが痛そうな顔をした。
「――あなたのところにおいて欲しいのは本当よ!なんでもするわ。掃除洗濯の家裁の一切はもちろん、お風呂の海綿やオマルや布団の代わりもします。ともかくお屋敷に置いといてほしいの」
 痛みに暴れて肌を隠すことも忘れたセントーラの耳をマジンはようやく放した。
「その理由は何だ。どうせ作法院にいた事と関係があるんだろう」
 セントーラは耳朶の状態を確かめるように手を当て息をついてロゼッタを見て口を開いた。
「ロゼッタに少し聞いたみたいだけど、作法院がなんだか知ってる?」
「家政の学校みたいな雰囲気だって話は聞いた」
 セントーラは痛みを食欲でごまかすように料理をつまんだ。
「まぁ、大体あってるわね。基本的には執事従僕女中なんかの人材を育てるための学校で、他に行き場のない孤児なんかの躾もしているの。まぁ十五歳以下の子供の一部ね。で、見込みがあるってことになると、奉公先を斡旋してもらえて就職なわけだけど、修道女みたいな生活に馴染むヒトはそのまま居着いて、お役所とか図書館の整理とか掃除とかああいうところで交代で働くのね。だいたい五年くらいで一通り身につくと、働きに合わせて仕事の落ち着き先を見つけてくれるの」
 セントーラの言葉を聞いていたロゼッタが驚いたような顔をした。
「ちょっと待って。ひょっとしてアタシ、あと二年もしたらなにもしないでもどこかのお屋敷にご奉公に上がってたの?そういうこと?」
 ロゼッタが聞き捨てならないと、椅子から立ち上がった。
「あそこにあなたがいつからいたのか知らないけど、捕まってまっすぐ送り込まれたならそのくらいかしらね。でも、私はあなたに感謝しているわ。あなたに会って協力してもらえなかったら、多分あそこを逃げられなかったから」
「ふざけないでよ!」
 のらりくらりとしたセントーラにロゼッタが怒りを露わにする。
「あなたには本当に感謝しているし、だからこうしてお屋敷のご主人に引きあわせてあげているんじゃないの。路銀だって困らなかったでしょう。早速おべべまで頂いて」
「それは……そうだけど」
 最低限のスジは通したと言わんばかりのセントーラの態度だったが、マジンは気に入らなかった。
「……話が途中だな。お前が作法院を逃げ出して、奴隷か家畜同然の扱いでもいいからボクのところにおいてくれ、っていう理由の説明を続けてくれ」
 セントーラはピクリと眉をしかめてみせたが、すぐに笑顔に戻った。
「あるろくでなしの嫁にだけはなりたくなかったの。それくらいならあなたに両手足を切られて置物同然にされて、毎年子供を生まされた挙句にその子供を家畜市場に売られる方がまだマシだわ」
 どういう理由で出てきた妄想か分からないが、それだけやってもセントーラの中の嫌いな男番付の筆頭は揺らがないということは分かった。
「そこまで誰でもいいってなら、裸で立ってたら手を引いていってもらえるんじゃないか」
「やってみてもいいけど、この町じゃもうダメだと思うわよ」
 ランプに照らされた裸の乳房を両手で掬い上げておどけるようにして言った。
「なんで」
「あなたの客だってだけで扱い違ったもの。一晩裸で立ってても親切な誰かが外套を差し出して去って行っちゃうわよ」
 そうだろうか、と少し考えたが問題はそこではないことをマジンは思い出す。
「かくまって欲しいってのは分かったが、期間と相手くらい教えろ」
 話を引き戻すようにマジンは言った。
「期間は長いこととしかいえないけど、相手はプリスフラ・オーベンタージュ。って名前に聞き覚えある?」
 セントーラはマジンの表情を観察するように言った。
「手配書にはなかった名前だ。知らない」
「手配人じゃないわ。帝国の貴族よ」
 セントーラは苦笑すると言った。
「外国の貴族様じゃ、会う機会もないだろうな。戦争していたんじゃなかったっけ」
「たまにね。でもあなたも元は帝国のヒトでしょ?ガラオの町なんて千リーグも東の遠くから何しに来たのよ」
「帝国っていわれても皇帝にあったわけでもないから特に思い入れはないな。それにどこだって?」
 セントーラの言葉にマジンは記憶を探る。
「ガラオ。あなた、そこの出なんでしょ」
「ああ、まぁ。特に思い入れはないな。忘れていた。というより、ボクが帝国民だなんて知らなかった」
 セントーラはあきれたような顔をした。
「――それに今はボクのことじゃないよ。そのプリスフラ・オーベンタージュって貴族がなんで、千リーグもむこうから関係するんだ」
「オーベンタージュの領地はせいぜい五六百リーグくらいね」
 マジンはセントーラはなかなか話の先を聞かせないことに苛立ちを感じた。
「帝国の貴族様はなんで共和国の人間に関係しているんだ。ロゼッタの話ぶりだとお前を作法院に押し込めたのはソイツなんだろ」
「そこまで話した覚えはないんだけど、そうね。そうだと思うわ」
「だが、話を聞く限りじゃ、云うほど悪い暮らしじゃなかったみたいじゃないか。屋根があって仕事があって、食事が出て風呂に入れて、たまに男もつまめる。なにが不満だったんだ。女中勤めが退屈だって云ったって、監獄で機織りやら穴掘りよりもよほど良い生活に思えるよ。それこそ遥々こんなところまでなんの用だ。物取りや詐欺の類なら他所を当たれ」
 セントーラはマジンの言葉に肩をすくめた。
「見解の相違ね。私にとっては監獄のほうがマシだったわ。監獄なら適当に狂言脱走を繰り返せばシャバに出ないで済むもの」
「作法院も何年も居着くのがいるんだろう」
「そりゃ、条件が折り合わなければ。折り合わない自由があればね。……作法院ってのはつまるところ毛色の珍しい学舎だから、長居するための方法はあっても、出さないとか閉じ込めるってものじゃないのよ。オーベンタージュが監獄に保釈金を積んで減刑にして、心得見極めで作法院に預けられたのよ。ホントは私も半年で引き渡されるはずだったけど、定期的に騒ぎを起こして二年はいられた。けど行状不良だけじゃ三年いられないことになっているから、逃げてきた。……流石に監獄行きたいだけで殺しをするには、あそこの人たちはいい人達すぎるからね。バラヌーフに行こうかとも思ったけど、この子があなたのこと思い出したから、いい男になってるなら、囲ってもらおうと思った、ってのは本当」
 セントーラはどうやらそれなりに事情を知る伝手が様々あるらしい。それに手が思いつかなければ殺しをするつもりだったのだろう。
「ボクが断ったら、どうするつもりだ」
「とりあえずこの町は出るわ。適当な町でどうにかして荷物を作ってバラヌーフへ行ってみる。共和国の中を動いている間は追手も大した問題じゃないし。……餞別に金貨の二三枚も恵んでくれれば、面倒かけずに出てゆくわよ」
 マジンはロゼッタを無言で睨む。
「あ、アタシは、その……なんにも考えてないけど、町から出てけってなら、出てく……。でも、その。駅馬車とか使うカネないし、その、カネが貯まるまで見逃してほしい」
 ロゼッタはマジンの視線に焼かれたように萎れてゆく。
「あんまりその娘イジメないでやってくれない。これでもここまで色々助けてくれたんだし」
 セントーラが言うとロゼッタは一瞬顔を明るくしたが、またしょげてしまった。
「――ほらね。お楽しみどころじゃなくなっちゃったでしょ」
 セントーラは話の間はだけていた体に寒そうにリネンを手繰り寄せ包まり直した。
「旅をするのに子供ができたらどうするんだ」
 気になっていたことをセントーラに尋ねてみる。
「私に限ってはそれでもいいの。男の子だったら最高ね。バカの用事もおしまい。女の子だったら気の毒だけど、娘にあとは任せるわ」
「相続か」
「そうそ。モノとしてはどうでもいいんだけどね」
 セントーラは軽く言ったが、説明をすると長いものなのだろう。
「それで男の相手してたのか」
「病気は勘弁だから、相手は選んでたけどね」
「自慢じゃないが、ボクのタネはよく当たるらしいぞ」
「……割とそういうのを自慢にするバカな男共多いけど、私はなんか、クソのタネ以外を受け付けないような呪の類を昔クソどもにかけられたみたいなのよね」
 セントーラは下腹を擦るようにしていった。
「――結構いろんな男と月のものに関係なくやってみたんだけど、一度もあたった様子がないのよ。おかげでいろんな男にかなり鍛えられたわ。獣人なら当たるかなと思ってやったことあるけど、アタシは普通のヒトのほうが良かった。好きなヒトもいるみたいだけどね。……そんなわけだから、アタシは客が一周りしたら町を出てゆくわ。こんな田舎町じゃ孕まない女は拾い手もないだろうし」
 拗ねたようにセントーラが言った。
「ふたりともこれから冬だってのに着の身着のままなのか」
「そりゃ、春ひさいでりゃ食うに困らないったって余るようなお大尽に当たることはそうそうないわよ」
 マジンが立ち上がって衣紋掛けに下げていた自分の上着を取ると、ロゼッタは話も終わりかと食器を片付け始めた。
「朝までいてくれるんじゃなかったの」
 セントーラが少し心細そうに恨みがましく言った。
「ん。そのつもりだ。夜道を急ぐ用もないしな。二十リーグは遠いよ」
「二十リーグってそんなあるの」
 ロゼッタが片付けながら驚いたように言った。
「たぶん道で測るともうちょっとある。二十五とかじゃないかな。だからお前らがここでボクを待ったのはたぶん正しいな。着の身着のままじゃ、道端で倒れるのが関の山だ。……前にいたんだろ」
「……そんなこと言っても、道を覚えるほど町になんて足伸ばさなかったし……。なにそれ」
 食べかす集めの机の覆いをたたみながら、マジンの手の物を見てロゼッタが尋ねた。
「金貨だよ」
 窓に向かうロゼッタに道を譲ってやりながらマジンは応えた。
「へー。あるところにはあるんだね」
 そんなことを言いながら、ロゼッタは窓の外にはためかせて布のホコリを払う。
「――いくらかそれで払ってくれるの。それ穴あきだから、五十タレルだろ。駅馬車が二十四タレルだから、一枚で二人分か」
 机の前に戻ってきたロゼッタは目に見えて消沈していた。
「――あんね。あたしらが目障りなのはわかんのよ。でも、町からいますぐ出てけってのは勘弁してくれない。せめてここに来たときの倍くらい稼いで貯まるくらい町にいてもいいでしょ」
「これだけやるからデカートあたりに戻ってふたりとも身なりと荷物を整えろ。無駄遣いしなければ馬を買って前に弾の出る拳銃も手に入るはずだ。お忍びだってなら、もうちょっとマトモな格好でマトモに潜んでこい」
 ロゼッタは机の上に置かれた半ダカート貨を紐で連ねたモノをみて目をパチクリしている。
「……え。なにこれ。穴空き金貨?こんな一杯」
「半ダカートで半パウン。見たことないのか」
「穴あきくらい見たことあるよ!釘とかで止めてあるのは見たことある。けど、こんな風に綺麗に紐で絡げて帯になってるのを見たのは初めて」
「金貨の半分の価値しかないけど、これだけあればお前ら二人分の賞金くらいになる。これだけやるから身なり整えて、寄り道しないで出直してこい。金貨で一枚づつあれば旅の歌に従った荷物くらいは揃うはずだし、馬も穴あき金貨で五枚も払えば、そこそこ元気な馬が馬具ごと揃うはずだ。十五枚はお前がもっとけ。十五枚はセントーラの分だ。のこりは適当に決めろ」
 そう言って上着を羽織るとマジンは服をまとめて、部屋を出る。
「帰るの?」
 ロゼッタが話の流れに驚いたように聞いた。
「風呂入ってくる。音しないし、使えるだろ」
 マジンはそう言ってだらしない格好のまま部屋を出て行った。


 酒場の常連の町の衆は囃すようにマジンのだらしない格好を誂ったが取り合わず、湯屋が空いていることを確かめると代金をカウンターに積んでさっさと風呂にはいることにした。
 四人で一万タレルに足りなかったのは少々物足りない気分だったが、壁越しに感じる気配は影を収める闇を探しているようで、なかなかの上物のようだった。
「背中流そうか」
 セントーラの声がした。
「もう洗った。一緒に入るか。狭いけど」
「そうさせて」
 セントーラは裸同然だったらしく、トスンというかすかな衣擦れだけですぐに中に入ってきた。セントーラの量感のある身体はまだ年齢による老いの弛みを感じさせず、未熟な硬さを感じさせない、柔らか気な満開の女だった。
「どうしたの」
「いや。大輪の薔薇のような香り立つ美人だな、と思ったのさ。誰かに覗かせるのはもったいない」
 浴室の暖かな湿度がセントーラの体臭を甘く心地よいものにしていたのは世辞だけではない。
「若いのに、年寄りみたいな褒め方をするのね」
「イヤだったかな」
「気取った褒め言葉も、いい男には必要よ」
 セントーラは薄く笑ってまっすぐ風呂桶に入ってきた。
 あふれた湯がアブクのような垢の塊を流す。
「やっぱり、お風呂の贅沢もたまにはいいわね」
 セントーラの股ぐらに手をやると粘液がぬるみを持ってやがて剥がれる。
「洗ってあげるつもりが洗われちゃった」
 そう言ってセントーラは笑った。
 しばらくそうやってお互いの体を撫で回すように汗と垢をこすり落とした。
「――先に上がるわね。あの娘の寝床の毛布を借りに来たの」
 セントーラは体をひねると口づけをし、狭い浴槽の中で自分の体を見せつけるように立ち上がると出て行った。
 マジンはセントーラの衣擦れがして扉が開き出てゆくまで辛抱強く待ってから。尻の下に敷いていた拳銃を戸口と壁の二面に向かって放った。
 直径九シリカの銃弾は壁の板を薄手のカーテンと同じような気安さで転げるように突き破り、襲撃者に襲いかかった。
 襲撃者のうろたえ弾は壁の穴を増やしたが、発砲の証拠として或いはマジンに的を教える役にしか立たないで終わった。
 事件としてはモノの数秒でケリが付いたあとでマジンは改めて風呂桶で寛いだ。
 表からドヤドヤと足音がして、店のオヤジが風呂場に踏み込んできた。
「旦那。掃除と修理の払いはしていただきますからね」
 マジンに傷一つなく湯船でくつろいでいることを確認するとオヤジはそう言った。
「保安官を呼んでくれ。四人とも賞金首だ」
「女は」
「アレは遠くまで行かないとカネにならない。面倒くさい。アレならここで働かせたほうが稼げるだろ」
「ご冗談」
「ちっこいのに免じて駅馬車が来るまでは泊めてやってくれ。カネなら渡した」
「慈悲深いこって」
「ボクはいい賞金稼ぎだからね。正義はともかく慈悲は知っている」
 オヤジはマジンの言葉を鼻で笑うと出て行った。
 オヤジが出て行ってしばらくしてから風呂場の撃ち殻を集めて風呂を出た。
 酒場の一階では騒ぎは博打のタネになっていた。
 ひどい話で襲撃者の死体の数と怪我人と逃げた数で争われていた。全員死ぬと全員ケガで捕まるが双璧で、よくやっただの、なんで殺しただのという声が聞こえる。
 そんな中、保安官が酒場を訪れ、風呂あがりのマジンを連れて湯屋の周りを巡って状況の説明を受けた。四人合計で九千二百五十タレル。というマジンの言葉に手配書の束を差し出した保安官はマジンに手配書を探させ確認すると、遺体を霊安室に運ばせた。


 マジンが宿の部屋に戻ると女はふたりともまだいた。
「なにが起こったの。いったいさ。今の騒ぎは。セントーラは出てかないほうがいいって言うし」
 マジンの顔を見てホッとしたようにロゼッタが言った。
「セントーラ。幾らで案内したんだ」
 ロゼッタの言葉を無視してマジンは詰問した。
「金貨で三枚。半金貨じゃないわよ。一ダカート金貨で三枚」
「四人いたのに三枚か。せこい連中だな」
 セントーラが答えたのにマジンは薄く笑った。
「あなたがいつまで待っても来ないから、お金なくなるかと思ったわよ」
「他に隠し事は」
「訊かれたことは全部答えたわ。嘘もついてない」
 セントーラは窓の隙間から漏れる灯りを探し外に目を向けるようにしたまま応えた。
「セントーラ。服を脱いで、ボクに背を向けて机に手をつけ。足は肩幅だ」
 セントーラはモソモソと服を脱ぐと言われたとおりに裸の尻を突き出した。
「え、なに、なにがどうなったの?アタシ出て行った方がいいの?」
 ロゼッタがうろたえた。
「ここにいろ。ベッドに座ってていいぞ。眠けりゃ寝ても構わん。だが、声は出すな。黙っていろ」
 マジンが冷たく答えたのにロゼッタは黙って頷いた。
「なんだ。風呂に入ったばかりなのに、もう股を濡らしているのか」
「いい男に裸のケツ突き出せって言われてるんだもん。なにされるのか知らないけど、濡れるわよ」
 セントーラは冥く媚びた声で応えた。
 マジンが遠慮なく尻を叩くとセントーラは衝撃で机に肘を打ち付けた。
「ちゃんと立て。……あのバカどもとはどうやって知りあった」
「ヴァルタの宿で路銀が尽きたところで戸口にいた男に引っ掛かったの」
「どうやって誘ったんだ」
「体を売るのなんか簡単よ。ちょっとオッパイでもお尻でも見せてあげて値段を示して、そこらにシケ込めば……」
 マジンはセントーラの言葉の途中で尻を叩いた。
「質問に答えろ」
「嘘は言ってないわよ」
 セントーラの抗議に尻を叩いてマジンは応えた。
「ボクを襲う話をどうやって誘ったんだ」
「賞金首として値段が付いていることを鼻高々に話していたから、百人斬りの賞金稼ぎのことを話してあげたの。サーベルと拳銃で銃弾を叩き落とす凄腕って話をしたら、そのときは笑い話だと思ったらしいけど、二三日して詳しい話を訊かせろって。けっこう前の話だと思ってたけど、あらくれの間では面白話として有名だったみたい。あたしたちを駅馬車に乗せて連中は馬だったわ。道中の警護として雇われてたみたい」
「ヴィンゼの駅馬車ってデカート行きくらいしかないと思うんだが」
 マジンは怪訝な声で尋ねた。
「そう。ほんとここ田舎ね。あっぶたないで!」
「ぶちゃしないよ。で、デカートからまた駅馬車か」
 マジンが先を促す。
「そうよ。デカートのあの氷を作るって白い建物、あなたが建てたんでしょ。なんかすごく有名で、魔法使いの賞金稼ぎなのかって、連中の腰が引けて困ったわよ。ともかくそういう賞金稼ぎならいい生活してカネも持っているだろうから、ゲンナマは少なくても得物は大したものに違いない、って発破をかけてその気にさせたわよ。古い謄写版の一枚を手に入れてきて、拳銃二丁に段平二本挿してるから、カネにならなくても箔はつくとか、色々苦労したわ」
「ゴミみたいな銃をロゼッタに渡したのはどういうわけだ。危うく殺すところだったぞ」
「駅馬車の警護につくと安くなるの知ってるでしょ。デカートのあたりは割と落ち着いてるから、それっぽい格好させて馬の扱いが上手ければ、割安なのよ」
「いくらなんでもあの拳銃はひどすぎる。あんなの構えたら構えたほうが死ぬぞ」
 尻を叩く大きな音にロゼッタが身を竦めた。
「ごめんなさい!」
 もう一発響いた。
「どうやってボクを襲う段取りを決めてたんだ」
「あなたが女抱いた後にお風呂入るって話はここにしばらくいたら分かったから、一緒に入って確かめて私が先に出たら襲撃。あなたが一人で勝手にお風呂行っちゃったときは慌てたけど、バカはバカなりに動いてくれたから上手くいったわ」
 尻を叩いた。
「――ひどい!何も嘘は言ってない!」
 もう一発叩いた。
「酷いのはお前だろ。それを何だ。バカはバカなりにって」
 言いながら更にもう一発女の尻を平手で鳴らす。
「カネは受け取ったのか」
「前金の金貨三枚はね。まぁ死んじゃったみたいだから、そっちはいいけど」
 斜っぱにセントーラは応えた。
「聞きたいことはこれでおしまい?ならもう流石にお尻しまいたい。ってかお尻じんじんしてオマタ濡れてきちゃってるし、ブチ込んでくれる方がまだ気楽。これ結構恥ずかしい。もうそろそろ許して」
 誘うように揺れる尻の内股の濡れ具合を確かめるようにマジンは手のひらをすべらせる。
「ボクのことを調べたな。どこで調べた」
「噂のことなら調べるってことはないわよ。あなた有名人みたいだし」
 マジンは濡れた手でセントーラの尻を叩いた。
「ボクが帝国民だなんて話は噂で流れるような話じゃないだろう」
「それはアナタが連れてた獣人の娘の首に帝国式の鑑札がついてたからよ」
 セントーラの尻をマジンが叩く。
「それだけじゃ、ボクが前にいた町の名前はわからないはずだ」
「デカートで土地の登記の記録を見たわ。あなたが本当にヴィンゼのどこに住んでいるのか知りたかったし。そのときにあなたの市民登録、戸籍も見たの」
「他にはなにを知っている」
「娘さんの名前や前の奥さんの名前くらいは知っているわよ」
「他には」
 セントーラの内股の滴りを指で伸ばすように訊く。
「あなたが帝国のお尋ね者だってこと」
「どういうことだ」
「あなた、前にオーベンタージュの次男を殺したでしょ」
「誰だ。それ」
 セントーラは身をよじってマジンの顔を確かめる。
「あなたじゃないの?帝国の貴族の間ではちょっとしたゴシップになって、疫風の如き野人ゲリエが三百人からの狩人を一晩で殺したって話になってたけど、ゲリエなんて名乗って腕も立つから、絶対あなたの仕業だと思っていた。弓で何人か館の連中も殺してたでしょ」
 マジンは尻を叩いた。
「ボクをいくつだと思っているんだ」
「いくつなのよ」
 尻を叩くのに悲鳴じみた声でセントーラは問い返す。
「調べたんじゃないのか」
「教えなさいよ」
「十七だ」
「嘘。本当に子供なの」
「失礼な女だな」
 身構えていたらしく、叩かれても呻かない。
「それでいつの事件なんだ」
「アタシが逃げ出した頃、十六の頃だから六年くらい前。え?あれ」
「まぁ、ボクは十四の頃に百人切りをしたことになっているから、その前に三百人殺してても話のスジとしては面白いけどね」
 そう言いながらマジンはセントーラの内股を優しげに撫でる。
「――啖呵だけなら帝国軍でも共和国軍でも億万騎切ってやってもいいよ」
 そう言って叩くと不意を突かれたらしくセントーラの膝がカクンと落ちた。
「――ほら、手をついて立って。肘ついていいから」
 マジンは腰を支えてセントーラを起こす。
「セントーラ、ひょっとして、お前はオーベンタージュの息子をボクが殺したと思ったから、ボクのところに来たの?……別にいいよ、それでも。ロゼッタをダシに使って来たのだって、結果としてはロゼッタを救ったことになるしね。今日からボクがお前のご主人様だ」
 そう言って尻を叩くと疲労からかセントーラはクタリと膝を崩した。
「――かわいらしいなぁ。はい、立って。もう手はつかないでいいから。こっち向いてボクの膝を跨いで座ってごらん」
 マジンが椅子に腰を下ろしその膝をまたがせるようにセントーラを導く。
 ズボンの硬さと自分の体の蜜の滴りが叩かれて腫れた尻に染みるらしい。
 ぎこちなく股を割るのを導いてやる。
「名前を言ってごらん」
「セントーラ。セントーラ・マイエツシ」
「それは最近の新しい名前だね。元の名前はなんて言うんだい」
「……」
 ゆりかごのように体を揺すっているとセントーラが体を上に逃がそうとする。
 それを太ももを割り、腰骨を押さえつけるようにして逃がさないようにしっかりと膝の上に座らせる。
「名前を言いなさい」
 女の裸の乳房の谷間に顎を沈めるようにしながら、マジンは静かに命ずる。
「名前を口にしてごらん」
 マジンは体をゆったりと揺らしながら、幾度か女に命ずる。
「ヴィオラ・シャイア・ノラッド・ウーザフ」
「お父さんにはなんて呼ばれていたんだい」
「ヴィオラとか美人ちゃんとか。美人ちゃんはちょっとヤだった」
「お母さんにはなんて呼ばれていたんだい」
「ヴィオラ」
「お前の家族は何人いたんだい」
「お爺さまと父様と母様とシェルとレイと私。ポラール姉様」
「誰にお前の家族は殺されたんだい」
「アブラム・イアノス・イリノア・オーベンタージュ」
「なぜ、お前の家族は殺されたんだい」
「わたしを逃がすため」
「それは違うよ。みんなは逃げようと思ったけど上手く行かなかっただけだ。お前はなにを継承しているんだい」
「しらない」
「見たことはないんだね。なんと教わったんだい」
「どこかの扉を開ける鍵の開け方」
「その扉の中にはなにがあるんだい」
「しらない」
「お爺さまはなんとおっしゃていた」
「昔の武器だって。きっともう錆びて腐っているはずだって」
「オーベンタージュはなんでお前に子供を生ませようとしているんだい」
「継承権を自分と子供に与えるため」
「その方法は」
「帝都の祭儀官が知っている」
「そのためにお前との間に子供が必要なのか」
「そう」
「それなのになぜ不妊の呪いをかけた」
「私が別の男のタネで孕んで祭儀官に持ち込まないため」
「呪いは解けるのか」
「たぶん。解き方を知っていると思う」
「呪いを解きたいか」
「別に。どうでもいい。でもオーベンタージュが吠え面を掻くところは見たい」
「なんで野盗に加わったんだ」
「別にどこでも良かった。食べるものに困って男たちにくっついてただけ。呪いのおかげで孕む面倒がなかったから楽だった」
「自分の体で一番自信があるところはどこだい」
「男たちはオッパイとお尻とオマタの締りを褒めてくれるけど、私は鎖骨から脇の下の肩の横のところの肉付きが綺麗だと思う」
 彼女の云うところをなでてやるとセントーラは嬉しそうな声を出した。
「ボクのことが好きかい」
「すき?なんで?べつに」
 セントーラは不思議そうに素直に応えた。
 マジンは抱きしめ押さえつけていたセントーラの体をゆるやかに放し、顔の見える距離で不安定な姿勢で支える。
「ヴィオラ。ボクの顔を見て。覚えて」
「うん」
「ボクのことが好きかい」
「なんで?」
 するりと腕の力をゆるめると、セントーラは椅子から落ちそうになるのを小さな悲鳴を上げて脚を絡めて避けようとする。
「ボクのことが好きだと言ってごらん」
「好き。あなたのことが好き」
 好きという数に合わせてマジンはセントーラの体を少しづつ手繰り寄せてゆく。
「ヴィオラ。ボクのことが好きかい」
「好き」
 マジンが手元にあった毛布をセントーラの肩にかけてやると、寒さを思い出したように彼女の体が震えた。
「ヴィオラ。ボクもお前のことが好きだよ」
「好き。嬉しい」
 そう言うとヴィオラは夢を見るように言葉だけで絶頂に達した。
「ヴィオラ。いまからお前はボクのものだ」
「あなたのもの」
「ヴィオラはボクのことが好きか」
「好き。あなたのことが好き」 
「お前はボクのものだ」
「あなたのもの」
「お前はボクを愛している」
「愛している」
「お前はボクの漏らしたオムツだって平気だよね」
「平気」
「ボクのことが好きかい」
「好き」
「お前はボクのウンコやおしっこを頭からかぶっても平気だよね」
「平気」
「オシッコがしたくなった。飲んでくれるかい」
「いま?……いいわよ」
「ヴィオラの顔を見てたら我慢できそうだ」
「我慢しないでいいわよ」
「ヴィオラはボクのことが好きかい」
「好き」
「ヴィオラはボクのことを愛しているのかい」
「愛している」
「ヴィオラ。ボクのことをちゃんと覚えて」
「うん」
 マジンはヴィオラの手をマジン自身の顔に導いてやるとヴィオラの指は奇怪な虫のように遠慮無く男の顔を這いまわり始めた。
「これからヴィオラの魂の処女をもらうよ」
「魂の処女」
「斜っぱなセントーラの影に隠れている本当のヴィオラの魂をボクがもらう」
「ヴィオラの魂」
「ボクがヴィオラの名を呼んだら、セントーラが何をしていてもヴィオラは応えるんだ。わかったね」
「わかった。呼ばれたら応える」
「良い子だね。ヴィオラ。じゃぁまずボクの膝をまたいだまま立ち上がって」
 素直にセントーラががに股で立ち上がらせて、マジンはズボンの前をくつろげてヘソを越えて勃起していた自分自身の怒張を取り出す。
「結構大きい」
 セントーラが口にした。
「大丈夫。セントーラは夕方これで楽しんでた。だからヴィオラの魂の処女もすぐに溶ける。でも、もうオマタ乾いているね」
「……カサカサ」
「さわらないでも大丈夫。ボクの顔を見て。ヴィオラがどれだけボクのことを好きか愛しているかを思い出して」
 セントーラはしばらく眉や額にシワを寄せていたが、マジンがゆっくりと鎖骨から肩脇の線をなぞってると、突然自分の体の異変に気がついたように目を見開いた。
「オシッコじゃないのに……濡れてる」
「よく出来たね。ヴィオラ」
 そう言ってセントーラの頭に届かない手を伸ばすとセントーラは身をかがめて手を頭に迎えた。
「――そのまま腰を下ろしてごらん。手で導かなくても深いところまで入るはずだよ」
 セントーラは言われるままに腰をゆっくりと下ろす。
「なにこれ。どういうこと。どうなったの」
「……セントーラか。ヴィオラ、起きなさい」
「はい」
「奥まで入れただけで気絶するなんて情けないよ。しっかりしなさい」
「申し訳ありません」
「まだ慣れていないからね。この辺の筋肉だけ使ってボクの精を搾ってごらん」
「はい」
 そう言って肋骨の途切れる辺りをくるりと示すとセントーラの腹は奇妙に膨らんだりしぼんだり筋肉を見せたり隠したり始めた。
 二人の腰骨はほとんど張り付いたまま、筋肉だけで性の絶頂を与えた。
「ヴィオラ。よく出来たね。これでお前の魂の処女はボクのものだ」
「ありがとうございます」
「ヴィオラ。コップに水をいっぱい持ってきておくれ」
「はい」
 セントーラの女陰はマジンとの別れを惜しむようにしずくを残して閉じた。
 立ち上がり水差しに向かうセントーラをロゼッタは怯えたように見つめていた。
 セントーラはロゼッタの視線に気づくと微笑むように視線を絡めてから、水差しから陶製のコップに水を注ぎマジンに差し出した。
 マジンは水を飲む。
「お前も飲むか」
「いただきます」
 マジンはセントーラの股間の滴りを眺める。
「まずはそれを飲みなさい」
「はい」
 セントーラは股間をくつろげコップを近づけ中の男女の体液を絞りだす。
「体に傷をつけないように爪は立てないように」
「お優しいですね」
「愛しているからな」
「嬉しい」
 そう言うとセントーラの膣から飛沫のような体液が零れた。
「少し足してやろう」
 マジンは受け取ったコップに小便を注ぐ。
「ヴィオラ。セントーラと交代なさい。コップの中のものは溢させるんじゃないよ」
 セントーラにそう言ってコップを渡す。
「なにこれ。くさい。どういうこと」
「セントーラ。お前はボクの小便や糞を食ってオマルになるのも構わないと言ったな。言葉通り試してやる。それを飲め。ボクをくだらない理由でくだらない男どもに売った罰だ。お前を望み通り屋敷においてやる。ロゼッタも屋敷においてやる。オーベンタージュとかいう帝国貴族からも守ってやる。だが、下らない方法でボクに下らない殺しをさせたことは許さない。お前の心がけを証明させてやる。ボクの小便と精液を飲め。……ヴィオラ、コップの中身を二口、ゆっくり飲みなさい」
 そう言うとセントーラは眉を奇妙にしかめながら二口のんだ。
「――セントーラ。美味しかったか」
「臭くてしょっぱくて苦くて酸っぱかったわよ」
「これでお前はボクの物だ。大事に屋敷においてやる。大切にしてやるよ」
「……あんたがどれだけキチガイか思い出したわ。よくわかったわよ。これもう捨てていい?」
「ボクとロゼッタの命をオモチャにしたことについてどう思っている」
「どうって。……わかったわよ。悪かった。悪かったです。路銀が欲しかったのは事実だけど、他にやりようはありました。ごめんなさい。……これでいい?……ねぇ、これもう飲んだんだから捨てていいでしょ」
「ヴィオラ。セントーラと交代なさい」
「……はい」
「そのにおいどう思う」
「……おしっこの匂い。お小水臭いです」
「かすかでもボクの匂いを感じたら良い匂いだと思いなさい」
「ゆっくり二口飲みなさい……。どんな味だ」
「しょっぱくて苦くて酸っぱい。変な味……です」
「かすかでもボクを感じたら美味しいと感じなさい。……残りを飲み干して」
「やっぱり馴れません」
「……コップに半分水を注して、軽く濯いで一口飲んでごらん」
 セントーラは言われるままにコップに水を注し、軽く揺すって一口飲み、驚いた顔をする。
「……美味しい。それになんか不思議ないい香りがする」
「セントーラに代わって、教えてあげなさい」
「なにがおいしいって、そんな小便のコップで。……え。そんな……なんで?」
「お前がボクのものだということだ。セントーラ。ボクとの約束は疑わなくていい。事によったらお前はくれてやった金貨を持ってどこかに逃げるつもりだったのかもしれないけど、ロゼッタと一緒にボクの屋敷に来ればそんなことはしないですむ。……ヴィオラ。怒らないから言いなさい。ロゼッタを置いて金貨だけ持って逃げるつもりだったね」
「……このあと、男たちのキャンプまで行って馬で逃げるつもりでした。金貨は全部持って行ってもロゼッタの世話はゲリエ様、ご主人様が引き受けてくれると考えていました」
 セントーラが自分の口から出た言葉に驚き慌てたように口元を抑える。
「ヴィオラ。セントーラがどう思っても構わない。必ずロゼッタとふたりで身なりを整えて屋敷に来なさい。町中を真っ直ぐ来ると目立つから北の森の東側を川にそって北上しなさい。途中、船小屋がある。風呂があるから好きに使っていい。少し遠回りだが馬で来るならそちらのほうが迷わない。男たちの馬と荷物があるなら、それを使って夜明け前に出ても構わないよ。次に来るときはロゼッタが自分を女の子であることを疑わないで良いような格好をさせて上げなさい」
 セントーラは口を抑えたままだったが、黙って頷いた。
「ロゼッタ。そういうわけだからセントーラについていきなさい。大丈夫だと思うけど迷子になるといけないから半金貨を六枚それぞれバラバラに隠しときなさい。靴の中とかボタンの裏とか襟の中が定番だ。ともかくキチンと身なりを整えて奉公人になる心構えで屋敷に来なさい。我が家はこの辺では名士ということになっている」
 そう言うとロゼッタは顔を赤くして口をパクパクさせた。
「――どうした」
「あ、あの、アタイは、アタシはそのアンタの、ゲリエ様のオシッコ飲まないでいいの?」
「お前はボクに何か嘘を付いているのか」
 ロゼッタは首を振った。
「――お前はボクに何か隠し事があるのか」
 ロゼッタは首を振った。
「お前はボクに害意があるのか」
「ガイイってわかんないけど、かっちょいいな、とか、……その、怖いな……とかは思う」
 おずおずとロゼッタは言った。
「他人を怖いと思うのは仕方がない」
「あ、あんね。ウソとか隠し事ってわけじゃないんだけど、ロザ・ウテイル・スヴァローグってホントはアタシの名前じゃないんよ。なんかよくわかんないんけど、いつの間にかそう呼ばれてるんだけど、アタシ、ロゼッタ・ワーズマスってのがホントの名前なの。です。ちゃんと覚えてないけど、父ちゃんワーズマスってお店やってた。のです。死んじゃったけど」
 名前の取り違えや入れ替わり成りすましはかなり多い。
「それで、ロゼッタ・ワーズマスとして扱って欲しいのか」
 ロゼッタは頷いた。
「お役所がアタシをスヴァローグってそう扱うのはしょうがないけど、悪い事してるわけじゃないのにウソの名前使うのはなんかダメかな。って悪い事しててもなんかアレだけどその。アタシが名乗ったわけじゃないし、奉公に上る、働くときくらいちゃんと名前名乗っとかないといけないかなって」
 ロゼッタは少しはっきりした口調で言った。
「セントーラは知ってたのか」
「聞いてました」
 マジンの確認にセントーラは足元の毛布を拾い上げ身を隠すように包まりながら応えた。
「それで……あの」
「ご主人様のオシッコはそのままじゃ臭いわよ」
 そう言ってセントーラは水差しからコップに水を注ぎ、軽くかき混ぜて濯いでロゼッタに渡す。
「……匂いしないよ。汲んでから時間経ってるから埃っぽいけど」
 コップに鼻を埋めるようにして匂いを嗅いでロゼッタが言った。
「するじゃない。薄くなってるけど」
 ロゼッタから取り上げたセントーラが水を飲んで香りをかぐ。
「セントーラ……なんかズルい。お尻打たれてるときは悲鳴あげてたくせに、なんかチンチンはめてもらったら、すっかりトロトロユルユルになってた」
「それは、しょうがない。そういう風にできているんだもん。アンタも三四年したらハメてもらいなさい」
「……それで、あの、オシッコ飲まないでいいの。ですか」
「べつにいいよ。ボクとお前をバカな男どもに売り渡す算段をしてたバカ女を懲らしめるためにやったことだし」
「そう。ですか」
 ロゼッタはほっと気が抜けたような顔をした。
「夜明け前にふたりとも出て行けよ。ボクは敢えて騒ぐ気もないが、どういう理由にせよセントーラが手引したのはバレバレだ。スジとして保安官の仕事になる。そんなのをウチで雇っていたら面倒でしょうがない」
 そう言うとマジンはロゼッタを追いやるようにして寝床に横になった。


 ふたりはマジンの言葉通り、小鳥が騒ぎ始めるよりも早く酒場の二階を出て行った。
 店の親父は風呂場に転がった死体の血痕について改めて文句をいい、マイルズ保安官は話を聞けそうな女を逃がしたことについて嫌味を言った。
 マイルズ保安官は手配書の顔を昼の陽の下で確認して葬儀屋に引き渡すと、マジンに男たちが使っていたはずの野営の天幕が消えていたと告げた。
 賞金を受け取った足で狼虎庵へ寄って金貨で四枚ずつ目の前にすべらせると、男たちは三人それぞれに複雑そうな顔をした。
「イヤね。町の縁んとこになんかこう懐かしい雰囲気のイキった連中がいるたぁ思ってたんですよ」
 ジュールが言った。
「気の毒かけたな。面倒はなくなったから足りないもの揃えて、酒場で女買うくらいはできるだろ」
「いや、贅沢言う必要ないくらいにはお賃金いただいてますしね。そりゃ結構なんですが、イヤ、もう毎日まじめに働いて飯と屋根がある暮らしのありがたさを実感してるところでさ」
 ジュールが金貨を革袋に滑りこませながら言った。
「仕事に差し支えないなら所帯持っても構わんぜ。いや、差し支えても所帯持ちたいっておめでたい話があるなら引き止めも出来んが」
「ああ……。いえいえ。そうじゃなくてさ。そうじゃなくて、ちっこいのが気の毒だなと」
「ありゃ、あんまりナリが汚いから出直して来いってカネやっておん出しただけだ。いくらなんでもありゃ酷いだろ。セントーラの方はまぁ後のことは後のことだ。気付いても知らん顔しといてやってくれ。面倒くさいだろうし」
 そう言うと男たちは命を張った沙汰にはならなかったことに安堵した。
「女郎の方はともかくこの歳になって、ガキが気の毒、って思えるようになるとは思いませんでしたよ」
 センセジュが口元に笑いを浮かべて言った。
「――悪い意味じゃありませんよ。なんつうか、自分ら普通に働けてんな。ってま、ジュールじゃありませんが、日々の暮らしに感謝できるってな、あるんだなってことです。ま、所帯の話はちと気が早いですが、まぁいずれそんなご相談させていただければ、と思っちゃおります」
 センセジュの言葉にふと笑い、マジンは顔を曇らせた。
「他所の明日の話はまぁこの際どうでもいいんだが、お前らの得物はマトモなの使ってんだろうな。殺し屋稼業じゃないからデカいのはいらんが、つかえないのはそれはそれで困るぞ」
「たぶんお預かりの猟銃二丁がアタシらの銃の中じゃ一番上等ですぜ」
 ジュールが少し考えて言った。
「ありゃ確かに掛け値無しにいい。ってか泥ン中落としてもちゃんと打てるってのがすごい」
 どういうことがあったのか、ペロドナーが言った。
「まぁ旦那にわざわざ言うこっちゃないでしょうが、チャカなんかあっても揉めてヤラれるときは騙し打ちって相場が決まってますからね。お嬢さん方くらいだと背中からってこたぁないでしょうが、大人同士の喧嘩は薄ら汚いですからな。危うきに近寄らず、逃げるに如かずですや」
 ジュールがそんな風にまとめた。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

【完結】スキルが美味しいって知らなかったよ⁈

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:42pt お気に入り:2,697

性格が悪くても辺境開拓できますうぅ!

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:49pt お気に入り:1,106

アーティファクトコレクター -異世界と転生とお宝と-

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:99pt お気に入り:6,627

神様のヒントでキャラメイク大成功!魔法も生産も頑張ります!

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:14pt お気に入り:5,470

ニートの逆襲〜俺がただのニートから魔王と呼ばれるまで〜

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:28pt お気に入り:939

処理中です...