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21 交換
キーニに手を差し伸べられ、ディーウィットは大きな手に骨ばった細い手を乗せる。
キーニに引っ張り上げられ上体を起こされると、キーニはディーウィットの腰を持ち上げ、自分の膝の上に乗せた。慈しむような目で間近から見上げられたディーウィットは、今度は何が起きるのかとキーニの次の行動を待つ。
キーニは手をディーウィットの前まで持ってくると、広げてみせた。
「ディト。これは俺から俺の『ムウェ・ラデ』に贈る物だ。受け取ってほしい」
「贈り物……ですか?」
内側はやや色味の薄い手のひらの上に乗せられていたのは、艶光る黒い糸で美しい模様が編み込まれた輪だった。装飾品のようだ。
蔦が垂れ下がっているような編み込みの先端には、親指の先程度の大きさの赤い石が付いている。規則的に間隔を空けて蔦模様が垂れ下がるように編まれており、かなり細かい作業が必要なことが素人のディーウィットにすら分かる。
「ディト。手に取れ」
「は、はい」
言われるがまま、キーニの手のひらから摘み上げた。両手の親指と人差し指で目前に掲げてみる。首に通すには小さそうな輪だが、手首に通すには大きすぎるようだ。
「これはどこを飾るものですか?」
小首を傾げながら尋ねると、キーニは「貸せ」と短く言った。ディーウィットの手から取ると、キーニの膝の上に腰掛けているディーウィットの額に装着する。中心を合わせ乱れた髪を整えると、満足気な笑みを浮かべた。
「思った通り、よく似合う」
「これは……額飾りなのですね?」
そっと指を這わす。石は重さを感じるが、気になるほどではない。
「そうだ。ディトの頭の大きさに合わせ俺の髪で編んだものだ」
「え? わざわざ作ったんですか?」
しかも、この黒い糸がまさかキーニの髪だったとは。直毛の濡羽色で美しい髪だとは思っていたが、こういう使い方もできるらしい。ディーウィットが素直に驚いていると、キーニはさも当然だとばかりに大きく頷いた。
「当たり前だろう。これは唯ひとりに与えられるものだ。大きさが合わないなど間違ってもあってはならないからな」
「はあ」
何が当たり前なのかすら分からなかったが、とにかくディーウィットに渡すものとして作成したものだということは分かった。好ましく思っている相手からの贈り物だ。嬉しくない筈がない。ディーウィットの頬が自然に緩んでいった。
キーニはいつものようにディーウィットのこめかみに手を伸ばすと、包み込むようにしてから親指で額飾りを撫でる。
「これは俺の『ムウェ・ラデ』という証だ。絶対に外すなよ」
「外すとどうなるんです?」
キーニの眉間に深い皺が寄った。
「……他の者から襲われる可能性が高い」
「え……」
これまでのキーニとのジュ・アルズの発展に関する問答から、キーニはこの部族の中である程度決定権を持つ立場にいることは察していた。
相変わらず『ムウェ・ラデ』の意味はさっぱり分からないが、これまでの会話から、庇護対象のような意味なのかと推測する。見た目からして明らかに部族の人間でないディーウィットの庇護者がキーニであるという証ということだろうか。
これを付けていないと他の者に襲われる意味がさっぱり分からないが、ジュ・アルズは他所からの入国を許可制にしている土地だ。侵入者と見做され排除されることがあるのかもしれない。そう考えると筋が通る、とディーウィットはひとり納得して頷いた。
「分かりました。絶対外さないようにします」
「いい子だ」
キーニはこめかみから顎にするりと手を移動させると、ディーウィットの顎を摘み触れるだけのキスをする。黒い瞳をキラキラさせながら、告げた。
「これでようやく部族の者と顔合わせができるな。俺の家に連れて行くから、このまま俺の首にしがみつけ」
「え? 今からですか?」
「ああ。片腕だけで支えるから不安定に思うかもしれないが、絶対に落とさないから安心しろ」
「片腕って――わっ」
キーニは左腕でディーウィットの尻の下を持ち上げると、サッと立ち上がりこれまで絶対ディーウィットを近付けようとしなかった小屋の出入り口に向かう。ディーウィットは慌てて首にしがみつくと、キーニが頬にチュ、と音を立ててキスを落とした。
キーニの部族が挨拶のようにキスを交わすのか、それともキーニが単にキス魔なのか。他の部族の者らに会えば、それも分かるだろうか。顔が火照るのを抑えられないまま、そんなことを考えた。
「行くぞディト」
「は、はいっ」
振り落とされまいと腕に力を込めると、ディーウィットの耳元でキーニが実に愉快そうに笑い声を立てた。
キーニに引っ張り上げられ上体を起こされると、キーニはディーウィットの腰を持ち上げ、自分の膝の上に乗せた。慈しむような目で間近から見上げられたディーウィットは、今度は何が起きるのかとキーニの次の行動を待つ。
キーニは手をディーウィットの前まで持ってくると、広げてみせた。
「ディト。これは俺から俺の『ムウェ・ラデ』に贈る物だ。受け取ってほしい」
「贈り物……ですか?」
内側はやや色味の薄い手のひらの上に乗せられていたのは、艶光る黒い糸で美しい模様が編み込まれた輪だった。装飾品のようだ。
蔦が垂れ下がっているような編み込みの先端には、親指の先程度の大きさの赤い石が付いている。規則的に間隔を空けて蔦模様が垂れ下がるように編まれており、かなり細かい作業が必要なことが素人のディーウィットにすら分かる。
「ディト。手に取れ」
「は、はい」
言われるがまま、キーニの手のひらから摘み上げた。両手の親指と人差し指で目前に掲げてみる。首に通すには小さそうな輪だが、手首に通すには大きすぎるようだ。
「これはどこを飾るものですか?」
小首を傾げながら尋ねると、キーニは「貸せ」と短く言った。ディーウィットの手から取ると、キーニの膝の上に腰掛けているディーウィットの額に装着する。中心を合わせ乱れた髪を整えると、満足気な笑みを浮かべた。
「思った通り、よく似合う」
「これは……額飾りなのですね?」
そっと指を這わす。石は重さを感じるが、気になるほどではない。
「そうだ。ディトの頭の大きさに合わせ俺の髪で編んだものだ」
「え? わざわざ作ったんですか?」
しかも、この黒い糸がまさかキーニの髪だったとは。直毛の濡羽色で美しい髪だとは思っていたが、こういう使い方もできるらしい。ディーウィットが素直に驚いていると、キーニはさも当然だとばかりに大きく頷いた。
「当たり前だろう。これは唯ひとりに与えられるものだ。大きさが合わないなど間違ってもあってはならないからな」
「はあ」
何が当たり前なのかすら分からなかったが、とにかくディーウィットに渡すものとして作成したものだということは分かった。好ましく思っている相手からの贈り物だ。嬉しくない筈がない。ディーウィットの頬が自然に緩んでいった。
キーニはいつものようにディーウィットのこめかみに手を伸ばすと、包み込むようにしてから親指で額飾りを撫でる。
「これは俺の『ムウェ・ラデ』という証だ。絶対に外すなよ」
「外すとどうなるんです?」
キーニの眉間に深い皺が寄った。
「……他の者から襲われる可能性が高い」
「え……」
これまでのキーニとのジュ・アルズの発展に関する問答から、キーニはこの部族の中である程度決定権を持つ立場にいることは察していた。
相変わらず『ムウェ・ラデ』の意味はさっぱり分からないが、これまでの会話から、庇護対象のような意味なのかと推測する。見た目からして明らかに部族の人間でないディーウィットの庇護者がキーニであるという証ということだろうか。
これを付けていないと他の者に襲われる意味がさっぱり分からないが、ジュ・アルズは他所からの入国を許可制にしている土地だ。侵入者と見做され排除されることがあるのかもしれない。そう考えると筋が通る、とディーウィットはひとり納得して頷いた。
「分かりました。絶対外さないようにします」
「いい子だ」
キーニはこめかみから顎にするりと手を移動させると、ディーウィットの顎を摘み触れるだけのキスをする。黒い瞳をキラキラさせながら、告げた。
「これでようやく部族の者と顔合わせができるな。俺の家に連れて行くから、このまま俺の首にしがみつけ」
「え? 今からですか?」
「ああ。片腕だけで支えるから不安定に思うかもしれないが、絶対に落とさないから安心しろ」
「片腕って――わっ」
キーニは左腕でディーウィットの尻の下を持ち上げると、サッと立ち上がりこれまで絶対ディーウィットを近付けようとしなかった小屋の出入り口に向かう。ディーウィットは慌てて首にしがみつくと、キーニが頬にチュ、と音を立ててキスを落とした。
キーニの部族が挨拶のようにキスを交わすのか、それともキーニが単にキス魔なのか。他の部族の者らに会えば、それも分かるだろうか。顔が火照るのを抑えられないまま、そんなことを考えた。
「行くぞディト」
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