有能すぎる親友の隣が辛いので、平凡男爵令息の僕は消えたいと思います

緑虫

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【続編】ヨルゲンxオラフ

37 二学年冬季休暇

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 冬季休暇中、俺は勉強三昧の日々を送った。

 でも、夏季休暇の時とは意気込みの種類が違う。夏季休暇は「遅れを取っちゃ駄目だ」という強迫観念にも似た焦燥感を覚えながらの学習だったけど、今回はずっと弾んだ気持ちで机に向き合えた。

 楽しそうな俺の様子に、ハンスも嬉しそうに「さ、坊ちゃま。そろそろ休憩なさって下さらないと」とお茶を持ってきては「頑張って下さいませ」と応援してくれた。

 そんな中、ダニエラが「オラフ、助けて!」と俺に教えを乞いにきたのには驚いた。だって、いつだってダニエラのほうがなんでもできて、俺はダニエラの後を目立たないようについていっていたから。

 人に頼られるのは嬉しいものなんだな。これまで頼るばかりで頼られることがなかったので、単純に嬉しい。

 もしかしたらヨルゲンもこんな気持ちなのかもしれないな、とふと思った。

 俺の椅子の横にダニエラ用の椅子を用意してあげる。半泣きのダニエラが持ってきたのは、数学の課題だ。最初の数頁は書き込みがしてあるけど、あとは全部真っ白な状態のまま。ちなみに俺は真っ先に終わらせてある。

「どこがわからないの?」
「もうここから後ろがぜーんぶさっぱりよ!」

 泣き真似をするダニエラの頭を優しく撫でると、俺はひとつひとつ丁寧に説明していった。人に教えることなんて滅多にないからちゃんと教えられるかちょっと自信がなかったけど、それなりにうまくできたんじゃないかな。

「――という形で、答えはこれになるんだよ」
「ああ、そういうことだったのね!? オラフの説明を聞いてやっとわかったわ! オラフの教え方はわかりやすくていいわ」

 ダニエラは呑み込みが早い。ほぼ教科書を音読する程度の簡単な説明で、次々に理解してくれた。

「そう? なら、ヨルゲンのお陰かな」
「ヨルゲン? どういうこと?」

 ダニエラが不思議そうな目で俺を見る。俺は微笑みながら、うん、と頷いた。

「俺が聞き取れなかったところや理解が及ばなかったところを、ヨルゲンが毎日こうやってひとつひとつ口で説明してくれているんだよ」
「へえ」
「人に教えると自分でも復習できるからいいって言ってくれたから、遠慮なく教えてもらってるんだ」
「復習……そういうものなのねえ」

 ダニエラが感心したように頬に片手を当てる。と、目をきらりと輝かせて興味津々といった体で尋ねてきた。

「ということは、あれからはヨルゲンともうまくやれているのね?」
「うん。まあ、そうかな? 俺が意固地にならなければよかっただけなんだって、最近気付いたところ」
「意固地? どういうこと?」

 ダニエラがペンを置いて身を乗り出す。俺も同じくペンを置くと、椅子の背もたれに体重を預けた。

「俺さ、不器用だろ? だからずっと周りと同じようにできないことに焦っていて、ヨルゲンが手伝ってくれようとしたことに対しても怒って拒否してたんだ」
「オラフ……」

 ダニエラが手を俺の手の上にそっと重ねる。少し前までは同じくらいの大きさだったのに、今では俺の手のほうがひと回り大きくなっていた。同じ場所にはいても離れて暮らしているから、今の今までちっとも気付かなかった。改めて、開いてしまったダニエラとの時間を感じる。

「俺さ、馬鹿だから。色々してもらっていたのに、ありがとうもごめんなさいも伝えてなかったんだ。でも反省してちゃんと言うようになってからは、以前よりも話しやすくなった……気がする」

 へへ、と照れ笑いをすると、ダニエラも嬉しそうに微笑む。

「うまくいっているようならよかったわ」

 ここで俺はハッと気付いた。ダニエラはずっと俺のことを心配していた、とダニエラの取り巻きの人たちから聞かされている。なら、今ここではっきりと俺はもう大丈夫だと伝えたらいいんじゃないか。

 だから俺は、一際大きな笑顔を浮かべる。

「うん! だから心配はいらないよ! それよりダニエラのほうはどうなんだよ。何か変わったことはあった?」

 そしてすかさず話題を変えた。あまり深くツッコまれると、俺がヨルゲンに恋していることもバレてしまうかもしれないと思ったから。

 俺だってわかっている。同性を好きになることが一般的じゃないことくらいは。

 この国は男同士の結婚も認めてはいる。主に貴族間で、家同士の繋がりを得る為に男同士を結婚させることも時折あるそうだ。そして俺もヨルゲンも嫡男じゃないから、跡継ぎを作る必要もない。そういった意味では、同性でもなんら問題はないんだ。

 だからもしヨルゲンが俺のことを嫌いじゃなくて、ちょっとでも好きだと思ってくれたら――もしかしたら、二人が結ばれる未来もあるんじゃないか。そう考えたんだ。

 でもその未来を引き寄せる為には、この先ヨルゲンともっといい関係を築いていかないといけない。

 そして、俺は不器用だ。だからひとつひとつ着実にやっていかないと、きっとどこかで失敗すると思う。そしてできたら、これだけは周りの意見じゃなくて、自分の気持ちをしっかり確認しながら絆を深めていきたい。

 ヨルゲンと一緒にいられる未来を想像しながら、俺はダニエラの話に聞き入ったのだった。

 ◇

 冬季休暇も半ばを過ぎ、課題も順調に終わりそうな目処が立ってきた日のこと。

 父様が呼んでいるとハンスに言われて、父様の書斎を訪ねた。

「父様、入るね」
「ああ、呼び立ててすまないな」

 父様が執務机から手前にあるソファーに座ったので、俺も同じように父様と向い合わせで腰掛ける。

「学校での様子はどうだ?」
「あ、うん!」

 ここでも俺は、ダニエラに伝えたのと似たような内容のことを伝える。不器用なりに少しずつできることが増えてきたこと、できていないところはありがたくヨルゲンの手を借りていること。特に勉強面では助かっていることもきちんと伝えた。

 だってこれからもヨルゲンといたいし、その為にはヨルゲンに対する父様の心象をよくしておかないとだし!

 父様は優しげな眼差しを俺に向け、小さく頷いた。

「そうか、うまくやれているのか」
「うん! ヨルゲンがいてくれるから安心して色んなことに挑戦できていると思うよ!」
「そうかそうか。――オラフはヨルゲンのことは好きか?」

 これには大きく頷く。

「勿論だよ! とっても頼りにしてるし、この先も一緒にいられたらいいなって思ってる!」

 父様は目を細めると、噛み締めるように言った。

「そうか……うん、わかった。ではもういいぞ。また夕食でな」
「? うん」

 一体何の確認だったんだろう。契約更新とかかな?

 不思議に思いながらも、とりあえずヨルゲンのことを推しているのは伝わっただろうと安心した俺は、足取りも軽やかに自室へと戻っていったのだった。
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