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第五章「木漏れ日の欠片」
⑨ ★
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「あの日もこれを娼館に届けに行った帰りだったんだよ」
こちらの世界で子供を授からないようにするには行為前と行為後に男女それぞれが薬を飲む。だが常用すれば子供のできにくい体になる為、娼婦の女性はともかく跡継ぎが必要な男性には悩みの種だった。
「最初にしたときもつけてたけど」
記憶にない、とスカーレットは小首を傾げる。だが前後不覚だったせいで覚えていないのかもしれないと思い直した。
確かにあの時点で子を孕んでいれば状況は大きく違ったかもしれない。
「もちろん面倒見る甲斐性はあるよ?」
苦笑しながらオズはスカーレットの耳の裏から鎖骨までをなぞった。
「でも、勝手に孕ませて縛り付けたくはなかったんだ」
スカーレットの心臓が甘く震える。貴族の中には節操もなく遊んで女性を泣かせる輩も多い。子供が出来れば容易く逃げ場を奪えるのに。容易く逃げられる籠を用意しておきながら、本心では寂しいと叫んでいるくせに。
まるで真綿の呪縛だ。だが、それに微睡む心地よさを知ってしまった。
「いつか、欲しいです」
スカーレットは自分の下腹部を撫でる。
「オズ様との、子」
男の子でも女の子でもきっと可愛い。男の子ならきっとオズのような優秀な魔法使いになるだろう。女の子なら嫁入りには少し苦労することになるかもしれない。どちらにせよ暖かい家庭を築いていける。この人となら。
見上げるとオズが笑っていた。眦がわずかに光っている。すくい上げようと伸ばした指は手ごとさらわれ、手のひらに唇が寄せられた。
出番を焦がれるそれに避妊具が装着される。
ぐい、と膝裏を持ち上げられ熱いものが下腹部に触れた。
「じゃ、挿れるよ」
「あ、っ」
指よりもずっと体積のある肉棒が深く押し入ってくる。
ずっ、ずと動く度に甘い火花が散って腰が跳ねた。
「オズ、さまっ」
すがるようにオズの腕に触れる。次の瞬間、ごちゅと花扉を突かれる感覚があった。
「っ、入った」
どくどくと熱く脈打つそれが何だか愛おしい。自分だけに向けられた欲情に素直に喜ぶようになるなんて思いもしなかった。
スカーレットの頬に新たな涙が溢れた。
「レティ、……?」
気遣わしげにオズが様子を伺う。その頬にスカーレットは手を伸ばした。
「不思議ですね」
思い返せばオズがスカーレットを抱いたといえるのは一度だけだ。あの時は初めての快楽に溺れないよう足掻いて余裕がなかった。
スカーレットが自分自身の闇に閉じこもっていた間、この男はこんな切なそうな顔で自分に触れていたのか。もっと、ちゃんと見ておけば良かった。
「やっと、ひとつになれた気がします」
泣き出す寸前のようにオズの瞳が見開かれた。呻き声に似たか細い声を上げながら顔が逸らされる。耳が真っ赤になっているから不快を顕にしたわけではないようだ。
スカーレットの腰をオズの手が掴んだ。
「ごめん」
どうかしたのかとオズを見上げると視線が絡み合う。その金色は飢えた獣のような輝きでスカーレットを縛り上げた。
「優しく出来ない」
スカーレットの腹の中でオズが一際熱く膨らむ。
「あっ」
そう反射的に声が零れた瞬間、ばちんと大きな音が脳裏で爆ぜた。
水音が激しさを増す。何度も何度も腰を打ち付けられ、その度にスカーレットは甘い嬌声を引きずり出された。
「レティ」
互いの熱い吐息の中でオズは囁く。
「好きだ」
声を聞いているだけで絶頂しそうなのに、後頭部を抱えられ逃げ場がない。全てを犯し尽くされるのではないだろうか。
「愛してる」
スカーレットは必死でオズにしがみついた。項の後ろで腕を組み、足はオズの腰にまとわりつかせる。
「わたしもっ、あいしてます」
あとはもう、意味をなさない甘ったるい声だけが部屋に響く。好きだと素直に言えない代わりに強くしがみついた。
「あついの、きもちいぃっ」
ベッドの軋む音もばちゅばちゅとぶつかりあう音も激しさを増していく。
「も、わたしっ」
「うん」
オズがスカーレットを引き寄せる。強く抱きしめられ、愛熱を注ぎ込まれる準備が整った。
ひゅう、とスカーレットの喉がか細く鳴った。
こちらの世界で子供を授からないようにするには行為前と行為後に男女それぞれが薬を飲む。だが常用すれば子供のできにくい体になる為、娼婦の女性はともかく跡継ぎが必要な男性には悩みの種だった。
「最初にしたときもつけてたけど」
記憶にない、とスカーレットは小首を傾げる。だが前後不覚だったせいで覚えていないのかもしれないと思い直した。
確かにあの時点で子を孕んでいれば状況は大きく違ったかもしれない。
「もちろん面倒見る甲斐性はあるよ?」
苦笑しながらオズはスカーレットの耳の裏から鎖骨までをなぞった。
「でも、勝手に孕ませて縛り付けたくはなかったんだ」
スカーレットの心臓が甘く震える。貴族の中には節操もなく遊んで女性を泣かせる輩も多い。子供が出来れば容易く逃げ場を奪えるのに。容易く逃げられる籠を用意しておきながら、本心では寂しいと叫んでいるくせに。
まるで真綿の呪縛だ。だが、それに微睡む心地よさを知ってしまった。
「いつか、欲しいです」
スカーレットは自分の下腹部を撫でる。
「オズ様との、子」
男の子でも女の子でもきっと可愛い。男の子ならきっとオズのような優秀な魔法使いになるだろう。女の子なら嫁入りには少し苦労することになるかもしれない。どちらにせよ暖かい家庭を築いていける。この人となら。
見上げるとオズが笑っていた。眦がわずかに光っている。すくい上げようと伸ばした指は手ごとさらわれ、手のひらに唇が寄せられた。
出番を焦がれるそれに避妊具が装着される。
ぐい、と膝裏を持ち上げられ熱いものが下腹部に触れた。
「じゃ、挿れるよ」
「あ、っ」
指よりもずっと体積のある肉棒が深く押し入ってくる。
ずっ、ずと動く度に甘い火花が散って腰が跳ねた。
「オズ、さまっ」
すがるようにオズの腕に触れる。次の瞬間、ごちゅと花扉を突かれる感覚があった。
「っ、入った」
どくどくと熱く脈打つそれが何だか愛おしい。自分だけに向けられた欲情に素直に喜ぶようになるなんて思いもしなかった。
スカーレットの頬に新たな涙が溢れた。
「レティ、……?」
気遣わしげにオズが様子を伺う。その頬にスカーレットは手を伸ばした。
「不思議ですね」
思い返せばオズがスカーレットを抱いたといえるのは一度だけだ。あの時は初めての快楽に溺れないよう足掻いて余裕がなかった。
スカーレットが自分自身の闇に閉じこもっていた間、この男はこんな切なそうな顔で自分に触れていたのか。もっと、ちゃんと見ておけば良かった。
「やっと、ひとつになれた気がします」
泣き出す寸前のようにオズの瞳が見開かれた。呻き声に似たか細い声を上げながら顔が逸らされる。耳が真っ赤になっているから不快を顕にしたわけではないようだ。
スカーレットの腰をオズの手が掴んだ。
「ごめん」
どうかしたのかとオズを見上げると視線が絡み合う。その金色は飢えた獣のような輝きでスカーレットを縛り上げた。
「優しく出来ない」
スカーレットの腹の中でオズが一際熱く膨らむ。
「あっ」
そう反射的に声が零れた瞬間、ばちんと大きな音が脳裏で爆ぜた。
水音が激しさを増す。何度も何度も腰を打ち付けられ、その度にスカーレットは甘い嬌声を引きずり出された。
「レティ」
互いの熱い吐息の中でオズは囁く。
「好きだ」
声を聞いているだけで絶頂しそうなのに、後頭部を抱えられ逃げ場がない。全てを犯し尽くされるのではないだろうか。
「愛してる」
スカーレットは必死でオズにしがみついた。項の後ろで腕を組み、足はオズの腰にまとわりつかせる。
「わたしもっ、あいしてます」
あとはもう、意味をなさない甘ったるい声だけが部屋に響く。好きだと素直に言えない代わりに強くしがみついた。
「あついの、きもちいぃっ」
ベッドの軋む音もばちゅばちゅとぶつかりあう音も激しさを増していく。
「も、わたしっ」
「うん」
オズがスカーレットを引き寄せる。強く抱きしめられ、愛熱を注ぎ込まれる準備が整った。
ひゅう、とスカーレットの喉がか細く鳴った。
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