【完結】聖女を引退したいので、後継者を探しに行きます

野々宮なつの

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・大変だけど幸せ(2)

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 何日か野宿をした翌日の昼には次の街に着くことができた。
 野宿もエンリコさんのご厚意で、荷台の隅を貸してもらえたので快適に過ごすことができた。
 
「いやはや、天気も崩れず野党や野生生物にも会わずにすんで平和な旅でしたな。これも全て女神様のご慈悲でしょう。ありがたきことです」

 なぜか私たちにお礼を言われて慌ててしまった。
 エンリコさんたちと別れると、私たちはとりあえず教会に向かった。
 ここは今まで寄ったことのある街の中で一番大きい。この街で何日か過ごしてもいいんじゃない?

「ジュスト、夜は見張りもしていて疲れたでしょう? この街で何日か滞在して情報を集めない?」
「それは助かる」
「大きな街ですから入って来る情報も多いでしょうね。期待できます」
 
 いったん教会に寄ると、巡礼者が多くてベッドに空きがないと断られてしまった。
 この街は聖地と私達のいた大聖堂の間にあり、巡礼中の人達が必ずと言っていいほど通る街だから宿泊場所も争奪戦だ。

「宿を探さないといけませんね。とりあえず、教会に教えていただいた宿に行ってみましょう」
「そうだな」

 頷くジュストの手に手紙が握られていて私は首を傾げた。

「ジュスト何を持っているの?」
「手紙だ。さっき教会で受け取った」
「手紙? 大司教様から?」

 カーラが旅の報告をこまめに書いているのでそれの返事かと思ったのだ。
 でも紙の表面の宛名はジュストになっている。
 大司教様からの指示ならカーラに届くと思うのだけれど。
 
「あー。これはこの街にいる騎士からもらった手紙だ。気になる噂や、女神の奇跡と関係していることがありそうなら教えて欲しいと言っておいたら手紙を残してくれていた」
「この街? 知り合いの騎士がいたの?」
「まぁ、そうだな」

 私の質問にジュストの視線が泳ぐ。
 私はハッと気が付くと声をあげた。

「もしかしてどこかに護衛の騎士がいるの?」
「まぁ、そうだな……」

 少しバツが悪そうなのは、私が旅の始まりに護衛騎士が増えるのを嫌がったからだろう。
 「仰々しく権威を笠に着た姿を国民に見せるのはどうでしょう? 反感を抱くものもいるかもしれません」とか「女神の意向です」とかいろいろと言った覚えがある。
 
 あの時は旅がこんなに不便で大変だとは思っていなかったし、危険もあると知らなかった。今ならもう少し騎士団の立場も考えて言うかもしれない。でも女神からの神託を偽って旅に出たことがバレたら困るという思いもあったし、その神託で騎士団を振り回すのも申し訳ないとも思ったのだ。
 
 結局、騎士団はついてきていたようだけれど。

「そりゃあ、いくらなんでも聖女を騎士1人だけの警護で旅させるわけにいかないだろ」
「そうよね、ごめんなさい」
「――ってのは半分だけ真実。本当は俺たちも予言を聞いただけじゃどこに行けばいいか分からなかったんだ。だって手がかりは『南東』だけだからな。だからアリーチェの後をつけようってことになった。その方が簡単だし警護にもなるから」
「そうなのね」
「アリーチェの行動に、騎士団も半分以上はありがたがってるんじゃないかな。何かが見つかるまであてもなく南東を彷徨うことはなくなったからな」

 優しくそう言ってくれて私の心も穏やかになる。
 私は出発前あんなに拒否して申し訳なかったなと思いながら聞いた。

「ねぇ、今から一緒に旅をした方がいいかしら?」
「警護の面ではそうだけどなぁ」

 難しい顔で考えるように唸る。

「まず、馬車で旅をしてくれるならそっちの方が断然良いと思う」
「行き先が決まってないのよ。私もどこに向かえばいいのかわからないのに馬車で移動は……」

 ジュストがそうだろう、というような表情で頷く。
 聖女候補のいる場所がわかるなら、私だって馬車で乗り付ける。
 そして聖女候補を馬車に乗せてさっさと大聖堂に帰りたい。
 でも居場所がわからないから、地道に女神の奇跡の手がかりでも落ちていないか聞きながら歩いているのだ。
 なんとなくだけれど、馬車で南東の聖地に行ったとしても会える気がしない。
 
「徒歩の場合は、修道女ふたりに対して明らかに警護が多すぎる。よくいる巡礼者はほとんど警護なんてつけてないだろう」
「そういえばこの間声をかけた修道女も騎士なんてつけてなかったものね」
「安全のためにも悪目立ちは避けたい」
「そうよね」
「それから、騎士団は聖遺物だろうと推測してるんだ。アリーチェの警護をしながら、そっちにも人員を割いて探してる。旅の主な危険は街中じゃなくて、道中の野党や物取り、動物だ。道中さえ警護できれば街中にそんなに危険はない。夜中に危険な場所へ近付かなければな」

 カーラが納得したようにうんうんと頷いている。

「じゃあ、道中だけでもこれからは一緒に行きましょうか?」
「そうだな、むこうに連絡を取ってみるよ」

 カーラに答えると、ジュストはほっと微笑んだ。なんとなく、安心するような微笑みだった。
 やっぱり道中、無理をさせていたのかもしれない。
 私は我が儘な行動をとってしまったと今さらながら反省していた。
 
 私は10歳までは普通に商人の娘として暮らしていたが、そこからは修道院暮らしだ。一般的な人達と考え方がズレているし、読み書き等の知識は他の人よりもあるけれど世慣れない世間知らずの娘だった。
 旅に出て本当にそう思うことが多い。
 ジュストとカーラがいなければ、私はあっという間に大聖堂に逆戻りすることになっていたと思う。

「ふたりとも、いつもありがとう」
「なんだ? どうした」
「アリーチェどうしました?」

 ふたりにそっくりな仕草で覗き込まれて、私は頬が赤らんでいくのを感じた。
 改めてお礼を言うのがちょっと照れる。
 
「だって、この旅大変でしょう? ふたりのお陰で旅が出来ているんだもの」
「なんだそんなことか。気にするな。俺は司教や貴族の巡礼の迎えに行ったり、警護で着いて行く事もあるから慣れてる。むしろ、アリーチェと旅ができて俺は……」
「そうですよ、私もアリーチェと旅ができて幸せです。こんなこと、生まれた村にいたらできない経験でしたからね」

 ジュストを遮るように、勢いよくカーラはそう言うと私を抱きしめてくれた。
 優しいぬくもりに包まれる。
 胸の奥がじんわりと暖かくなる。私は抱えていた緊張を解き放つように息を吐いた。
 
 ジュストは少しだけ何とも言えない表情で私たちを見つめていたが、私と目が合うと微笑んでくれた。

「まぁ、ここで立ち話もなんだから早いところ宿に行こう。手紙に手がかりもあるかもしれないしな」
「ええ、そうね」

 私たちは教えてもらった宿へと歩き出した。
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