孤独な王子は部族の青年の献身で愛を知る

緑虫

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22 紹介

 高さに目眩を覚えながら地上に降りた後は、キーニに腰を抱かれた状態で、ワラワラと集まってくる部族の人々に紹介されていった。

 不思議だったのは、キーニ以外に帝国語を操る者がひとりもいなかったことだ。口々に『ジュ・アルズ』と『ムウェ・ラデ』と言っているのだけは聞き取れたが、後はさっぱりである。こうなると何故キーニだけこうも流暢な帝国語を話せるのかが気になった。

 だが、今はそんなことを聞いている余裕はない。ひっきりなしに話しかけられ挨拶らしきものをされ、愛想笑いを浮かべるので精一杯だった。

 部族の男らは、まるでキーニに遠慮するように一定の距離を開けている。対照的に女子どもの距離は近く、ディーウィットの髪や腕に触れては笑顔で何かを言ってきていた。全く分からない。固まった笑顔のまま、威風堂々と佇む隣の男に尋ねる。

「キーニ。彼らはなんと言っているのです?」
「歓迎の意を表している」

 キーニの答えは短く、本当にそれだけかと疑いたくなった。だが、通訳できるのが彼しかいない以上はどうしようもない。

 何十人もの部族の人間を紹介されている内に、次第に頭がクラクラしてくる。するとキーニは「疲れたか。病み上がりだからな」とサッとディーウィットを横抱きにし、集団に背を向けて立ち去ってしまった。背後からは賑やかな囃し立てるような歓声が聞こえ続けたが、やっぱりひとつも理解できなかった。

 キーニの家は集落の一番奥にあり、部族の家々の中でも一際大きなものだった。中に入ると天井が高く、部屋が幾つにも分かれているのが分かる。居間らしき広間の床に敷かれた色鮮やかな絨毯の上に下ろされると、キーニはすぐ横に寄り添うように座った。ディーウィットの頬に手を当てキーニの方を向かせる。

「ここは首長の家になる。俺の父が部族の首長を務めているんだ。今は母と共に首長会合に出かけていて不在だが、そろそろ戻る頃なので紹介しよう」

 やはりキーニは偉い立場の人間だったらしい。ディーウィットはキーニの言葉に頷きで返した。できれば早く出立したいのはやまやまだが、二十日以上もキーニを拘束してしまったのだ。挨拶のひとつもせずに発つのはあまりに無礼だと思うので、反対するつもりは毛頭なかった。

「首長……ではキーニは次の首長なんですか?」

 キーニが微笑みを浮かべる。

「その予定だな」
「そうだったんですね……」

 そんな人に下の世話までさせてしまったという事実に、高所から降り立った訳でもないのに目眩がしそうになった。だが、時は不可逆性だ。もうこれ以上、数日前までの痴態についてはなるべく考えないことにしようと己に言い聞かせた。

 キーニが続ける。

「出発までにディトの靴を用意し、履き慣らしておこうと思う。靴擦れを起こすと辛いからな」

 笑顔で頭を撫でられれば、申し訳なさと感謝の気持ちでいっぱいになり自然と頭が下がった。

「キーニ……、何から何まですみません」
「俺がディトに用意するのは当然のことだ。ディトは俺の『ムウェ・ラデ』だからな。殊勝な態度はお前の美点ではあるが、あまりに遠慮されると悲しい。素直に喜べ」

 キーニの言葉に、ハッとさせられる。確かに謝罪よりも感謝の意を伝えた方がいいのかもしれない、と思い直した。ディーウィットより頭ひとつ分背の高いキーニを見上げると、心からの笑みを浮かべる。

「はい。キーニ、ありがとうございます」
「ああ、それでいい」

 キーニは屈むと、一瞬の隙でディーウィットの唇を奪っていった。唇を重ねられたまま腰を引き寄せられキーニの腕の中に包まれると、すぐに多幸感で思考が蕩けていく。

 キーニにとってキスはどういった意味を持つのかは、やはり気になってしまう。だが、知ったところで不毛だ。

 その考えを振り払うべく、キーニから与えられる熱に意識を集中することにしたのだった。
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