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少年の告白〖第22話〗
しおりを挟む「色んな人に出会いました。それでも、僕を見つけてくれて、僕に名前をくれて、僕の声を聴いてくれて、『愛しているよ』と言ってくれたひとは、ふかやまさんだけです。ずっと独りで淋しかった。誰も僕を見ない。話しかけても聴こえない。あげく贋物扱いばかり。『話しかけてくれる器』とのお喋りもここが初めてでした。ふかやまさんは初めて好きになった人です。僕の二百年はふかやまさんに出会って報われました。ふかやまさんが、見つけてくれた。愛してくれた。ふかやまさんの手はとても優しい手です。繊細で、とても温かい。だからあんな綺麗な絵が描けるんですね………本当は、とても嬉しかったんです。僕の絵、僕が僕じゃないみたいでした』
クスンと鼻をすすり、少年は続ける。
『ふかやまさんは色々なものをくれます。温かい、ふわふわした気持ちになるものばかり。僕は何も返せてません。ふかやまさん……僕はふかやまさんが好きです。毎日毎日好きになります。でも、怖いんです。何か大きな真っ黒いものに飲み込まれて、ティーカップが砕けて、僕は消えて、ふかやまさんは、ぼ、僕を忘れて、綺麗なひとと腕を組んで、楽しそうに街を歩いている夢を見ます。でも、それが正しいんです。ふかやまさんは悪くない。当たり前のことです。僕がいくらふかやまさんを想っても、僕は『ひと』ではありません。でも、でも……もしそうなったら、ほんの少しだけでも、欠片くらいでもいい。僕を覚えておいて欲しいんです。不思議な夢を見ていたとでも、いいですから…………僕はずっと、ふかやまさんを愛していますから』
シーツに顔を埋め泣く少年に深山は足先を絡ませ、抱き締める腕の強さを強める。あまりにも、つらい告白に、泣きそうになる。涙が滲む。こんなに誰かに思われたことはない。
「少しは安心するか?アレク、ずっと一緒だ。ずっと一緒にいよう。………アトリエからのあの景色は君だけのものだよ。今日は私の言葉足らずで誤解させて、嫌な思いをさせた。すまなかった」
少年は黙って首を振る。
『全部、僕の勘違いです。焼きもちをやきました。僕がふかやまさんを信じられなかったから。悲しくて、悔しくて………勝手に怒ったり、泣いたりして。ふかやまさん、ごめんなさい。………絵、本当はとても嬉しかったのに』
少年は深山の腕を掴み、小さく丸まる。少年の涙が深山の夏用の薄いグレーの長袖のシャツの袖に染みていく。
窓も締め切っているはずなのに雨の音がしていた。音も微かな、細い針が刺さるような天気雨。深山は少年のうなじに顔を埋め、少年の指を、抱きしめる手で包む。細い指。闇でも解る白さ。華奢な身体。うなじの儚さ。確かに、『生き物』にしては綺麗すぎる。しみ一つない。
『ふかやまさん、息が耳にかかってくすぐったいです』
「アレク。こっちを向きなさい」
ころん、と向き直る少年に不意打ちのように軽い口づけをした。
『ふ、ふかやまさん………』
「今度からは、私の隣で寝るといい。一緒に寝よう。………そうだな、君のために獏を書くよ。枕の下に絵を敷いて眠ると悪い夢を食べてくれるらしい。日本画は専門外だから、水彩で我慢してくれ」
『ありがとうございます』
深山は少年の髪を撫でる。やわらかく、ふわふわとした手触りの髪に指を絡めていると安心する。
「あと、ここから特に重要な話だ。眠らないで聞いて欲しい。君の名前についてだが、驚いたことがあった」
『何ですか?』
媚の無い上目遣いで、少年は深山をじっと見つめた。
「ティーカップにアレキサンドライトが象眼してあった。『アレク』、君に本当に相応しい名前だったんだね。いつもの碧い瞳の君は少し泣き虫で可愛らしい。紅い瞳の君は別人のようだった」
『紅い、瞳?』
「アレキサンドライトは可視光、簡単に言えば自然光や蛍光灯だと碧く光る。白熱灯や、蝋燭の灯りだと君の瞳は紅く光るようだね。私の家で白熱灯と言ったらこのランプシェードしかない。ベッドでの紅い瞳の君はどんな美女より妖艶だったよ」
苦さの残る含み笑いをする深山に、少年は顔を真っ赤にした。
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