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〖第19話〗
しおりを挟む正一に頬を包まれ、感情が溢れそうになるのを必死に耐えながら、思う。『正一にとっての私』は、山に捨てられた可哀相な子供。
『正一のために出来ること』は、正一の過ごす日々が穏やかであるように。幸せを感じられるようにすること。私は、そのために出来ることをする。だから何も知らないふりをして、私は全ての想いを飲み込み正一に笑いかける。
私に出来るのは、それしかない。正一は私に何も望まない。望んでくれない。私がどんなに必要として欲しいと、ほんの少しでも、正一の心の支えになりたいと思っていても。その安らぎでありたいと、思っていたとしても。
私は、正一の、笑った顔が好きだ。眉が下がって、少し困ったような優しい笑顔。いつも笑っていて欲しい。悲しい顔は、もう見たくなかった。
頬に残る冷たい手の感触。心の中を焦がす火のような苦しさが、痛みが、消えない。はみ出た欲が消えてくれない。
名前を呼んで。
髪に触れて。
必要として。
何でこんなに苦しいんだろう。正一が触れた頬に、そっと触れる。切なくて、涙が出そうで、私は口唇をきゅっと噛んだ。
──────────
「正一、お昼、しよう?昼ご飯、も、持って、きた」
竹の水筒。梅干しが中に入った握り飯。お漬け物。
「美味しい?」
おそるおそる、訊いた。正一の大切なお米。正一は農家ではないから米は買わなければならない。貴重なものだ。無駄にしたくない。
「ありがとう。美味しいよ」
正一が笑い、ほっとした。私は食べなくても平気だけど、食べなかったら正一が悲しそうな顔をすると思っていたので小さい握り飯を自分の為に作った。二人で大きな石に腰かけて、食べる。
「もう冬か。暫くしたら街に行くけど何か欲しいものはあるかい?」
「正一、元気、で帰って、くる。それで、いいよ」
私は正一を見つめて笑う。照れくさそうに目を逸らす正一が、可愛らしいと思った。日が傾いた後も、山の作業をした。私は締め付けられるような苦しさに、痛みしか残らない無意味な感情に、蓋をする。
ただ、正一の笑った顔が見たい。低い穏やかな声で名前を呼ばれて褒められたい。それでいい。だから、一生懸命働く。風に力を貸してもらって落ち葉と軽い枝はたくさん集められた。
大きい枯枝を集めるのは一苦労で手が傷だらけになった。血が出てひりひりした。痛かった。
でも私は、それでも良かった。正一が、微笑んでくれれば、私はそれで良かった。何でも良い。
『正一のために、できること』
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