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紅い瞳のアレク〖第15話〗
しおりを挟む『不思議です……こんな時にも、嬉しくても涙が出るんですね。僕、ふかやまさんとずっと、ずっと一緒にいますから。それに、この指輪。僕の名前……僕の。絶対に外しません。嬉しいです。ふかやまさん、有難うございます。大切にします』
少年は子供のように深山の首に手を回し飛びついた。深山は受け止めきれずベッドに倒れ込んだ。スプリングで跳ねる。口づけをした。じゃれるように繰り返す。しかし一瞬の真剣に目が合うと、深山は、瞳を反らし、曖昧な表情を浮かべた。すっと深山はベッドを降り、横たわる少年に言った。
「アレク。今日は、ここでおやすみ。私はソファで眠るから」
『ふかやまさん、どうして?恋人は一緒に眠るものではないのですか?指輪をもらったら本当の恋人の証ではないのですか?それに、最近「眠るまで一緒にいてくれ」とも、言ってくださいません。どうしてですか?』
「………醜い顔を見られたくない。特に、君には。焼け爛れた顔を見られたくないんだ。解ってくれ。おやすみ、アレク。良い夢をみなさい」
少年は立ち去ろうとする深山のガウンの上着の裾を、下を向いてひっぱる。
「アレク?」
『一緒に、居てください。ふかやまさん……』
「アレク。手を離しなさい」
少年はうなだれ手を離し、切なそうに上目遣いに深山を見上げる。この瞳には、勝てない。
「解った。一緒に寝ようか、アレク」
深山は少年を見た。少し緊張しているみたいだった。少年の手を取り、細く白い指に口づける。
『少しだけ胸がどきどきします。ふかやまさんどうしてですか?』
「恋人同士が手を繋いで、一緒に眠るからだ」
一緒にベッドに横になる。向かいあって見つめあい軽口を楽しむ。手を繋ぐと少年は恥ずかしそうに微笑んだ。
「少し暗いな。君が良く見えない」
枕元のランプシェードの明かりをつけると、急にむせ返るような甘い匂い──まるでバニラエッセンスの瓶を落としてしまったような濃密な香りがしっとりと辺りを包んだ。
『ふかやまさん、僕に触って………』
少年の口調も声音も変わる。少年は誘うように、シャツのボタンを一つ一つ外していく。磁器のような肌。良く見ると少年の瞳が紅い。耳元で少年は囁く。
『好き。ふかやまさん。キスして………。僕は嫌?キスなんてしたくない?』
「いや、嫌じゃない。したいが、どうした?」
『じゃあ、して?』
悪戯に微笑み、少年は口づけをねだった。深山は少年に、口づけた。少年の味は甘いミルクのような味がした。深く口づけると、少年は、息を乱し、深山のガウンを掴んだ。
『ふかやまさん、好き……今だけ、今だけなんです──』
はだけたシャツから白い肌を覗かせた何処か孤独な紅い瞳をした少年に、何か暖かいものをあげたかった。
『好き、ねぇ、ふかやまさん。いいことしよう?楽しくて、気持ちいいこと……。ふふっ。ねえ、しよう?僕を、抱いて……』
一言、深山は穏やかに『アレク』といつものように名前を呼ぶ。
深山は抱きしめながら囁いた。
「君を、愛しているよ」
大きな濡れた瞳を見つめそう言った瞬間、紅い瞳の少年は涙をポロポロ零した。瞳が紅い色から、段々とマーブル模様のように碧い色が混じっていく。深山の背中に手を回し、その胸に顔を埋め、
『僕も。愛しています……ふかやまさん………』
すっと少年の瞳はいつもの碧い瞳に戻り、透明な声で深山を呼ぶと、ふっと意識を失いぐったりとしてしまった。深山は、少年の頬にそっと触れた。
辺りの、むせかえるように甘い、眩暈さえ覚えるような匂いはとうに消え去り、夏の夜の湿度を含む空気が静寂に紛れひんやりと深山と少年の火照りを冷やすだけだった。
『ふかやま……さん……』
少年の呟きを残し、辺りは、静かな夏の夜の空気に包まれた。
「気を失ってしまったのか………アレク」
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