宝珠の神子は優しい狼とスローライフを送りたい

緑虫

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28 朗報

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 翌日の昼前に、セドリック率いるグイード探索隊がお城に戻ってきた。

 顔合わせに間に合ってくれて、知らず緊張していた身体の力が抜ける。

「今回は鼻が利く者を中心に隊を編成したのですが……」

 セドリックの報告によると、やはり俺とグイードが住んでいた周辺にグイードがいる気配はなかったんだそうだ。ガックリと落ち込む俺に、セドリックが慌てて続ける。

「ですが、朗報もございます」
「朗報?」
「はい。最果ての森の出口付近に、狼のものと思われる足跡を見つけました」
「えっ! 本当!?」

 嬉しくなって、腰掛けていたベッドからピョンと立ち上がった。

「それってグイードのもの? 最果ての森って広いんだろ? 他の狼の可能性とかってないの?」

 セドリックの両腕を掴んで見上げると、セドリックが何故か眩しそうに俺を見つめる。

「恐らくはヨウタ様がお探しのグイードという者の足跡に間違いはないかと。巣穴に微かに残る狼族の匂いと一致しておりましたので。――何日か前のもののようですが、晴れ間が続いていた為辛うじて嗅ぎ分けられたのでしょう」
「じゃあグイード、ちゃんと無事だったんだ! よかったあ……!」

 探し方が俺が想像していたのとは大分違ってたけど、この際それはどうでもいい。それだけの距離を移動できたってことは、ひとまずグイードは元気って証拠じゃないか?

 セドリックが、微笑みながら続ける。

「足跡と匂いがどこに向かっているのかですが、これから探索しようとしたところ、神子様の降臨祝賀会開催の知らせを受けまして戻って参りました。部下で残れる者は引き続き探索を続けるよう指示しておりますので、ご安心下さいませ」
「なんかごめんな……頼れるのがセドリックとエリンしかいなくて」
「もっ、勿体なきお言葉ですっ」

 俺が自分でしゃんとして立ち振る舞うことができるような奴だったら、こんなにおんぶに抱っこな状態にならなくてセドリックにも負担をかけてなかったのかもしれない。申し訳なく思いながら笑いかけると、セドリックの顔がブワッと真っ赤になって、唇を噛み締めて俯いてしまった。あれ、やっぱり具合がまだよくないんじゃないか。

「セドリック、顔色がおかしいぞ。熱でもあるんじゃ」

 額に手を触れてみる。特に激アツって訳でもないな。セドリックは瞼を瞑り、俺の手に向かって額をグイグイ押し付けてきている。なんか既視感あるなあと思ったら、よくグイードがやっていた動作と同じじゃないか。でもグイードのあれは「もっと撫でろ」って意味だったと思うけど、これってどういう意味だろう?

「……セドリック? どうしたんだよ」
「はっ! し、失礼致しましたっ!」

 瞼を開くと、セドリックは慌てた様子で一歩下がって俺から距離を置く。その場で跪くと、宙ぶらりんな状態になってしまった俺の両手を取った。

「ヨウタ様が祝賀会のご参加を望んでおられないのは承知しておりますが……」
「ああ、まあねえ……」

 面倒臭いのと未知への恐怖が半々なのが現在の心境だ。プラスの感情が全くないのは間違いない。

 俺の目は間違いなく死んだ魚の目みたいになってるだろうけど、セドリックは対照的なキラキラした目で俺を見つめ続ける。

「ですが私は、ヨウタ様の美しいお姿を拝見できることを心待ちにしております」

 平凡な顔というこれ以上ないくらい率直なお墨付きを神様からもらっている俺のどこに美しい要素があるんだろう。セドリックの目には神子フィルターでもかかってるのかもしれない。とりあえず俺は着飾ったところで間違いなく美しくはならない自信があった。それよりも問題は――。

「俺ってやっぱり着飾るの?」
「当然です。ヨウタ様が主役でございますからね」

 やけに嬉しそうなセドリックの笑顔が憎たらしい。

「ええー……」

 今着ている服は、裾の短い浴衣みたいなのを何枚も重ねた上着と、下はウエストを紐で縛るタイプのワイドパンツだ。エリン曰く、過去の神子が好んで着ていたものなんだそうだ。……過去の神子も、もしかして日本人だったりして? 押しにも同調圧力にも弱いところとか、確かに神子って日本人の気質に向いてるかもね。てまんま俺のことじゃん。おい勘弁してくれ。

「ヨウタ様が身なりを整えられましたら、会場の注目を浴びること間違いなしです。そんなヨウタ様の隣でお守りすることを許され、この上ない幸せ……!」

 俺は注目されたくないんだけどな。

 それまでバタバタと忙しそうにしていたエリンが、俺たちに声をかける。

「さあさあ、ヨウタ様はこれから支度のお時間ですよ! お兄様も支度をされないとでしょう、ほら出て下さい!」

 エリンは遠慮なくセドリックの背中を押した。この兄妹のパワーバランスは、もうよく分かった。エリン一強。

 セドリックが抵抗をみせる。

「わ、エリン待て! 久々のヨウタ様なんだぞっ!」

 エリンが呆れ顔でセドリックを軽く睨んだ。

「後でたっぷり華やかなヨウタ様を愛でられますから、お楽しみに」
「! 分かった!」

 ちょっと待て。なんかこの兄妹の会話はおかしくないか。なんでセドリックは俺を愛でられるって言われた瞬間、可愛い子猫でも見つけたかのような目を俺に向けるんだ。お前の神子フィルター、ヤバめだぞ!

 すっと立ち上がったセドリックが、恭しく敬礼をする。

「それでは神子様、後ほどお部屋までお迎えに参ります。宰相の使いが来ても無視されて結構ですから」
「セドリック、マジで頼むからな!」
「はい、必ずや神子様をお守り申し上げます」

 セドリックは颯爽と部屋を出て行った。その背中を眺めながら、俺は内心「大丈夫かなあ……」とやや不安に思っていたのだった。
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