僕を貴方の傍において~ティーカップの妖精の恋~〖完結〗

カシューナッツ

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暁に昇る陽・宵に昇る月〖最終話〗

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 自分のふと口にした言葉に、あの子を思い出す。

『ふかやまさん!』

といつも、切なさも、悲しさも、人懐っこい明るい声に隠して笑う幼い彼の影。

 何も、してあげられなかった。

悲しませて。

泣かせて。

無理に笑わせて。

優しくしてあげれば良かった。

後悔が押し寄せてくる。無意識に涙が止めどなく流れた。

「すまない、アレク。涙が、とまらない」

『泣いてあげてください。ほら、ふかやまさん。月が昇ります。綺麗ですよ』

 涙に滲んだ満月が眩しい。晩秋の風が涙の痕を冷たく乾かしていく。

「アレク。二つの絵に取りかかる前に、描きたい作品があるんだ」

『解っています。あの子との『先約』でしょう?』

「ああ。綺麗な龍を描くよ。ありがとう。私は駄目な恋人だな。君が戻ってきてくれたのに、違う君を想って。けれど、今だけはあの子のために泣かせてくれ」

『泣いてあげてください。たくさん』

 深山は暫く、少年を抱きしめて泣いた。静かに、少年の肩に顔を埋め、『さよなら』と、『君を忘れない』と小さく言った。少年の肩から顔を離した深山に少年は深山をじっと見つめた。

「アレク、すまない……怒っているか?君が戻ってきてくれたのに。すまない……でも、会いたかった、ずっと。アレク。君を忘れた日はなかった」

    深山は少年の紅い口唇を親指でなぞる。目を閉じた少年に口唇を重ねる。食むような、長い口づけをした。恋人だから許される、とびきり甘い口づけ。ミルクティーの味。

 口唇を離すと、少年の瞳がみるみる潤む。涙声で少年は言った。

『ふかやまさんは、ずるいです。………僕は言いたいことが、何も言えなくなってしまいます』

「言ってくれ。何でもいい」

 少年は、深山にしがみつき、泣きながらその胸の中でしゃくりあげながら言った。

『……会いたかった。ずっと、ずっと、会いたかった!淋しかった!会いたかったんです、ふかやまさん!独りは嫌です。もう、僕を独りにしないで………ふかやまさん!ふ、ふかやまさぁん!』

 泣きじゃくる少年を抱きしめ、深山は優しく背を撫でた。

「もう、君を独りにはしないよ。二度と、二百年の孤独に怯えたりなんかさせない」

 涙でくしゃくしゃだな、そう言い深山はポケットからハンカチを取りだし少年の顔を拭く。

「アレク」

    少年は上を向き深山を見つめる。

「おかえり。アレク」

    深山も涙でくしゃくしゃになった顔で笑った。
『ただいまです。ふかやまさん』
 


のち、海の三部作
『有明の月』、
『黄昏の陽』、
『真夜中の虹』

は改められ、

『暁に昇る陽』、
『宵に昇る月』、
修正された『真夜中の虹』が加えられた。


しかし、展覧会に展示することはあっても、深山画伯はこの絵を手放す気はないらしい。

 尚、後者の暁と宵の二作は『幼い彼に捧ぐ』と言われているのは周知の事実だが、それが誰なのかは、未だ解ってはいない。


『ふかやまさん。海から登る太陽と月があれば、もう淋しくはないですよね。ふかやまさんもぼくと同じで『泣き虫』の『あまえた』ですから。ぼくは大丈夫です。ふかやまさんが、毎日カップを洗う度に触れてくれるから、淋しくない。ふかやまさん。ちゃんと笑えていますか?』

『ふかやまさん。今………しあわせですか?』

カップに象眼されたアレキサンドライトが、ぼんやりと、光った。          



─────────────《Fin》     
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