【完結済】婚約破棄されたので魔法使いになろうと思います【R18】

第六章「一角馬の角」

１-７

　じんわりと心が暖かくなる。緊張していたのが馬鹿馬鹿しくなってしまうほどに。
　積もる話もあるが、それはひとまず横に置くことにした。
　本題はある。スカーレットの名誉回復についてはオズが先立って動いてくれたおかげで健在を示すだけで何とかなるだろう。
　問題はカインの査問会だ。
　新聞の切り抜きにプリメラがもたらしてくれた社交界でのカインの評判と黒い噂の数々。それから両親がスカーレットに何かあった時のために掛けておいた保険。
　スカーレットの要求は二つ。査問会へ介入するための手引きと自身がカインを追い落とした後に侯爵位につくことの許可だ。
「なるほど」
　スカーレットの話を聞いたカルロスは口元の髭を撫でながら頷く。
「たしかに、それが一番丸く収まるな」
　実現可能かはともかく理解は得られたらしい。それだけでも僥倖だとスカーレットの表情が綻ぶ。
「して、婚約者はどうする」
「それは、その……っ」
　魔道士殿、オズ様。隣にいる人物を指す言葉はいくらでもあるのに上手く言葉に出来ない。どう言えばいいものか、伝え方は、言葉は。
「私の息子でどうだろうか」
　現在、カルロスの子は二人。一人はレオナルド、もう一人はエステルだ。
「レオナルド殿下のことでしょうか？」
　再び婚約しろということだろうか。ではユリアは、王位は、一瞬で頭の中を百万語が埋めつくす。
「あの子は第二王子だ」
　続いて衝撃的な言葉が飛び出した。聞けば第一王子はカルロスが王位に即位する前に関係を持った女性との子供らしい。王位に着くと同時に彼女は側室に、そして正室にはアデーリアが収まった。後ろ盾のない彼女なりに生まれた子を守る手段として継承権を早々に破棄したらしい。
「では、第一王子殿下はどちらに……」
「あぁ、それなら」
　鈍色の瞳がスカーレットの隣へ滑る。
「そこに」
「はい？」
　隣に居るのは魔道士ではなかったか。そういえば母親については聞いていたが父親については聞きそびれてしまっていた。死んだとは聞いていない気がする。久方ぶりにカルロスと対面して笑い方が似ているなとは思った。
　だが、まさか。まさか
「申し遅れましたスカーレット様」
　ふわりとスカーレットの足元にオズが跪く。
「メイジス王国、カルロス二世が第一子オズワルド・パールヴィアと申します」
　僕のお嫁さんになって、そう持ちかけた時のオズが脳裏に蘇る。目の前のオズと記憶の中のオズの姿が重なった。
　唯一の宮廷魔道士というのも王家の血がオズをこの国に繋ぎとめたのだろう。そしてその血筋の尊さゆえに逃げ出すことも出来ずに責務を一人で背負わざるを得なかった。
　そういう事だったのか、と点と点が繋がっていく。
「なんちゃって」
　情報量の多さに耐えきれなくなったのか、スカーレットは硬直してしまったようだ。
　カルロスがそんな二人を呆れ気味に眺めている。
「なんだ、まだ言っておらんかったのか」
　カルロスの言葉をオズは華麗にスルーした。確かにこの雑さは親子ならではである。
　硬直しているのをいい事にスカーレットの手を取るとその手の甲に唇を寄せた。