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13.占いの結果こうなりました
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日曜日、この屋敷で過ごす最後の週末だった。
来週には南の屋敷へ引っ越しをするから。
本当ならあれこれと采配を振るうはずのウォートレット夫人が臥せっているので、代わりにアルバートが忙しく指示をしていた。
「来られないかと思ってました」
「ここで過ごす時間を気に入っているんだ。僕から取り上げないでほしいな」
そう言って優し気に微笑むアルバート。
今日も日記が手元に置いてあった。格好はラフな服装をしていた。
エヴァはいつも通りに隣に座ると、咳ばらいをして口を開いた。
「旦那様。私のちょっとしたお遊びに付き合ってくださいませ」
「どうしたの? いいけど」
「旦那様を占わせていただきます」
首を傾げるアルバートに構わず、エヴァはタロットカードを取り出した。
タロットを包んでいた布をベンチに敷いて、その上でカードを混ぜる。
混ぜ合わせたら、カードの束を三つに分けて戻す。
アルバートは口を挟まずに、興味深そうにエヴァのカードを操る様子を見ていた。
数枚のカードをよけてから、一枚目をめくる。
この時に、真剣な顔でめくるのがコツだ。そうするとそれっぽく見えるから。
「『塔』のカードですね」
「それはどういう意味があるの?」
「そうですね、例えば予期せぬ出来事に見舞われるという警告でしょうか。何かお心当たりが?」
「まぁ、あるよね……」
アルバートは眉をひそめて苦々し気な顔をしている。
「避けることのできない突然の出来事にショックを受けたり、これまで守ってきたものが崩壊するかもしれません。でも怖い絵柄に見えますがそんなこともないんですよ? これまでの考え方とかやり方を見直すタイミングなのかもしれません」
怒り出すことはないと信じていたが、アルバートは真剣な顔でカードを見つめているようだった。
「次のカードを引きますね。これは……何か古い縁ですとか、契約とか、友人関係がかかわっているのでしょうか」
ちらりと視線を送ると、アルバートは額を抑えていた。
これ以上は続けない方がいいだろうかと不安になるが、始めてしまったのだから突き進むだけだ。
「古いお友達が今回の件に関わってらっしゃるの?」
「……はぁ、タロット占いってそんなこともわかるのかい?」
アルバートは大きなため息を吐くと、疲れたような表情でエヴァを見た。
「今回の事だよね? 君に話すべきか迷うけど……」
アルバートは再度大きな息を吐きだすと、諦めたように口を開いた。
「恥ずかしい話だからくれぐれも皆には言わないでくれよ」
そう言うと、いったん言葉を切ってから続けた。
「実は昔からの友人のひとりが、良い話があるから友人達に皆で一緒に事業を起こそうと言い出したんだよ。僕は正直よくわからなかったんだけど、大学の時の仲間たちが何人も参加するのを見てさ、そのままあまり考えずにのってしまった。でも友人が信用できる奴だって言って紹介してくれた人が、ペテン師だったみたいでね……。僕たち皆騙された……らしいんだ。本当は今も信じられないんだけどね……」
力なく笑っている。
信じたくないと思っているのだろう。
「最近土地収入が減って、領地の河川や道路の整備が行き届いてなかったんだ。領民たちからも嘆願書が届いていて、早く整備したくて。利益が出たらそれに当てようと思ってたんだ。仲間もサインしてたから、誰かがしっかり調べてるだろうと思ってあまり深く考えずに……」
「旦那様……」
「こんなんだから騙されたんだよね。……ちゃんと考えないと駄目だったのに。領民たちにも不安を与えてしまうし、本当に愚かなことをしたよ……」
がっくりと肩を落としている。
「母上が臥せってしまったのも無理ないよね。兄上だったら、きっとこんなことにはならなかった……」
「……」
エヴァは瞳を伏せて、眉を下げると小さく呟いた。
「こんな方法で話させてしまってごめんなさい」
「いいさ、タロットカードを使う時に僕も止めなかった」
「違うわ。本当は知っていたのよ」
ポケットから折りたたんだ手紙を取り出して見せた。
「これは……?」
「姉からです」
「ロックバーグ子爵夫人か! ああ、そうか、そうだったね。頭がいっぱいで君が子爵夫人の妹だってすっかり忘れてたよ。……じゃあどっちみち君には隠せなかったね」
「義兄様も一緒に被害にあってますもの」
詐欺にあったと聞くと、身内はなんて馬鹿なことを! と思って怒りがちになってしまうけれど、本人だって辛い思いをしているはずだ。
騙された自分の愚かさに思い悩んだりもするだろう。
でも大抵、詐欺師は狡猾でずる賢いのだ。何人も騙しているのだから、騙すのに慣れている。狙われた普通の人間が詐欺師から逃れられるだろうか?
ロックバーグ子爵もエヴァから見ると、人を疑うことに慣れていない善良な貴族のお坊ちゃまだった。
「でも義兄様には姉がいますわ。そして……、お願いだから不敬だと言わないでくださいね。今だけこう言わせてください。アルバート様は私の友人です! だから、その、もしお困りだったら力になれると思うの」
お金ならあるから!
最後の一言は言えなかったが伝わりはしたと思う。
アルバートは目を見開くと、パチパチと何度か瞬きを繰り返した。
「びっくりした」
「そ、そうですよね。急にこんなこと……」
「うん、でも心強かったよ。僕にも味方はいるんだって気が付いた。ありがとう」
「ええ」
「でもね、大丈夫だよ。今回の件は屋敷を貸すことでどうにかなる予定だからね。僕の失敗だし、僕がどうにかできる範囲なら自分で何とかしなきゃいけないんだよ」
「そうですか、わかりました。でも何かあったら言ってくださいね。私じゃなくても、子爵様でも」
「それって結局君の実家の力だろ?」
そう言うと、可笑しそうに笑ったのだった。
アルバートが笑顔になりほっとしたエヴァ。
空気が変わったのを感じて、最後に途中で止まっていたカードの続きをめくる。
「せっかくですから最後を引いてみますね。……最後は素敵なカードですよ。自分を信じる事で、その努力を続けることで道は開けるという暗示です」
「へぇ……」
アルバートはにこにこと聞いている。
エヴァは憑き物が落ちたような、すっきりした笑顔のアルバートの表情を崩してやりたくなった。
「ちなみに、この『塔』は恋愛だと一目ぼれって解釈もあるんですよ。そんな方がいらっしゃるのかしら? それとも引っ越し先で現れるのかしら?」
そう言うと、アルバートは目をむいてぎょっとした顔をした。
顔を赤らめてあたふたとしている。
可哀そうだから、いじめるのはここまでにしてあげることにした。
来週には南の屋敷へ引っ越しをするから。
本当ならあれこれと采配を振るうはずのウォートレット夫人が臥せっているので、代わりにアルバートが忙しく指示をしていた。
「来られないかと思ってました」
「ここで過ごす時間を気に入っているんだ。僕から取り上げないでほしいな」
そう言って優し気に微笑むアルバート。
今日も日記が手元に置いてあった。格好はラフな服装をしていた。
エヴァはいつも通りに隣に座ると、咳ばらいをして口を開いた。
「旦那様。私のちょっとしたお遊びに付き合ってくださいませ」
「どうしたの? いいけど」
「旦那様を占わせていただきます」
首を傾げるアルバートに構わず、エヴァはタロットカードを取り出した。
タロットを包んでいた布をベンチに敷いて、その上でカードを混ぜる。
混ぜ合わせたら、カードの束を三つに分けて戻す。
アルバートは口を挟まずに、興味深そうにエヴァのカードを操る様子を見ていた。
数枚のカードをよけてから、一枚目をめくる。
この時に、真剣な顔でめくるのがコツだ。そうするとそれっぽく見えるから。
「『塔』のカードですね」
「それはどういう意味があるの?」
「そうですね、例えば予期せぬ出来事に見舞われるという警告でしょうか。何かお心当たりが?」
「まぁ、あるよね……」
アルバートは眉をひそめて苦々し気な顔をしている。
「避けることのできない突然の出来事にショックを受けたり、これまで守ってきたものが崩壊するかもしれません。でも怖い絵柄に見えますがそんなこともないんですよ? これまでの考え方とかやり方を見直すタイミングなのかもしれません」
怒り出すことはないと信じていたが、アルバートは真剣な顔でカードを見つめているようだった。
「次のカードを引きますね。これは……何か古い縁ですとか、契約とか、友人関係がかかわっているのでしょうか」
ちらりと視線を送ると、アルバートは額を抑えていた。
これ以上は続けない方がいいだろうかと不安になるが、始めてしまったのだから突き進むだけだ。
「古いお友達が今回の件に関わってらっしゃるの?」
「……はぁ、タロット占いってそんなこともわかるのかい?」
アルバートは大きなため息を吐くと、疲れたような表情でエヴァを見た。
「今回の事だよね? 君に話すべきか迷うけど……」
アルバートは再度大きな息を吐きだすと、諦めたように口を開いた。
「恥ずかしい話だからくれぐれも皆には言わないでくれよ」
そう言うと、いったん言葉を切ってから続けた。
「実は昔からの友人のひとりが、良い話があるから友人達に皆で一緒に事業を起こそうと言い出したんだよ。僕は正直よくわからなかったんだけど、大学の時の仲間たちが何人も参加するのを見てさ、そのままあまり考えずにのってしまった。でも友人が信用できる奴だって言って紹介してくれた人が、ペテン師だったみたいでね……。僕たち皆騙された……らしいんだ。本当は今も信じられないんだけどね……」
力なく笑っている。
信じたくないと思っているのだろう。
「最近土地収入が減って、領地の河川や道路の整備が行き届いてなかったんだ。領民たちからも嘆願書が届いていて、早く整備したくて。利益が出たらそれに当てようと思ってたんだ。仲間もサインしてたから、誰かがしっかり調べてるだろうと思ってあまり深く考えずに……」
「旦那様……」
「こんなんだから騙されたんだよね。……ちゃんと考えないと駄目だったのに。領民たちにも不安を与えてしまうし、本当に愚かなことをしたよ……」
がっくりと肩を落としている。
「母上が臥せってしまったのも無理ないよね。兄上だったら、きっとこんなことにはならなかった……」
「……」
エヴァは瞳を伏せて、眉を下げると小さく呟いた。
「こんな方法で話させてしまってごめんなさい」
「いいさ、タロットカードを使う時に僕も止めなかった」
「違うわ。本当は知っていたのよ」
ポケットから折りたたんだ手紙を取り出して見せた。
「これは……?」
「姉からです」
「ロックバーグ子爵夫人か! ああ、そうか、そうだったね。頭がいっぱいで君が子爵夫人の妹だってすっかり忘れてたよ。……じゃあどっちみち君には隠せなかったね」
「義兄様も一緒に被害にあってますもの」
詐欺にあったと聞くと、身内はなんて馬鹿なことを! と思って怒りがちになってしまうけれど、本人だって辛い思いをしているはずだ。
騙された自分の愚かさに思い悩んだりもするだろう。
でも大抵、詐欺師は狡猾でずる賢いのだ。何人も騙しているのだから、騙すのに慣れている。狙われた普通の人間が詐欺師から逃れられるだろうか?
ロックバーグ子爵もエヴァから見ると、人を疑うことに慣れていない善良な貴族のお坊ちゃまだった。
「でも義兄様には姉がいますわ。そして……、お願いだから不敬だと言わないでくださいね。今だけこう言わせてください。アルバート様は私の友人です! だから、その、もしお困りだったら力になれると思うの」
お金ならあるから!
最後の一言は言えなかったが伝わりはしたと思う。
アルバートは目を見開くと、パチパチと何度か瞬きを繰り返した。
「びっくりした」
「そ、そうですよね。急にこんなこと……」
「うん、でも心強かったよ。僕にも味方はいるんだって気が付いた。ありがとう」
「ええ」
「でもね、大丈夫だよ。今回の件は屋敷を貸すことでどうにかなる予定だからね。僕の失敗だし、僕がどうにかできる範囲なら自分で何とかしなきゃいけないんだよ」
「そうですか、わかりました。でも何かあったら言ってくださいね。私じゃなくても、子爵様でも」
「それって結局君の実家の力だろ?」
そう言うと、可笑しそうに笑ったのだった。
アルバートが笑顔になりほっとしたエヴァ。
空気が変わったのを感じて、最後に途中で止まっていたカードの続きをめくる。
「せっかくですから最後を引いてみますね。……最後は素敵なカードですよ。自分を信じる事で、その努力を続けることで道は開けるという暗示です」
「へぇ……」
アルバートはにこにこと聞いている。
エヴァは憑き物が落ちたような、すっきりした笑顔のアルバートの表情を崩してやりたくなった。
「ちなみに、この『塔』は恋愛だと一目ぼれって解釈もあるんですよ。そんな方がいらっしゃるのかしら? それとも引っ越し先で現れるのかしら?」
そう言うと、アルバートは目をむいてぎょっとした顔をした。
顔を赤らめてあたふたとしている。
可哀そうだから、いじめるのはここまでにしてあげることにした。
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