20 / 45
20 銘記
ディーウィットはその晩、キーニに絶え間なくキスを浴びせられている間に、いつの間にか眠りに落ちていた。
目覚めると、キーニの逞しい腕の中にすっぽりと収まっている。愛おしさを覚えていると自覚してすぐにこうして誰よりも傍にいてもらえることに、堪らなく幸せを感じた。
まだ瞼を閉じたままのキーニのシュッとした顎から頬にかけて、手のひらをそっと這わす。キーニはいつも目覚めた後に髭を剃る為、今朝は無精髭が生えたままだ。髭があると少し大人びて更に凛々しく見えるものだなあと羨ましく思いながら、一向に髭が生えてこない自分の顎に手を触れた。
すると突然キーニがぱちりと瞼を開ける。吸い込まれそうな煌めく黒い瞳がすぐにディーウィットを捉え、優しげに細められた。
「顎を触って、どうした」
「……大人びて見えて羨ましいと考えてました」
そうか、とキーニが口角を上げる。
「そういえばディトは年は幾つだ? 尋ねていなかったな」
確かにそうだ。体調を戻すことに忙殺され、そんなことすらお互い確認していなかったのだ。
「僕は二十歳ですよ。キーニは?」
「俺は数えで二十一になるな」
「数えですか?」
「ああ。ジュ・アルズの民は全員新年を迎えると同時に年をひとつ取る。つまり俺とディトは数えでは同い年だな」
キーニはにやりと笑うと、ふいに真顔に戻る。じっと見つめられると相変わらずドキドキしてしまうが、今はこれが自分の恋心によるものだと理解している。
恥ずかしさを覚えながらも、キーニを見つめ返した。何故なら、キーニに帝都までの行き方を教われば、もうこの笑顔は見られなくなってしまうからだ。
太陽のように眩いこの笑顔を目に焼き付けておけば、この先どんなに辛いことが待ち受けていようとも耐えられる気がした。
キーニが顔を近付けてくる。もう幾度もされたから分かる。これからキスをされるのだ。
ディーウィットはゆっくりと目を閉じると、重なる柔らかい唇の感触を忘れまいとキスに集中することにした。口腔内に入り込んできたキーニの舌には、気恥ずかしさを覚えながらも積極的に自分から舌を絡めていく。キーニの舌の形も温かさも、覚えておきたかった。
キーニの舌が一瞬動きを止める。だがすぐに荒々しさを増すと、奥へ奥へと入り込んでディーウィットの口内を縦横無尽に暴れまわった。
「ん……っ」
息苦しさと多幸感とに、あらぬ声が鼻から抜けていく。
「ディト、ディト……ッ」
切なそうにキーニだけが呼ぶ名を呼ばれると、自分がキーニに愛されているのではと勘違いしそうになった。愛すべき要素など、自分には何ひとつないというのに。
だが、ディーウィットはジュ・アルズの民の習慣や生活を知らない。彼らにとって同性と添い寝しキスを交わす行為が果たしてアーベラインと同様に愛情を示すものなのかそれともただの友愛なのかすら、分からない。
聞けばもしかしたら、キーニは教えてくれるのかもしれない。だが別れが迫りつつある今、ディーウィットは否定の意をキーニの口から聞きたくはなかった。きっとキーニも自分のことを悪からず想っていてくれたに違いないと、自分に都合のいいように思ったままでいたかった。
やがて銀糸を引きながら、キーニがゆっくりと顔を離す。己の顔が赤く火照っている自覚を持ちながらも、ディーウィットは極力冷静な表情に見えるよう努めた。
仰向けのまま首飾りを手に取り、頭から抜いていく。自分の上に覆い被さりながらギラついたように見える眼差しでディーウィットを見つめ続けているキーニの首に、ゆっくりとかけていった。
にこりと笑う。キーニは何も言わない。重なり合う自分とキーニの雄が硬さを帯びていることには、気付かないふりをした。
「キーニ、約束ですからね」
キーニのこめかみが一瞬ピクリと動く。じっと返事を待っていると、キーニは自身の胸元に下がる、朝日を浴び星空のように上品な輝きを見せる『夜の光石』を指で摘んだ。
無言のままスッと立ち上がると、水差しなどが置かれている小棚の前に行き、しゃがみ込む。中から何かを取り出すと、すぐにディーウィットの元に戻ってきた。
目覚めると、キーニの逞しい腕の中にすっぽりと収まっている。愛おしさを覚えていると自覚してすぐにこうして誰よりも傍にいてもらえることに、堪らなく幸せを感じた。
まだ瞼を閉じたままのキーニのシュッとした顎から頬にかけて、手のひらをそっと這わす。キーニはいつも目覚めた後に髭を剃る為、今朝は無精髭が生えたままだ。髭があると少し大人びて更に凛々しく見えるものだなあと羨ましく思いながら、一向に髭が生えてこない自分の顎に手を触れた。
すると突然キーニがぱちりと瞼を開ける。吸い込まれそうな煌めく黒い瞳がすぐにディーウィットを捉え、優しげに細められた。
「顎を触って、どうした」
「……大人びて見えて羨ましいと考えてました」
そうか、とキーニが口角を上げる。
「そういえばディトは年は幾つだ? 尋ねていなかったな」
確かにそうだ。体調を戻すことに忙殺され、そんなことすらお互い確認していなかったのだ。
「僕は二十歳ですよ。キーニは?」
「俺は数えで二十一になるな」
「数えですか?」
「ああ。ジュ・アルズの民は全員新年を迎えると同時に年をひとつ取る。つまり俺とディトは数えでは同い年だな」
キーニはにやりと笑うと、ふいに真顔に戻る。じっと見つめられると相変わらずドキドキしてしまうが、今はこれが自分の恋心によるものだと理解している。
恥ずかしさを覚えながらも、キーニを見つめ返した。何故なら、キーニに帝都までの行き方を教われば、もうこの笑顔は見られなくなってしまうからだ。
太陽のように眩いこの笑顔を目に焼き付けておけば、この先どんなに辛いことが待ち受けていようとも耐えられる気がした。
キーニが顔を近付けてくる。もう幾度もされたから分かる。これからキスをされるのだ。
ディーウィットはゆっくりと目を閉じると、重なる柔らかい唇の感触を忘れまいとキスに集中することにした。口腔内に入り込んできたキーニの舌には、気恥ずかしさを覚えながらも積極的に自分から舌を絡めていく。キーニの舌の形も温かさも、覚えておきたかった。
キーニの舌が一瞬動きを止める。だがすぐに荒々しさを増すと、奥へ奥へと入り込んでディーウィットの口内を縦横無尽に暴れまわった。
「ん……っ」
息苦しさと多幸感とに、あらぬ声が鼻から抜けていく。
「ディト、ディト……ッ」
切なそうにキーニだけが呼ぶ名を呼ばれると、自分がキーニに愛されているのではと勘違いしそうになった。愛すべき要素など、自分には何ひとつないというのに。
だが、ディーウィットはジュ・アルズの民の習慣や生活を知らない。彼らにとって同性と添い寝しキスを交わす行為が果たしてアーベラインと同様に愛情を示すものなのかそれともただの友愛なのかすら、分からない。
聞けばもしかしたら、キーニは教えてくれるのかもしれない。だが別れが迫りつつある今、ディーウィットは否定の意をキーニの口から聞きたくはなかった。きっとキーニも自分のことを悪からず想っていてくれたに違いないと、自分に都合のいいように思ったままでいたかった。
やがて銀糸を引きながら、キーニがゆっくりと顔を離す。己の顔が赤く火照っている自覚を持ちながらも、ディーウィットは極力冷静な表情に見えるよう努めた。
仰向けのまま首飾りを手に取り、頭から抜いていく。自分の上に覆い被さりながらギラついたように見える眼差しでディーウィットを見つめ続けているキーニの首に、ゆっくりとかけていった。
にこりと笑う。キーニは何も言わない。重なり合う自分とキーニの雄が硬さを帯びていることには、気付かないふりをした。
「キーニ、約束ですからね」
キーニのこめかみが一瞬ピクリと動く。じっと返事を待っていると、キーニは自身の胸元に下がる、朝日を浴び星空のように上品な輝きを見せる『夜の光石』を指で摘んだ。
無言のままスッと立ち上がると、水差しなどが置かれている小棚の前に行き、しゃがみ込む。中から何かを取り出すと、すぐにディーウィットの元に戻ってきた。
あなたにおすすめの小説
【完結】一生に一度だけでいいから、好きなひとに抱かれてみたい。
村松砂音(抹茶砂糖)
BL
第13回BL大賞で奨励賞をいただきました!
ありがとうございました!!
いつも不機嫌そうな美形の騎士×特異体質の不憫な騎士見習い
<あらすじ>
魔力欠乏体質者との性行為は、死ぬほど気持ちがいい。そんな噂が流れている「魔力欠乏体質」であるリュカは、父の命令で第二王子を誘惑するために見習い騎士として騎士団に入る。
見習い騎士には、側仕えとして先輩騎士と宿舎で同室となり、身の回りの世話をするという規則があり、リュカは隊長を務めるアレックスの側仕えとなった。
いつも不機嫌そうな態度とちぐはぐなアレックスのやさしさに触れていくにつれて、アレックスに惹かれていくリュカ。
ある日、リュカの前に第二王子のウィルフリッドが現れ、衝撃の事実を告げてきて……。
親のいいなりで生きてきた不憫な青年が、恋をして、しあわせをもらう物語。
※性描写が多めの作品になっていますのでご注意ください。
└性描写が含まれる話のサブタイトルには※をつけています。
※表紙は「かんたん表紙メーカー」さまで作成しました。
政略結婚のはずが恋して拗れて離縁を申し出る話
藍
BL
聞いたことのない侯爵家から釣書が届いた。僕のことを求めてくれるなら政略結婚でもいいかな。そう考えた伯爵家四男のフィリベルトは『お受けします』と父へ答える。
ところがなかなか侯爵閣下とお会いすることができない。婚姻式の準備は着々と進み、数カ月後ようやく対面してみれば金髪碧眼の美丈夫。徐々に二人の距離は近づいて…いたはずなのに。『え、僕ってばやっぱり政略結婚の代用品!?』政略結婚でもいいと思っていたがいつの間にか恋してしまいやっぱり無理だから離縁しよ!とするフィリベルトの話。
最悪の婚姻から始まるただ一つの愛
統子
BL
最悪の婚姻だった。
皇太子の正室として迎えられながら、
与えられたのは祝福ではなく、冷たい部屋と拒絶だけ。
触れられることすら恐ろしく、
ただ静かに時間が過ぎるのを待つしかなかった。
けれど——
差し出された手は、思っていたものとは違っていた。
無理に触れない。
急がない。
ただ、こちらの様子を確かめるように、少しずつ距離を縮めてくる。
気づけば、隣に座ることが当たり前になり、
言葉を交わす時間が、夜の習慣になっていた。
触れられるたびに怖さは消え、
代わりに残るのは、離れがたい温もり。
これは、最悪の婚姻から始まった関係が、
やがて“ただ一人”へと変わっていく物語。
望まれなかったはずのはじまりが、
いつしか、何よりも大切なものになるまでの——
静かで、優しい、溺れるような愛の記録。
長年仮番として務めてきましたが、王子は正式な番を娶るそうです
けふ
BL
王都を守る巨大結界は、王族の魔力によって維持されている。
第二王子アデルの傍らには、常に一人の騎士がいた。
近衛騎士レオン。
彼は長年、王子の「仮番」として特別な任務を担っている。
しかし王子は、他国の王女との正式な番契約が決まってしまった。
仮番の役目は、そこで終わるはずだった。
だが結界塔で行われる儀式の中で、
二人の関係は次第に変わり始める。
王族と騎士。
主と臣下。
越えてはならない境界を前にしても、
王子は騎士の手を取る。
「共に立て」
※オメガバースではありません
※ふんわり読んでください
※なんでも許せる方向け
※イラストはChatGPTさん
無能扱いの聖職者は聖女代理に選ばれました
芳一
BL
無能扱いを受けていた聖職者が、聖女代理として瘴気に塗れた地に赴き諦めたものを色々と取り戻していく話。(あらすじ修正あり)***4話に描写のミスがあったので修正させて頂きました(10月11日)
婚約破棄させた愛し合う2人にザマァされた俺。とその後
結人
BL
王太子妃になるために頑張ってた公爵家の三男アランが愛する2人の愛でザマァされ…溺愛される話。
※男しかいない世界で男同士でも結婚できます。子供はなんかしたら作ることができます。きっと…。
全5話完結。予約更新します。
売れ残りオメガの従僕なる日々
灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才)
※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!
ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。
無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。
愛する公爵と番になりましたが、大切な人がいるようなので身を引きます
まんまる
BL
メルン伯爵家の次男ナーシュは、10歳の時Ωだと分かる。
するとすぐに18歳のタザキル公爵家の嫡男アランから求婚があり、あっという間に婚約が整う。
初めて会った時からお互い惹かれ合っていると思っていた。
しかしアランにはナーシュが知らない愛する人がいて、それを知ったナーシュはアランに離婚を申し出る。
でもナーシュがアランの愛人だと思っていたのは⋯。
執着系α×天然Ω
年の差夫夫のすれ違い(?)からのハッピーエンドのお話です。
Rシーンは※付けます
※画像は男の子メーカーpicrewさんよりお借りしました。
※画像はpicrewさんよりお借りしました。
Xアカウント(@wawawa_o_o_)