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19 帝国騎士団団長
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その日の午後。
エリンに連れられて部屋に入ってきたのは、エリンとどことなく似た雰囲気を持つ、かなり上背のある引き締まった体型の若い男の白猫獣人だった。ぱっと見二十代くらいに見える。それにしても、エリンの家って白猫家系なんだね。三角な耳はエリンのよりもひと回り大きくてふわふわに見えて気持ちよさそう。
触ってみたいなあ、なんて思わずウズウズしてしまったのは、勘弁してほしい。だって攫われたせいで、グイードのもふもふを堪能できる機会が奪われてるんだから。
あーグイードの首に顔を埋めたい。思い切り息を吸い込んで顔をグリグリ押し付けたい。グイードの毛皮ってお日様の匂いがするんだよね。あれって正に幸せの香りだよなあ――。
白猫騎士さんが、ちょっぴり引き攣った笑みを浮かべながらお伺いを立ててきた。
「……神子様、最初に発言することをお許しいただいても?」
「あっ、わ、はいっ」
グイードのもふもふを思い出してたら、目の前の彼のことを放置していた。ていうか、そういうのあるんだ? 偉い人が声を掛けるまで喋っちゃいけない的なやつ? でもこっちの常識は知らないし。
騎士っていうからもっとガチムチな古代ローマの剣闘士風をイメージしてたけど、すらりとした爽やかイケメンさんだった。太い剣をぶんぶん振り回すんじゃなくてフェンシングをひゅんひゅんやってそうな感じって言ったらいいかもしれない。エリンと同じく真っ白なサラサラヘアは耳にかかる程度の長さで、青い瞳も一緒。一気に親近感が湧いてくる。
「宰相より先にお会いすることができるとは思ってもおりませんでした。お会いできて光栄です、神子様」
ベッドにクッションを積んでもたれている俺に対し、白猫騎士さんはベッド脇に膝を突いて恭しくお辞儀をしている。だらしなくてごめんね。エリンがベッドから出るなって言うからさ。それにしても所作のひとつひとつがピシッとしていて、うわあリアル騎士だ! なんてちょぴっとだけ興奮してしまった。
あくまで礼儀正しい白猫騎士さんが、少し興奮気味に頬を赤らめながら自己紹介を始める。
「改めまして、私はエリンの兄で帝国騎士団団長を務めておりますセドリックと申します。以後お見知りおきを」
「えっ、騎士団長? よ、よろしくお願いしますっ」
騎士団長ってその団体で一番偉い人だよね? おっと、エリンが侍女だから何となく騎士団員その一程度に考えていたけど、物凄く偉い人だった。布団に入ったままで本当に怒られない? 俺大丈夫?
「はは……っ、まだまだ若輩者でお恥ずかしい限りですが」
謙遜してるけど、自信はあるんだろう。俺を真っ直ぐに見上げる瞳に揺らぎはない。猫獣人の身分が高そうってこともあると思うけど、腕にも覚えがあるんだろうな、きっと。
「ええと、セドリックさん。よろしくお願いします。俺は陽太っていいます」
ぺこりと頭を下げると、途端にセドリックさんが慌て出してしまった。
「な、なんと恐れ多い!」
俺を真似たのか、膝を突いた状態で深々と頭を下げてしまう。
「あ、あの?」
するとエリンが助け舟を出してくれた。エリンは一日だけセドリックさんより対俺は先輩だから、俺の癖とかもちょっぴり把握している。
「神子様、頭を下げるというのは、貴方に首を差し出しますという意味があるのです。なので神子様が頭を下げられますと、特に騎士は恐れ多くて躊躇うかと」
「へ、あ、そうだったの? そりゃ驚いたよね、ごめんなさいセドリックさん。つい癖で」
とは言っても、日本人とお辞儀は切っても切れない縁があるからなあ。うーん、難しい。ていうか面倒くさい。早くグイードの元に戻ってこんな面倒なことから逃れたいよ。
頭を下げたままのセドリックさんが、焦った声を出す。
「私如きに敬称は不要でございます! 何卒呼び捨て下さい!」
「え……」
どう見たって年上っぽいお兄さんに、しかも騎士団長とかいう偉そうな人を呼び捨てってかなりハードルが高いんだけど。エリンは最初敵だと思っていた流れで俺がツンケンしちゃったから、初っ端からタメ口だし呼び捨てにしちゃってたけど、セドリックさんは違う。
だけど、セドリックさんの後ろに立っているエリンが何度もこくこくと頷いているぞ。これはそうしないとこの場が収まらないよってことか。もう、仕方ないなあ。
「わ、分かった。ええと、セドリック。顔を上げて」
「はい、神子様」
ようやく顔を上げてくれたセドリックさん――じゃないやセドリックに、改めて俺の口から今回のあらましを説明することにした。
「じゃあ、早速なんだけど、俺の話を聞いてほしい」
「勿論でございます」
青い目を俺にまっすぐに向けているセドリックに、俺は洗いざらい語った。粗方エリンからは聞いてた筈だけど、それでも俺が事細かに話すと、段々とセドリックの顔色が悪くなっていく。まあ、自国の王様が人攫いをしたなんて聞かされて、いい気分はしないよね。
話を聞き終えたセドリックが、ふう、と息を吐いた。
「そうですか……。まさかあの獣王様がそのような強行に出られているとは存じ上げず、大変申し訳ないことを致しました。騎士団を代表して謝罪申し上げます」
セドリックがまた深々と頭を下げたけど、俺はさすがにこれに関しては「気にしないでいいよ」とは言えなかった。だって拉致られたのは事実だし。今すぐ帰してほしいのも事実だし。
ゆっくりと顔を上げたセドリックが、ぽつりと呟くように言う。
「……狼族の元へ戻られたい。それが神子様の願いなのですね」
「そうなんだよ、セドリックは分かってくれる?」
セドリックは俺の言葉に、何だか寂しそうな笑みを浮かべながら頷いた。
エリンに連れられて部屋に入ってきたのは、エリンとどことなく似た雰囲気を持つ、かなり上背のある引き締まった体型の若い男の白猫獣人だった。ぱっと見二十代くらいに見える。それにしても、エリンの家って白猫家系なんだね。三角な耳はエリンのよりもひと回り大きくてふわふわに見えて気持ちよさそう。
触ってみたいなあ、なんて思わずウズウズしてしまったのは、勘弁してほしい。だって攫われたせいで、グイードのもふもふを堪能できる機会が奪われてるんだから。
あーグイードの首に顔を埋めたい。思い切り息を吸い込んで顔をグリグリ押し付けたい。グイードの毛皮ってお日様の匂いがするんだよね。あれって正に幸せの香りだよなあ――。
白猫騎士さんが、ちょっぴり引き攣った笑みを浮かべながらお伺いを立ててきた。
「……神子様、最初に発言することをお許しいただいても?」
「あっ、わ、はいっ」
グイードのもふもふを思い出してたら、目の前の彼のことを放置していた。ていうか、そういうのあるんだ? 偉い人が声を掛けるまで喋っちゃいけない的なやつ? でもこっちの常識は知らないし。
騎士っていうからもっとガチムチな古代ローマの剣闘士風をイメージしてたけど、すらりとした爽やかイケメンさんだった。太い剣をぶんぶん振り回すんじゃなくてフェンシングをひゅんひゅんやってそうな感じって言ったらいいかもしれない。エリンと同じく真っ白なサラサラヘアは耳にかかる程度の長さで、青い瞳も一緒。一気に親近感が湧いてくる。
「宰相より先にお会いすることができるとは思ってもおりませんでした。お会いできて光栄です、神子様」
ベッドにクッションを積んでもたれている俺に対し、白猫騎士さんはベッド脇に膝を突いて恭しくお辞儀をしている。だらしなくてごめんね。エリンがベッドから出るなって言うからさ。それにしても所作のひとつひとつがピシッとしていて、うわあリアル騎士だ! なんてちょぴっとだけ興奮してしまった。
あくまで礼儀正しい白猫騎士さんが、少し興奮気味に頬を赤らめながら自己紹介を始める。
「改めまして、私はエリンの兄で帝国騎士団団長を務めておりますセドリックと申します。以後お見知りおきを」
「えっ、騎士団長? よ、よろしくお願いしますっ」
騎士団長ってその団体で一番偉い人だよね? おっと、エリンが侍女だから何となく騎士団員その一程度に考えていたけど、物凄く偉い人だった。布団に入ったままで本当に怒られない? 俺大丈夫?
「はは……っ、まだまだ若輩者でお恥ずかしい限りですが」
謙遜してるけど、自信はあるんだろう。俺を真っ直ぐに見上げる瞳に揺らぎはない。猫獣人の身分が高そうってこともあると思うけど、腕にも覚えがあるんだろうな、きっと。
「ええと、セドリックさん。よろしくお願いします。俺は陽太っていいます」
ぺこりと頭を下げると、途端にセドリックさんが慌て出してしまった。
「な、なんと恐れ多い!」
俺を真似たのか、膝を突いた状態で深々と頭を下げてしまう。
「あ、あの?」
するとエリンが助け舟を出してくれた。エリンは一日だけセドリックさんより対俺は先輩だから、俺の癖とかもちょっぴり把握している。
「神子様、頭を下げるというのは、貴方に首を差し出しますという意味があるのです。なので神子様が頭を下げられますと、特に騎士は恐れ多くて躊躇うかと」
「へ、あ、そうだったの? そりゃ驚いたよね、ごめんなさいセドリックさん。つい癖で」
とは言っても、日本人とお辞儀は切っても切れない縁があるからなあ。うーん、難しい。ていうか面倒くさい。早くグイードの元に戻ってこんな面倒なことから逃れたいよ。
頭を下げたままのセドリックさんが、焦った声を出す。
「私如きに敬称は不要でございます! 何卒呼び捨て下さい!」
「え……」
どう見たって年上っぽいお兄さんに、しかも騎士団長とかいう偉そうな人を呼び捨てってかなりハードルが高いんだけど。エリンは最初敵だと思っていた流れで俺がツンケンしちゃったから、初っ端からタメ口だし呼び捨てにしちゃってたけど、セドリックさんは違う。
だけど、セドリックさんの後ろに立っているエリンが何度もこくこくと頷いているぞ。これはそうしないとこの場が収まらないよってことか。もう、仕方ないなあ。
「わ、分かった。ええと、セドリック。顔を上げて」
「はい、神子様」
ようやく顔を上げてくれたセドリックさん――じゃないやセドリックに、改めて俺の口から今回のあらましを説明することにした。
「じゃあ、早速なんだけど、俺の話を聞いてほしい」
「勿論でございます」
青い目を俺にまっすぐに向けているセドリックに、俺は洗いざらい語った。粗方エリンからは聞いてた筈だけど、それでも俺が事細かに話すと、段々とセドリックの顔色が悪くなっていく。まあ、自国の王様が人攫いをしたなんて聞かされて、いい気分はしないよね。
話を聞き終えたセドリックが、ふう、と息を吐いた。
「そうですか……。まさかあの獣王様がそのような強行に出られているとは存じ上げず、大変申し訳ないことを致しました。騎士団を代表して謝罪申し上げます」
セドリックがまた深々と頭を下げたけど、俺はさすがにこれに関しては「気にしないでいいよ」とは言えなかった。だって拉致られたのは事実だし。今すぐ帰してほしいのも事実だし。
ゆっくりと顔を上げたセドリックが、ぽつりと呟くように言う。
「……狼族の元へ戻られたい。それが神子様の願いなのですね」
「そうなんだよ、セドリックは分かってくれる?」
セドリックは俺の言葉に、何だか寂しそうな笑みを浮かべながら頷いた。
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