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11.脱出
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蝋燭を持ち、廊下を先導するカルロ。
私はジュストの背に負ぶわれながら彼の後をついて廊下を進んでいた。
「こっちに使用人の部屋があるのか?」
「うーん。多分? でもどの城でも使用人の部屋の位置は、大体同じだと思うから誰かは見つかると思う」
「そうなの?」
私は興味を引かれて小声で尋ねた。
「ええ。俺、こう見えて子爵家なんです。うちも城あるんですよ。俺は末子なので、もちろん俺のじゃないですけどね!」
こんな時でも場を和ませようとしてくれるカルロに私は微笑む。
私が提案したのは、私が急に体調が悪くなるというものだ。
単純すぎる策だけれど、あり得るわよね?
ワインもたくさん飲んだから、飲みすぎって思われるかもしれないけど。
今は「体調が悪いから帰ります」ってことを伝えるために使用人を探してる最中だ。
使用人に「医者を呼びます」と言われるかもしれないけれど、医者が来るのを待つより馬で病院なり教会なりに駆け込む方が早く手当を受けられる。
まぁ、ちょっとばかり強引すぎる言い訳かもしれないけどね。
ジュストやカルロの具合が悪くなったのであれば、真夜中に私が外に出るのは違和感がある。
でも私だったら、護衛が一緒に外へ出るのは何の違和感もないだろう。
もし、夫人も私たちに手を出すつもりがないのであれば、そのまま街へ返してくれるはずだとも思うから。
「もしかしたら、何も知らなそうな下級使用人を見つける方がスムーズに出られるかもしれないな」
「執事もグルだったからな……」
時折、窓の外に向かって蝋燭を振る仕草を見せるカルロ。
外にいるはずの小隊の仲間に光で連絡を取っているらしい。私には何も見えないけれど、本当に外にいる?
階段を降り、北向きの少し大きめの部屋の前に来ると、カルロが扉をノックした。
部屋に誰もいなそうだと思うと隣の部屋へ行き、同じようにノックをする。
すると、応えがあり細く扉が開かれた。
訝し気な顔の使用人が現れる。
シャツをだらしなく羽織った姿なので、今まで寝ていたようだ。
「あんた誰?」
知らない声だ!
私は内心で喜びの声をあげる。
声の感じから年が若そうだ。従僕だろうか?
言い方に苛立ちが含まれているのは、深夜に起こされたせいだろう。
私たちの事を知らないのなら、夫人の共犯者ではない?
「俺たちは夫人に招待されて来たんだが、連れが体調を崩して急ぎ教会に薬を貰いに行きたいんだ。悪いが乗って来た馬がいる厩舎まで案内してくれ」
「え? ……わかった。こっちだ」
私は体調の悪さを装うために、顔をずっとジュストの肩に押し付けている。
ちらりと薄目で確認したが、従僕がどういう表情をしたのかも、私達がどこを歩いているのか暗くてよくわからなかった。
「ここで待っていてくれ。馬を連れてくる。俺は馬丁じゃないからどの馬かわからない。あんた来てくれよ」
客間らしき部屋に通されると、カルロに向かって青年が言う。
カルロは焦りを滲ませ首を振る。
私を心配している演技をしてくれているのだ。
「申し訳ないんだが、体調が悪いからすぐに教会に行きたいんだ。このまま彼女も連れて厩舎に行く。夫人へのご挨拶が出来ず申し訳ない」
「挨拶はわかった。伝えておくよ。ところで厩舎は暗くて足場も悪いし、体調が悪いなら寝かせておくべきなんじゃない? こんなところでモタモタしてるよりさっさと馬を取りに行った方が早いよ」
そう言われてカルロはジュストを見た。
小さくうなずくのを見ると、「わかった」と言ってカルロは客間から出て行った。
頑なな態度で不信感を抱かれるほうを警戒したのだろう。
「戻って来た時のために、長椅子に座ってろ」
私はジュストの背中から降りて頷く。
部屋は城に来た時に通された客間よりも小さな部屋だった。
壁際に長椅子があり、その横には大きなウールのタペストリーが何枚も飾られている。薄暗くてよく見えないが、女神様方が織られているようだ。
ジュストは扉のすぐ横にある本棚やその近くの暖炉を調べている。
隠し通路を警戒しているのかもしれない。
私は言われた通り、長椅子に腰を下ろした。
寝ていた方がいいのかもしれないけれど、緊張して横になっていられない。
静かにじっと待っていると、扉がノックされた。
もう馬が来たのだろうか? ジュストが扉の方へ近づくのが見える。
ドアノブに手をかけた時、私は自分の左側にひやりとした風が吹いたのを感じた。
隙間風だろう。
そう思う間もなく、私は口を塞がれて強い力で引きずられた。
「――っ!」
一瞬で暗闇の中に引きずり込まれる。
何が起きたのかわからなかった。
気が付いた時には強い力で拘束されていた。
助けて!
口を押える手を引きはがそうと爪をたててもがくが、丸太のように太い腕ががっちりと私の身体を押さえつける。
首を絞められ、息が苦しい。
声を上げているのに、声がでない。
息ができない!
ジュスト助けて‼
そして私の視界は暗闇に染まったのだった。
遠くで鋭い笛の音と、私を呼ぶジュストの声が聞こえた気がした。
私はジュストの背に負ぶわれながら彼の後をついて廊下を進んでいた。
「こっちに使用人の部屋があるのか?」
「うーん。多分? でもどの城でも使用人の部屋の位置は、大体同じだと思うから誰かは見つかると思う」
「そうなの?」
私は興味を引かれて小声で尋ねた。
「ええ。俺、こう見えて子爵家なんです。うちも城あるんですよ。俺は末子なので、もちろん俺のじゃないですけどね!」
こんな時でも場を和ませようとしてくれるカルロに私は微笑む。
私が提案したのは、私が急に体調が悪くなるというものだ。
単純すぎる策だけれど、あり得るわよね?
ワインもたくさん飲んだから、飲みすぎって思われるかもしれないけど。
今は「体調が悪いから帰ります」ってことを伝えるために使用人を探してる最中だ。
使用人に「医者を呼びます」と言われるかもしれないけれど、医者が来るのを待つより馬で病院なり教会なりに駆け込む方が早く手当を受けられる。
まぁ、ちょっとばかり強引すぎる言い訳かもしれないけどね。
ジュストやカルロの具合が悪くなったのであれば、真夜中に私が外に出るのは違和感がある。
でも私だったら、護衛が一緒に外へ出るのは何の違和感もないだろう。
もし、夫人も私たちに手を出すつもりがないのであれば、そのまま街へ返してくれるはずだとも思うから。
「もしかしたら、何も知らなそうな下級使用人を見つける方がスムーズに出られるかもしれないな」
「執事もグルだったからな……」
時折、窓の外に向かって蝋燭を振る仕草を見せるカルロ。
外にいるはずの小隊の仲間に光で連絡を取っているらしい。私には何も見えないけれど、本当に外にいる?
階段を降り、北向きの少し大きめの部屋の前に来ると、カルロが扉をノックした。
部屋に誰もいなそうだと思うと隣の部屋へ行き、同じようにノックをする。
すると、応えがあり細く扉が開かれた。
訝し気な顔の使用人が現れる。
シャツをだらしなく羽織った姿なので、今まで寝ていたようだ。
「あんた誰?」
知らない声だ!
私は内心で喜びの声をあげる。
声の感じから年が若そうだ。従僕だろうか?
言い方に苛立ちが含まれているのは、深夜に起こされたせいだろう。
私たちの事を知らないのなら、夫人の共犯者ではない?
「俺たちは夫人に招待されて来たんだが、連れが体調を崩して急ぎ教会に薬を貰いに行きたいんだ。悪いが乗って来た馬がいる厩舎まで案内してくれ」
「え? ……わかった。こっちだ」
私は体調の悪さを装うために、顔をずっとジュストの肩に押し付けている。
ちらりと薄目で確認したが、従僕がどういう表情をしたのかも、私達がどこを歩いているのか暗くてよくわからなかった。
「ここで待っていてくれ。馬を連れてくる。俺は馬丁じゃないからどの馬かわからない。あんた来てくれよ」
客間らしき部屋に通されると、カルロに向かって青年が言う。
カルロは焦りを滲ませ首を振る。
私を心配している演技をしてくれているのだ。
「申し訳ないんだが、体調が悪いからすぐに教会に行きたいんだ。このまま彼女も連れて厩舎に行く。夫人へのご挨拶が出来ず申し訳ない」
「挨拶はわかった。伝えておくよ。ところで厩舎は暗くて足場も悪いし、体調が悪いなら寝かせておくべきなんじゃない? こんなところでモタモタしてるよりさっさと馬を取りに行った方が早いよ」
そう言われてカルロはジュストを見た。
小さくうなずくのを見ると、「わかった」と言ってカルロは客間から出て行った。
頑なな態度で不信感を抱かれるほうを警戒したのだろう。
「戻って来た時のために、長椅子に座ってろ」
私はジュストの背中から降りて頷く。
部屋は城に来た時に通された客間よりも小さな部屋だった。
壁際に長椅子があり、その横には大きなウールのタペストリーが何枚も飾られている。薄暗くてよく見えないが、女神様方が織られているようだ。
ジュストは扉のすぐ横にある本棚やその近くの暖炉を調べている。
隠し通路を警戒しているのかもしれない。
私は言われた通り、長椅子に腰を下ろした。
寝ていた方がいいのかもしれないけれど、緊張して横になっていられない。
静かにじっと待っていると、扉がノックされた。
もう馬が来たのだろうか? ジュストが扉の方へ近づくのが見える。
ドアノブに手をかけた時、私は自分の左側にひやりとした風が吹いたのを感じた。
隙間風だろう。
そう思う間もなく、私は口を塞がれて強い力で引きずられた。
「――っ!」
一瞬で暗闇の中に引きずり込まれる。
何が起きたのかわからなかった。
気が付いた時には強い力で拘束されていた。
助けて!
口を押える手を引きはがそうと爪をたててもがくが、丸太のように太い腕ががっちりと私の身体を押さえつける。
首を絞められ、息が苦しい。
声を上げているのに、声がでない。
息ができない!
ジュスト助けて‼
そして私の視界は暗闇に染まったのだった。
遠くで鋭い笛の音と、私を呼ぶジュストの声が聞こえた気がした。
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