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5 ユージーンさん
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未だかつて、年齢の近い男性から可愛いと評されたことはない。気持ち悪いとは沢山言われたけど。
息子さんは、俺のガリガリの胸元をジロジロと眺める。
「でも男、だよな?」
「は……はい。そう、ですけど……?」
「あ、そうか! 跡取り問題が勃発する可能性を考えると、親父がそっちを選ぶのは確かに理にかなってるな」
なるほどなるほど、と何故か息子さんは納得したようにひとり頷いている。意味が分からない。そっちって何だろう。
「あの、」
何か拙い誤解が起きている予感がした。
すると案の定、息子さんの口からトンデモ発言が飛び出す。
「つまり、お前は親父の恋人だな?」
「ち、違います! なんてこと言うんですかあっ!」
驚きのあまり大声が出た。息子さんは、「え?」みたいな顔をする。「え?」じゃないよ!
あまりの内容に、さっきまでの恐怖はどこかへと霧散してしまっていた。僕とローランさんは間違ってもそんな関係じゃない!
「僕はっ、異世界人なんです!」
「へ? 異世界人ってあの異世界人?」
「そうです! ローランさんは村長さんだから監督者をしてくれてるだけでっ! だから僕はお礼代わりに家事全般を請け負ってっ!」
と、息子さんがハッとした。
「まさか……料理もお前が担当しているのか?」
「は、はい!」
「え、まじ? それってまともに食える?」
なかなか失礼な男だな。唯一自慢できる料理の腕を疑われると、日頃プライドなんてスカスカの僕だって腹が立つ。
「当然です! ローランさんはいつも僕の料理を食べると『ずっと一緒に暮らしてくれ』って言うくらいですからっ!」
「……え? マジ? あの親父がそんなデロデロ発言するの? ていうか普通にそれ告は……」
息子さんは何故かローランさんの発言の方に驚いているけど、ローランさんは僕がご飯を作ったり掃除をしたりしていると「嫁がいる生活みたいでいいなあ」とか冗談で言うような明るい人だ。
見た目が渋いイケオジがふざけた冗談を言うのが最初は意外だったけど、ふと視線を感じて振り返ると僕を見てニコニコしてたりするから、元の世界で色々あった僕が落ち込まずにいられるようにって気を配ってくれているんだと思う。
「こっちの世界は調味料の入手が困難なので味はちょっと物足りなさはありますが、それでも十分美味しいものを作れている自負はあります!」
僕は薄っぺらい胸を張って主張した。料理だけは馬鹿にされたくない。その一心だった。
「調味料……? 例えば?」
何故か興味深げに尋ねる息子さん。目がキラキラと輝いているように見えるけど、急にどうしたんだろう。
「ええと、今一番欲しいのは塩です! どうしたら岩塩を入手できるのかこれからローランさんに相談しようと思っていたところで、」
息子さんが、岩塩、と口の中で呟く。
そして、言った。
「あるよ」
「……へ?」
息子さんが手を差し出してくれたので反射的に掴むと、ぐんっと力強く引っ張り起こされる。
「岩塩、沢山持ってる。旅の途中で金が足りなくなったら売る目的で」
「ほ、本当ですかっ!?」
沢山ってどれくらい!? まさか肉を塩で包む塩釜焼きができるほど!?
「あ、あの! それって分けていただくことはできますか!?」
「えー、どうしよっかなー?」
息子さんの背は僕より頭ひとつ分は高くて、僕の両肩を掴んでいる今は大きく見上げないと目を会わすことができなかった。逆光になった息子さんの目が、にっこりと艶やかに弧を描く。
「……俺、ユージーンっていうんだ。お前、名前は?」
「えっ? あの、郁人です」
「イクト。へえ、やっぱり異世界人は変わった名前なんだな」
「そんなに変わってます?」
そういえば、僕が最初に名乗った時、ローランさんが目を大きくしていた。その時はまだローランさんに絶賛人見知り中だったので尋ねられなかったけど、どうして驚いていたんだろう。
息子さんのユージーンさんが、面白そうに笑う。
「あれ、親父の奴教えてくれなかったの? 『イクト』って古い言葉で『最愛』って意味なんだけど」
「へ……っ」
何だそれ。一度もそんなことは聞いてないぞ……!
目を大きくしている僕を見つめながら、ユージーンさんが囁いた。
「あんな無骨な堅物がこんな可愛らしいのを毎日『イクト』って呼んでりゃ、そりゃあメロメロになるかもなあ」
「はい?」
無骨な堅物? 誰のことだろう。
僕の疑問が顔に出ていたんだろう。ユージーンさんはすぐに教えてくれた。
「親父、近隣じゃあ無愛想で有名なんだぜ。そんな親父に『ずっと一緒に暮らしてくれ』って言われるくらい可愛がられてるって考えると、俄然興味が湧いてきた」
「ぶ、無愛想……?」
あのローランさんが無愛想で有名? 嘘だろう。
ユージーンさんが、いたずらっ子のように目を輝かせて僕の耳元で囁く。
「俺、しばらくここに滞在するから。よろしくな、『イクト』」
「……ッ!」
温かい息が耳に吹きかけられ、思わずバッと押さえた。ニコニコ顔のユージーンさんが、僕の頭を撫でる。
「岩塩、見てみるか?」
「見ます! 是非見せて下さい!」
飛びつくように返すと、ユージーンさんが「よーしよし! ……やば、かわ」と言いながら、僕のつむじに唇をちょんと当てた。
おやすみの挨拶の時のローランさんと同じ行動だったから、あ、やっぱり親子なんだと思った瞬間だった。
息子さんは、俺のガリガリの胸元をジロジロと眺める。
「でも男、だよな?」
「は……はい。そう、ですけど……?」
「あ、そうか! 跡取り問題が勃発する可能性を考えると、親父がそっちを選ぶのは確かに理にかなってるな」
なるほどなるほど、と何故か息子さんは納得したようにひとり頷いている。意味が分からない。そっちって何だろう。
「あの、」
何か拙い誤解が起きている予感がした。
すると案の定、息子さんの口からトンデモ発言が飛び出す。
「つまり、お前は親父の恋人だな?」
「ち、違います! なんてこと言うんですかあっ!」
驚きのあまり大声が出た。息子さんは、「え?」みたいな顔をする。「え?」じゃないよ!
あまりの内容に、さっきまでの恐怖はどこかへと霧散してしまっていた。僕とローランさんは間違ってもそんな関係じゃない!
「僕はっ、異世界人なんです!」
「へ? 異世界人ってあの異世界人?」
「そうです! ローランさんは村長さんだから監督者をしてくれてるだけでっ! だから僕はお礼代わりに家事全般を請け負ってっ!」
と、息子さんがハッとした。
「まさか……料理もお前が担当しているのか?」
「は、はい!」
「え、まじ? それってまともに食える?」
なかなか失礼な男だな。唯一自慢できる料理の腕を疑われると、日頃プライドなんてスカスカの僕だって腹が立つ。
「当然です! ローランさんはいつも僕の料理を食べると『ずっと一緒に暮らしてくれ』って言うくらいですからっ!」
「……え? マジ? あの親父がそんなデロデロ発言するの? ていうか普通にそれ告は……」
息子さんは何故かローランさんの発言の方に驚いているけど、ローランさんは僕がご飯を作ったり掃除をしたりしていると「嫁がいる生活みたいでいいなあ」とか冗談で言うような明るい人だ。
見た目が渋いイケオジがふざけた冗談を言うのが最初は意外だったけど、ふと視線を感じて振り返ると僕を見てニコニコしてたりするから、元の世界で色々あった僕が落ち込まずにいられるようにって気を配ってくれているんだと思う。
「こっちの世界は調味料の入手が困難なので味はちょっと物足りなさはありますが、それでも十分美味しいものを作れている自負はあります!」
僕は薄っぺらい胸を張って主張した。料理だけは馬鹿にされたくない。その一心だった。
「調味料……? 例えば?」
何故か興味深げに尋ねる息子さん。目がキラキラと輝いているように見えるけど、急にどうしたんだろう。
「ええと、今一番欲しいのは塩です! どうしたら岩塩を入手できるのかこれからローランさんに相談しようと思っていたところで、」
息子さんが、岩塩、と口の中で呟く。
そして、言った。
「あるよ」
「……へ?」
息子さんが手を差し出してくれたので反射的に掴むと、ぐんっと力強く引っ張り起こされる。
「岩塩、沢山持ってる。旅の途中で金が足りなくなったら売る目的で」
「ほ、本当ですかっ!?」
沢山ってどれくらい!? まさか肉を塩で包む塩釜焼きができるほど!?
「あ、あの! それって分けていただくことはできますか!?」
「えー、どうしよっかなー?」
息子さんの背は僕より頭ひとつ分は高くて、僕の両肩を掴んでいる今は大きく見上げないと目を会わすことができなかった。逆光になった息子さんの目が、にっこりと艶やかに弧を描く。
「……俺、ユージーンっていうんだ。お前、名前は?」
「えっ? あの、郁人です」
「イクト。へえ、やっぱり異世界人は変わった名前なんだな」
「そんなに変わってます?」
そういえば、僕が最初に名乗った時、ローランさんが目を大きくしていた。その時はまだローランさんに絶賛人見知り中だったので尋ねられなかったけど、どうして驚いていたんだろう。
息子さんのユージーンさんが、面白そうに笑う。
「あれ、親父の奴教えてくれなかったの? 『イクト』って古い言葉で『最愛』って意味なんだけど」
「へ……っ」
何だそれ。一度もそんなことは聞いてないぞ……!
目を大きくしている僕を見つめながら、ユージーンさんが囁いた。
「あんな無骨な堅物がこんな可愛らしいのを毎日『イクト』って呼んでりゃ、そりゃあメロメロになるかもなあ」
「はい?」
無骨な堅物? 誰のことだろう。
僕の疑問が顔に出ていたんだろう。ユージーンさんはすぐに教えてくれた。
「親父、近隣じゃあ無愛想で有名なんだぜ。そんな親父に『ずっと一緒に暮らしてくれ』って言われるくらい可愛がられてるって考えると、俄然興味が湧いてきた」
「ぶ、無愛想……?」
あのローランさんが無愛想で有名? 嘘だろう。
ユージーンさんが、いたずらっ子のように目を輝かせて僕の耳元で囁く。
「俺、しばらくここに滞在するから。よろしくな、『イクト』」
「……ッ!」
温かい息が耳に吹きかけられ、思わずバッと押さえた。ニコニコ顔のユージーンさんが、僕の頭を撫でる。
「岩塩、見てみるか?」
「見ます! 是非見せて下さい!」
飛びつくように返すと、ユージーンさんが「よーしよし! ……やば、かわ」と言いながら、僕のつむじに唇をちょんと当てた。
おやすみの挨拶の時のローランさんと同じ行動だったから、あ、やっぱり親子なんだと思った瞬間だった。
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