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13 劣等種
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懐かしい種族とはどういった意味なんだろう。
俺の疑問をよそに、女性は続ける。
「獣王様は今回、神子様の気配を辿り最果ての森まで迎えに向かわれました。速やかに神子様をお迎えする為、国境の砦に設置されている転移陣から帰還されたと聞いております。ですので狼が紛れ込む隙はございませんかと。ご安心下さいませ」
「は?」
何言ってんのこの人。思わず目を剥くと、女性が悲しそうに微笑む。
「神子様はこちらに降臨されて以来、ずっと囚われておいでだったとか。荒屋のような洞穴で、野生動物のような暮らしを強いられていたそうですね。狼族の元におられたのですか? 恐ろしい経験をされましたね、お労しい……」
「ちょっと待ってよ。別に強いられてなんか、」
俺の抗議に対し、女性は滲んできた涙を拭いつつ首を振った。
「衰退の一途を辿る狼族に囚われていたなんて、さぞや恐ろしかったことでしょう」
「おい、いい加減に」
女性はあまり人の話を聞くタイプじゃないのか、憶測だけで話をしていく。段々、恐怖よりも苛立ちの方が強くなってきた。
グイードへの文句は俺への文句と同義! グイードに敵対する奴はもれなく俺の敵と見做す! いくら能天気で単細胞な俺だって、敵か味方かくらいは分かるんだからな!
女性が憐れみを含んだ笑みを浮かべる。
「獣王様の庇護下では、最早四つ足の劣等種になりつつある狼族の危険はもうございません。ご安心下さいませ」
その言葉を聞いた瞬間、俺の中で辛うじて耐えていた堪忍袋の緒がブチッと切れた。四つ足の劣等種、とあからさまにグイードを蔑んだ言葉。
こいつらの価値観がどんなもんか、これで分かった! ろくなもんじゃねえよこいつら!
「――ふざけんな! グイードのことを何も知らない癖に!」
突然の俺の大声に、女性がビクッと反応し、慌てて頭を下げる。
「も、申し訳ございません! 私、何か失礼なことを申しましたでしょうか!」
言った。もうこれ以上ないってくらい失礼なことを言いまくった。カッチーン! ときている俺は、更に怒鳴り続ける。
温厚で平和主義な俺だって、大事なもんを馬鹿にされたら怒るんだ!
「狼を馬鹿にするなよ! 何なんだよお前ら!」
「か、神子様! どうかお怒りをお沈め下さい!」
「勝手に人を攫っておいて俺を守ってくれていた相手を馬鹿にするとか、どんだけお前らが偉いっていうんだよ! 信じらんねえ!」
「は? ……『攫う』? どういうことでしょうか?」
女性は怯えつつも、不思議そうに尋ねてきた。俺は完全に頭に血が上っていて、女性の言葉に含まれる疑問の色について気付いていなかった。
頭の中には、グイードに今すぐ会いたいってことしかない。なんで俺の隣にグイードがいないんだよ。今の状況が怖くて淋しくて、これが夢だったらいいのにって強く願っても、夢になってくれない。
「どうもこうもねえ! 俺はグイードと楽しく幸せに暮らしてたのに、突然やってきて俺を捕まえて無理やり眠らせて連れてきたのはそっちだろうが!」
助けてグイード、俺こんなの嫌だよ。ついさっきまでこんなことになるなんて考えてもなかったのに、どうしてグイードと離されなくちゃいけないんだよ。
「え」
女性のぽかんとした表情が、余計に俺の怒りに油を注いでいく。
「俺は帝都なんかに来るつもりはなかった! ずっとグイードと一緒にいるって約束したのに!」
夢中で怒鳴っている間に、勝手に涙が溢れてきた。女性は目を大きくして俺を見ながら固まっている。
「何なんだよあんたら! 俺をグイードの所に帰してくれよ……!」
嗚咽混じりに訴えても、女性は固まったまま何も答えてくれない。グイードの元に帰りたい――。俺はまだ重い身体を懸命に起こすと、ベッドから這いずり出ようとして――べしょっと落ちた。
「ぎゃんっ」
「はっ! 神子様!」
女性が慌てた様子でしゃがみ、俺を抱き起こす。背中に回された女性の腕を、思い切り振り払った。
「触んなっ! この人攫い!」
「か、神子様……っ」
俺がずるずると床を這いずっていくのを、女性はオロオロしながら見守る。
「お、お待ち下さい、神子様!」
「うるせえ!」
伸ばされた手をパンッ! と手で弾いた。それでも女性は俺から離れない。しつこい!
「神子様! まさかとは思いますが……無理やり連れてこられたのですか?」
「さっきからそう言ってんだろうが!」
泣き顔でギッと睨みつけると、女性がハッとして両手で口許を隠した。
なんだよその驚いた顔は! お前だって人攫いの仲間じゃねーか!
「なんという罰当たりな所業を……っ」
「――は?」
これ以上大きくはできないだろうってくらいに大きく目を見開いた女性が、真剣な表情に変わった。
「神子様。私のことは信用ならないかもしれませんが、ご事情をお話しいただくことは可能でしょうか」
「お……お前もどうせ、」
女性は床に突いた俺の手の上に手を重ねてきたと思うと、しっかりと握り込んできた。真っ直ぐに俺の目を見つめる。
……な、なに。こんなので騙されないぞ!
「私達獣人は、神子様のご降臨を百年もの長きに渡り待ち望んでおりました。大切な神子様の意思に反し害を為すなど、本来あってはならないことです。少なくとも私は、絶対に致しません」
「……だって」
やったじゃないか。お前たちの王様がさ。
「神子様。私は神子様の味方でございます。獣王様率いる獅子族がご無礼を働いたのなら、過去に獣王を輩出した我が猫族に訴えかけ抗議することも可能です」
猫族――この女性、やっぱり猫の獣人なのか。女性の真剣な雰囲気に呑まれて黙り込んでいると、女性は続けた。
「この世界の者に共通しているのは、神子様に健やかにお過ごしいただきたいと願っているということです。権力を集中させている獅子族は、思い上がっているのでしょう。私は目が眩んだ愚かな獅子族ではありません。どうか信じていただけませんか」
深々と頭を下げる女性。白い耳がピクピクと小さく動いている。緊張してるのかな……顔を上げない女性を見ている内に、怒りが萎々と引いていった。
我ながら単純だと思うけど、この女性の目に嘘はないように見えたんだよね。
「……絶対に裏切らないか」
俺の言葉に、女性は。
「この命にかけても」
迷いのない眼差しと声色に、俺の心は彼女を信じる方にガタンと傾いた。
俺の疑問をよそに、女性は続ける。
「獣王様は今回、神子様の気配を辿り最果ての森まで迎えに向かわれました。速やかに神子様をお迎えする為、国境の砦に設置されている転移陣から帰還されたと聞いております。ですので狼が紛れ込む隙はございませんかと。ご安心下さいませ」
「は?」
何言ってんのこの人。思わず目を剥くと、女性が悲しそうに微笑む。
「神子様はこちらに降臨されて以来、ずっと囚われておいでだったとか。荒屋のような洞穴で、野生動物のような暮らしを強いられていたそうですね。狼族の元におられたのですか? 恐ろしい経験をされましたね、お労しい……」
「ちょっと待ってよ。別に強いられてなんか、」
俺の抗議に対し、女性は滲んできた涙を拭いつつ首を振った。
「衰退の一途を辿る狼族に囚われていたなんて、さぞや恐ろしかったことでしょう」
「おい、いい加減に」
女性はあまり人の話を聞くタイプじゃないのか、憶測だけで話をしていく。段々、恐怖よりも苛立ちの方が強くなってきた。
グイードへの文句は俺への文句と同義! グイードに敵対する奴はもれなく俺の敵と見做す! いくら能天気で単細胞な俺だって、敵か味方かくらいは分かるんだからな!
女性が憐れみを含んだ笑みを浮かべる。
「獣王様の庇護下では、最早四つ足の劣等種になりつつある狼族の危険はもうございません。ご安心下さいませ」
その言葉を聞いた瞬間、俺の中で辛うじて耐えていた堪忍袋の緒がブチッと切れた。四つ足の劣等種、とあからさまにグイードを蔑んだ言葉。
こいつらの価値観がどんなもんか、これで分かった! ろくなもんじゃねえよこいつら!
「――ふざけんな! グイードのことを何も知らない癖に!」
突然の俺の大声に、女性がビクッと反応し、慌てて頭を下げる。
「も、申し訳ございません! 私、何か失礼なことを申しましたでしょうか!」
言った。もうこれ以上ないってくらい失礼なことを言いまくった。カッチーン! ときている俺は、更に怒鳴り続ける。
温厚で平和主義な俺だって、大事なもんを馬鹿にされたら怒るんだ!
「狼を馬鹿にするなよ! 何なんだよお前ら!」
「か、神子様! どうかお怒りをお沈め下さい!」
「勝手に人を攫っておいて俺を守ってくれていた相手を馬鹿にするとか、どんだけお前らが偉いっていうんだよ! 信じらんねえ!」
「は? ……『攫う』? どういうことでしょうか?」
女性は怯えつつも、不思議そうに尋ねてきた。俺は完全に頭に血が上っていて、女性の言葉に含まれる疑問の色について気付いていなかった。
頭の中には、グイードに今すぐ会いたいってことしかない。なんで俺の隣にグイードがいないんだよ。今の状況が怖くて淋しくて、これが夢だったらいいのにって強く願っても、夢になってくれない。
「どうもこうもねえ! 俺はグイードと楽しく幸せに暮らしてたのに、突然やってきて俺を捕まえて無理やり眠らせて連れてきたのはそっちだろうが!」
助けてグイード、俺こんなの嫌だよ。ついさっきまでこんなことになるなんて考えてもなかったのに、どうしてグイードと離されなくちゃいけないんだよ。
「え」
女性のぽかんとした表情が、余計に俺の怒りに油を注いでいく。
「俺は帝都なんかに来るつもりはなかった! ずっとグイードと一緒にいるって約束したのに!」
夢中で怒鳴っている間に、勝手に涙が溢れてきた。女性は目を大きくして俺を見ながら固まっている。
「何なんだよあんたら! 俺をグイードの所に帰してくれよ……!」
嗚咽混じりに訴えても、女性は固まったまま何も答えてくれない。グイードの元に帰りたい――。俺はまだ重い身体を懸命に起こすと、ベッドから這いずり出ようとして――べしょっと落ちた。
「ぎゃんっ」
「はっ! 神子様!」
女性が慌てた様子でしゃがみ、俺を抱き起こす。背中に回された女性の腕を、思い切り振り払った。
「触んなっ! この人攫い!」
「か、神子様……っ」
俺がずるずると床を這いずっていくのを、女性はオロオロしながら見守る。
「お、お待ち下さい、神子様!」
「うるせえ!」
伸ばされた手をパンッ! と手で弾いた。それでも女性は俺から離れない。しつこい!
「神子様! まさかとは思いますが……無理やり連れてこられたのですか?」
「さっきからそう言ってんだろうが!」
泣き顔でギッと睨みつけると、女性がハッとして両手で口許を隠した。
なんだよその驚いた顔は! お前だって人攫いの仲間じゃねーか!
「なんという罰当たりな所業を……っ」
「――は?」
これ以上大きくはできないだろうってくらいに大きく目を見開いた女性が、真剣な表情に変わった。
「神子様。私のことは信用ならないかもしれませんが、ご事情をお話しいただくことは可能でしょうか」
「お……お前もどうせ、」
女性は床に突いた俺の手の上に手を重ねてきたと思うと、しっかりと握り込んできた。真っ直ぐに俺の目を見つめる。
……な、なに。こんなので騙されないぞ!
「私達獣人は、神子様のご降臨を百年もの長きに渡り待ち望んでおりました。大切な神子様の意思に反し害を為すなど、本来あってはならないことです。少なくとも私は、絶対に致しません」
「……だって」
やったじゃないか。お前たちの王様がさ。
「神子様。私は神子様の味方でございます。獣王様率いる獅子族がご無礼を働いたのなら、過去に獣王を輩出した我が猫族に訴えかけ抗議することも可能です」
猫族――この女性、やっぱり猫の獣人なのか。女性の真剣な雰囲気に呑まれて黙り込んでいると、女性は続けた。
「この世界の者に共通しているのは、神子様に健やかにお過ごしいただきたいと願っているということです。権力を集中させている獅子族は、思い上がっているのでしょう。私は目が眩んだ愚かな獅子族ではありません。どうか信じていただけませんか」
深々と頭を下げる女性。白い耳がピクピクと小さく動いている。緊張してるのかな……顔を上げない女性を見ている内に、怒りが萎々と引いていった。
我ながら単純だと思うけど、この女性の目に嘘はないように見えたんだよね。
「……絶対に裏切らないか」
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