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20 無事を伝えたい
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グイードの元に帰りたい。
俺のたったひとつの強い願いを伝えると、セドリックは悲しそうな微笑みを浮かべた。
「勿論理解致しますよ。神子様のご意思が一番尊ばれる事柄でございますからね。――できることなら私も候補者として神子様の寵愛を得たいと願うくらいには愛らしいお方なので、非常に残念ではありますが――」
「お兄様!」
セドリックの言葉を、叱責に近い口調でエリンが遮る。
「すまないエリン。欲をかいた」
怒っている様子のエリンに、セドリックは苦笑しながら頭を掻いた。俺はセドリックの言葉の意味がさっぱり分からなくて、エリンが何に対して怒ってるのかも全く分かっていない。候補者? 寵愛? 一体なんの話だ。
きょとんとしている俺に、セドリックが穏やかに微笑みかける。
「大変失礼致しました、神子様」
「はあ……?」
セドリックはすっくと立ち上がると、片手を胸に当てて恭しく敬礼した。
「神子様の願いはよく理解致しました。ひとまず私から獣王様に対し、神子様の要望を伝えたいと思います。まずいきなり最果ての森に帰りたいと言うのは少々厳しいものがありますが、すぐに誰かと番う意思がないことは伝えても問題ないかと」
セドリックの話によると、宰相はとにかく伴侶候補を俺に引き合わせ、さっさとお見合いを開始したいらしい。だけどこの悪天候が表している通り俺の具合がよろしくないってことで、待てを食らって足踏みしている状態なんだとか。「神子様が伴侶を得られたら帝国は安泰ですからね、宰相の気持ちも分からなくはないのですが」とセドリックは苦笑していた。
獣王はというと、「早く神子様をお迎えしないと」と騒ぎまくる宰相にうんざりし、今回の強行劇を決行したのではと周囲は推測してるそうだ。まさか、うるせーな、連れてくりゃいいんだろってやつ? それで俺が有無を言わさず攫われちゃったの? じゃあ本を正せば宰相のせいじゃん。こんにゃろめ。
「でもさ、あの人かなり強引だったけど、話を聞いてくれると思う?」
不安に思って尋ねると、セドリックは小さく笑いながら頷いた。
「宰相に話が伝わると少々厄介ではありますが……。獣王様は寡黙なお方ではございますが、これまで理不尽な行動を取られたことはございません。堅実に帝国を治められておられたお方ですから、神子様を保護されていた狼族と突然引き離され嘆いておられることをお話しすれば、解決案を共に模索していくことは可能かと」
なんだか難しい言い回しだけど、要はまさか俺がグイードに懐きまくってるとは思ってもみなくて連れてきたはいいけどなんか怒らせちゃってるぞ、拙いから何とかしようぜ獣王様って感じで交渉してみるってことか?
意外だったけど、獣王自体の評判はあんまり悪くないみたいだな。対俺だけは無礼千万だったけど、普段は違うってことかな。うーん、分からない。
「……俺、すぐにグイードに会って無事でいるってことを伝えたいんだけど」
「獣王様の許可なく神子様の御身をこの城とは別の場所に移すのは、大罪となります」
「じゃあ俺は帰れないってことかよ!」
バッと顔を上げてセドリックを睨みつける。セドリックは誠実そうな顔で、胸に片手を当てたまま俺の説得を試みた。
「そうは申しておりません! とにかく獣王様の許可を得なければ、と申しているのです。そしてそれはこれから私が獣王様に掛け合います」
「だって……だって!」
あ、と思った時には、勝手に涙が溢れてきていた。セドリックがギョッとした顔になり、ポケットを弄り始める。白いハンカチを慌てた様子で取り出すと、「私物で恐縮ですがこちらを!」と俺の目に当ててきた。
「だって……っ、グイード、絶対心配してる……!」
「申し訳ございません、神子様のお気持ちを考えずこちらの都合ばかり申してしまいました」
セドリックの大きな手が、俺の肩に恐る恐るといった風に触れて、慰めるように撫でる。
「俺がいないって探し回ってる! あいつはそういう奴なんだよ……!」
「神子様、ああ、どうぞ泣かないで下さい……! そ、そうだ! 私の権限があれば、各拠点の転移陣を使用して最果ての森まで行くことも可能です!」
「えっ」
泣き顔のまま横にいるセドリックの顔を見上げた。思ったよりも近くにいたセドリックが俺を凝視して、ごくんと唾を呑み込む。
「わ、私ひとりであれば、一日あれば何とか確認して戻って来られると思います! 私が狼族に直接会い、神子様のご無事を伝えて参りますから!」
「ほ、本当?」
「はい! 獣王様への謁見は戻ってからとなってしまうとは思いますが……」
「それでいいから! お願いだよセドリック、グイードに伝えて!」
ハンカチを俺の目元に当てているセドリックの手を、両手で握り締めた。
「わっ、か、神子様……っ」
頬を赤らめるセドリック。挙動不審に見えるのは、神子が手を掴んだからかな。神聖な存在っぽいもんな、俺。グイード曰く変種の猿だけど。
「俺は攫われたけど無事でいる。必ずグイードの元に帰るように頑張るから、待っててって……!」
「神子様……」
セドリックは決意したように大きく頷くと、俺の手を握り返して手の甲に唇を触れた。うおっ?
きらきらと熱を帯びた青い瞳で、俺をじっと見つめる。
「神子様、必ずや神子様の願いを叶えて参ります。それまでお気を強くお持ち下さい」
「セドリック……! ありがとう!」
やった、セドリック滅茶苦茶いい奴じゃん! これでとりあえずグイードに関する心配がひとつ減ると思ったら嬉しくなってきて、「ありがとー! 本当ありがと!」とセドリックに抱きつくと。
「えっ! わ、あ、あの――ごくんっ」
とまたもや唾を呑む音が聞こえてきた。ああ悪い悪い、神聖な俺に緊張しちゃったか。
セドリックを離してやると、動きがカクカクしてしまったセドリックは立ち上がり、「い、いってまいります!」と上擦った声で敬礼をして部屋を立ち去っていった。
そんなセドリックの後ろ姿を無言で見守っていたエリンが、ひと言。
「罪作りですねえ……」
「え? 何か言った?」
「いえ、別に」
なんで呆れたような目で俺を見てるんだろう。首を傾げると、エリンが苦笑した。
「……とにかく、うまくいけば明日の夕方にはいい報告があると思いますから」
「うん、そうだといいな」
――ちょっとは安心した筈なのに。
それでも外は、土砂降りのまま変わらなかった。
俺のたったひとつの強い願いを伝えると、セドリックは悲しそうな微笑みを浮かべた。
「勿論理解致しますよ。神子様のご意思が一番尊ばれる事柄でございますからね。――できることなら私も候補者として神子様の寵愛を得たいと願うくらいには愛らしいお方なので、非常に残念ではありますが――」
「お兄様!」
セドリックの言葉を、叱責に近い口調でエリンが遮る。
「すまないエリン。欲をかいた」
怒っている様子のエリンに、セドリックは苦笑しながら頭を掻いた。俺はセドリックの言葉の意味がさっぱり分からなくて、エリンが何に対して怒ってるのかも全く分かっていない。候補者? 寵愛? 一体なんの話だ。
きょとんとしている俺に、セドリックが穏やかに微笑みかける。
「大変失礼致しました、神子様」
「はあ……?」
セドリックはすっくと立ち上がると、片手を胸に当てて恭しく敬礼した。
「神子様の願いはよく理解致しました。ひとまず私から獣王様に対し、神子様の要望を伝えたいと思います。まずいきなり最果ての森に帰りたいと言うのは少々厳しいものがありますが、すぐに誰かと番う意思がないことは伝えても問題ないかと」
セドリックの話によると、宰相はとにかく伴侶候補を俺に引き合わせ、さっさとお見合いを開始したいらしい。だけどこの悪天候が表している通り俺の具合がよろしくないってことで、待てを食らって足踏みしている状態なんだとか。「神子様が伴侶を得られたら帝国は安泰ですからね、宰相の気持ちも分からなくはないのですが」とセドリックは苦笑していた。
獣王はというと、「早く神子様をお迎えしないと」と騒ぎまくる宰相にうんざりし、今回の強行劇を決行したのではと周囲は推測してるそうだ。まさか、うるせーな、連れてくりゃいいんだろってやつ? それで俺が有無を言わさず攫われちゃったの? じゃあ本を正せば宰相のせいじゃん。こんにゃろめ。
「でもさ、あの人かなり強引だったけど、話を聞いてくれると思う?」
不安に思って尋ねると、セドリックは小さく笑いながら頷いた。
「宰相に話が伝わると少々厄介ではありますが……。獣王様は寡黙なお方ではございますが、これまで理不尽な行動を取られたことはございません。堅実に帝国を治められておられたお方ですから、神子様を保護されていた狼族と突然引き離され嘆いておられることをお話しすれば、解決案を共に模索していくことは可能かと」
なんだか難しい言い回しだけど、要はまさか俺がグイードに懐きまくってるとは思ってもみなくて連れてきたはいいけどなんか怒らせちゃってるぞ、拙いから何とかしようぜ獣王様って感じで交渉してみるってことか?
意外だったけど、獣王自体の評判はあんまり悪くないみたいだな。対俺だけは無礼千万だったけど、普段は違うってことかな。うーん、分からない。
「……俺、すぐにグイードに会って無事でいるってことを伝えたいんだけど」
「獣王様の許可なく神子様の御身をこの城とは別の場所に移すのは、大罪となります」
「じゃあ俺は帰れないってことかよ!」
バッと顔を上げてセドリックを睨みつける。セドリックは誠実そうな顔で、胸に片手を当てたまま俺の説得を試みた。
「そうは申しておりません! とにかく獣王様の許可を得なければ、と申しているのです。そしてそれはこれから私が獣王様に掛け合います」
「だって……だって!」
あ、と思った時には、勝手に涙が溢れてきていた。セドリックがギョッとした顔になり、ポケットを弄り始める。白いハンカチを慌てた様子で取り出すと、「私物で恐縮ですがこちらを!」と俺の目に当ててきた。
「だって……っ、グイード、絶対心配してる……!」
「申し訳ございません、神子様のお気持ちを考えずこちらの都合ばかり申してしまいました」
セドリックの大きな手が、俺の肩に恐る恐るといった風に触れて、慰めるように撫でる。
「俺がいないって探し回ってる! あいつはそういう奴なんだよ……!」
「神子様、ああ、どうぞ泣かないで下さい……! そ、そうだ! 私の権限があれば、各拠点の転移陣を使用して最果ての森まで行くことも可能です!」
「えっ」
泣き顔のまま横にいるセドリックの顔を見上げた。思ったよりも近くにいたセドリックが俺を凝視して、ごくんと唾を呑み込む。
「わ、私ひとりであれば、一日あれば何とか確認して戻って来られると思います! 私が狼族に直接会い、神子様のご無事を伝えて参りますから!」
「ほ、本当?」
「はい! 獣王様への謁見は戻ってからとなってしまうとは思いますが……」
「それでいいから! お願いだよセドリック、グイードに伝えて!」
ハンカチを俺の目元に当てているセドリックの手を、両手で握り締めた。
「わっ、か、神子様……っ」
頬を赤らめるセドリック。挙動不審に見えるのは、神子が手を掴んだからかな。神聖な存在っぽいもんな、俺。グイード曰く変種の猿だけど。
「俺は攫われたけど無事でいる。必ずグイードの元に帰るように頑張るから、待っててって……!」
「神子様……」
セドリックは決意したように大きく頷くと、俺の手を握り返して手の甲に唇を触れた。うおっ?
きらきらと熱を帯びた青い瞳で、俺をじっと見つめる。
「神子様、必ずや神子様の願いを叶えて参ります。それまでお気を強くお持ち下さい」
「セドリック……! ありがとう!」
やった、セドリック滅茶苦茶いい奴じゃん! これでとりあえずグイードに関する心配がひとつ減ると思ったら嬉しくなってきて、「ありがとー! 本当ありがと!」とセドリックに抱きつくと。
「えっ! わ、あ、あの――ごくんっ」
とまたもや唾を呑む音が聞こえてきた。ああ悪い悪い、神聖な俺に緊張しちゃったか。
セドリックを離してやると、動きがカクカクしてしまったセドリックは立ち上がり、「い、いってまいります!」と上擦った声で敬礼をして部屋を立ち去っていった。
そんなセドリックの後ろ姿を無言で見守っていたエリンが、ひと言。
「罪作りですねえ……」
「え? 何か言った?」
「いえ、別に」
なんで呆れたような目で俺を見てるんだろう。首を傾げると、エリンが苦笑した。
「……とにかく、うまくいけば明日の夕方にはいい報告があると思いますから」
「うん、そうだといいな」
――ちょっとは安心した筈なのに。
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