22 / 28
枯れたジキタリスの花
〖第6話〗
しおりを挟む先輩の指は白くて繊細だった。まだ、覚えている。さらさらした前髪。少し厚めのレンズの眼鏡。耳に心地いい優しい声。僕の気持ちを読んだかのようにリュートは苦しくなるくらい僕を抱きしめた。
『俺を先輩だと思っていい。1分1ポンドな。日本語で好きなこと、言えばいい』
リュートは、ながったらしく片想いを拗らせた僕の背中を撫でた。
『待っているよ。ずっと君を待ってる』そう言い泣いていた先輩の姿が浮かぶ。罵詈雑言を並び立てるつもりだった。
だって先輩は嘘つきだ。
先輩は、僕を捨てた。
じゃああなたに捨てられた僕は?
あなたを追いかけ続けた僕は?
もうとうに諦めているんです。
それでも思いをただの思い出にしたくない。この想いを、ゴミ箱に捨てるみたいに消したくない。僕が初めて『希望』という思いを初めて抱かせてくれた人だから。
ヒューヒュー呼吸を苦しくしながら、あの人を罵ろうと思ったのに、浮かぶのは穏やかに『相模』と呼ぶ声や、白い指で髪を撫でる感触。抱きしめられた時に香った爽やかに甘い香水のような匂い。
「約束したのに。待ってるって、言ってくれたのに」
「好きだったのに、好きだったのに、あなたが居たから医学部を目指した。医者になった」
恋をしていたんです。
ずっと、あなたを追いかけた。
──────────
診察室の後ろのカーテンが開く。看護師が、忙しげに伝言を残す。
「相模先生。一番の診察室の佐伯先生からお電話です」
「あ、ありがとう」
僕は手元の内線に切り替えた。
「もしもし光宏さん、急用ですか?」
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
2
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる