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第五章「木漏れ日の欠片」
①
しおりを挟むその日の夜。オズワルドの部屋に明かりが灯った。
「それで、話って?」
ローニャが用意してくれた紅茶で口を湿らせつつ、スカーレットは話を切り出す。
「オズ様は〝呪炎の魔女〟の二つ名に心当たりはありますか」
注意深くオズの表情を見つめるが、これという動揺もなくオズはにわかに苦笑した。
「随分物騒な二つ名だね」
「名付けられた頃は嬉々として名乗っていたんですよ」
復讐に燃えていた頃は聞いただけで震え上がるようなその二つ名を誇りに思っていたものだ。今としては黒歴史のひとつだが、さりとて不要と切り捨てられない程度には未練がある。
咳払いで気持ちを切り替えるとスカーレットは頭の中に用意した原稿を読み上げる。
「これは私の中に眠る、もう一人の私の物語です」
◇ ◇ ◇ ◇
魔国に流れ着いたスカーレットは、突如として発現した力を思いのままに使い都市を蹂躙していた。そんな災害に対応するべく魔王自ら被災地を訪れた。
その後、臣下に下ったスカーレットは命令のままに帝国と争い、メイジスの王都を焼き付くした。
そんなスカーレットに魔王は命令を下した。人類の急先鋒、その一角を担う魔法使いを葬ってこい、と
それが月夜の賢者オズワルドだった。命令通りオズワルドの住処を訪れたスカーレットはオズワルドが既に戦支度を整えていたことに驚いた。
「初めまして、月夜の賢者様」
「初めまして、呪炎の魔女殿」
こうして邂逅を果たした二人は三日三晩、己が魔法をぶつけ合い激しい戦いを繰り広げる―――ことは無かった。
オズワルドの纏う魔力は洗練されていた。わずかでも近付けばオズワルドが有利な領域に引き込まれる。それを承知でスカーレットは足を踏み入れた。
刹那、膨大な魔力がスカーレットを包み込む。防御用の魔力が吸われてオズワルドのものになっていく。
「これ、は……」
「初めましてじゃあ、ないんだよ」
オズワルドの告白にスカーレットは目を見開いた。
「スカーレット・レグルス」
その名を知る人物はそう多くは無い。呪炎の魔女の中で故郷を焼いた時の光景が呼び起こされる。
「そうか、メイジスの生き残りか!」
体の内から魔力を引きずり出すと僅かながら炎が閃いた。このまま順調にいけば体勢を立て直せる。そう睨んだつかの間
「僕は今から君を呪おうと思うんだ」
スカーレットを中心に魔法陣が描かれていく。幾重にも渡るそれは決して一朝一夕で出来るものでは無い。
「覚えておくがいい、スカーレット」
膨大な魔力が魔法陣に注がれる。オズワルドの魔力も、スカーレットの魔力も平等に吸い上げて緻密に魔法が練り上げられていた。
「オズワルド・クォーツ、それが君へ呪いを残して死ぬ男の名だ」
魔法陣の起点、力の奔流に方向性が加えられる。丁寧に精密に描かれた魔法が世界という事象を塗り替えていくような
「待ちなさい! このッ!」
立っているのがやっとの中でスカーレットはどうにかオズワルドへ手を伸ばす。視界の中で自分の手とオズワルドの姿が重なった瞬間、世界が弾けた。
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