33 / 54
Q3・それは何通りある?
秘匿流出
しおりを挟む*
事件が起きたのは、それからちょうど一週間後のことだった。
俺は通話の呼び出し音で目が覚めた。薄暗がりの中、手探りでスマホを確認する。起床すべき時刻はまだ先だ。メッセージアプリの通話機能を使い、こんな時間に連絡を寄越してくる者がいるらしい。カーテンを開け、昇ったばかりの太陽を拝んでからボタンをタップした。
「ごめん、起こしたよね」
名前が表示されていたので、相手が誰であるのかは分かっている。花房だ。日頃から連絡は取り合っているものの、生活リズムが合わないこともあって、こうやって電話が掛かってくることは滅多になかった。
「もう起きるところだったから構わないよ。でも、急にどうしたの」
さらりと半分だけ嘘をつく。彼の声には焦りの色が見えた。何かトラブルでも起きたのだろうか。花房は言葉を選ぶかのように少しだけ沈黙したが、やがてゆっくりと用件を告げた。
「蜂須さんの母校の件、ネットで騒ぎになってる」
「……え?」
一瞬、思考が追い付かない。不祥事ではないことに安堵したが、母校の件とは一体どういうことだ。確かあの人は経歴を非公開にしていて……でも、大卒ではあると明言していたらしくて……別に問題ないんじゃないか? どうせ立派なところだろう、我らがアラクネの社長だぞ。舐めてもらっては困る。
振り返ってみれば、寝ぼけていたとしか思えないことを俺は考えていた。お気楽な反応に花房の方も落胆したことだろう。小さな溜め息の後に「とにかくネットで調べてみて」とだけ言い残し、通話は切られた。
「ネットで調べてみろ、つってもなぁ……」
俺だって、アラクネの名を挙げるネットニュースには目を光らせているつもりだ。ほんの昨日まで、不穏な動きは全く見られなかった。たった一夜で何が起こるというのか。とりあえず「アラクネ 蜂須瑠璃子」というワードで検索してみる。
「……これかな?」
例によって、どこかの掲示板から切り抜いてきただけのネット記事。匿名希望者たちが集まって、あることないことを噂している。こんなものに信憑性はないと思いつつ、花房が調べろと言ったのでクリックしてみた。
記事の冒頭。話題の提供は唐突だった。
〈拾い画だけど、これって蜂須の筆跡で間違いない?〉
掲載されているのは、手書きの文章を撮影した画像だった。クリーム色の紙面にサインペンで書き記されているように見える。何ともぎこちない筆跡だが、本人なりに丁寧に書いたことが伝わってきた。
《仲良くしてくれてありがとう。ミノリ大学でも親友でいてね。 三神蓮子》
ありきたりな寄せ書きの文面だ。おそらくこれは、卒業アルバムの一ページなのだろう。よく見ると端の方に校章の透かしが入っている。つまり、この一枚の画像のせいで、三神という少女は母校も進学先も晒されてしまった――というわけだが。
えっ。蜂須さんの本名が、三神蓮子だってこと?
慌てて続きを読む。この画像だけでは何も分からない。どこかの高校生が卒アルに寄せたメッセージというだけだ。投稿者は筆跡を根拠にあげているが、そもそも蜂須が字を書くところなんて見たことがない。あの人、サインすら書かずに名刺交換で済ませているし。勉強をするときも、タブレットでタイピングしているし。アラクネに所属している俺だって知らないのだから、どこぞの有象無象が彼女の筆跡を見る機会なんて……。
そこまで考えたとき、電撃のように脳裏を過る光景があった。
「一蓮托生の〈蓮〉だ……」
『クエスチョン5』にて。順調に早押しクイズを解いていた蜂須は、最後の最後で筆記形式のクイズに参加させられた。四字熟語を一文字ずつ、四人で分担して書き記す。シンプルな問題に思えるが、異変が起きたのはそのときだった。それまで好成績を収めていたのに、急にうろたえて何も書けなくなってしまったのだ。かろうじて答えられたのは「一蓮托生」の二文字目だけ。その「蓮」の字と「蓮子」の字を見比べたというのか。
〈ほいっと。先日のクイズ番組のスクショ〉
別の誰かが勝手に画像を貼る。やめろ、と胸の内で叫んだ。それって無断転載なんだからな。そうやって有名人のことを嗅ぎまわって楽しいのかよ。新しい知識を得るために勉強をしたり、自分で何かを生み出したりする方がずっと有益じゃないか。アラクネで働く人たちを見て、俺もようやく気付けたのに。
でも、外の世界では所詮これが「当たり前」で。極上の娯楽に過ぎなくて。
〈あー、確かに一致しますわ。これは言い逃れできんね〉
〈半端に悪筆だから余計に目立つな。偶然に似たとも思えない〉
〈つうかミノリ大だったのかよ。波久亜学園からのミノリ大だったら、普通に受験失敗じゃねえか。高い学費がもったいねぇ〉
(受験、失敗……)
その単語に視線が釘付けになる。蜂須と会ったこともない赤の他人が、蜂須の進学先を失敗だと断じた。そんな権利があるものかと反駁したくなるが、画面の前で叫んでも届きはしない。それに、奴らには奴らの持論があることは知っていた。学歴とは投資だ、という考え方がある。そして社会人学生でもない限り、資金源は本人ではなく親だという歪な環境に身を置くしかない。
本人が何を望もうと、どれだけ頑張ろうと。親の投資に見合った結果を出さなければ、ただの失敗に過ぎない、と。
勉強とはそういうものではないはずなのに。難関大学も、間口の広い大学も、新設されたばかりの大学も、それぞれの強みをアピールして学生を集めている。何を学べるのか、どんな設備があるのか、どういった教授が揃っているのか。立地を参考に選んだっていい。学力的には見合っていても、学費のせいで選べない場合もある。
ただ名の通った大学に進めば「成功」などという、単純な話ではないと訴えたい。この夏、マリアと風見の衝突を見て、俺はそのことを思い知った。皆、それぞれの事情の中で生きているのだ。
いっそ、この掲示板に乗り込んで書いてやりたい。そんなことも考えたが、結果が目に見えているのでやめた。きっと奴らは即座に返してくるだろう。お前の学生証か合格通知を見せてみろ、と。俺の経歴では発言権すら得られないのだ。
暗澹たる気持ちで記事の続きを読む。こういったところに集まるのは、元より思考の似通った者ばかりだ。だから誰も異議を唱えることなく、蜂須を蔑むレスが連なっていた。
〈波久亜学園つったら、幼稚園から大学まである一貫の女子校だろ。そのまま系列の大学に進みゃ良かったのにな。そしたら少なくとも箔はつくのに〉
〈ここで内部進学なんてしたら、それこそ無能の証明だろ。人生で一度も受験をしないことになるんだぞ〉
〈かといって、受かった先がミノリ大というのはパッとしねぇなぁ〉
〈そもそも、この画像がネットに落ちてるってことは、親友が晒したんだよな。裏切られてるじゃん。かわいそ〉
「落ちてるんじゃない、盗んできたんだろうに」
思わず口に出る。どいつもこいつもスクショや画像を「拾った」と言うが、ネット上に落ちているものなんてない。動画編集の仕事をするようになってから、こういった認識の違いにうんざりすることが増えた。引用の必要性があるのなら転載元を明記しろ。勝手に複製するな。その画像一枚のせいで、過去の全てを暴かれてしまう人もいるというのに。
そう、問題は蜂須の過去だ。
ミノリ大について、俺は名前くらいしか知らない。しかし悪い噂は聞かないし、落ちこぼれが行き着く場所でもないと思う。確かにパッとはしないものの、合格難易度はそれなりだ。
問題は彼女が波久亜学園出身だということの方だろう。小学生、あるいは幼稚園児の頃から学園で囲って英才教育を施し、難関大学の合格者を多数輩出している進学校だ。充実した設備と質の良い教育が売りなだけあって、学費は目玉が飛び出るほどに高い。むしろ教育内容よりも学費の方が噂になりがちで、下世話なランキングで何度も目にしたことがあった。
とはいえ、いくら学費が高かろうと、それに見合った教育が受けられようと、難関大学への進学が保証されているわけではない。当然の話だが。
記事に貼られた二枚の画像を見比べる。蜂須の抱く空気からは想像もつかない、大味な筆跡だ。子供が隣にお手本を置きながら書いたような印象。しかし生放送の番組でもこの字を書いていたのだから、これが彼女の精一杯なのだろう。人間、誰しも得手不得手はある。他人がとやかく責めていいことではない。筆跡は寸分の狂いもなく一致しており、三神蓮子が蜂須瑠璃子であるのは間違いなさそうだった。
とにかく、オフィスに行こう。
このネット記事が投稿されたのは今日の早朝。ということは、スレッド自体は昨日から動いていたのか。夜型の花房が就寝前に記事を見つけ、ひとまず俺に連絡をくれたのだと思う。蜂須は休暇中だから、まだそちらには伝えていないはず。伝えたところで彼女には何もできない。画像は何度も複製され、もはや誰の手からも離れた場所にある。
予定よりも早い時刻だが、自転車を漕いでオフィスに向かった。フレックス制とはいえ、こんな時間に仕事を始めている社員はいない。昼夜逆転している花房が退勤した後は、一般的な会社と同じように八時過ぎまで無人になるのが常だった。しかし今日は人影が見える。事務所の奥に三人。そして、俺と同じタイミングで到着したマリアが隣に。
「……例の投稿、見たわよね?」
眉をひそめつつ、彼女は尋ねる。俺は頷いた。彼女も花房から連絡を貰ったのだろうか。いや、先に自分で気付いていそうだな。大切な社長に悪い噂が立たないよう、常日頃から監視や火消しをしていてもおかしくない。だとすれば、風見や蝶野は彼女に呼び出されたのか。
「そもそも本当なのか? あれは」
椅子に座り、デスクに片肘をついた姿勢で風見が言った。余裕のある姿にも見えるが、声色は低く鋭い。彼の問いかけに対して、マリアは悔しそうに応えた。
「実は、私も蜂須さんの母校については知らないんです」
秘書のような役割を務めながらも、そこまでは明かされていないのか。マリア自身の学歴については、風見以外の全員が知っていた。知った上で触れないことが暗黙の了解になっていた。一方、蜂須の過去はさらにガードが固い。こうやって晒されてしまうことなんて望んでいなかったはずだ。
そうなると、事実を確かめる方法は……。
全員の視線が花房へと集まる。彼はあからさまに視線を泳がせると、唇をぎゅっと噛み締めた。その態度こそが答えを告げたようなものだ。数秒後、無言の圧に耐えかねて口を開く。
「自分は知っていた。でも、絶対に教えちゃいけないって」
まあ、彼の場合は当然か。後見人として生活を共にしていたのだから、通っている大学を隠し通すわけにもいくまい。
「じゃあ、ガセではないのか」
そんな言葉と共に、風見は溜め息をつく。大学のランク付けなんてくだらない、と話していた彼のことだ。決して蜂須の出身大学に失望したわけではない。ただガセではない以上、一蹴することもできなくなった――という困惑のあらわれだった。
「どうする? 本人に連絡をとるか?」
「待ってください。社長はまだ休暇中です。それに、連絡をとったところでできることは何も……」
「取引先から事実確認が来るかもしれないな。どう答える?」
あくせくと相談するふたりの傍ら、花房が虚空を見詰めて考え込んでいる。今さらながら、その瞳が真っ黒であることに気付いた。普段の蛇のような色形ではない。慌ててオフィスに戻ってきたせいで、コンタクトレンズを着け忘れたのだろう。彼にとってもそれほどの緊急事態なのだと伝わってくる。
「現在、蜂須が抱えている仕事は何があったっけ?」
「雑誌『詩と知識』のコラム連載がひとつ。締切は来週末です。また、小説『数学的思考の日々』の監修を請け負っていますね。こちらも締切は来週。休暇後、戻ってきてからでも間に合うスケジュールですが……」
手帳も開かずにすらすらと答える。相変わらず秘書以上の働きぶりだ――などと考えたとき、近くの電話がけたたましい音を出した。いや、音量は普段と変わらないはずなのだが、緊迫した状況なのでやけに騒がしく聞こえる。即座にマリアが受話器を取った。
「はい、アラクネです」
花房が横から手を伸ばし、スピーカーボタンを押す。通話相手の声が俺たちにも聞こえるようになった。
「あれ? 蜂須さんのケータイではないのですか?」
電話口の相手は困惑しながら『詩と知識』の編集担当であることを告げた。蜂須が抱えている仕事の関係者だ。緊張が走る。もしや、この騒ぎを受けて何らかのクレームを入れるためにかけてきたのか。
「こちらはアラクネのオフィスです。蜂須は現在、外出しております。どういったご用でしょうか」
休暇中だとは言わない。ただでさえ好き勝手に騒がれているというのに、これ以上勘ぐりの材料を与えたくない。そんな咄嗟の機転を感じた。通話相手は特に気にするそぶりもなく、素直に用件を告げた。
「蜂須さんにお願いしていた原稿の件です。予定していた締切よりも随分と早くいただきまして。たいへん助かりましたので、お礼を申し上げようかと」
「……原稿?」
マリアが怪訝な声をあげる。その仕事は、休暇へ入った時点では仕上がっていなかったはず。スケジュールを知り尽くしているマリアが勘違いするとは思えない。
「ええ。今朝しがた、完璧な状態で受け取りました。ありがとうございます」
通話が終わった後、俺たちは黙って顔を見合わせた。おそらく、さっきの編集者は例の騒ぎを知らない。何の含みもない、純粋に感謝を述べる声色だった。そのことにひとまず安堵したものの、新たな不安要素が舞い込んでくる。
「あいつ、やっぱり旅館で仕事を進めていたか……」
風見が首を振りながら呟く。原稿が今朝送られたということは、彼の推理に間違いはないだろう。責任感の強い蜂須ならやりかねない。ただ、今回に限って考えると、他の理由もある気がしてくる。まるで、自らの背負うものを早く手放そうとしているかのような……。
何もできないまま電話機を囲んでいると、再びそれが音を発した。こんな時間に立て続けの着信。不審に思いながらも、先ほどと同じ動きを繰り返す。マリアが受話器をとり、花房がスピーカーのボタンを押した。
「どうも、蜂須さん。柳田です」
親しげな口ぶりの中年男性の声。いったい誰なのか分からなかったが、ここがアラクネのオフィスだと伝えるとすぐに名乗ってくれた。『数学的思考の日々』の作者、つまり小説家らしい。またしても蜂須の抱える仕事の関係者だ。
「あの、締切でしたら来週かと……」
「締切? いいえ、もう提出してくれはったじゃないですか」
あけらかんとした返答に、マリアの顔が強張るのを察する。仕事がどんどん前倒しされている。本来なら復帰後まで放っておいてもいい作業を、旅館にいるはずの蜂須が急ピッチで終えたのだ。もう半端な仕事はひとつも残っていない。
「まあ確かにね、早ければ早いほど嬉しいとは伝えましたよ。とはいえ、これほど仕事が早いとは思いませんで。お礼を申し上げねばな、と連絡した次第です。でも、無理はなさらんでくださいね。私が言えた立場ではあらしやせんが……」
感謝されて悪い気はしないが、こちらは何も知らない。原稿を送るならこっちにも連絡をくれ。どうして急いで仕事を進めているのか、説明が欲しい。しかし柳田が俺たちの想いを知るはずもなく、上辺だけは穏やかに会話が続いた。
「ああ、それとね」
急な話題転換。マリアが覚悟を決めるように受話器を握りなおす。その耳元に、柔らかな京訛りの言葉が注ぎ込まれた。
「母校についてとやかく言われとるそうですけど、気にすることやないと伝えてくださいな。ミノリ大学もええとこでっせ。うちの倅の第一志望もそこでしてね、田舎の小さい高校出身やけど、一生懸命勉強して合格しましてん。今は楽しそうにキャンパスライフを送っとりますわ。本人が納得しとるんやったらそれでええんとちゃいますの。外野の言うことに耳を貸すことあらへん」
「ありがとう、ございます……」
柳田は全て知っていたのだ。当人はインターネットに疎そうであるし、息子に教えてもらったのかもしれない。ミノリ大に通っているという大学生の息子に。彼の目にこの騒ぎはどう映ったのだろう。自分なりに精一杯勉強して受かった大学が、ただの「失敗」だと一蹴される。あのスレッドのターゲットは蜂須ひとりであったが、巻き添えで傷ついた人間は何人に上るのか。
またよろしゅう、と締めくくって通話は切れた。マリアは受話器を置き、長く息をつく。こんな状況でも応援してくれる人はいるのだ。ありがたい。問題は、それを蜂須本人に伝える手段がないということで……。
「自分あての電話がこっちへ流れるように設定したのか!」
風見が叫んだ。二度の通話を経て、俺もそのことには薄々と感づいていた。一般企業なら始業前の時間帯。取引先がオフィスの電話に掛けてくることは珍しい。しかし蜂須自身のケータイは、七時以降なら大丈夫だと本人が周知している。マリアが自分のスマホを取り出す。二回ほど画面をタップすると、数秒おいてから傍らの電話機が鳴り始めた。
「今、蜂須さんの番号に掛けました……」
絶望を孕んだ声が足元に転がる。先ほどは「連絡をとったところで」と話していたマリアも、この数分間で考えが反転したことだろう。そもそも俺たちにはそれができないのだ。彼女の番号を呼び出しても、オフィスに繋がってしまう。もちろん、着信履歴に気づいて掛けなおしてくれる……という可能性はあるものの、あくまで可能性の話だ。この設定にしたのが蜂須自身である以上、どんな連絡にも応じる気はないのだと思う。
「休暇前にはそんなこと言ってなかったよな? 連絡は一切断つ、って」
風見の言葉には全員が頷いた。むしろ「何かあったら連絡して」と言い残していたはずだ。相談や依頼に応じてしまって休めないのでは、と心配した記憶がある。
「つまり出先で転送の設定をしたわけですね。やっぱり、あの記事を知ってしまったから……」
マリアが頭を抱える。長い髪と左手によって、端正な顔がすっかり覆い隠された。そのまま全員が無言になってしまった。どんな難関大学の入試問題すら解いてしまう彼らにも分からないことはある。アラクネの社長がどんな行動をとるつもりなのか、今は誰にも想像がつかない。
「でも、まぁ……そのうち戻ってくるだろ」
風見の呟きに、マリアが不満げな顔をする。誰かがそう言うだろうと予測していたが、実際に言ってほしくはなかった――という心情が伝わってきた。しかし風見の言葉にも一理ある。蜂須がこのまま行方知れずになるはずがないという理由は、いくつもあげることができた。
「アラクネの社長という立場である以上、いつか必ず顔を出す。住んでいる家も花房と一緒なんだから、勝手にいなくなったら色々と困ることくらい分かるだろ。あいつは俺たちに心配はかけるが、決して迷惑はかけない」
ここで半年間働いて、俺にも蜂須の性格が読めてきた。仕事を大量に抱えて周囲を心配させるものの、実際に破綻したことはないのだ。今回の休暇だって、具体的な影響を受けた仕事はひとつもない。むしろ前倒しでこなし、感謝までされている。
「そういうものでしょうか……」
説明を聞いてもマリアはまだ不満げだったが、やがて意を決したように頷いた。
「会社はともかく、花房くんと同居しているというのは大きいですね。蜂須さんが失踪すればたちまち彼が困ることになります。戻ってくると信じましょう」
社長失踪からの会社倒産――というニュースは度々耳にするものの、それでも切り離せないのが家という存在だ。オフィスではマリアたちが、自宅では花房が目を光らせて待っている。そう簡単に逃げ切れるはずがない。この話はこれで終えよう、という空気があたりに広がった。
「花房はもう帰っていいぞ。夜勤だったのに来てくれてありがとうな」
風見にそう告げられ、花房はおずおずと荷物をまとめ始める。彼も心配なはずだ。しかしどうすることもできない。普段と異なる真っ黒な瞳が、艶やかに潤んでいるような気がした。
「さて、俺たちは仕事だ。散った散った」
両手を広げて「解散」のポーズ。マリアが覇気のない足取りで自身の撮影部屋へ向かった。俺も仕事に取り掛かろうと思ったが、座ったまま動こうとしない蝶野の姿が気になる。彼はここに来てからほとんど言葉を発していない。狼狽とも傍観とも異なる表情で、じっと俺たちの行動を見守っていた。
「僕、今日は昼からの予定だったから一旦帰ってもいいかな」
やっと口を開いたかと思えばこれだ。風見は呆れたように「好きにしろ」と返す。それでも動き出そうとしない彼を心配して眺めていれば、不意に視線がこちらに向いた。ばちん、と音が鳴りそうなほどにしっかりと目が合う。
「蝶野さん、何か分かることはありませんか」
咄嗟に曖昧な質問を投げかけてしまった。しかし半分は本気でもあった。たった数行の文章から相談者の通う高校を言い当てたように、彼だけが知っている情報があるかもしれない。蜂須がどこにいるのか、これからどんな行動をとるのか。もし予想がついているのなら教えてほしい。
しかし、彼の返答はにべもないものだった。
「僕だって、特別なことは何も知らないよ。情報源は皆と同じ」
「そうですか……。そうですよね……」
「でも、もしも君だけが知っていることがあるとしたら」
彼は立ち上がる。鞄を肩に引っ掛け、俺の隣まで歩み寄ってきた。
「考えてみて。君の知っている情報は、君にしか使えない。るりちゃんがソラくんだけに伝えたことがあったなら、彼女を見つけられるのは君だけだよ」
禅問答のような言葉に首を傾げる。蝶野は俺の反応も確かめずに、すたすたとオフィスを出ていってしまった。俺だけが知っている情報。何のことだろう。いや、そもそもそんな情報があるとも限らないのか。蝶野はあくまで「あるとしたら」と言っただけだ。
でも、振り返ってみれば、最後に彼女と話したのは俺なのかもしれない。
五年近く連れ添った幹部メンバーではなく、半年そこらのアルバイト。そんな俺だからこそ、給湯室でこっそり打ち明けてくれたことがあったのかも。
「あの……」
風見に声を掛ける。その顔がこちらを向くまでの間に、険しい表情が繕われていくのを察した。
「本当に申し訳ないのですが、今日は有給をいただいてもいいですか。こんな状況じゃ仕事に手がつかない気がして……。蜂須さんの分の動画は上がってこないわけですし、スケジュールに余裕もありますから」
アルバイトだが有給休暇は与えられている。それがアラクネだ。風見は即座に承諾してくれた。
「ああ、全く構わないよ。むしろこちらこそ申し訳ない。こんなことに巻き込んでしまって」
「いえ。俺にとっても、蜂須さんは大切な方なので」
そもそも俺がこの事件を知ったのは、花房から連絡が来たからだ。そして花房が俺に連絡を寄越したのは、俺を友人だと認めてくれているからだ。単なるアルバイトのひとりではなく、社長の一大事を伝えるべき存在だと。そのことに感謝こそすれ、不満を抱くはずもない。
「それじゃあ、気を付けて帰りな。ゆっくり休んでくれ」
「ありがとうございます」
挨拶を交わしてその場を後にする。先に出たはずの蝶野の姿はどこにもなかった。そういえば彼はどんな移動手段で通勤しているのだろう。自転車に乗っているところを見たことはない。徒歩だろうか。電車だろうか。まだまだ知らないことが多いな、と思った。
オフィスを出たからといって、行くあてがあるわけでもない。しかし家に帰るのも違う気がして、近くのカフェへと自転車を走らせた。ヒトデを模したロゴが頭上に掲げられている。『クエスチョン5』が放送される前、蜂須と遭遇したときの記憶がよみがえった。
早朝ということもあって空いていた。滞りなくカフェオレを注文し、カップを手に店内を歩く。あの日、蜂須が使っていた窓際の席を思い出し、そこへ腰を下ろした。俺の心情とは裏腹に、よく晴れた空がガラスの向こうに広がっていた。
旅館の名前を聞き出しておけばよかった。今さらどうにもならないことが頭の中を過る。高校生時代の友人がやっているという旅館。久しぶりに会うことができると、嬉しそうに話していた。
あの流れで「どこの旅館ですか」と尋ねればよかったのに。蜂須と同い年の女将がいる旅館なんて、全国にたくさんあって絞りようがない。わざわざ年齢も明かさないだろうし。
(でも、立地はある程度絞れるのかな……)
波久亜学園は都内にある。そこに通っていた女生徒が家業を継いだとすれば、遠くても隣県までと考えていいだろう。旅館はそう簡単に移転できるものではない。すぐに特定して向かうことができれば、昼過ぎにでも着けそうだ。
だが、これではまだ足りない。私立学校には通学に二時間以上かけている生徒もいる、と風見が話していた。学園を中心としたそれだけのエリアを、しらみつぶしに調べることは不可能だ。もっと他にヒントはないものか。
(親友と呼べる相手はひとりしかいない、って言っていたよな)
思えばあれが、俺だけに見せてくれた弱みだったのかも。今でこそ大勢から慕われている蜂須だが、学生時代がバラ色だったわけではないようだ。クラスの中でもパッとしない位置に収まり、受験勉強もふるわず、失敗と揶揄されるような大学に進学してしまった。その経験があるからこそ、現在の蜂須があるのかもしれない。
(そういえば、寄せ書きの文面って……)
もう見たくもないが、思いきって振り返る。スレッドに貼られた画像は二枚。片方は卒業アルバムの余白に記された寄せ書きだ。やけに画質が悪く色あせているのは何度も複製されたからだろうか。俺はその文面を読み返した。
《仲良くしてくれてありがとう。ミノリ大学でも親友でいてね。三神蓮子》
親友、という言葉がある。つまりこのアルバムの持ち主が旅館の女将なのか。だとすれば、彼女は蜂須を裏切ったことになる。本名も母校も進学先も分かってしまうような一枚を、ネット上に放流できる人物はひとりしかいない。まさか赤の他人がアルバムを盗むこともないだろうし。
密かに何らかの恨みを買っていたのか? そうとは知らず、蜂須は休養のために敵陣へ向かってしまったということ? 滞在のさなかに事件を知って、まだそこに居るとは思えなかった。
仮に好意的な気持ちで寄せ書きを晒したとしても、蜂須にとっては死活問題だ。今後の付き合いを考えなければならない。このスレッドが立てられたのは昨晩。まとめられてネット記事になったのが早朝。急ピッチで進められた仕事を鑑みるに、記事になる前から蜂須は気付いていた。早朝には原稿を送り終えて身軽になり、次の行動へ移っているはず。
旅館を突き止めるだけではまだゴールではない。しかしまずはそこにたどり着かないと、何も始まらない。俺は焦った。スマホで地図を開き、波久亜学園を中心としたエリアを表示する。旅館の数は百件近くあり、これでも全てだという確証はない。
そもそも、彼女はなぜアルバムを晒してしまったんだ。それはいつのことなんだ。卒業直後の若気の至りで投稿したのだとすれば、十年以上もネットの海を漂っていたことになる。今までは誰の興味も引かなかったが、クイズ番組の放送後、蜂須の筆跡と一致することに気付いた者が現れて――
(……あれ?)
想像を巡らせているうちに、あることが引っ掛かった。休暇に入る直前、蜂須は何と言っていた? これから向かう旅館について「高校生時代の親友がやっている」と説明していた覚えがある。そして、親友と呼べる相手はひとりだけ、とも。
(どうして『高校生時代』なんだ? 進学先が同じなんだから、大学生以降の親友でもあるんじゃないか?)
休暇中の居場所として選ぶくらいなのだから、今でも気心の知れた関係のはずだ。寄せ書きの文面を踏まえると、ふたりともがミノリ大学に進学したことが分かる。それなのに、蜂須にとって彼女は「高校生時代の親友」のままなのだ。
(つまり、この時点では進学予定だったものの、実際に大学生活を送ることはなかったということか……?)
自分の立てた仮説に胸中で頷く。そうだ、この可能性は十分にある。卒業アルバムを受け取った時点では「大学でも親友」になるはずだった。しかし実際には「高校生時代の親友」止まりになってしまった。その理由は、高校卒業から大学入学までの空白期間にあるのだろう。
彼女の身に起きたことを順番に想像してみた。波久亜学園に通い、実家は旅館を経営。それなりに裕福な家庭だったに違いない。少なくとも、大学受験を決めた頃までは。両親は進学を認めた。彼女自身も、大学で学ぶつもりがあった。だがそれは卒業後に撤回され、嘘となった寄せ書きだけが手元に残ってしまい……。
(順調だった旅館に何かが起きて倒産の危機に。頼りになるのは高校を卒業したばかりの娘だけ。彼女は進学を諦め、家業を継いで若女将となった……)
いかにもネットニュースが食いつきそうな話題だ。これなら検索に引っ掛かるのではないだろうか。人気旅館の転落、十代の若女将、奇跡的な復活……。見出しになりそうなワードを並べ立て、近隣の地方紙のサイトを調べる。ネット中毒者を舐めるなよ、などと自慢にもならないことを考えながら。
時期や地域を絞って検索をかけてみる。こういったことを取り上げそうなインフルエンサーのSNSも覗いてみる。もう十年も前のことだが、余計な情報が淘汰されている分、むしろ探しやすいかもしれない。少しずつだが核心に近づいている気配があった。
「これだ!」
ついにそれらしきものを見つけた。喜びのあまり声が出てしまったが、気に留めている暇はない。調べ始めてから一時間ほどが経ち、客の姿も増えてきた。コーヒー一杯で粘るのも申し訳なく、さっさと結論を出してしまおうと意気込む。
地方紙が手掛けるニュースサイト。紙の新聞には載らない記事も多く掲載されている。取材を受けているのは湯花旅館の若女将で、和田美園という名の人物だ。当時十九歳。蜂須の年齢とも一致する。
――湯花旅館、奇跡の復活。十九歳の若女将に聞く覚悟とは。
そんな見出しの先を読み進めていく。半分ほどは予想通りの内容だった。かつての湯花旅の経営は順調で、美園も特に心配することなく高校生活を送っていた。大学を卒業した後は、両親の元で学びながら旅館を継ぐつもりだったらしい。だが、受験勉強が本格化したあたりから雲行きが怪しくなり始める。
(お母さんが倒れて、経営も受験勉強もままならなくなってしまったのか……)
波久亜学園からミノリ大へ。いわゆる「失敗」と揶揄される進学に甘んじてしまったのには理由があったのだ。親の介護と傾く経営に気を取られながらでは、落ち着いて勉強ができるはずもない。
結局、そのミノリ大すら諦めざるを得なかったわけだが。
彼女が高校を卒業した直後、ついに母親が亡くなった。支配人である父親ひとりでは経営が立ち行かず、美園は若女将となることを決意する。ここで蜂須との運命が違えた。仲良くキャンパスライフを送るはずだったふたりは、高校生時代の親友という関係に留まったのだ。
(……どうする?)
いきなり押しかけるのは無計画すぎる。一週間前から蜂須が泊まっていたのか、電話で確かめることはできるだろうか。俺は席を立ち、店の片隅に移動した。スマホで調べた湯花旅館の番号をタップする。
「お待たせしました、湯花旅館です」
少し電波が乱れている。山深いところにある旅館だし、仕方がない。俺は明瞭な発声を心掛けながら、単刀直入に用件を告げた。
「そちらに蜂須瑠璃子という方が滞在していなかったか、確かめたいのですが」
そう尋ねてから「三神蓮子」の方で訊くべきだったかな、と後悔する。蜂須はどちらの名前でチェックインしたのだろう。友人の切り盛りする旅館なのだから、本名の方だった可能性が高い。
そして何より、この訊き方では野次馬だと思われてしまうのではないか。
「……お客さまの情報についてはお答えしかねます」
案の定、事務的な答えが返ってくる。俺は慌てて弁解した。
「待ってください。自分は関係者なんです」
財布の中にはアラクネのスタッフ証があるが、電話越しに見せることはできない。一旦オフィスに戻るのが妥当か。アラクネの電話番号から掛かってきたなら、さすがに信じてくれるはず。埒が明かないならマリアにバトンタッチしてもいい。
(ここで引き下がるわけにはいかないな……)
まだ質問には答えてもらっていないが、通話相手の反応から既に確信を得ていた。蜂須は湯花旅館にいたのだ。だが、この警戒ぶりでは詳細を聞き出せそうにない。言葉を重ねるほどに不利な方へと進んでいる気がする。
俺があれこれと考えているうちに、相手の方針は定まったようだった。
「関係者さまだとしても、お話しできることはありませんね」
徹底的に蜂須を優先する。休暇中なのだから、社員からの呼び出しであっても応じない。そう決めたのだろう。これ以上はどうしようもなかった。俺の初手がまずかったか。こうなってしまっては、マリアに代わったところで効果はない気がする。落胆しつつ、時間を取らせたことを詫びてから通話を切った。
(だったらもう、行くしかない)
鞄を掴んで立ち上がる。スマホで軽く調べてみたところ、電車を乗り継いで二時間半ほどで着けるようだ。とはいえ山奥にある旅館なので、最寄りの駅からどのように移動すればいいのか分からない。まあいい。行ってから考えよう。店を出て自転車にまたがり、駅へと急ぐ。
マリアたちに伝えた方がいいのかな、と過った。しかしすぐさま首を振る。マリアも風見も、今頃は自分の仕事に取り掛かっているだろう。休んでいるはずの俺が、勝手に行動を起こしたなんて知る由もない。俺だって大人だ。自分が始めたことは自分で責任をとるべきだと考えた。
カフェを飛び出し、最寄りの駅へ。駐輪場に自転車を停める。ここに戻ってくるのは何時間後になるだろう。そのとき俺の隣には誰が立っているのだろう。不安は尽きない。しかし進むしかない。有給休暇を認めてくれた風見の顔が浮かんだが、振り切るようにホームへ続く階段を駆け上った。
0
あなたにおすすめの小説
睿国怪奇伝〜オカルトマニアの皇妃様は怪異がお好き〜
猫とろ
キャラ文芸
大国。睿(えい)国。 先帝が急逝したため、二十五歳の若さで皇帝の玉座に座ることになった俊朗(ジュンラン)。
その妻も政略結婚で選ばれた幽麗(ユウリー)十八歳。 そんな二人は皇帝はリアリスト。皇妃はオカルトマニアだった。
まるで正反対の二人だが、お互いに政略結婚と割り切っている。
そんなとき、街にキョンシーが出たと言う噂が広がる。
「陛下キョンシーを捕まえたいです」
「幽麗。キョンシーの存在は俺は認めはしない」
幽麗の言葉を真っ向否定する俊朗帝。
だが、キョンシーだけではなく、街全体に何か怪しい怪異の噂が──。 俊朗帝と幽麗妃。二人は怪異を払う為に協力するが果たして……。
皇帝夫婦×中華ミステリーです!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
~後宮のやり直し巫女~私が本当の巫女ですが、謂れのない罪で処刑されたので後宮で人生をやり直すことにしました
深水えいな
キャラ文芸
明琳は国を統べる最高位の巫女、炎巫の候補となりながらも謂れのない罪で処刑されてしまう。死の淵で「お前が本物の炎巫だ。このままだと国が乱れる」と謎の美青年・天翼に言われ人生をやり直すことに。しかし巫女として四度人生をやり直すもののうまくいかず、次の人生では女官として後宮入りすることに。そこで待っていたのは後宮で巻き起こる怪事件と女性と見まごうばかりの美貌の宦官、誠羽で――今度の人生は、いつもと違う!?
裏切りの代償
中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。
尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。
取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。
自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
後宮なりきり夫婦録
石田空
キャラ文芸
「月鈴、ちょっと嫁に来るか?」
「はあ……?」
雲仙国では、皇帝が三代続いて謎の昏睡状態に陥る事態が続いていた。
あまりにも不可解なために、新しい皇帝を立てる訳にもいかない国は、急遽皇帝の「影武者」として跡継ぎ騒動を防ぐために寺院に入れられていた皇子の空燕を呼び戻すことに決める。
空燕の国の声に応える条件は、同じく寺院で方士修行をしていた方士の月鈴を妃として後宮に入れること。
かくしてふたりは片や皇帝の影武者として、片や皇帝の偽りの愛妃として、後宮と言う名の魔窟に潜入捜査をすることとなった。
影武者夫婦は、後宮内で起こる事件の謎を解けるのか。そしてふたりの想いの行方はいったい。
サイトより転載になります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる