葬巡蝶

王子

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葬巡蝶

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 主に夏の葬式によく現れるソウジュンチョウは、漢字では葬巡蝶と書き、弔い蝶とも呼ばれる。
 前羽と後羽は乳白色、前羽を広げた大きさは四センチほど。遠目ではモンシロチョウにも見える。モンシロチョウは灰黒色の斑点を持つが、ソウジュンチョウの羽は輪郭が黒く縁取られていて、模様はない。
 ソウジュンチョウの名のとおり、葬式のある場所を求めて飛び回っていると言われている。なぜ葬式に現れるのか理由は分かっていない。喪服に染み付いた防虫剤の匂いや焼香の匂いに引き寄せられていると言う人もいる。
 ソウジュンチョウは参列者の動きに合わせて行動する。
 開式前、喪服達の間をすり抜けて、参列者が席を目指すように羽を休める場所を探す。止まる場所を見付けるとそこに留まり、読経や焼香が終わるまで、触覚も羽もぴたりと動かさず、じっと息を潜めている。出棺のとき参列者と共に外へ出て、火葬のときには火葬炉の前にやって来る。骨上げのときには収骨室に入らず、他の参列者達が談笑する休憩室の隅で静かに待っている。
 ソウジュンチョウのことを、故人が形を変えた姿として歓迎する地域もあれば、死臭を嗅ぎ付けるものとして忌み嫌う地域もある。ときには叩きつぶされることもある。
 葬式に現れるソウジュンチョウはいつでも一頭だけだ。群れてがやがやと騒ぎ立てることはしない。あちこちヒラヒラ飛び回ったり、触覚をせわしなく動かしたりもしない。粛々と進行する葬式に合わせて、速やかに移動し、静かにじっと待ち、参列する。
 この習性を、うごめきながら一斉に移動と停滞を繰り返す喪服の波を、自分の属する群れだと認識し、その動きに合わせている……とする学者もあるが、その生態があまりにも未知なために、想像の域を出ない。
 葬式に行けば仲間がいる。共に行動し、ひとときを一緒に過ごしたあと、散り散りになってそれぞれの家路につく仲間が。ソウジュンチョウは、仲間を求めて葬式を転々としているのだろうか。葬式のひっそりとした空気も、物静かな彼らにとっては居心地が良いのかもしれない。
 はるか昔から日本人の葬式を間近に観察し、そこにある静けさと安らぎを求めて葬式に姿を現すソウジュンチョウ。
 きっと今この時も、仲間と共に誰かの死に寄り添っている。

【了】
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