夜に花咲く鬼とねこまた、それから人の子

猫石

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0)邂逅遭遇

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(にげなきゃ! にげなきゃ!)
 死に物狂いで足を動かして。
 須郷春霞すごう はるかは夜の闇を逃げていた。
 アスファルトの上。
 路上駐車された自転車や車を忌々しく思い、行きかう人の波をすり抜けながら、春霞は逃げていた。
 振り返れば、外套やコンビニの灯にも照らされることの無い大きな暗闇が三つ、滑るように動きながら、こちらを追ってきている。
 足はない。
 ティラノサウルスの手に似た細い棒切れのような物を前に突き出し、こちらを追ってやってくる。
 あれはやばい、と春霞は足を動かす。
 なんで? と思いながら逃げながら振り返ると、その大きな暗闇は人をすり抜けているのが見えた。
(っ!)
 しかしすり抜けた人はそのことどころか、暗闇すら見えていないようで、すれ違った時と同様に隣にいる人と楽しそうに話しながら歩いて行くのだ。
(ほかの人には見えてないのか!?)
 ではなぜ? と思う。
 なぜ自分があんなものに追われているのか。
 怖い。
 怖い。
 ただひたすらに怖くて逃げる春霞は、近道である森林公園に飛び込んだ。
 踏みしめられた土の道を走り抜け、点在する電灯の明るさが役になっていない闇の深い植込みの横を走り抜けようとした時。
 ザザッ
 大きな音がして、背後から追いかけてきていた大きな暗闇が、まるで橋が架かるように自分の上をぐいんと伸びると、そのまま目の前に身を着け、持ちが地事務用に降り立ち、行く手を阻む。
(やばい!)
 慌ててた地どまり踵を返そうと振り返れば、暗闇が二つ。
(にげられない!)
 ヒュッっと息をのんで。
 足を止めて。
 どうしていいかわからず、左右を見渡してもそこには高い植込み。
 これを待っていたのかと、自分の行動の浅はかさを悔やんでいた時、だった。
「しゃがんでくださいませ! 霞の君!」
 可憐な少女の叫び声と共に、金色の光の筋がまるで高速で動く車のヘッドライトのように流れ、そうして目の前の暗闇が一つ、真っ二つに切り裂かれると、塵になって消えていく。
「そのまましゃがんで動かないでくださいませ、こんな奴ら、わたくしがすぐに対峙してやりますわ!」
 金の光の先にいつの間にか立っていた、声の主と思われる少女は、そのまま軽やかな動きで座り込んでしまった春霞の目の前を駆け抜けると、再び、金の光と共に後ろから迫っていた大きな二つの暗闇を切り裂いた。
「……な、に?」
「大丈夫ですか? 霞の君」
「……え? あ、ぁぁ……」
 目の前に立つ少女がそっと手を差し伸べてくれる。
「……っ!」
 よくわからないまま、が、その爪が異常に長い事に驚き手を引いてしまうと、少女は困ったような、泣きそうな顔で微笑みながら差し出していた手を自分の胸の前に引き、反対の手で撫でる。
「……怖がらせてしまってごめんなさい」
 そんな言葉と共に爪がシュッと消え、普通の長さになると、少女はもう一度、春霞に手を差し伸べた。
「大丈夫ですか? 霞の君」
「……え? あの」
 尻もちをつき、少女の手をとる事も出来ず呆然としたままの春霞は、彼女の後ろに大きな人影がたったのが見えた。
「あ、危な……」
 先程の影かと思い、慌てて彼女の手をとろうと伸ばした春霞の手を、大きな大きな男の手ががっちりと握手をするように掴んだ。
「なんだ? 腰が抜けてんのか? さっさと立てよ。おら、よっと」
 ぐいっと力強く引かれ、そのままの勢いで立ち上がった春霞は、距離が一気に近くなり、それでも見上げないと顔を見ることの出来ない強引な手の持ち主の、金色にひかる瞳と目が合った。
「目が……光って……」
「なんだ? まだほうけてるのか? そもそも忘れてんのか……あんだけ一緒にいたのに、随分と薄情な野郎だな」
 ぴん! と、弾かれたおでこを抑えた春霞の目の前に、顔を近づけた青年は、金色に細い細い瞳孔の形のよい目を細め、形の良い唇をゆがめてニヤリと笑った。
「なぁ、春霞」



………作者より………
キャラ文芸に出すための新作ですm(*_ _)m
元ネタとなるお話は猫石の処女作になります『細石屋騒乱譚』です。こちらもお読みいただけると嬉しいです(*^^*)
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