【完結】聖女を引退したいので、後継者を探しに行きます

野々宮なつの

文字の大きさ
20 / 26

11.脱出

しおりを挟む
 蝋燭を持ち、廊下を先導するカルロ。
 私はジュストの背に負ぶわれながら彼の後をついて廊下を進んでいた。

「こっちに使用人の部屋があるのか?」
「うーん。多分? でもどの城でも使用人の部屋の位置は、大体同じだと思うから誰かは見つかると思う」
「そうなの?」

 私は興味を引かれて小声で尋ねた。

「ええ。俺、こう見えて子爵家なんです。うちも城あるんですよ。俺は末子なので、もちろん俺のじゃないですけどね!」

 こんな時でも場を和ませようとしてくれるカルロに私は微笑む。

 私が提案したのは、私が急に体調が悪くなるというものだ。
 単純すぎる策だけれど、あり得るわよね?
 ワインもたくさん飲んだから、飲みすぎって思われるかもしれないけど。
 
 今は「体調が悪いから帰ります」ってことを伝えるために使用人を探してる最中だ。
 使用人に「医者を呼びます」と言われるかもしれないけれど、医者が来るのを待つより馬で病院なり教会なりに駆け込む方が早く手当を受けられる。
 まぁ、ちょっとばかり強引すぎる言い訳かもしれないけどね。
 
 ジュストやカルロの具合が悪くなったのであれば、真夜中に私が外に出るのは違和感がある。
 でも私だったら、護衛が一緒に外へ出るのは何の違和感もないだろう。

 もし、夫人も私たちに手を出すつもりがないのであれば、そのまま街へ返してくれるはずだとも思うから。

「もしかしたら、何も知らなそうな下級使用人を見つける方がスムーズに出られるかもしれないな」
「執事もグルだったからな……」
 
 時折、窓の外に向かって蝋燭を振る仕草を見せるカルロ。
 外にいるはずの小隊の仲間に光で連絡を取っているらしい。私には何も見えないけれど、本当に外にいる?
 
 階段を降り、北向きの少し大きめの部屋の前に来ると、カルロが扉をノックした。
 部屋に誰もいなそうだと思うと隣の部屋へ行き、同じようにノックをする。
 
 すると、応えがあり細く扉が開かれた。
 訝し気な顔の使用人が現れる。
 シャツをだらしなく羽織った姿なので、今まで寝ていたようだ。

「あんた誰?」

 知らない声だ!
 私は内心で喜びの声をあげる。
 
 声の感じから年が若そうだ。従僕だろうか?
 言い方に苛立ちが含まれているのは、深夜に起こされたせいだろう。
 私たちの事を知らないのなら、夫人の共犯者ではない?

「俺たちは夫人に招待されて来たんだが、連れが体調を崩して急ぎ教会に薬を貰いに行きたいんだ。悪いが乗って来た馬がいる厩舎まで案内してくれ」
「え? ……わかった。こっちだ」

 私は体調の悪さを装うために、顔をずっとジュストの肩に押し付けている。
 ちらりと薄目で確認したが、従僕がどういう表情をしたのかも、私達がどこを歩いているのか暗くてよくわからなかった。

「ここで待っていてくれ。馬を連れてくる。俺は馬丁じゃないからどの馬かわからない。あんた来てくれよ」

 客間らしき部屋に通されると、カルロに向かって青年が言う。
 カルロは焦りを滲ませ首を振る。
 私を心配している演技をしてくれているのだ。
 
「申し訳ないんだが、体調が悪いからすぐに教会に行きたいんだ。このまま彼女も連れて厩舎に行く。夫人へのご挨拶が出来ず申し訳ない」
「挨拶はわかった。伝えておくよ。ところで厩舎は暗くて足場も悪いし、体調が悪いなら寝かせておくべきなんじゃない? こんなところでモタモタしてるよりさっさと馬を取りに行った方が早いよ」

 そう言われてカルロはジュストを見た。
 小さくうなずくのを見ると、「わかった」と言ってカルロは客間から出て行った。
 頑なな態度で不信感を抱かれるほうを警戒したのだろう。
 
「戻って来た時のために、長椅子に座ってろ」
 
 私はジュストの背中から降りて頷く。
 部屋は城に来た時に通された客間よりも小さな部屋だった。
 壁際に長椅子があり、その横には大きなウールのタペストリーが何枚も飾られている。薄暗くてよく見えないが、女神様方が織られているようだ。
 ジュストは扉のすぐ横にある本棚やその近くの暖炉を調べている。
 隠し通路を警戒しているのかもしれない。

 私は言われた通り、長椅子に腰を下ろした。
 寝ていた方がいいのかもしれないけれど、緊張して横になっていられない。
 
 静かにじっと待っていると、扉がノックされた。
 もう馬が来たのだろうか? ジュストが扉の方へ近づくのが見える。
 ドアノブに手をかけた時、私は自分の左側にひやりとした風が吹いたのを感じた。
 
 隙間風だろう。
 そう思う間もなく、私は口を塞がれて強い力で引きずられた。

「――っ!」

 一瞬で暗闇の中に引きずり込まれる。
 何が起きたのかわからなかった。
 気が付いた時には強い力で拘束されていた。
 
 助けて!
 
 口を押える手を引きはがそうと爪をたててもがくが、丸太のように太い腕ががっちりと私の身体を押さえつける。
 首を絞められ、息が苦しい。
 声を上げているのに、声がでない。
 息ができない!
 
 ジュスト助けて‼
 
 そして私の視界は暗闇に染まったのだった。
 遠くで鋭い笛の音と、私を呼ぶジュストの声が聞こえた気がした。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。 これで、貴方も私も自由です。 ……だから、もういいですよね? 私も、自由にして……。 5年後。 私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、 親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、 今日も幸せに子育てをしています。 だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。 私のことは忘れて……。 これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。 はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?

ここに聖女はいない

こもろう
恋愛
数百年ぶりに復活した魔王を討伐するために、少数精鋭のパーティーが魔王のいる《冬夜の大陸》へと向かう。 勇者をはじめとするメンバーは皆優秀だが、聖女だけが問題児。 どうしてこんな奴がここにいる? かなり王道ど真ん中かつ、ゆるゆるファンタジー。

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました

iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

神龍の巫女 ~聖女としてがんばってた私が突然、追放されました~ 嫌がらせでリストラ → でも隣国でステキな王子様と出会ったんだ

マナシロカナタ✨ねこたま✨GCN文庫
恋愛
聖女『神龍の巫女』として神龍国家シェンロンで頑張っていたクレアは、しかしある日突然、公爵令嬢バーバラの嫌がらせでリストラされてしまう。 さらに国まで追放されたクレアは、失意の中、隣国ブリスタニア王国へと旅立った。 旅の途中で魔獣キングウルフに襲われたクレアは、助けに入った第3王子ライオネル・ブリスタニアと運命的な出会いを果たす。 「ふぇぇ!? わたしこれからどうなっちゃうの!?」

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

前世で孵した竜の卵~幼竜が竜王になって迎えに来ました~

高遠すばる
恋愛
エリナには前世の記憶がある。 先代竜王の「仮の伴侶」であり、人間貴族であった「エリスティナ」の記憶。 先代竜王に真の番が現れてからは虐げられる日々、その末に追放され、非業の死を遂げたエリスティナ。 普通の平民に生まれ変わったエリスティナ、改めエリナは強く心に決めている。 「もう二度と、竜種とかかわらないで生きていこう!」 たったひとつ、心残りは前世で捨てられていた卵から孵ったはちみつ色の髪をした竜種の雛のこと。クリスと名付け、かわいがっていたその少年のことだけが忘れられない。 そんなある日、エリナのもとへ、今代竜王の遣いがやってくる。 はちみつ色の髪をした竜王曰く。 「あなたが、僕の運命の番だからです。エリナ。愛しいひと」 番なんてもうこりごり、そんなエリナとエリナを一身に愛する竜王のラブロマンス・ファンタジー!

処理中です...