36 / 45
36 デアーグが語るディーウィット
ディーウィットは自分でも不思議に思うほど穏やかな気持ちで、その後自分に起きた事実を淡々と告げた。
アルフォンスは、口を挟まずに最後まで聞いてくれた。キーニたっての願いで互いに帝国語でという話だったので、ディーウィットよりは帝国語に慣れていないアルフォンスに全部きちんと伝わっているからは不明だが。
「――ということで、僕はこうしてここにいるキーニの協力を得て、帝都までやってこれた。正直、デアーグが皇配の立場に満足するとは思えない。その時、アーベラインにどうにかしてほしいと要望する筈だ」
一旦息継ぎをして続ける。
「そうなった場合、あの王家なら帝国に喧嘩を吹っ掛けるくらいやりかねないのはアルフォンスも分かるだろう? だが今ならまだ間に合う。皇帝に謁見しないままアーベラインに戻るようデアーグを説得してくれないか」
アルフォンスの目をまっすぐに見つめながら、誠意を込めて頼んだ。だが、アルフォンスは答えない。やはり一度失った信頼を取り戻すのは難しいのかと溜息を吐きたくなった、その時。
ディーウィットの目に、アルフォンスの手や顎がガクガク小刻みに震えている姿が映った。
「アルフォンス? 一体どうした――」
驚いて見ている間に、アルフォンスがズルズルと床に膝を突き、額を床に付けてしまう。
「アルフォンス!?」
慌ててディーウィットがアルフォンスの前に膝を突くと、ディーウィットの手をしかと握った硬い手があった。アルフォンスの手だ。
「ディーウィット殿下……! 愚かな私をお許し下さい……!」
「えっ!? なんだ、どういう意味だ……?」
アルフォンスが額をディーウィットの手の甲に当てる。指先に温かい液体が付着した。アルフォンスが泣いているのだ。ディーウィットはどうしていいか分からず、狼狽える。
「ど、どうした……っ」
「私は殿下が去ってしまわれた後、殿下から引き継いだ政務を懸命にこなしておりました……! ですがろくな協力者もおらず、王家の散財はタガが外れたように増えていくばかりで……!」
「……!」
やはりそうか、というのがディーウィットの素直な感想だった。これまでも散財はされていたが、止められる部分はディーウィットが王族の特権を使い水際で止めていたのだ。それがなくなった途端こうなることは分かっていた筈なのに、ろくな対策も残さず去ってしまったのはディーウィットだ。
「……何もかも押し付けてしまって悪かった」
「殿下が国を守りたいと願っていたことは分かっていたつもりです……! ですから歯を食いしばり耐えていました。ですが毎日デアーグ様が私の元にやってきては仰ったのです。『これは内緒だけど、ディーウィットはこれで政務から逃れられると喜んでいたんだよ』と」
「は?」
思わず素っ頓狂な声が出た。
「そもそも僕は話が決まってから出立するまで、デアーグと会話すらしていないぞ」
なんなら別れの挨拶すら交わしていない。
「私もおかしいとは思ったのです……! ですが疲弊していく中、デアーグ様がやってきては『僕はディーウィットを解放してあげる為にお父様に頼んだんだよ。なのにアルフォンスは全てを押し付けられて可哀想に』と囁かれ……!」
ディーウィットはあまりの内容に呆れてしまい、相槌すら打てなくなった。我が弟ながら、どうして悪知恵だけはそこまで働くのか。その頭を少しでも他のことに回せなかったのか。
アルフォンスが苦しそうに続ける。
「私は信じたくない、そんなことある筈がないと自分に言い聞かせました……! ですが殿下の訃報が届いた時、デアーグ様が『ディーウィットに逃げられちゃった。折角協力したのに、酷いよ!』と泣いてしまい……。怖いから帝国行きについてきてほしいと頼まれ、断れる状況ではなくなってしまったのです」
「……デアーグの語る僕は、僕ではないぞ」
自分でも驚くほど、低い声が出た。
アルフォンスは、口を挟まずに最後まで聞いてくれた。キーニたっての願いで互いに帝国語でという話だったので、ディーウィットよりは帝国語に慣れていないアルフォンスに全部きちんと伝わっているからは不明だが。
「――ということで、僕はこうしてここにいるキーニの協力を得て、帝都までやってこれた。正直、デアーグが皇配の立場に満足するとは思えない。その時、アーベラインにどうにかしてほしいと要望する筈だ」
一旦息継ぎをして続ける。
「そうなった場合、あの王家なら帝国に喧嘩を吹っ掛けるくらいやりかねないのはアルフォンスも分かるだろう? だが今ならまだ間に合う。皇帝に謁見しないままアーベラインに戻るようデアーグを説得してくれないか」
アルフォンスの目をまっすぐに見つめながら、誠意を込めて頼んだ。だが、アルフォンスは答えない。やはり一度失った信頼を取り戻すのは難しいのかと溜息を吐きたくなった、その時。
ディーウィットの目に、アルフォンスの手や顎がガクガク小刻みに震えている姿が映った。
「アルフォンス? 一体どうした――」
驚いて見ている間に、アルフォンスがズルズルと床に膝を突き、額を床に付けてしまう。
「アルフォンス!?」
慌ててディーウィットがアルフォンスの前に膝を突くと、ディーウィットの手をしかと握った硬い手があった。アルフォンスの手だ。
「ディーウィット殿下……! 愚かな私をお許し下さい……!」
「えっ!? なんだ、どういう意味だ……?」
アルフォンスが額をディーウィットの手の甲に当てる。指先に温かい液体が付着した。アルフォンスが泣いているのだ。ディーウィットはどうしていいか分からず、狼狽える。
「ど、どうした……っ」
「私は殿下が去ってしまわれた後、殿下から引き継いだ政務を懸命にこなしておりました……! ですがろくな協力者もおらず、王家の散財はタガが外れたように増えていくばかりで……!」
「……!」
やはりそうか、というのがディーウィットの素直な感想だった。これまでも散財はされていたが、止められる部分はディーウィットが王族の特権を使い水際で止めていたのだ。それがなくなった途端こうなることは分かっていた筈なのに、ろくな対策も残さず去ってしまったのはディーウィットだ。
「……何もかも押し付けてしまって悪かった」
「殿下が国を守りたいと願っていたことは分かっていたつもりです……! ですから歯を食いしばり耐えていました。ですが毎日デアーグ様が私の元にやってきては仰ったのです。『これは内緒だけど、ディーウィットはこれで政務から逃れられると喜んでいたんだよ』と」
「は?」
思わず素っ頓狂な声が出た。
「そもそも僕は話が決まってから出立するまで、デアーグと会話すらしていないぞ」
なんなら別れの挨拶すら交わしていない。
「私もおかしいとは思ったのです……! ですが疲弊していく中、デアーグ様がやってきては『僕はディーウィットを解放してあげる為にお父様に頼んだんだよ。なのにアルフォンスは全てを押し付けられて可哀想に』と囁かれ……!」
ディーウィットはあまりの内容に呆れてしまい、相槌すら打てなくなった。我が弟ながら、どうして悪知恵だけはそこまで働くのか。その頭を少しでも他のことに回せなかったのか。
アルフォンスが苦しそうに続ける。
「私は信じたくない、そんなことある筈がないと自分に言い聞かせました……! ですが殿下の訃報が届いた時、デアーグ様が『ディーウィットに逃げられちゃった。折角協力したのに、酷いよ!』と泣いてしまい……。怖いから帝国行きについてきてほしいと頼まれ、断れる状況ではなくなってしまったのです」
「……デアーグの語る僕は、僕ではないぞ」
自分でも驚くほど、低い声が出た。
あなたにおすすめの小説
【完結】一生に一度だけでいいから、好きなひとに抱かれてみたい。
村松砂音(抹茶砂糖)
BL
第13回BL大賞で奨励賞をいただきました!
ありがとうございました!!
いつも不機嫌そうな美形の騎士×特異体質の不憫な騎士見習い
<あらすじ>
魔力欠乏体質者との性行為は、死ぬほど気持ちがいい。そんな噂が流れている「魔力欠乏体質」であるリュカは、父の命令で第二王子を誘惑するために見習い騎士として騎士団に入る。
見習い騎士には、側仕えとして先輩騎士と宿舎で同室となり、身の回りの世話をするという規則があり、リュカは隊長を務めるアレックスの側仕えとなった。
いつも不機嫌そうな態度とちぐはぐなアレックスのやさしさに触れていくにつれて、アレックスに惹かれていくリュカ。
ある日、リュカの前に第二王子のウィルフリッドが現れ、衝撃の事実を告げてきて……。
親のいいなりで生きてきた不憫な青年が、恋をして、しあわせをもらう物語。
※性描写が多めの作品になっていますのでご注意ください。
└性描写が含まれる話のサブタイトルには※をつけています。
※表紙は「かんたん表紙メーカー」さまで作成しました。
政略結婚のはずが恋して拗れて離縁を申し出る話
藍
BL
聞いたことのない侯爵家から釣書が届いた。僕のことを求めてくれるなら政略結婚でもいいかな。そう考えた伯爵家四男のフィリベルトは『お受けします』と父へ答える。
ところがなかなか侯爵閣下とお会いすることができない。婚姻式の準備は着々と進み、数カ月後ようやく対面してみれば金髪碧眼の美丈夫。徐々に二人の距離は近づいて…いたはずなのに。『え、僕ってばやっぱり政略結婚の代用品!?』政略結婚でもいいと思っていたがいつの間にか恋してしまいやっぱり無理だから離縁しよ!とするフィリベルトの話。
最悪の婚姻から始まるただ一つの愛
統子
BL
最悪の婚姻だった。
皇太子の正室として迎えられながら、
与えられたのは祝福ではなく、冷たい部屋と拒絶だけ。
触れられることすら恐ろしく、
ただ静かに時間が過ぎるのを待つしかなかった。
けれど——
差し出された手は、思っていたものとは違っていた。
無理に触れない。
急がない。
ただ、こちらの様子を確かめるように、少しずつ距離を縮めてくる。
気づけば、隣に座ることが当たり前になり、
言葉を交わす時間が、夜の習慣になっていた。
触れられるたびに怖さは消え、
代わりに残るのは、離れがたい温もり。
これは、最悪の婚姻から始まった関係が、
やがて“ただ一人”へと変わっていく物語。
望まれなかったはずのはじまりが、
いつしか、何よりも大切なものになるまでの——
静かで、優しい、溺れるような愛の記録。
長年仮番として務めてきましたが、王子は正式な番を娶るそうです
けふ
BL
王都を守る巨大結界は、王族の魔力によって維持されている。
第二王子アデルの傍らには、常に一人の騎士がいた。
近衛騎士レオン。
彼は長年、王子の「仮番」として特別な任務を担っている。
しかし王子は、他国の王女との正式な番契約が決まってしまった。
仮番の役目は、そこで終わるはずだった。
だが結界塔で行われる儀式の中で、
二人の関係は次第に変わり始める。
王族と騎士。
主と臣下。
越えてはならない境界を前にしても、
王子は騎士の手を取る。
「共に立て」
※オメガバースではありません
※ふんわり読んでください
※なんでも許せる方向け
※イラストはChatGPTさん
無能扱いの聖職者は聖女代理に選ばれました
芳一
BL
無能扱いを受けていた聖職者が、聖女代理として瘴気に塗れた地に赴き諦めたものを色々と取り戻していく話。(あらすじ修正あり)***4話に描写のミスがあったので修正させて頂きました(10月11日)
婚約破棄させた愛し合う2人にザマァされた俺。とその後
結人
BL
王太子妃になるために頑張ってた公爵家の三男アランが愛する2人の愛でザマァされ…溺愛される話。
※男しかいない世界で男同士でも結婚できます。子供はなんかしたら作ることができます。きっと…。
全5話完結。予約更新します。
売れ残りオメガの従僕なる日々
灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才)
※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!
ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。
無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。
愛する公爵と番になりましたが、大切な人がいるようなので身を引きます
まんまる
BL
メルン伯爵家の次男ナーシュは、10歳の時Ωだと分かる。
するとすぐに18歳のタザキル公爵家の嫡男アランから求婚があり、あっという間に婚約が整う。
初めて会った時からお互い惹かれ合っていると思っていた。
しかしアランにはナーシュが知らない愛する人がいて、それを知ったナーシュはアランに離婚を申し出る。
でもナーシュがアランの愛人だと思っていたのは⋯。
執着系α×天然Ω
年の差夫夫のすれ違い(?)からのハッピーエンドのお話です。
Rシーンは※付けます
※画像は男の子メーカーpicrewさんよりお借りしました。
※画像はpicrewさんよりお借りしました。
Xアカウント(@wawawa_o_o_)