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第六章「一角馬の角」

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 ◇ ◇ ◇ ◇ 

 話は一週間ほど前に遡る。
 スカーレットの名誉回復とカインを追い落とすための証拠。それらがまとまった頃、国王との面会の機会がやってきた。オズが言葉を違えず用意してくれた場だ。
 場所は王城の一室。ちなみに魔道士の特権だと裏口から侵入した。正面から入っても良かったがそれだとスカーレットが健在であること、なんらかの働きかけをする為に国王に面会を求めたことが伝わってしまう。万全を期すために許可をとったとオズは話す。
 だが、スカーレットは察している。オズはただ、人と顔を合わせるのが面倒くさくて接触が最小限ですむように調整したのだと。否定されても肯定されても困るので口にするのは控えているが。
 オズの屋敷を出発する時は決まっていた覚悟が、いざ王城の一室に入ると緊張が勝る。
 ぐるぐると書類の中身を思い返す。齟齬も誤認もないようにしなければと繰り返せば繰り返すほど不安になる。
 沈黙の中で響くオズの笑い声がスカーレットの耳朶を叩いた。
「なんです……?」
 人が緊張しているというのに。ぎぎぎと音がしそうなほどぎこちない動きでオズの方へ顔を向ける。
「いや、がちがちに緊張してるの可愛いなあって思って」
「緊張せずにはいられません! 陛下ですよ?」
 国で一番偉い人だ。
 カルロス二世。本来、彼は王位継承権だけで言えば四位だった。同腹の兄が王位を継承した矢先に南方の蛮族たちとの戦闘で死亡。腹違いの次兄は既に隣国の王女と結婚、さらに腹違いの姉は侯爵家に嫁いでいる。成り行きで手にした王位故に、即位してからは賢王と讃えられる曽祖父から名をとりカルロス二世を名乗っている。その名に相応しい執政ぶりは賢王の再来やもと評されるほどだ。自身の継承問題があってからか子は二人とされている。
「怒られるわけでもないしさ」
「それは……」
 そうだ、と納得しかけてスカーレットは停止する。今の声音は経験者のそれによく似ていなかったか。
「待ってください」
 首を傾げるオズの服の裾を掴む。瞳から垣間見える感情の動きを見逃さぬよう距離を詰めた。
「怒らせたのですか? 陛下を?」
 カルロスは滅多に声を荒らげない事でも有名だ。温厚な国王陛下を怒らせた。誰が?
「いやぁ、怖かったなぁ」
「一体何をやらかしたんですかオズ様っ」
 視線が遠く、遠くを泳ぐ。思い出として話せるようになったのがつい最近かのような口振りだ。
 詳細を希望するスカーレットだったがタイムリミットが訪れてしまった。
「しばらくの間に随分仲良くなったようだな」
 亜麻色の髪に鈍色の瞳。威厳を感じる容貌だが、滲み出る人の良さがそのまま人望の厚さになっているような人物だ。
 スカーレットは弾かれたように立ち上がり、最上級カーテシーで応える。
「今回はこのような機会を設けて下さり感謝いたします」
「うむ」
 スカーレットが顔を上げると目の前にカルロスの姿があった。
「話はオズワルドより聞いていたが…………」
 不意に目元が和んだ。国王から一人の父親の顔になる。
「無事でよかった」
 両親が亡くなってからも彼だけは変わらず、むしろ義理とはいえ娘になるのだからと心を砕いてくれていたことを思い出した。
「有難う存じます」
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