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〖第10話〗
しおりを挟む咲也は右手には煙草を、左手にはカンパリの水割りを口に運びながら、風がないせいか真っ直ぐ降る雪を、ぼんやりと見ていた。
昔から独りなんて慣れていたはずなのに、部屋が広く感じる。俊一が亡くなり、ずっと欲しかった暖かな幸せは霧散した。
それでも、一度はいわゆる『誤った選択』をしたけれど、自分なりに耐えてきた。
どんどん弱くなる自分が嫌になる。寒くなり、暖房をつけた。巌が帰ってから消したヒーター。暖まってきた部屋に、さっきまで、ここにいたひとのことを考える。咲也は頭を抱える。
「巌、さん……」
答えもしない相手を呼ぶなんて、馬鹿だと思う。それでも、咲也は声を潤ませながら、名前を呼んだ。
淋しさは自分の弱さだ。弱いから、淋しいから巌に頼りたくなる。不在が苦しいのはそのせいだ。そう咲也は思おうとした。けれど、消しても、消しても浮かび上がる、種類の違う気持ちがある。
ただ淋しいからじゃない、独りが淋しいんじゃない。巌が咲也のなかで『特別』だからだ。だから、特別に淋しい。巌がここにいないことが淋しい。咲也は瞼を伏せた。
巌に傍に居て欲しい。掴まれた右手の温度を覚えている。熱い、大きな手。少し湿っていて、肌に馴染んだ。頬に触れて欲しいと思った。逸らせない視線で見つめられ、甘い声を聞きたいと思った。
背の高い巌はどんな風に、どんな瞳で、どんなキスをするんだろう。抱きしめて欲しい。
蜘蛛の糸に絡めとられた虫のように、身動きもとれないほど、強く抱きしめて欲しい。汚く消えていく残雪みたいに扱われても構わない。邪な瞳で見て欲しい。
叶うわけ、ないのに。
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