宝珠の神子は優しい狼とスローライフを送りたい

緑虫

文字の大きさ
21 / 46

21 引きこもり

しおりを挟む
 翌日も相変わらず、俺は与えられた部屋に「具合が悪いから」と言って引きこもり続けた。

 やっぱり今日も宰相の使者は訪れたけど、エリンがけんもほろろに追い払ってくれてたから助かった。

 ベッドの上でふかふかの布団に包まれていると、考えるのはグイードのことと、もやに包まれたみたいに何も見えない自分の未来のことだ。セドリックから俺が獣王城にいると聞かされたら、グイードは何を思うんだろう。前に俺を突き放そうとしたみたいに、そのまま獣王城にいろって言うのかな。それとも、俺が帰りたいって言ったらちゃんと迎え入れてくれる?

 死ぬところだった俺を神様が救ってくれたのは、勿論感謝している。助けてくれた代償として世界に直接干渉できない神様の代理人としてやらないといけないことがあるのも、理解はしたつもりだ。

 神様だって知ってる通り、俺は平和主義者。自分がどんなに蔑まれても利用されても、俺は相手を責めることはしなかった。いや、できなかったが正解かもしれない。平和主義者なんて言えば聞こえがいいけど、要は争いごとを恐れる臆病者なんだ。

 俺が歯向かわなければ、相手はいつかは飽きて去ってくれる。だけど逆らった途端、言うことを聞かせようと迫ってくる奴らがこれまで時折いた。だからわざと明るくヘラヘラして、能天気で馬鹿なふりをしたんだ。話が噛み合わなくて脅しても通じない相手って不気味だって思うかなってさ。

 現に元の世界では、何度か悔しい目には遭ったけど、それで済んでいた。

 でも、今は状況が違う。

 次の獣王の親になる予定の神子の俺。どう考えたって、俺を中心に権力争いが起きる気しかしない。そんな中、周りからああしろこうしろ、こっちが正しい、いや向こうが正しいって言われたら、自分が正常な精神状態を保てるとはとてもじゃないけど思えなかった。もう間違いなくストレスを感じまくって、愛想笑いを浮かべて気持ちに蓋をして思考停止すると思う。

 つまり、元の世界で心を殺して生きてきたあの状態に逆戻りってことだ。これってさ、長生きしてほしいっていう神様の願いとは真逆の方向に行くんじゃないの?

 グイードに出会わずに最初から帝都で保護されていたら、もしかしたら惰性でこんな変な状況も受け入れていたかもしれない。

 だけどグイードは、俺にああしろこうしろ言うことを聞けって言わなかった。そのまんまの俺を受け入れてくれた。両親と太郎を失って以降、生きるのに必死過ぎて心がすり減り、疲れ切ってた俺を。

 こっちに来た時は、太郎が迎えに来てくれたと思って心底喜んだよ。これでようやく楽になれるってさ。グイードは、そんな俺を丸ごと包み込んで癒やしてくれた存在なんだ。俺が抱きついても嫌がったりしないで、呆れ顔になりながらも好きなだけ甘えさせて寄り添ってくれた。グイードの方が余程心に深い絶望を抱えてただろうに、俺が好きだって、グイードから離れるなって言ってくれた。

 傷の舐め合いかもしれなくても、そんなグイードの傍にこの先もいてやりたいって思って何がいけないんだよ。それに――俺はもう、あるがままを受け入れてくれる存在がいることの心地よさを知ってしまったから、なかった頃には戻れない。

 でも、帝都は獣人の都だ。人化できないグイードが心に傷を負うことなく住める場所だとは、とてもじゃないけど思えない。

 神子としての分かっちゃいる責任と、恩人であり俺自身を必要としてくれているグイードを大切にしたい思い。どちらもうまいことバランスが取れる方法が、今の俺には思いつかない。だから俺は、大して知らない獣人たちよりもグイードを優先することに迷いはなくて、すぐにグイードの元に帰してって主張することができたんだと思う。

 だけどもし、このままお城から出してもらえなくて、エリンやセドリックみたいに少しずつ獣人に慣れ親しんでいってしまったら? 困っている獣人たちとグイードのどちらかを選べと言われて、今みたいに迷いなく選べなくなったら。

 それが、俺には怖くて仕方なかった。



 夜になって、草臥れた様子のセドリックが部屋を尋ねてきた。

「神子様、遅くなり申し訳ございません」

 よく見ると、黒色に金糸で細かい見事な刺繍が入った騎士服はびしょ濡れだ。あちこちに泥もべったり付着している。どうも、途中で休むことなく真っ直ぐここに向かってきてくれたらしい。

 申し訳なさとありがたさが、同時に湧き起こった。

 まだ高いとは言えなかったセドリックに対する信頼度が、今の彼の姿を見て一気に上昇する。ああそうだよ、俺は単細胞だよ。でもさ、自分の為に濡れネズミになった姿を見たら、誰だって好感度を持つと思うんだよな。あ、濡れネズミで嫌なことを思い出しちゃった。ミントチョコ以外にも鬼門はあったな……ひい……っ。

「セドリック!」

 ひとまずネズミのことは横に置いておいて、パッとセドリックの元に駆け寄る。セドリックの白い猫耳は濡れそぼれ、頬は寒さからか赤くなっている。エリンに渡されたタオルで拭きながら、セドリックが報告を始めた。

「遅れた理由なのですが」

「うん! グイードには会えた? 俺が無事だって伝えてくれた?」

 すると、セドリックが昏い表情で目を伏せる。え? ちょっと待ってよ、それってどういう意味?

「まさか……グイードと戦いになったとか!?」

 セドリックの両方の二の腕に指先を触れると、ぐしょっと重い感触がした。こんなになるまで頑張ってくれたのには感謝だけど、もしグイードに怪我なんかさせていた日には――! なんて嫌な気持ちになりながらセドリックの答えを待っていると。

「いえ……そもそも、おりませんでした」

 長いまつ毛を伏せたまま、セドリックが申し訳なさそうに答えた。
しおりを挟む
感想 32

あなたにおすすめの小説

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件

白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。 最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。 いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。

2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。

ありま氷炎
BL
高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。 異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。 二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。 しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。 再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。

召喚失敗、成れの果て【完結】

米派
BL
勇者召喚に失敗され敵地に飛ばされた少年が、多腕の人外に保護される話。 ※異種間での交友なので、会話は一切不可能です。

【完結】そして異世界の迷い子は、浄化の聖女となりまして。

和島逆
ファンタジー
七年前、私は異世界に転移した。 黒髪黒眼が忌避されるという、日本人にはなんとも生きにくいこの世界。 私の願いはただひとつ。目立たず、騒がず、ひっそり平和に暮らすこと! 薬師助手として過ごした静かな日々は、ある日突然終わりを告げてしまう。 そうして私は自分の居場所を探すため、ちょっぴり残念なイケメンと旅に出る。 目指すは平和で平凡なハッピーライフ! 連れのイケメンをしばいたり、トラブルに巻き込まれたりと忙しい毎日だけれど。 この異世界で笑って生きるため、今日も私は奮闘します。 *他サイトでの初投稿作品を改稿したものです。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

異世界で王子様な先輩に溺愛されちゃってます

野良猫のらん
BL
手違いで異世界に召喚されてしまったマコトは、元の世界に戻ることもできず異世界で就職した。 得た職は冒険者ギルドの職員だった。 金髪翠眼でチャラい先輩フェリックスに苦手意識を抱くが、元の世界でマコトを散々に扱ったブラック企業の上司とは違い、彼は優しく接してくれた。 マコトはフェリックスを先輩と呼び慕うようになり、お昼を食べるにも何をするにも一緒に行動するようになった。 夜はオススメの飲食店を紹介してもらって一緒に食べにいき、お祭りにも一緒にいき、秋になったらハイキングを……ってあれ、これデートじゃない!? しかもしかも先輩は、実は王子様で……。 以前投稿した『冒険者ギルドで働いてたら親切な先輩に恋しちゃいました』の長編バージョンです。

触手生物に溺愛されていたら、氷の騎士様(天然)の心を掴んでしまいました?

雪 いつき
BL
 仕事帰りにマンホールに落ちた森川 碧葉(もりかわ あおば)は、気付けばヌメヌメの触手生物に宙吊りにされていた。 「ちょっとそこのお兄さん! 助けて!」  通りすがりの銀髪美青年に助けを求めたことから、回らなくてもいい運命の歯車が回り始めてしまう。  異世界からきた聖女……ではなく聖者として、神聖力を目覚めさせるためにドラゴン討伐へと向かうことに。王様は胡散臭い。討伐仲間の騎士様たちはいい奴。そして触手生物には、愛されすぎて喘がされる日々。  どうしてこんなに触手生物に愛されるのか。ピィピィ鳴いて懐く触手が、ちょっと可愛い……?  更には国家的に深刻な問題まで起こってしまって……。異世界に来たなら悠々自適に過ごしたかったのに!  異色の触手と氷の(天然)騎士様に溺愛されすぎる生活が、今、始まる――― ※昔書いていたものを加筆修正して、小説家になろうサイト様にも上げているお話です。

処理中です...