宝珠の神子は優しい狼とスローライフを送りたい

緑虫

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21 引きこもり

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 翌日も相変わらず、俺は与えられた部屋に「具合が悪いから」と言って引きこもり続けた。

 やっぱり今日も宰相の使者は訪れたけど、エリンがけんもほろろに追い払ってくれてたから助かった。

 ベッドの上でふかふかの布団に包まれていると、考えるのはグイードのことと、もやに包まれたみたいに何も見えない自分の未来のことだ。セドリックから俺が獣王城にいると聞かされたら、グイードは何を思うんだろう。前に俺を突き放そうとしたみたいに、そのまま獣王城にいろって言うのかな。それとも、俺が帰りたいって言ったらちゃんと迎え入れてくれる?

 死ぬところだった俺を神様が救ってくれたのは、勿論感謝している。助けてくれた代償として世界に直接干渉できない神様の代理人としてやらないといけないことがあるのも、理解はしたつもりだ。

 神様だって知ってる通り、俺は平和主義者。自分がどんなに蔑まれても利用されても、俺は相手を責めることはしなかった。いや、できなかったが正解かもしれない。平和主義者なんて言えば聞こえがいいけど、要は争いごとを恐れる臆病者なんだ。

 俺が歯向かわなければ、相手はいつかは飽きて去ってくれる。だけど逆らった途端、言うことを聞かせようと迫ってくる奴らがこれまで時折いた。だからわざと明るくヘラヘラして、能天気で馬鹿なふりをしたんだ。話が噛み合わなくて脅しても通じない相手って不気味だって思うかなってさ。

 現に元の世界では、何度か悔しい目には遭ったけど、それで済んでいた。

 でも、今は状況が違う。

 次の獣王の親になる予定の神子の俺。どう考えたって、俺を中心に権力争いが起きる気しかしない。そんな中、周りからああしろこうしろ、こっちが正しい、いや向こうが正しいって言われたら、自分が正常な精神状態を保てるとはとてもじゃないけど思えなかった。もう間違いなくストレスを感じまくって、愛想笑いを浮かべて気持ちに蓋をして思考停止すると思う。

 つまり、元の世界で心を殺して生きてきたあの状態に逆戻りってことだ。これってさ、長生きしてほしいっていう神様の願いとは真逆の方向に行くんじゃないの?

 グイードに出会わずに最初から帝都で保護されていたら、もしかしたら惰性でこんな変な状況も受け入れていたかもしれない。

 だけどグイードは、俺にああしろこうしろ言うことを聞けって言わなかった。そのまんまの俺を受け入れてくれた。両親と太郎を失って以降、生きるのに必死過ぎて心がすり減り、疲れ切ってた俺を。

 こっちに来た時は、太郎が迎えに来てくれたと思って心底喜んだよ。これでようやく楽になれるってさ。グイードは、そんな俺を丸ごと包み込んで癒やしてくれた存在なんだ。俺が抱きついても嫌がったりしないで、呆れ顔になりながらも好きなだけ甘えさせて寄り添ってくれた。グイードの方が余程心に深い絶望を抱えてただろうに、俺が好きだって、グイードから離れるなって言ってくれた。

 傷の舐め合いかもしれなくても、そんなグイードの傍にこの先もいてやりたいって思って何がいけないんだよ。それに――俺はもう、あるがままを受け入れてくれる存在がいることの心地よさを知ってしまったから、なかった頃には戻れない。

 でも、帝都は獣人の都だ。人化できないグイードが心に傷を負うことなく住める場所だとは、とてもじゃないけど思えない。

 神子としての分かっちゃいる責任と、恩人であり俺自身を必要としてくれているグイードを大切にしたい思い。どちらもうまいことバランスが取れる方法が、今の俺には思いつかない。だから俺は、大して知らない獣人たちよりもグイードを優先することに迷いはなくて、すぐにグイードの元に帰してって主張することができたんだと思う。

 だけどもし、このままお城から出してもらえなくて、エリンやセドリックみたいに少しずつ獣人に慣れ親しんでいってしまったら? 困っている獣人たちとグイードのどちらかを選べと言われて、今みたいに迷いなく選べなくなったら。

 それが、俺には怖くて仕方なかった。



 夜になって、草臥れた様子のセドリックが部屋を尋ねてきた。

「神子様、遅くなり申し訳ございません」

 よく見ると、黒色に金糸で細かい見事な刺繍が入った騎士服はびしょ濡れだ。あちこちに泥もべったり付着している。どうも、途中で休むことなく真っ直ぐここに向かってきてくれたらしい。

 申し訳なさとありがたさが、同時に湧き起こった。

 まだ高いとは言えなかったセドリックに対する信頼度が、今の彼の姿を見て一気に上昇する。ああそうだよ、俺は単細胞だよ。でもさ、自分の為に濡れネズミになった姿を見たら、誰だって好感度を持つと思うんだよな。あ、濡れネズミで嫌なことを思い出しちゃった。ミントチョコ以外にも鬼門はあったな……ひい……っ。

「セドリック!」

 ひとまずネズミのことは横に置いておいて、パッとセドリックの元に駆け寄る。セドリックの白い猫耳は濡れそぼれ、頬は寒さからか赤くなっている。エリンに渡されたタオルで拭きながら、セドリックが報告を始めた。

「遅れた理由なのですが」

「うん! グイードには会えた? 俺が無事だって伝えてくれた?」

 すると、セドリックが昏い表情で目を伏せる。え? ちょっと待ってよ、それってどういう意味?

「まさか……グイードと戦いになったとか!?」

 セドリックの両方の二の腕に指先を触れると、ぐしょっと重い感触がした。こんなになるまで頑張ってくれたのには感謝だけど、もしグイードに怪我なんかさせていた日には――! なんて嫌な気持ちになりながらセドリックの答えを待っていると。

「いえ……そもそも、おりませんでした」

 長いまつ毛を伏せたまま、セドリックが申し訳なさそうに答えた。
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