孤独な王子は部族の青年の献身で愛を知る

緑虫

文字の大きさ
13 / 45

13 キーニの献身

 キーニはそれからも、ディーウィットの面倒を甲斐甲斐しく見続けてくれた。

 キーニは「身体を治すまでディトの事情は聞かない。まずは治せ」と改めて宣言してきた。その為、ディーウィットはモヤモヤしながらも、体調を戻すことに専念せざるを得なくなる。

 恐らくはキーニもその効果を狙って言ったのだろう。快活で聡明な男なのだろうな、というのがキーニに対する印象だ。

 ディーウィットの身体は、自分で思う以上に弱っていた。上半身だけでも起こして自分で水分や食料を摂取しようとは思うものの、身体が一切言うことを聞かなかったのだ。結局はキーニに「いいから俺に任せろ」と何もかも口移しされる毎日を過ごしてしまう。

 最初こそ抵抗があったものの、次第に慣れてきている自分が不思議でならなかった。キーニはこんな貧相な大人の男に四六時中口移しをして嫌ではないのかと尋ねてみたかった。だが実際口移ししてもらわねば水を飲むことすら叶わない今、「嫌に決まってる」などという言葉を聞くのが怖く、聞けていない。

 しかし、できることなら早く自力で食べてほしいと思うのが普通だろう。そこで一度、硬さが残るものを食べてみた。ところが咀嚼する力がまだ弱く、そのまま喉に入り吐き戻してしまった。

 以降、キーニがその頑丈な顎で咀嚼し柔くなった物のみを与えられるようになってしまっている。

 正直なところ、恥ずかしくて仕方ない。だが、こうした献身的且つ幼子に対するような優しさを向けられたことがなかったからか、大事に扱われているのはこそばゆく、悪いものではないと思ってしまっている自分がいた。

「偉いぞ、沢山食べられたな」

 ディーウィットが全て飲み込むと、キーニは必ず褒めながら頭を撫でてくれる。成人した大人の男が頭を撫でられて嬉しがるなど、気持ち悪いだろう。ディーウィットは必死で嬉しさが表に出ないよう抑えた。

 このように、食事は恥ずかしくはあるものの、心が温まるものだった。だがそれ以外では、ディーウィットは己の尊厳とは何かを考える出来事に遭遇していた。

 身体を清められるのは、キーニの手のひらと湯を使ってとなる。あらぬところまで素手で触れられるのだ。あまりの恥ずかしさに、清められている最中、終始両手で顔を覆って耐えることしかできなかった。

 だがそれよりも一番の抵抗と衝撃は、排泄行為だった。

 内臓が弱りすぎているのか、便意がなかったのは幸いだった。だがこれだけ水分を取らされていれば、尿意も出てくる。ディーウィットが意識を失っている時は、赤子にするようなおしめの布を巻いていたそうだ。だが、意識が戻れば己で訴えることができるようになる。その為、おしめは早々に取られてしまい、股間を隠す程度の細長い布を巻きつけただけのものに取り替えられてしまった。

 キーニの説明によれば、これは部族の男性が履く下着なのだそうだ。尻の間に布が食い込み、心許なさが募る。祖国での男性用下着は腿丈のズボンの形をしていた為、大事な部分以外が剥き出しの状態はどうしても恥ずかしかった。

 だがもう仕方ない。尿意に我慢できなくなり渋々告げると器を横に置かれ、あろうことか男の大事な部分をキーニの手により下着から出され、そのまま持たれる。「出していいぞ」と言われ、見守られながら排尿するのだ。あまりに倒錯的な図に、ディーウィットの情緒はどうにかなってしまいそうだった。

 こうした献身的な看病のお陰で、数日で上体を起こせるまでに回復していく。これでようやく口移しから卒業できると喜んだが、キーニは口移しこそやめたものの、手ずから飲食させることはやめてくれなかった。

 身体を起こしているだけで、すぐに疲れて寝てしまう。一進一退の日々を繰り返している内に、それでも少しずつ起きていられる時間が増えてきた。

 食事の量も徐々に増えてきたが、今度は排便がなく下腹部がぽっこりと膨れてしまった。すると空腹感が徐々に薄れ、一度は増えていた食事量が落ちてくる。

 現状に不服なキーニが、腕組みをして難しそうな顔で唸った。

「なんとかして出すのを促さねばならない」

 己の排便について大いに悩ませている事実にディーウィットは非常に複雑な心境だったが、恥ずかしがっている場合ではない。

「その、腹下しのようなものがあれば」

 鮮やかな青い布に覆われたディーウィットの薄っぺらな腹部を、キーニが円を描くように撫でる。

「折角ここまで回復したんだ。腹下しの薬など飲んだら体力を消耗する。絶対駄目だ」

 あまりに脂肪が少ないディーウィットは、温かい気候にも関わらずすぐに冷えてしまう。その為、今は女性用だという上半身から下半身まで覆い隠す大きな一枚の布を身体に巻き付けている。冷え込む夜の添い寝は変わらずで、毎晩キーニの体温を感じていた。

 このままこの部族の男の好意を受け続けたら、自分はどうなってしまうのか。キーニに対し甘えのような感情を抱きつつある自分の心境の変化を、ディーウィットは危惧していた。



 それから暫しの後、「待っていてくれ」と小屋の外に出ていたキーニが、木彫りの器を手にして戻ってきた。

 ディーウィットが身体を起こすと、キーニがニカッと歯を見せて笑いかけてくる。

「便秘の子がいる母親に教わった方法を試すぞ」
「どんな方法ですか?」
「肛門に指を突っ込み刺激する。すると内臓が動き始めると聞いた」
「は……」

 キーニが口にした衝撃の内容に、ディーウィットの思考が停止した。

「四つん這いになれるか?」

 キーニに訊かれても、あまりの内容に頭の中が真っ白になってしまい、反応することができなかった。するとその様子を見て、動けないと勘違いしたのだろう。キーニは安心させるような笑みを浮かべるとディーウィットのこめかみを撫で、言った。

「分かった。では俺の胡座に乗せてやってみよう。心配することは何もないぞ」

 キーニの言葉を脳が理解した瞬間、ディーウィットは悲鳴に近い声を上げる。

「ま、待って下さいキーニ! そんなことをキーニにさせる訳には……っ」

 後ろに這い擦っていこうとしたディーウィットの脇の下を掴むと、キーニはあっさりと抱き上げ膝の上に乗せてしまった。

「下着は取ろう。すぐに出ることはないようだが、暫くすると腹の中がグルグル言い始めるらしい」
「ま、待って……っ」

 精一杯の抵抗も虚しく、キーニは巻きついた服を捲し上げると、下着もするすると解いてしまったのだった。
感想 5

あなたにおすすめの小説

【完結】一生に一度だけでいいから、好きなひとに抱かれてみたい。

村松砂音(抹茶砂糖)
BL
第13回BL大賞で奨励賞をいただきました! ありがとうございました!! いつも不機嫌そうな美形の騎士×特異体質の不憫な騎士見習い <あらすじ> 魔力欠乏体質者との性行為は、死ぬほど気持ちがいい。そんな噂が流れている「魔力欠乏体質」であるリュカは、父の命令で第二王子を誘惑するために見習い騎士として騎士団に入る。 見習い騎士には、側仕えとして先輩騎士と宿舎で同室となり、身の回りの世話をするという規則があり、リュカは隊長を務めるアレックスの側仕えとなった。 いつも不機嫌そうな態度とちぐはぐなアレックスのやさしさに触れていくにつれて、アレックスに惹かれていくリュカ。 ある日、リュカの前に第二王子のウィルフリッドが現れ、衝撃の事実を告げてきて……。 親のいいなりで生きてきた不憫な青年が、恋をして、しあわせをもらう物語。 ※性描写が多めの作品になっていますのでご注意ください。 └性描写が含まれる話のサブタイトルには※をつけています。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」さまで作成しました。

政略結婚のはずが恋して拗れて離縁を申し出る話

BL
聞いたことのない侯爵家から釣書が届いた。僕のことを求めてくれるなら政略結婚でもいいかな。そう考えた伯爵家四男のフィリベルトは『お受けします』と父へ答える。 ところがなかなか侯爵閣下とお会いすることができない。婚姻式の準備は着々と進み、数カ月後ようやく対面してみれば金髪碧眼の美丈夫。徐々に二人の距離は近づいて…いたはずなのに。『え、僕ってばやっぱり政略結婚の代用品!?』政略結婚でもいいと思っていたがいつの間にか恋してしまいやっぱり無理だから離縁しよ!とするフィリベルトの話。

最悪の婚姻から始まるただ一つの愛

統子
BL
最悪の婚姻だった。 皇太子の正室として迎えられながら、 与えられたのは祝福ではなく、冷たい部屋と拒絶だけ。 触れられることすら恐ろしく、 ただ静かに時間が過ぎるのを待つしかなかった。 けれど—— 差し出された手は、思っていたものとは違っていた。 無理に触れない。 急がない。 ただ、こちらの様子を確かめるように、少しずつ距離を縮めてくる。 気づけば、隣に座ることが当たり前になり、 言葉を交わす時間が、夜の習慣になっていた。 触れられるたびに怖さは消え、 代わりに残るのは、離れがたい温もり。 これは、最悪の婚姻から始まった関係が、 やがて“ただ一人”へと変わっていく物語。 望まれなかったはずのはじまりが、 いつしか、何よりも大切なものになるまでの—— 静かで、優しい、溺れるような愛の記録。

長年仮番として務めてきましたが、王子は正式な番を娶るそうです

けふ
BL
王都を守る巨大結界は、王族の魔力によって維持されている。 第二王子アデルの傍らには、常に一人の騎士がいた。 近衛騎士レオン。 彼は長年、王子の「仮番」として特別な任務を担っている。 しかし王子は、他国の王女との正式な番契約が決まってしまった。 仮番の役目は、そこで終わるはずだった。 だが結界塔で行われる儀式の中で、 二人の関係は次第に変わり始める。 王族と騎士。 主と臣下。 越えてはならない境界を前にしても、 王子は騎士の手を取る。 「共に立て」 ※オメガバースではありません ※ふんわり読んでください ※なんでも許せる方向け ※イラストはChatGPTさん

無能扱いの聖職者は聖女代理に選ばれました

芳一
BL
無能扱いを受けていた聖職者が、聖女代理として瘴気に塗れた地に赴き諦めたものを色々と取り戻していく話。(あらすじ修正あり)***4話に描写のミスがあったので修正させて頂きました(10月11日)

婚約破棄させた愛し合う2人にザマァされた俺。とその後

結人
BL
王太子妃になるために頑張ってた公爵家の三男アランが愛する2人の愛でザマァされ…溺愛される話。 ※男しかいない世界で男同士でも結婚できます。子供はなんかしたら作ることができます。きっと…。 全5話完結。予約更新します。

売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才) ※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!  ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。  無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。

愛する公爵と番になりましたが、大切な人がいるようなので身を引きます

まんまる
BL
メルン伯爵家の次男ナーシュは、10歳の時Ωだと分かる。 するとすぐに18歳のタザキル公爵家の嫡男アランから求婚があり、あっという間に婚約が整う。 初めて会った時からお互い惹かれ合っていると思っていた。 しかしアランにはナーシュが知らない愛する人がいて、それを知ったナーシュはアランに離婚を申し出る。 でもナーシュがアランの愛人だと思っていたのは⋯。 執着系α×天然Ω 年の差夫夫のすれ違い(?)からのハッピーエンドのお話です。 Rシーンは※付けます ※画像は男の子メーカーpicrewさんよりお借りしました。 ※画像はpicrewさんよりお借りしました。 Xアカウント(@wawawa_o_o_)