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〖第20話〗
しおりを挟む周りの人たちが、寒そうに身を縮めて歩いている。街路樹の散った葉が、除雪したての黒い凍った地面を、からからと音を立てて走っていく。車が駅に着いた。巌の車は乗り心地が良く、巌もとても運転が上手で、つい、うとうと微睡みそうだった。
「咲也くんの居ない、金曜日は、淋しかったよ」
巌は少しもの悲しそうに言う。
「俺も、淋しかったよ」
「鞄重そうだね。気をつけて。インフルエンザ、うつってないといいけど」
「熱が出たら、お見舞いに来て欲しいな」
「解ったよ」
巌は微笑む。
「じゃあ、また。早く元気になってね」
じゃあ、また。巌もそう言い、目を細めて窓を閉めた。咲也は時間も忘れて、ずっと巌の車が街に消えてしまうまで見ていた。
新幹線のホームは、閑散としていた。ここの地域の特性なのか、みんな目立たない格好をしている。煙草を吸いたかったので、時間は早めにみていて正解だった。巌にも、会えた。澱んだ感情が全て、溶けるように消えた。
──────────
好きな缶コーヒーを買って、喫煙室で、ゆっくり煙を楽しむ。銘柄は6mgのピースだ。昔から、ずっと変えていない。
隣の品良く煙を楽しむおじいさんもピースを吸っていた。この煙草は煙だけで銘柄が分かる。おじいさんと目が合う。おじいさんはにっこり笑った。
「お仕事ですか?」
「ええ」
嘘は言っていない。原稿を結城に渡し、カフェで打ち合わせをし、一緒に食事とお酒を楽しんでくる。
「仕事ですか。大変だ。私は女房と東京へ行くんですよ」
おじいさんはまたにっこり笑う。
「奇遇ですね」
「あいつ、浅草へ行きたいっていうもんで。いや、私一人では東京なんて、行ったことは何回もありますよ。ただ、どうしても元気なうちに二人でって言うんで。こんなに寒いのに」
品のいいおじいさんはまるく微笑んだ。
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