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〖第25話〗
しおりを挟む「雪、顔をあげてくれ」
私は、聴きたくないと言うように手で耳を塞ぐ。正一の両手が手首を掴む。自然と、身体を起こしてしまい、正一と目が合う。
涙にまみれた顔を見られたくなかった。顔を背け、距離を取ろうとしたけれど、手首を掴んだ正一の手が、それを許さない。
「は、放して、は、はなして!どうせ、ど、どうせ、私、なんて……ど、どうでも、いいくせに!」
振りほどこうとしてもびくともしない。
「放したら、君は出ていく。だから、放さない。雪。ちゃんと、話をさせてくれ。お願いだ。頼むから」
「き、聴きたく、ない!い、いやだ、言い訳、いらないっ!私、誰かの、代わり。正一、わ、私のこと、要らないっ!必要、してくれないっ!糸さん、の代わり、もう、嫌だっ!き、聴きたく、ないっ!う、嘘ばっかり!私は、糸さん、じゃない!」
無理に私は、正一の手を振りほどいた。正一は床を思い切り握りしめた手で叩く。
「……そうだ、代わりだ。君は糸の代わりだよ!死んだ糸の代わりだ!君が糸に似ていなければ、君を山で拾わなかった!───こう答えれば満足か、雪!」
正一は、私の名前を吐き捨てるように言った。まるで汚いものを足で踏みつけるみたいに。「綺麗な名前だ」と微笑みをくれた同じ口唇で正一は確かにそう言った。
柔和な温かい表情で私を見つめる同じ目で、冷たく正一は私を一瞥した。
私の時間が止まる。表情が作れなくなる。茫然とし、薄く口唇を開いたまま、頬が弛緩する。涙すら、出なかった。
「雪、ほら、手を……っ!」
言うことをきかない子供を窘めるような口調で私の指に手を伸ばす正一を『力』で振りほどく。
バチッという小さな雷みたいな音が、静かな板の間に響く。すっと立ち上がり、振り返り、手を押さえながら座り込む正一を見つめる。
「正一、さよなら」
私は笑う。きれいに笑う。笑えなくなった口元を、一生懸命に微笑みの形に作る。正一は初めて会った時みたいな目で、私を見る。
あの日と同じ涙目で「……君は?」と訊いた弱った兎みたいな瞳で。
「ゆ、雪?」
「これ、あげる。い、今までの、お、お礼」
懐の巾着から泪の石を一つ差し出す。
「売る、お金に、なる。お金、いっぱい、人間、嬉しい。正一、嬉しい」
「う、嬉しくない。それに、こんな……受け取れない!雪、すまない、あんな言い方をして。君を傷つけた。だから、謝るから、きちんと説明させてくれ。ここにいてくれ!」
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