宝珠の神子は優しい狼とスローライフを送りたい

緑虫

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27 何もかもが気が重い

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 俺に思う存分もふもふされたセドリックは、何故か段々と全身が火照り、しまいには息も絶え絶えに悶え始め、最後には「も、もうご勘弁を……!」と潤んだ瞳で懇願し、前屈みになったまま部屋を出て行ってしまった。

 ちなみに、もふもふしている間に雷雨は去っていった。もふもふ効果は絶大だ。

「……セドリックってばどうしたのかな?」
「……くれぐれも、他の者には容易く触らないようにして下さいね。危険ですから」
「えっ、危険なの? わ、分かった……っ」

 獣の本能が刺激されて攻撃してくるとか……? うわ、そういうのは早く言ってよ。

「あーでも、久々にもふもふできて幸せ」

 手に残る感触を味わうように頬に当てると、エリンが深い溜息を吐いた。

「グイードさんとは、いつもこんなことを?」
「え? うん! グイードの毛って本当気持ちよくてさ! 基本くっついてたかな!」
「……彼の理性が鋼でよかったです」
「え? どういうこと?」
「いえ、淑女の口からはとても……」

 すすす、とエリンが離れて行ってしまった。ちょっと、どういうこと? 説明してってば!

 だけど俺がいくらねだるように見ても、エリンは「兄に聞いてみて下さい」としか言ってくれなかった。ならセドリックに聞こうと思ったけど、彼は責任を感じたのか、部下の人たちと再び最果ての森周辺の探索の為、数日不在することになってしまった。風邪引いてなかった? 無理をしてたらどうしよう。

 不安そうにしていたら、勘違いしたらしいエリンが教えてくれた。

「候補者との顔合わせまでには戻ってきますから」
「あ、うん」

 でも確かに、ひとり対候補者ズラリプラスあの宰相が揃ったら、きっと固まって思考停止するのは間違いない。思ったより喧嘩っ早くてびっくりしたけど、セドリックが護衛として付き添ってくれるなら安心だ。

 で、グイード探しの旅に待ったを掛けられてから、早五日。気を抜くと天気が悪くなっていくので、俺の為にグイードを探してくれているセドリック率いる騎士団の人たちの為、グイードとのめくるめくもふもふタイムをひたすら思い返して必死に天気が悪くならないように頑張った。油断すると大雨が降るんだよ。……寂しいよ。心配だよ、グイード。今どこにいるの。

 そんな中、宰相からの使いがやってきて、明日の夕方から神子降臨祝賀会が開かれるのでご参加下さいって言ってきた。名目がどうであれ、これが例の候補者たちとの顔合わせであることに間違いはない。

「俺、ちゃんと話せる自信ないよ……」

 両親と太郎が健在の時は普通の男子高校生をしてたけど、残念ながら俺が通っていたのは男子校。中高一貫でひたすら男子の世界にどっぷりと浸かっていたから、女子と話したことなんて殆どなかった。高校卒業後はバイト三昧で、給料が少しでもいい深夜シフト中心だったから、ここでも周りは男だらけだった。

 つまり、一般女子と何を話したらいいかなんて分からないんだよ。しかも相手はみんないいところのお嬢様っぽいだろ。もう考えただけで憂鬱になった。

 あ、ちなみに同じ女子でも、エリンは別だ。こんなことを言ったらガチギレされそうだから絶対言わないけど、お母さん味を感じるからか、こっちも自然体でいられるんだよね。だってさ、お兄さんのセドリックより偉そうだし、しっかり者だし。

 エリンが慰めるように微笑む。

「話したくなければ話さなくていいんですよ。ヨウタ様は神子様なのですから」
「本当? また宰相に怒られないかな? 俺怒鳴られるの嫌いなんだよね」
「分かります、怒鳴られたら噛み殺してやりたくなりますよね」

 にっこり笑うエリン。うん、ならない。獣人と俺とでは、備わっている闘争本能に差があるのかもな。

 尚、これまでエリンにもセドリックにも名前を呼ばれなくて、神子様ってなんか役職名みたいで微妙だなーと思ってた。そこで「名前で呼んでよ」と提案したところ、エリンとセドリックが突然膝を突いて感動に打ち震え始めてビックリした。なんでも、目上の相手には勝手に名前呼びしちゃいけないルールらしい。相手から呼んでもいいよと言われるのは、貴方を信用してますよって意味なんだとか。いや、そんなん知らんし。

 ということで、兄妹揃って瞳を潤ませながら「ヨウタ様への忠誠を誓います……!」て頭を下げられた。……神子は優遇もされるけど、色々疲れる。俺はもっと普通がいいな。

 エリンとセドリックがいい人たちなのはよく分かったけど、どうしたって窮屈に感じて「早くグイードのところに帰りたい」って思ってしまう。自分でもこんなにグイードばかり恋しくなるのって依存しすぎじゃないかとも思うけど、でもだって……俺、グイードの隣がどうしてもいいんだ。理屈じゃないんだよ、この気持ちは。

 俺的には、これは最早インプリンティングだと思ってる。卵から孵った雛鳥が最初に見た奴を親だと思うあれね。神様に文字通りこの世界に落とされて、倒れていた俺を拾って保護してくれたグイード。目が覚めた時の温かさと絶大な安心感、それにその後繰り広げられた充実したワイルドなスローライフは、常にグイードの優しい眼差しと共にあった。

 もう俺、この世界でグイードなしには生きていけないんだよ。グイードが隣にいないと不安になっちゃうんだよ。

 勿論誰かと子供を作らないといけないのは分かってる。そうじゃないと獣人が衰退してっちゃうんでしょ? 分かるけど、それって必ずしも結婚が伴わないといけないものなのかな。いや俺だってやり捨てみたいなことはしたくないよ? でも俺は、結婚するなら愛のある結婚しかしたくないんだ。

 だけど、厳選された特権意識バリバリの女子ってワイルドなスローライフは受け付けてくれそうにないんだよな……だって、あのエリンですら最初は狼族のことを散々貶してたじゃないか。結婚後にも俺がグイードと過ごしたいと言ったら、反対するとしか思えない。

 つまりさ、帝都にいる奴らはどいつも似たり寄ったりな考えなんじゃないの、という疑いが俺の中にあった。俺の大切なグイードを貶す女子を好きになれるかって言われたら、これまでちゃんとした恋愛経験なんて皆無な俺だけど、なれる訳ないと思ったんだ。

 好きになれない相手との結婚イコール帝都での窮屈な生活イコールグイードとの悲しい別れの式しか思い浮かばない。俺が嫌だと思ってるフルコースじゃないか。

「はあ……」

 何もかも気が重い。ねえ神様、これが神様の望んだこと? 俺さ、今ちっとも幸せじゃないんだけど。それとも、俺の意思なんて関係なく、さっさと番って子供を作れっていうのが神様の本意なのかな。単細胞の俺を選んだのって、深く理由を考えなさそうだったから? じゃあ最後に俺を落とす時に「幸あれ」って言ったのはなんだったの? 俺に幸せになれって意味じゃなかったのかよ。

 それに。

「だったら何で最果ての森になんか落としたんだよ……」

 グイードに拾われさえしなければ、何も疑わずに流されてただろうに。

 神様の考えてることなんて、俺みたいな矮小な存在には分かりっこないのかもしれない。だけどどうしてもそこが引っかかって――俺は今日も悶々とするしかなかった。
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