僕を貴方の傍において~ティーカップの妖精の恋~〖完結〗

カシューナッツ

文字の大きさ
22 / 51

少年の告白〖第22話〗

しおりを挟む


「色んな人に出会いました。それでも、僕を見つけてくれて、僕に名前をくれて、僕の声を聴いてくれて、『愛しているよ』と言ってくれたひとは、ふかやまさんだけです。ずっと独りで淋しかった。誰も僕を見ない。話しかけても聴こえない。あげく贋物扱いばかり。『話しかけてくれる器』とのお喋りもここが初めてでした。ふかやまさんは初めて好きになった人です。僕の二百年はふかやまさんに出会って報われました。ふかやまさんが、見つけてくれた。愛してくれた。ふかやまさんの手はとても優しい手です。繊細で、とても温かい。だからあんな綺麗な絵が描けるんですね………本当は、とても嬉しかったんです。僕の絵、僕が僕じゃないみたいでした』

 クスンと鼻をすすり、少年は続ける。

『ふかやまさんは色々なものをくれます。温かい、ふわふわした気持ちになるものばかり。僕は何も返せてません。ふかやまさん……僕はふかやまさんが好きです。毎日毎日好きになります。でも、怖いんです。何か大きな真っ黒いものに飲み込まれて、ティーカップが砕けて、僕は消えて、ふかやまさんは、ぼ、僕を忘れて、綺麗なひとと腕を組んで、楽しそうに街を歩いている夢を見ます。でも、それが正しいんです。ふかやまさんは悪くない。当たり前のことです。僕がいくらふかやまさんを想っても、僕は『ひと』ではありません。でも、でも……もしそうなったら、ほんの少しだけでも、欠片くらいでもいい。僕を覚えておいて欲しいんです。不思議な夢を見ていたとでも、いいですから…………僕はずっと、ふかやまさんを愛していますから』

    シーツに顔を埋め泣く少年に深山は足先を絡ませ、抱き締める腕の強さを強める。あまりにも、つらい告白に、泣きそうになる。涙が滲む。こんなに誰かに思われたことはない。

「少しは安心するか?アレク、ずっと一緒だ。ずっと一緒にいよう。………アトリエからのあの景色は君だけのものだよ。今日は私の言葉足らずで誤解させて、嫌な思いをさせた。すまなかった」

 少年は黙って首を振る。

『全部、僕の勘違いです。焼きもちをやきました。僕がふかやまさんを信じられなかったから。悲しくて、悔しくて………勝手に怒ったり、泣いたりして。ふかやまさん、ごめんなさい。………絵、本当はとても嬉しかったのに』

 少年は深山の腕を掴み、小さく丸まる。少年の涙が深山の夏用の薄いグレーの長袖のシャツの袖に染みていく。

 窓も締め切っているはずなのに雨の音がしていた。音も微かな、細い針が刺さるような天気雨。深山は少年のうなじに顔を埋め、少年の指を、抱きしめる手で包む。細い指。闇でも解る白さ。華奢な身体。うなじの儚さ。確かに、『生き物』にしては綺麗すぎる。しみ一つない。

『ふかやまさん、息が耳にかかってくすぐったいです』

「アレク。こっちを向きなさい」
 
ころん、と向き直る少年に不意打ちのように軽い口づけをした。

『ふ、ふかやまさん………』

「今度からは、私の隣で寝るといい。一緒に寝よう。………そうだな、君のために獏を書くよ。枕の下に絵を敷いて眠ると悪い夢を食べてくれるらしい。日本画は専門外だから、水彩で我慢してくれ」

『ありがとうございます』

 深山は少年の髪を撫でる。やわらかく、ふわふわとした手触りの髪に指を絡めていると安心する。

「あと、ここから特に重要な話だ。眠らないで聞いて欲しい。君の名前についてだが、驚いたことがあった」

『何ですか?』

 媚の無い上目遣いで、少年は深山をじっと見つめた。

「ティーカップにアレキサンドライトが象眼してあった。『アレク』、君に本当に相応しい名前だったんだね。いつもの碧い瞳の君は少し泣き虫で可愛らしい。紅い瞳の君は別人のようだった」

『紅い、瞳?』

「アレキサンドライトは可視光、簡単に言えば自然光や蛍光灯だと碧く光る。白熱灯や、蝋燭の灯りだと君の瞳は紅く光るようだね。私の家で白熱灯と言ったらこのランプシェードしかない。ベッドでの紅い瞳の君はどんな美女より妖艶だったよ」

 苦さの残る含み笑いをする深山に、少年は顔を真っ赤にした。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

同居人の距離感がなんかおかしい

さくら優
BL
ひょんなことから会社の同期の家に居候することになった昂輝。でも待って!こいつなんか、距離感がおかしい!

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる

水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。 「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」 過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。 ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。 孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。

捨てられた生贄オメガ、魔王城で極上の『巣作り』始めます!~不眠症の魔王様、私のクッションで爆睡して溺愛モードに突入~

水凪しおん
BL
「役立たずのオメガ」として冷遇され、血も涙もない魔王への生贄として捨てられたリノ。 死を覚悟して連れてこられた魔王城は、寒くて硬くて、居住性最悪のブラック環境だった!? 「こんなところで寝られるか!」 極限状態で発動したオメガ特有の『巣作り本能』と、神業レベルの裁縫スキルが火を噴く! ゴミ同然の布切れをフカフカのクッションに、冷たい石床を極上のラグマットにリフォーム。 すると、不眠症で常にイライラしていた魔王ザルドリスが、リノの作った「巣」のあまりの快適さに陥落してしまい……? 「……貴様、私を堕落させる気か」 (※いいえ、ただ快適に寝たいだけです) 殺されるどころか、魔王様に気に入られ、気付けば城中がリノの虜に。 捨てられた生贄オメガが、裁縫一つで魔王城を「世界一のマイホーム」に変える、ほのぼの逆転溺愛ファンタジー!

はじまりの朝

さくら乃
BL
子どもの頃は仲が良かった幼なじみ。 ある出来事をきっかけに離れてしまう。 中学は別の学校へ、そして、高校で再会するが、あの頃の彼とはいろいろ違いすぎて……。 これから始まる恋物語の、それは、“はじまりの朝”。 ✳『番外編〜はじまりの裏側で』  『はじまりの朝』はナナ目線。しかし、その裏側では他キャラもいろいろ思っているはず。そんな彼ら目線のエピソード。

紳士オークの保護的な溺愛

こむぎこ7g
BL
■ 世界と舞台の概要 ここはオークの国「トールキン」。 魔法、冒険者、ギルド、ダンジョン、獣人やドラゴンが存在する、いわゆる“典型的な異世界”だが、この国の特徴はオークが長命で、理知的な文明社会を築いていることにある。 トールキンのオークたちは、 灰色がかった緑や青の肌 鋭く澄んだ眼差し 鍛え上げられた筋骨隆々の体躯 を持ち、外見こそ威圧的だが、礼節と合理性を重んじる国民性をしている。 異世界から来る存在は非常に珍しい。 しかしオークは千年を生きる種族ゆえ、**長い歴史の中で「時折起こる出来事」**として、記録にも記憶にも残されてきた。 ⸻ ■ ガスパールというオーク ガスパールは、この国でも名の知れた貴族家系の三男として生まれた。 薄く灰を帯びた緑の肌、 赤い虹彩に金色の瞳孔という、どこか神話的な目。 分厚い肩と胸板、鍛え抜かれた腹筋は鎧に覆われずとも堅牢で、 銀色に輝く胸当てと腰当てには、代々受け継がれてきた宝石が嵌め込まれている。 ざらついた低音の声だが、語調は穏やかで、 貴族らしい品と、年齢を重ねた余裕がにじむ話し方をする。 ● 彼の性格 • 極めて面倒見がよく、観察力が高い • 感情を声高に表に出さないが、内側は情に厚い • 責任を引き受けることを当然のように思っている • 自分が誰かに寄りかかることだけは、少し苦手 どこか「自分は脇役でいい」と思っている節があり、それが彼の誠実さと同時に、不器用さでもあった。 ⸻ ■ 過去と喪失 ――愛したオーク ガスパールはかつて、平民出身のオーク男性と結ばれていた。 家柄も立場も違う相手だったが、 彼はその伴侶の、 不器用な優しさ 朝食を焦がしてしまうところ 眠る前に必ず手を探してくる癖 を、何よりも大切にしていた。 しかし、その伴侶はすでにこの世を去っている。 現在ガスパールが暮らしているのは、 貴族街から少し離れた、二階建ての小さな屋敷。 華美ではないが、掃除が行き届き、静かな温もりのある家だ。 彼は今も毎日のように墓参りを欠かさない。 それは悲嘆というより、対話に近い行為だった。 ⸻ ■ 現在の生活 ガスパールは現在、 街の流通を取り仕切る代表的な役職に就いている。 多忙な職務の合間にも、 洗濯、掃除、料理 帳簿の整理 屋敷の修繕 をすべて自分でこなす。 仕事、家事、墓参り。 規則正しく、静かな日々。 ――あなたが現れるまでは。

沈黙のΩ、冷血宰相に拾われて溺愛されました

ホワイトヴァイス
BL
声を奪われ、競売にかけられたΩ《オメガ》――ノア。 落札したのは、冷血と呼ばれる宰相アルマン・ヴァルナティス。 “番契約”を偽装した取引から始まったふたりの関係は、 やがて国を揺るがす“真実”へとつながっていく。 喋れぬΩと、血を信じない宰相。 ただの契約だったはずの絆が、 互いの傷と孤独を少しずつ融かしていく。 だが、王都の夜に潜む副宰相ルシアンの影が、 彼らの「嘘」を暴こうとしていた――。 沈黙が祈りに変わるとき、 血の支配が終わりを告げ、 “番”の意味が書き換えられる。 冷血宰相×沈黙のΩ、 偽りの契約から始まる救済と革命の物語。

隣の席のイケメンに懐かれた

しょうがやき
BL
隣の席のイケメンに懐かれた平凡男子の話

処理中です...