【短編】好きな人に暴言を吐く呪いにかけられた従者とそのご主人様

野々宮なつの

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6.暴言の呪いも悪い事ばかりじゃない

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 翌日、手分けして情報を集めることにした。
 勇者の記録の一般に広まっている物を読んで行程を推測してから、勇者の子孫へ会いに行った。

 勇者はもう亡くなっていたが、息子夫婦がいて事情を話すとジョルジョに同情していろいろと教えてくれた。
 その話を聞いて、ジョルジョは自分なりの『火竜の卵』を完成させたらしい。

 ジョルジョの自宅に呼ばれて席に着くと、ひとさら目の前に出てきた。
 白い皿の上に茶色い焦げ目のついた白くて丸い物体。その上に細い糸のようなものがたくさんかかっている。

「この糸のようなものは飴です。中央の白い球体は卵をイメージしています」
「巣の中の卵がイメージなんだな」

 微笑みながら頷くジョルジョ。
 
「ここからが本番ですので少し離れてくださいね」

 そう言って、ジョルジョは上から何かを振りかけると飴に火をともした。
 一瞬で青い炎が燃え上がる。

「おおっ!」
「燃えてます!」

 ブルーノも興奮しているようだった。
 食い入るように皿の上を見つめていた。
 炎は数秒皿の上で踊ると消えてしまった。

「できました。食べてみてください」

 スプーンを手に取り口に運ぶ。

「冷たいぞ。ジェラートが入ってるのか?」
「ええ、不思議です。さっきまで燃えていたのに全然熱くありません。溶けてもいませんし」
「それにこの香りがいいな」

 ジョルジョが照れながら言う。

「ラム酒です。お酒ですがアルコールは飛ぶので大丈夫です。中はジェラートですが溶けないんですよ、不思議でしょう?」

 にこにこと笑うジョルジョは手放しで褒められてとっても嬉しそうだった。

「不思議だし面白い! 燃えている様子から『火竜の卵』とつけてもおかしくないと思うぞ」
「本当に大丈夫でしょうか……。勇者の息子さんは現地の果物がそうじゃないかっておっしゃってました。でもそれも時期が違うみたいで手に入らなそうでして」

 王は本物の卵を期待していると思っているジョルジョは不安で震えている。
 クレメンテは腕を組んで宙を見上げた。

「そうだな。確かに本物の竜の卵だと勘違いしているのかもしれない。だが、そこは正直に言えばいいんじゃないか? 勇者の息子だって竜の卵なんて取って来てないって言っていたじゃないか。それどころか竜退治だってしてないって。『火竜の卵』という果物を取って来たせいで、竜退治をしたと思われていると」

 勇者も息子も竜退治を否定しているのに、それを利用しようとした国が噂を真実のように語っていたのだ。
 結局、嘘だということを忘れた王家が、竜の卵を食べたいなんて言い出しているんだから。

「後は上手な言い方でしょうか……。これはまだ私達以外には食べていないんですよね?」
「はい。似たような料理がありまして。仕上げにお酒をかけて火をつけて香りを移すんです。それで思いつきました。燃えてる様子が派手なので見栄えもしますから」
「この国で初めて国王が召し上がるってことを強調したりしてみるのはどうでしょう」
「なるほど、特別感ですね」

 呟くジョルジョは不安そうだった。

「でもそれでも駄目だったらどうしたらいいでしょうか……」
「それならこの国を出るしかないな。なんなら一家でボクたちの国に来るか? 小さな島国だからジョルジョがレストランを開いたらみんな喜んでくれそうだ」
「私達こう見えて、ツテを持ってますのでいざという時頼りになると思いますよ。母国限定ですが」

 クレメンテとブルーノの言葉にようやく固い表情をやわらげたジョルジョ。

「そうですね、うん。もし駄目だったらその時は亡命考えますね」

 * * *

 数日後、無事になんとかなったという連絡をジョルジョからもらった。
 どうやらそもそも王様は「なんか竜の卵って料理あるらしいね」と呟いたのを、側近たちが気を回して「竜の卵を取って来い」とジョルジョに言ったらしい。
 伝言ゲームみたいになったせいで王様の意図とは曲がって伝わったらしい。

 だからあのデザートを持って行って王様は大喜びしてくれたそうだ。

「ジョルジョ、なんとかなってよかったな」

 宿のベッドの上でだらけきりながら新聞を読む。
 そこには『王様も大絶賛! 新たな名物・火竜の卵』という見出しでジョルジョの勤めているレストランの写真が載っていた。繁盛してそうだ。
 これなら成功報酬として少しは『何でも屋』の報酬をもらえるかもしれない。一度ダメ元でお願いに行ってみようか。
 そんなことを考えていたら、ブルーノが近寄りクレメンテから新聞を取り上げた。

「ご主人様、何もしなくてもぐしゃぐしゃの髪の毛がますます鳥の巣のようになっているじゃありませんか、しゃんとしてください。低知能の馬鹿者だと思われます」
 
 ジロリとみると、ブルーノが眉を下げている。
 これはあれだ「ご主人様、綺麗な御髪が乱れています」って言いたいんだな。後半はちょっとわからない。
 クレメンテはわざとらしくため息を吐くと、大声で言った。
 
「あー、ボクもどこかにいる『何でも屋』にブルーノの呪い解いて欲しいって頼みたいなぁ」
「見捨てるんですか」
「そんなことできるわけないだろ」

 クレメンテはベッドから起き上がるとブルーノへ抱き着いた。
 優しく抱き留めてくれる腕。ぐしゃぐしゃの髪の毛を整えるように撫でてくれる。
 ブルーノを見上げると顎を持ち上げられる。クレメンテが目を瞑ると柔らかな感触が唇に触れた。

 小さく息を吐き、ゆっくりと瞼を開くと微笑む。
 
「なんやかんやイラつくこともあるけどな、最近呪いも悪い事ばかりじゃないって思うんだよ」
「罵られる趣味ですか?」
「ちげーから! そうじゃなくて」

 クレメンテが首を傾げる。
 
「お前が暴言を吐き続けている限りボクのことを愛してるってことだろ? ある意味とっても分かりやすいなって思ってさ」

 人の心は移ろいやすく見えにくい。
 それがこんな形だけどはっきり示されるのだ。

 見方を変えれば悪い事ばかりじゃないって思ったのだった。
 
 でもやっぱり呪いを解くのは諦めないけどね!
 


 END

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