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ジキタリスの花
〖第15話〗
しおりを挟むおずおず右手を開くと制服のボタンだった。僕は顔をあげる。先輩の第二ボタン?硬質な、ぬくみ。先輩の学生服のボタンは全てなくなっていた。
「さよなら、相模。元気で」
そう言い、佐伯先輩は僕の額に口づけた。先輩は静かに微笑み、静かに泣いていた。
ボタンの温もりが、消えていく。僕はその場に立ち尽くし、遠ざかる先輩の後ろ姿を、ただ、見ていた。ポケットに、いつの間にかグレーの便箋が入っていた。表に『相模明彦様』とあった。裏には何も書いてなかった。
それでも解った。『あのひと』だと。
放課後もう誰もいない美術室で、封筒を開けた。一番ここが相応しい気がした。夕陽が差していた。綺麗に片付いていて、もう先輩が居た名残はなかった。
──────────
相模、相模。沢山君の名前を呼んだ。君の下の名前を呼ぶことは一度もなかったね。後悔しているよ。
明彦、素敵な名前だね。明彦、明彦。俺は君が好きだった。気持ち悪いと思うなら手紙もボタンも捨ててくれて構わない。ただ、伝えたかった。
君に会えて幸せだった。君は俺の初恋だった。もし、嫌でなければメールアドレスと電話番号を書いておくから、思い出した時でいい。連絡をくれたら嬉しい。
初めて話しかけた時の君を憶えているよ。君の色素の薄い可愛い癖毛が夕陽に照らされきらきら光って金色に見えた。声をかけるのも躊躇われるほど綺麗だった……。
──────────
続く先輩の整った文字から思い出が鮮やかに甦った。
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