【完結】聖女を引退したいので、後継者を探しに行きます

野々宮なつの

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6.踏んだり蹴ったり

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 結果から言うと『水上を歩く女』は女神様になんの関係もなかった。
 控えめに言って奇術。
 はっきり言うと、ペテンだった。
 
 漁村に着いた私たちは、どこへ行けば良いのかわからなくて、とりあえず村人らしき人に声をかけた。
 すると、海が見える砂浜に連れていかれた。
 そこには意外と多くの人がいて、皆が奇跡を目にする瞬間を待ちわびていた。
 
 これは期待が持てる!
 そう思って私も今か今かと待っていたのたけれど、待てど暮らせど誰も来ないし何も起きない。
 真上にあった太陽が、水面に近づくくらい待ったのに何も。
 
 陽も陰り雲が出てくると、慣れない潮風が冷たく感じるようになってきた。
 カーラも私と同じように震えていたから、私たちはしっかりと身を寄せあって寒さに耐えていた。
 心配したジュストとカルロが風よけになってくれて「今日はもう帰ろう」と言ってくれた時にそれは起きた。

 突然海の上に沖へ向かう小舟が現れて。
 ベールを被った女の子とおぼしき人影がひとりで乗っていた。
 
 まさか流されてしまった?
 
 心配していると、その子は小舟の上で立ち上がった。
 ゆらゆらと揺れる小舟は見ていても不安定で。
 けれどその子は揺れを気にもしていないようで、そろりと海面に足をつけた。
 
 「危ない!」誰かがそう叫んだのが聞こえた。このまま沈んでしまうと誰もが思っただろう。
 ところがその子は、右足左足と海の上におろすと、真っ直ぐに立ったのだった。
 
 周囲の人たちから驚嘆の声が漏れる。
 私も驚きと海に落ちなかった安堵で声が出た。
 その子は少しだけその周辺を歩いて見せると、再び小舟に乗り浜辺へと戻ってきた。
 
 「すごい!」「女神様の奇跡だ」「信じられない」そんな言葉が聞こえてきた。
 私も寒さと疲れで痺れた頭が、今の光景を見てすっかりと目覚めたようだった。
 
「すごいわね、カーラ!」

 これは本当に奇跡じゃない!?
 
 私は寒さでガタガタと振るえるカーラの耳元で言った。
 こうしないと風の音と人々の声で聞こえなかったのだ。
 カーラの目は半分以上閉じかかっている。多分、疲れて眠いのかもしれない。
 それは私も一緒だった。
 
 だから頭の隅に沸いた疑問に気が付かなかった。
 
「いいえ、あれは――」
「え? 聞こえなかったわ。もう1回お願い?」
 
 カーラは疲労で虚ろな目をしながら、ベールをかぶったままの女の子を見つめて言った。

「あれは、潮の満ち引きを利用した奇術……です」
「みちひき?」
「はい」
 
 詳しく聞こうと思った時、私たちの横からベールを被った子への視線を遮るように、同じ年ごろの子どもたちが何人も現れた。
 そして。

「はい! みんな見物料払ってね!」
「お金は帽子の中に入れて」
「気持ちでいいよ、気持ちで。ん? こんなセコイ金額がお兄さんの気持ちなのかよ?」
「オッサン誤魔化すなよ。見たんだからちゃんと払えよ」

 見守っていた皆から次々とお金を回収していったのだった。
 あっけに取られている間に私たちの前に回収の子がやってきた。
 お気持ちっていくらなの?
 いつも言う方だから相場がわからない!
 私はもたもたと財布を開くと、その中からエール二杯分程度の金額をカーラの分と合わせて入れた。
 
「チッ。シケてんな。ま、修道女じゃ金なんてねーか」

 え? 舌打ちされた?
 ボソリと呟かれてた言葉に頭が追いつかないまま、気が付いたらベールを被った子もお金を回収していた子もいなくなっていた。
 
「……」
 
 村を挙げての観光産業……?
 あ、村ぐるみの詐欺の方が正しいかも。

 そんな言葉が頭をかすめた。
 そうだよね、本当に水の上を歩けるなら舟なんて使わずに沖まで歩いて行けるものね……。
 私は寒さと疲れもあって、めまいがするようだった。
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