【完結済】婚約破棄されたので魔法使いになろうと思います【R18】

風待芒

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第五章「木漏れ日の欠片」

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「うん?」
 急に歯切れの悪くなったスカーレットにオズは首を傾げた。そのまま根気強く言葉の続きを待つ。
「女性が爵位を継ぐときの条件なのですが」
  うんうん、と相槌を打つ。
「陛下がお認めになった婚約者が必要、で」
 スカーレットの言う通り、この国で女性が爵位を次ぐには条件がある。国王が承認した婚約者が必要なのだ。男性と違い、女性には子を産むという大事な役目がある。子供を育んでいる間は仕事に打ち込むことが難しい。そのため、育児期間の代役が可能だと周囲と国王が認める者を夫として迎え入れる必要があるのだ。
「わた、わたしに」
 しどろもどろになりながらスカーレットは言葉を繋ぎ合わせる。
 覚悟が決まったのか、睨みつけるような勢いでオズを見つめた。
「嫁いできてくれませんか!」
 一瞬の沈黙。
 ややあってオズは自分を指さす。
「僕がお嫁さん?」
 再び間の抜けた沈黙が訪れた。
「いえ、お婿さん? あれ、でも、あれ?」
 女性を花嫁、男性を花婿と呼ぶのが慣例だ。だが、嫁が嫁ぐ側だとすると婿は迎え入れる側になる。そうなると意味が反転しオズが花嫁、スカーレットが花婿ということになる。なるのだが、そうはならないはずだとどこかから声が聞こえる。
「いいよ」
 思考の海に沈んでいたスカーレットをオズの声が引き上げた。
「不束者ですが、よろしくお願いします」
 そう横になったまま頭を軽く下げる。
 こちらこそと受け入れそうになったが、そもそもオズは不束者などでは無い。時々必要以上に自分を貶めるのは悪い癖だ。いつか矯正してやるのだとスカーレットは決意を新たにした。
「陛下との顔繋ぎも僕がしようか」
「えっ」
 そこまで任せていいのだろうか、スカーレットの声は言外にそう告げていた。
「宮廷魔道士だからね」
 そういえばオズの地位は低い訳では無いのだった。なら任せてしまってもいいのかもしれない。
「そもそもレティが僕のところにいるって陛下もご存知だし」
「初耳です」
 どんどん知らない情報が出てくる。怖い。
 慄いているスカーレットを尻目にオズは滔々と言葉を続けた。
「王家の失態で行方をくらませた侯爵家の令嬢」
 王家の威信も侯爵家の面子も丸潰れ。ほんの少し歯車が噛み合えばあっという間に戦争だ。
「捜索機関が短かったのは陛下に既に伝えてあったからだし」
 スカーレットがオズの屋敷を訪れた翌日には既に話が通っていたらしい。
「あと、レティにつけられたのも全部言いがかり」
 ユリアを貶めた、というのはほとんどが彼女をよく思わない貴族の子女、子息たちがやったことだ。全員を罰することは出来なかったが、特に派手に動いていた者は修道院や幽閉、勘当、国外追放など処分を既に受けている。
「証拠も集めたし、ユリア自身が協力してくれたしね」
 被害を受けた側が加害した側の無罪を主張するのは少々不思議な状況だが。ユリア自身、スカーレットとの接触は最小限になるよう努めていたのだ。自然と話の内容も絞られてくる。
 ターゲットのことは綿密に調べていた帝国だ。スカーレットが器用では無いことはすぐに見抜かれていたらしい。
「カイン殿の査問会はほぼ結果は出てる」
 良くて国外追放、最悪処刑。
 本人の言い訳次第で罪が増えるか減るかというだけで刑を受けることはすでに確定している。
「レティがその気なら王家も助かるだろうし」
「助かる?」
「侯爵家を血筋を保ったまま存続させられるってね」
 貴族社会は血筋が全てと言っても過言では無い。長い歴史の中で末端までもが血筋の正当性に拘ってきた。それだけ直系であること、直系になるべく近い血筋であることは重要なのだ。
「待ってください」
 あまりに準備が良すぎる。というかスカーレットに都合が良すぎる。オズから語られなければ罠を疑ってしまうほどに。
「もしかして、忙しくしてらっしゃったのって」
 宮廷魔道士とはそこまで多忙なものかと思っていた。もしくはオズが仕事熱心なのやも、と。
 だが、顔を上げるとオズが変な顔をしていた。平静を装って失敗したような左右非対称な不思議な表情。スカーレットの疑惑の目に気付いたのか、気まずそうに目が泳ぐ。
 つまり、忙しくしていたのはスカーレットの為であったらしい。
「ずるいです」
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