1 / 1
葬巡蝶
しおりを挟む
主に夏の葬式によく現れるソウジュンチョウは、漢字では葬巡蝶と書き、弔い蝶とも呼ばれる。
前羽と後羽は乳白色、前羽を広げた大きさは四センチほど。遠目ではモンシロチョウにも見える。モンシロチョウは灰黒色の斑点を持つが、ソウジュンチョウの羽は輪郭が黒く縁取られていて、模様はない。
ソウジュンチョウの名のとおり、葬式のある場所を求めて飛び回っていると言われている。なぜ葬式に現れるのか理由は分かっていない。喪服に染み付いた防虫剤の匂いや焼香の匂いに引き寄せられていると言う人もいる。
ソウジュンチョウは参列者の動きに合わせて行動する。
開式前、喪服達の間をすり抜けて、参列者が席を目指すように羽を休める場所を探す。止まる場所を見付けるとそこに留まり、読経や焼香が終わるまで、触覚も羽もぴたりと動かさず、じっと息を潜めている。出棺のとき参列者と共に外へ出て、火葬のときには火葬炉の前にやって来る。骨上げのときには収骨室に入らず、他の参列者達が談笑する休憩室の隅で静かに待っている。
ソウジュンチョウのことを、故人が形を変えた姿として歓迎する地域もあれば、死臭を嗅ぎ付けるものとして忌み嫌う地域もある。ときには叩きつぶされることもある。
葬式に現れるソウジュンチョウはいつでも一頭だけだ。群れてがやがやと騒ぎ立てることはしない。あちこちヒラヒラ飛び回ったり、触覚をせわしなく動かしたりもしない。粛々と進行する葬式に合わせて、速やかに移動し、静かにじっと待ち、参列する。
この習性を、うごめきながら一斉に移動と停滞を繰り返す喪服の波を、自分の属する群れだと認識し、その動きに合わせている……とする学者もあるが、その生態があまりにも未知なために、想像の域を出ない。
葬式に行けば仲間がいる。共に行動し、ひとときを一緒に過ごしたあと、散り散りになってそれぞれの家路につく仲間が。ソウジュンチョウは、仲間を求めて葬式を転々としているのだろうか。葬式のひっそりとした空気も、物静かな彼らにとっては居心地が良いのかもしれない。
はるか昔から日本人の葬式を間近に観察し、そこにある静けさと安らぎを求めて葬式に姿を現すソウジュンチョウ。
きっと今この時も、仲間と共に誰かの死に寄り添っている。
【了】
前羽と後羽は乳白色、前羽を広げた大きさは四センチほど。遠目ではモンシロチョウにも見える。モンシロチョウは灰黒色の斑点を持つが、ソウジュンチョウの羽は輪郭が黒く縁取られていて、模様はない。
ソウジュンチョウの名のとおり、葬式のある場所を求めて飛び回っていると言われている。なぜ葬式に現れるのか理由は分かっていない。喪服に染み付いた防虫剤の匂いや焼香の匂いに引き寄せられていると言う人もいる。
ソウジュンチョウは参列者の動きに合わせて行動する。
開式前、喪服達の間をすり抜けて、参列者が席を目指すように羽を休める場所を探す。止まる場所を見付けるとそこに留まり、読経や焼香が終わるまで、触覚も羽もぴたりと動かさず、じっと息を潜めている。出棺のとき参列者と共に外へ出て、火葬のときには火葬炉の前にやって来る。骨上げのときには収骨室に入らず、他の参列者達が談笑する休憩室の隅で静かに待っている。
ソウジュンチョウのことを、故人が形を変えた姿として歓迎する地域もあれば、死臭を嗅ぎ付けるものとして忌み嫌う地域もある。ときには叩きつぶされることもある。
葬式に現れるソウジュンチョウはいつでも一頭だけだ。群れてがやがやと騒ぎ立てることはしない。あちこちヒラヒラ飛び回ったり、触覚をせわしなく動かしたりもしない。粛々と進行する葬式に合わせて、速やかに移動し、静かにじっと待ち、参列する。
この習性を、うごめきながら一斉に移動と停滞を繰り返す喪服の波を、自分の属する群れだと認識し、その動きに合わせている……とする学者もあるが、その生態があまりにも未知なために、想像の域を出ない。
葬式に行けば仲間がいる。共に行動し、ひとときを一緒に過ごしたあと、散り散りになってそれぞれの家路につく仲間が。ソウジュンチョウは、仲間を求めて葬式を転々としているのだろうか。葬式のひっそりとした空気も、物静かな彼らにとっては居心地が良いのかもしれない。
はるか昔から日本人の葬式を間近に観察し、そこにある静けさと安らぎを求めて葬式に姿を現すソウジュンチョウ。
きっと今この時も、仲間と共に誰かの死に寄り添っている。
【了】
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
月弥総合病院
御月様(旧名 僕君☽☽︎)
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。
また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。
(小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる