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22 セドリックの報告
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そもそも、グイードがいなかった……?
「――は? どういうこと?」
エリンが「神子様、濡れますから」と言って止めようとする。だけど俺はセドリックの言ってる意味を詳しく知りたくて、触れていた手でセドリックの腕をガシッと掴んだ。途端、じゅわ、と指の隙間から冷たい水が染み出してくる。このまま放っておくとセドリックが風邪を引いちゃうのも分かってたけど、でもどうしても早く知りたい。
セドリックが、ボソボソと報告を続ける。
「それが……神子様がおられた巣穴はすぐに見つけることができたのですが、中はその……恐らくは神子様を捕まえた際に獣王様が使用したと思われる闇魔法の影響で、天井の一部は崩れ、壁や地面も抉れていた有り様でして」
「はい?」
え、なにそれ。俺とグイードの大事な洞穴が破壊されてたってこと?
「おい……嘘、だろ……?」
温かくて幸せだった時間の殆どを過ごしたあの場所が、もうない? ネズミが侵入してきて新しい家を作ろうとはしてたけど、だからってはいさよならってできるほど軽いものじゃないよ。あそこは俺とグイードの大切な場所だよ?
憐れむような青い瞳が、俺を静かに見下ろす。
「巣穴の中を嗅いでみましたが、獣王様の匂いしか分からず……。狼らしき者の残り香は確認できませんでした。土砂にまみれてとても寛げる状態ではなかったので、恐らくあの巣穴は捨てたのかと」
「――グイードが俺を置いて家を捨てるなんてこと、ない!」
セドリックの腕を前後に揺さぶってみたけど、びくともしない。細く見えても、さすがは騎士団長だった。
「神子様……」
「ねえ、周りにはいなかった!? お家を作ってたんだ! そこに匂いはなかったのか!?」
噛み付くように質問を重ねる俺に、セドリックが首を悲しそうに横に振って答える。
「念の為周辺も探索したのですが、直近と思われる匂いも足跡も見つかりませんでした。土砂降りの影響もあり……申し訳ございません」
「え……っ、土砂降りって、それじゃ匂いが追えなかったのって俺のせい……?」
セドリックが慌てて否定してきた。
「いいえ! 決して神子様のせいではございません! 私が未熟だったせいです、不甲斐ない結果となってしまい申し訳ありません!」
「そんな……」
愕然とした。セドリックが何と言おうが、これって完全に俺のせいじゃないか。俺がグイードといたいって言ったばかりに、グイードの住処まで奪っちゃったんだ。……どうしよう。俺、なにひとつグイードの為になってない。どこにも行く場所がなかったグイードが安全に過ごせていた場所さえも、俺のせいでなくなってしまった。
住む場所がなくなったグイードは、この土砂降りの中寒さに震えながら彷徨ってるんじゃないか。なのに俺はふかふかの布団に包まれて、現実から目を逸らして――!
「ど、どうしたら……っ」
頭の中が真っ白になってしまって、何も考えられなくなった。ドッと血が下半身に落ちてきたような感覚の後、身体が底冷えしたように小刻みに震え出す。
――俺は何をやってんだよ。グイードの優しさに甘えてグイードに頼りまくって、挙げ句の果てにグイードの居場所まで奪って。謝らなくちゃ。今すぐ謝らなくちゃ駄目だ。なんて言って謝ったらいいかわからないけど、とにかくごめんって、巻き込んでごめんって言わなくちゃ。こんな感情のまま、知らんぷりしてのんびりなんて過ごせない。
「俺……」
「――神子様、お気を確かに!」
エリンが俺の肩を掴んで、セドリックからそっと引き離す。エリンの声に、はっと現実に引き戻された。エリンとセドリックが、心配そうに俺の顔を覗き込んでいる。
「神子様、お顔の色が優れません。今夜はもうお休みになられた方が」
エリンの提案に、セドリックも頷いた。
「お身体の具合がよろしくないのが分かっていながら、早くご報告をと思ってしまった私が悪うございました。神子様、詳細は体調が戻られた時にお話し致しましょう」
「でも、」
違う、休んでる場合じゃないよ。どうにかしないとって思うのに、身体も心も、芯から冷えてしまって動かなくて。
「神子様。明日、落ち着いた状態で今後の策も踏まえてお話ししましょう。よろしいですね?」
泣いている子供を諭すかのようなセドリックの言葉に、俺はただ力なく頷くことしかできなかった。
◇
セドリックの報告を受けて以降、雨足はますます強くなっていった。
この雨のせいで、グイードが濡れているかもしれない。だから何とかして止めたいのに、心がぐちゃぐちゃで感情のコントロールが利かないのがもどかしくて仕方ない。
エリンが部屋から退出しても、俺は寝ずにぐるぐる考え続けていた。今の俺は、現実から目を逸らして閉じこもっているだけだ。何とかして、とにかくグイードに俺の無事と意思を伝えたい。でもグイードは、もうどこにいるかすら分からなくなってしまった。じゃあもう打つ手はないじゃん。
だったら、このまま薄情にグイードのことを忘れて獣王城で住むことだって、神子の身分である俺なら可能だろう。だけど、俺の心が「それだけはしちゃいけない」って叫び続けていた。
ならどうしたらいい? このままエリンやセドリックに守られながら宰相に会ったりお見合いをするのを拒否し続けることだってできる。でもそれじゃ事態はなにも好転しない。かと言って、神様の言う通り、俺は単細胞であまり深く考えない間に環境に順応していっちゃうタイプだ。つまり、警戒心が長く保たない。嫌なことをされても、相手にいいところを見つけるとそっちを信じようとしてしまう。
これまで俺は、そうやって思考停止することで自分の心を守ってきた。悪意はないんだから、俺の考えすぎだって。
しつこく言われてもヘラヘラしてると、「こいつちょっと頭足りないのかな?」て顔をされて離れていってくれたし。未来のことを考えると心臓と頭がぎゅうってなって息苦しくなるから考えないようにしていただけだけど。考えたら心が潰れちゃいそうになるから、現実から目を逸らしてきたんだ。
――でもそれって、ただの逃げだよな。
確かに元の世界では、俺は何の取り柄もない天涯孤独な貧乏青年に過ぎなかった。だけど、こっちの俺は違う。神様が与えてくれた宝珠のお陰で、ちょっとやそっとじゃ死なない身体を手に入れた。しかも俺がいるところは栄養満点になって、果物はたわわに実るし魚だって入れ食い状態になる。はっきり言って、無敵状態だ。
ワイルドなスローライフが快適だったのだって、食べ物に困らなかったのが大きいと思う。つまり、俺の宝珠体質は「どこに行っても生きていける仕様になった」ってことなんじゃないのか? だから、出て行っても野垂れ死ぬ心配はきっとない。
第一、このまま惰性に任せてここにいたら、獣人たちに合わせていってしまう自分しか想像できなかった。つまり、これ以上部屋に閉じこもってちゃ駄目だ。あと、帝都に居続けても駄目。
確かに獣王は滅茶苦茶だし、宰相は会ったことはないけどかなり強引なんだとは思う。でもよく考えたら、俺を雑に扱ったり俺の意思に反して強引に何かを進めるなんてことするかな? だって、俺がいないと困るのはあっちだぞ。俺の機嫌を損ねたら天気だってこんな状態になるのが分かってるから、俺を拉致してきた後は腫れ物に触るようになって強引に接触してこないんじゃないのか?
「なんだ……俺ってば怖がりすぎてるだけかも」
考えている内に、少しずつ気分が晴れてきた。
「――は? どういうこと?」
エリンが「神子様、濡れますから」と言って止めようとする。だけど俺はセドリックの言ってる意味を詳しく知りたくて、触れていた手でセドリックの腕をガシッと掴んだ。途端、じゅわ、と指の隙間から冷たい水が染み出してくる。このまま放っておくとセドリックが風邪を引いちゃうのも分かってたけど、でもどうしても早く知りたい。
セドリックが、ボソボソと報告を続ける。
「それが……神子様がおられた巣穴はすぐに見つけることができたのですが、中はその……恐らくは神子様を捕まえた際に獣王様が使用したと思われる闇魔法の影響で、天井の一部は崩れ、壁や地面も抉れていた有り様でして」
「はい?」
え、なにそれ。俺とグイードの大事な洞穴が破壊されてたってこと?
「おい……嘘、だろ……?」
温かくて幸せだった時間の殆どを過ごしたあの場所が、もうない? ネズミが侵入してきて新しい家を作ろうとはしてたけど、だからってはいさよならってできるほど軽いものじゃないよ。あそこは俺とグイードの大切な場所だよ?
憐れむような青い瞳が、俺を静かに見下ろす。
「巣穴の中を嗅いでみましたが、獣王様の匂いしか分からず……。狼らしき者の残り香は確認できませんでした。土砂にまみれてとても寛げる状態ではなかったので、恐らくあの巣穴は捨てたのかと」
「――グイードが俺を置いて家を捨てるなんてこと、ない!」
セドリックの腕を前後に揺さぶってみたけど、びくともしない。細く見えても、さすがは騎士団長だった。
「神子様……」
「ねえ、周りにはいなかった!? お家を作ってたんだ! そこに匂いはなかったのか!?」
噛み付くように質問を重ねる俺に、セドリックが首を悲しそうに横に振って答える。
「念の為周辺も探索したのですが、直近と思われる匂いも足跡も見つかりませんでした。土砂降りの影響もあり……申し訳ございません」
「え……っ、土砂降りって、それじゃ匂いが追えなかったのって俺のせい……?」
セドリックが慌てて否定してきた。
「いいえ! 決して神子様のせいではございません! 私が未熟だったせいです、不甲斐ない結果となってしまい申し訳ありません!」
「そんな……」
愕然とした。セドリックが何と言おうが、これって完全に俺のせいじゃないか。俺がグイードといたいって言ったばかりに、グイードの住処まで奪っちゃったんだ。……どうしよう。俺、なにひとつグイードの為になってない。どこにも行く場所がなかったグイードが安全に過ごせていた場所さえも、俺のせいでなくなってしまった。
住む場所がなくなったグイードは、この土砂降りの中寒さに震えながら彷徨ってるんじゃないか。なのに俺はふかふかの布団に包まれて、現実から目を逸らして――!
「ど、どうしたら……っ」
頭の中が真っ白になってしまって、何も考えられなくなった。ドッと血が下半身に落ちてきたような感覚の後、身体が底冷えしたように小刻みに震え出す。
――俺は何をやってんだよ。グイードの優しさに甘えてグイードに頼りまくって、挙げ句の果てにグイードの居場所まで奪って。謝らなくちゃ。今すぐ謝らなくちゃ駄目だ。なんて言って謝ったらいいかわからないけど、とにかくごめんって、巻き込んでごめんって言わなくちゃ。こんな感情のまま、知らんぷりしてのんびりなんて過ごせない。
「俺……」
「――神子様、お気を確かに!」
エリンが俺の肩を掴んで、セドリックからそっと引き離す。エリンの声に、はっと現実に引き戻された。エリンとセドリックが、心配そうに俺の顔を覗き込んでいる。
「神子様、お顔の色が優れません。今夜はもうお休みになられた方が」
エリンの提案に、セドリックも頷いた。
「お身体の具合がよろしくないのが分かっていながら、早くご報告をと思ってしまった私が悪うございました。神子様、詳細は体調が戻られた時にお話し致しましょう」
「でも、」
違う、休んでる場合じゃないよ。どうにかしないとって思うのに、身体も心も、芯から冷えてしまって動かなくて。
「神子様。明日、落ち着いた状態で今後の策も踏まえてお話ししましょう。よろしいですね?」
泣いている子供を諭すかのようなセドリックの言葉に、俺はただ力なく頷くことしかできなかった。
◇
セドリックの報告を受けて以降、雨足はますます強くなっていった。
この雨のせいで、グイードが濡れているかもしれない。だから何とかして止めたいのに、心がぐちゃぐちゃで感情のコントロールが利かないのがもどかしくて仕方ない。
エリンが部屋から退出しても、俺は寝ずにぐるぐる考え続けていた。今の俺は、現実から目を逸らして閉じこもっているだけだ。何とかして、とにかくグイードに俺の無事と意思を伝えたい。でもグイードは、もうどこにいるかすら分からなくなってしまった。じゃあもう打つ手はないじゃん。
だったら、このまま薄情にグイードのことを忘れて獣王城で住むことだって、神子の身分である俺なら可能だろう。だけど、俺の心が「それだけはしちゃいけない」って叫び続けていた。
ならどうしたらいい? このままエリンやセドリックに守られながら宰相に会ったりお見合いをするのを拒否し続けることだってできる。でもそれじゃ事態はなにも好転しない。かと言って、神様の言う通り、俺は単細胞であまり深く考えない間に環境に順応していっちゃうタイプだ。つまり、警戒心が長く保たない。嫌なことをされても、相手にいいところを見つけるとそっちを信じようとしてしまう。
これまで俺は、そうやって思考停止することで自分の心を守ってきた。悪意はないんだから、俺の考えすぎだって。
しつこく言われてもヘラヘラしてると、「こいつちょっと頭足りないのかな?」て顔をされて離れていってくれたし。未来のことを考えると心臓と頭がぎゅうってなって息苦しくなるから考えないようにしていただけだけど。考えたら心が潰れちゃいそうになるから、現実から目を逸らしてきたんだ。
――でもそれって、ただの逃げだよな。
確かに元の世界では、俺は何の取り柄もない天涯孤独な貧乏青年に過ぎなかった。だけど、こっちの俺は違う。神様が与えてくれた宝珠のお陰で、ちょっとやそっとじゃ死なない身体を手に入れた。しかも俺がいるところは栄養満点になって、果物はたわわに実るし魚だって入れ食い状態になる。はっきり言って、無敵状態だ。
ワイルドなスローライフが快適だったのだって、食べ物に困らなかったのが大きいと思う。つまり、俺の宝珠体質は「どこに行っても生きていける仕様になった」ってことなんじゃないのか? だから、出て行っても野垂れ死ぬ心配はきっとない。
第一、このまま惰性に任せてここにいたら、獣人たちに合わせていってしまう自分しか想像できなかった。つまり、これ以上部屋に閉じこもってちゃ駄目だ。あと、帝都に居続けても駄目。
確かに獣王は滅茶苦茶だし、宰相は会ったことはないけどかなり強引なんだとは思う。でもよく考えたら、俺を雑に扱ったり俺の意思に反して強引に何かを進めるなんてことするかな? だって、俺がいないと困るのはあっちだぞ。俺の機嫌を損ねたら天気だってこんな状態になるのが分かってるから、俺を拉致してきた後は腫れ物に触るようになって強引に接触してこないんじゃないのか?
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