【完結】聖女を引退したいので、後継者を探しに行きます

野々宮なつの

文字の大きさ
18 / 26

10.美しき仮面の下に

しおりを挟む
 部屋を飛び出すと、コンコンとジュストの部屋の扉を叩く。
 出てこない。
 長い廊下の暗闇が怖くて、左右にうろうろと視線を巡らせる。
 薄気味悪い廊下だ。

「どうして出てこないの? もう寝たの?」

 扉を叩く音がどんどんと大きくなるが、構わずに私は叩き続けた。
 すると、隣の扉がかちゃりと開いた。

「あれ? アリーチェ?」

 私は扉から顔を出すジュストに飛びついた。

「うぉっ⁉」
「ジュスト、泣き声が聞こえるの!」
「あ、アリーチェ落ち着け! 頼むから……」

 私はぎゅうっとジュストにしがみつくと、早く暗い廊下から部屋の中へ入りたくて、グイグイと部屋の中へ押し込むように全身を押し付けた。

「お願い、怖いの!」
 
 ジュストはおろおろとしていたが、私の肩に手を置き、もう片手を背中へ回した。
 優しく抱きしめてくれる。
 
 そうじゃないのよ!
 
「アリーチェ、その、こんな時じゃなかったら嬉しいんだが……。今はちょっと……」

 弱々しい声に私が顔を上げると、ジュストは呻いて顔をそむけた。
 私がさらに言い募ろうとした時、部屋の奥からカルロの声が聞こえてきた。

「おやおやぁ? 大胆ですね、夜這いですか?」
 
 頼りない蝋燭の炎に照らされながら、カルロがにやにやと笑う。

「違うわ!」

 思わず叫んで否定したけれど、よく考えたら私は夜着のままだった。
 
「これはっ……! う、上着ちょうだい……」

 私は頬に血が上るのを感じた。
 ジュストは私がパッと離れると、少しだけ名残惜しそうにしていたけれどすぐに自分の上着を脱いで着せてくれた。
 上着?

「あれ? どうして着替えてないの? そういえば、ここってジュストの部屋?」

 私は借りた上着に手を通すと、落ち着いて部屋を見回す余裕ができた。

「ここはカルロの部屋だ」
「そうでーす」

 カルロが手をひらひらと振る。
 椅子に座っているカルロもよく見ると、夜着に着替えていない。

「ふたりで……何してたの?」

 カルロがにやにやと笑う。

「何だと思いますぅ? いてっ!」
 
 ジュストが拳でカルロの肩を殴ったのだ。

「イタッ、痛い。嘘です、嘘! 本当は俺がここに来た理由を話してたんです」
「夫人を見たかったからじゃないの?」

 カルロはがっくりと肩を落として嘆く。

「そんなぁ。違いますよぅ」

 「アリーチェ様に疑われて悲しいな」って言ってるけれど、そんなの行動を顧みたら当然じゃない?
 
「実はですね、話を聞いていた時に女神様方の話以外の噂もたくさん入って来たんですよ」

 それはわかる。
 私も、スリの占い師や大道芸人の話が出てきたし。

「その中にですね、失踪や行方不明の話もありまして。何年も前からあったみたいなんですが、今までは平民だったから軽視されていたみたいなんです。でも最近修道女も巡礼中に失踪するって事件がおきてまして」

 厳しい教会の暮らしに嫌気がさしたのだろうか?
 けれど、大抵の修道女は嫌になったところで行先はないし、行先がある女性なら堂々と修道院から出ればいいだけだ。
 失踪する理由にはならない。

「そうなるとね、さすがに教会騎士団も見過ごせない話でしょ?」

 私はあっ、と声を上げた。

「もしかしてその失踪と男爵夫人が関係してるかもしれないの?」
「ご明察です」

 そこでふと疑問が湧く。

「もしかして私をダシにして男爵夫人の調査をしようってことになったの?」

 私は顔をこわばらせた。
 ジュストも鋭くカルロを睨みつけてる。

「まさか! 違いますよ! 俺たちだって、この話は昨日かそこらにこの街の教会騎士から聞いたんです。知ってたら手紙にだって書きませんでしたよ!」

 カルロは睨みつけるジュストとこわばった表情のままの私に、言い訳するように言葉を重ねる。
 
「聖女様を危険にさらすわけないじゃないですか! 信じてもらえないかもしれませんが、本当にそんなつもりはなかったですって。アリーチェ様がここに来たのだって、俺関係なかったでしょ?」

 確かにそうだ。
 院長の圧力と、男爵夫人の有無を言わさぬ力で連れてこられたようなものだ。
 孤児院に行ったのだって私の判断だし。

「被害者が平民の女性ばかりだから調査も進んでなくて、どういう切っ掛けで夫人と繋がるのか分からなかったんです。失踪とは言いましたが、多分もう彼女達は死んでます。だから焦りましたよ。こっちは注意すべき人物と聖女様が接触してるんですから。ジュストもいましたけど、本当に危惧していた通りならひとりじゃ聖女様を守り切れませんから。慌ててとりあえず俺だけでも追いかけてきたわけです」
「そっか」
「俺の仕事は、聖女様を安全にこの城から連れ出すことですよ」

 にこりと微笑まれて私も頷いた。

「まぁ、せっかくだから何か証拠でも掴めたらと思って男爵夫人に色々聞いたんですが、しっぽは出しませんでしたね」

 それであんなにしつこく夫人と話していたのか。
 ただ美人と話したいだけかと思っていた。

「あら? でもジュストが泊まりを断ってた時つっついてたじゃない」
「あれは、上手く断れー。っていうアピールですよ!」
「なんだそれ、全然通じなかったぞ」
「俺の気持ちが通じないとは……。それに、まぁ、雨の中帰るって言われても普通なら止めるだろうし、こうなりますよねぇ……」

 カルロは再び肩をがっくりと落とした。
 
「ワインもたくさん飲んでいたし。馬車の操縦も出来ないと思ってたわ。そう言えば酔ってないのね?」
「あ、自分、ザルなんです。酔わないんですよ。でもアリーチェ様もうわばみですよね」

 そうかな? ちょっと酒豪なだけだと思う。
 
「ところでアリーチェ様はどうしてこちらに?」

 首を傾げて問われ、私もここに来た理由を思い出した。

「泣き声が聞こえるのよ! 『すすり泣く声』の幽霊かと思って。この城薄気味悪いし……なんだか怖くて」

 するとジュストとカルロはお互いに顔を見合わせた。
 表情を引き締めると頷き合う。

「部屋に行ってみてもいいか?」

 ジュストに遠慮がちに聞かれるが、ひとりで戻るなんてまっぴらごめんなのだからむしろ有難いくらい。

 私は急かす勢いでふたりを私の部屋へ案内した。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ここに聖女はいない

こもろう
恋愛
数百年ぶりに復活した魔王を討伐するために、少数精鋭のパーティーが魔王のいる《冬夜の大陸》へと向かう。 勇者をはじめとするメンバーは皆優秀だが、聖女だけが問題児。 どうしてこんな奴がここにいる? かなり王道ど真ん中かつ、ゆるゆるファンタジー。

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました

iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

王家を追放された落ちこぼれ聖女は、小さな村で鍛冶屋の妻候補になります

cotonoha garden
恋愛
「聖女失格です。王家にも国にも、あなたはもう必要ありません」——そう告げられた日、リーネは王女でいることさえ許されなくなりました。 聖女としても王女としても半人前。婚約者の王太子には冷たく切り捨てられ、居場所を失った彼女がたどり着いたのは、森と鉄の匂いが混ざる辺境の小さな村。 そこで出会ったのは、無骨で無口なくせに、さりげなく怪我の手当てをしてくれる鍛冶屋ユリウス。 村の事情から「書類上の仮妻」として迎えられたリーネは、鍛冶場の雑用や村人の看病をこなしながら、少しずつ「誰かに必要とされる感覚」を取り戻していきます。 かつては「落ちこぼれ聖女」とさげすまれた力が、今度は村の子どもたちの笑顔を守るために使われる。 そんな新しい日々の中で、ぶっきらぼうな鍛冶屋の優しさや、村人たちのさりげない気遣いが、冷え切っていたリーネの心をゆっくりと溶かしていきます。 やがて、国難を前に王都から使者が訪れ、「再び聖女として戻ってこい」と告げられたとき—— リーネが選ぶのは、きらびやかな王宮か、それとも鉄音の響く小さな家か。 理不尽な追放と婚約破棄から始まる物語は、 「大切にされなかった記憶」を持つ読者に寄り添いながら、 自分で選び取った居場所と、静かであたたかな愛へとたどり着く物語です。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

身代わりで呪いの公爵に嫁ぎましたが、聖女の力で浄化したら離縁どころか国一番の溺愛妻になりました〜実家が泣きついてももう遅い〜

しょくぱん
恋愛
「お前のような無能は、死神の生贄にでもなっていろ」 魔力なしの無能と蔑まれ、家族に虐げられてきた伯爵令嬢レティシア。 彼女に命じられたのは、近づく者すべてを病ませるという『呪いの公爵』アレクシスへの身代わり結婚だった。 鉄格子の馬車で運ばれ、たどり着いたのは瘴気に満ちた死の城。 恐ろしい怪物のような男に殺される――。 そう覚悟していたレティシアだったが、目の前の光景に絶望よりも先に別の感情が湧き上がる。 (な、何これ……汚すぎるわ! 雑巾とブラシはどこ!?) 実は、彼女が「無能」と言われていたのは、その力が『洗浄』と『浄化』に特化した特殊な聖女の魔力だったから。 レティシアが掃除をすれば、呪いの瘴気は消え去り、枯れた大地には花が咲き、不気味だった公爵城はまたたく間にピカピカの聖域に塗り替えられていく。 さらには、呪いで苦しんでいたアレクシスの素顔は、見惚れるほどの美青年で――。 「レティシア、君は一体何者なんだ……? 体が、こんなに軽いのは初めてだ」 冷酷だったはずの公爵様から、まさかの執着と溺愛。 さらには、呪いが解けたことで領地は国一番の豊かさを取り戻していく。 一方で、レティシアを捨てた実家は、彼女の『浄化』を失ったことで災厄に見舞われ、今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくるが……。 「私は今、お城の掃除と旦那様のお世話で忙しいんです。お引き取りくださいませ」 これは、掃除を愛する薄幸令嬢が、その愛と魔力で死神公爵を救い、最高に幸せな居場所を手に入れるまでのお話。

捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。 これで、貴方も私も自由です。 ……だから、もういいですよね? 私も、自由にして……。 5年後。 私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、 親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、 今日も幸せに子育てをしています。 だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。 私のことは忘れて……。 これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。 はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?

処理中です...