【完結済】婚約破棄されたので魔法使いになろうと思います【R18】

風待芒

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第七章『恋の秘薬』

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 まともに顔を上げられないスカーレットに対してオズは余裕そうに紅茶のカップを傾ける。
「仲の良さをアピールしておいて損は無いんじゃない」
 その言葉にスカーレットは息を詰めた。今にして思うとレオナルドとの婚約は互いの不仲が先に立ってしまったのが痛手だったのだろう。世間の意見はややスカーレットに同情的だったが、それにしても〝やはり〟という空気はあった。
 理解はしている。どうにか身を起こすが、苦し紛れの視線はテーブルから動きそうにない。
「僕も虫除けはしておきたいし」
「虫除け………?」
 おそるおそる顔を上げると、オズが横目で周囲を伺っていることに気がついた。
 同じように目線を追いかけると、見慣れた顔の紳士たちに気がついた。学園で見た顔だが名前までは思い起こせない。
「レティは人気なんだよ」
 ケーキを口に運びながらオズがぼやく。スカーレットが瞳で続きを促すと喉を鳴らして言葉を続けた。
「固い表情を崩せる男は誰だーってね」
 スカーレットは意味を理解しあぐねて首を傾げる。自分の容貌が秀でていることに自覚的ではあった。だから余計な諍いを生まないよう、王太子の婚約者として醜聞をたてることの無いよう気を張っていただけだ。その結果、男女共に敬遠され談笑するほど親しい相手が出来なかったのである。
「それを言ったらオズ様だって」
 スカーレットとて、噂に疎い箱入り娘では無い。会議の休憩時間にいくつかオズの評判を聞いたのだ。唇を尖らせながら小耳に挟んだ話を引っ張り出す。
「氷の貴公子なんて呼ばれてるそうじゃないですか」
 話しかけても表情は変わらず、返事も短いまま。素っ気ない態度にさらに追い縋れば、冷ややかに睥睨され突き放される。
 娘が怯えてしょうがないとは話してくれた子爵の言葉だ。
「好きな子以外の好意は嬉しくない」
 スカーレットからの指摘に拗ねてしまったのかオズはそっぽを向いてしまった。
「私はオズ様のいいところ皆さんに知っていただきたいですが」
「例えば?」
 拗ねた口調のまま問われてスカーレットは言葉に詰まった。
「た、とえば………」
 相手の身分で態度を変えるわけではないところ。感情を素直に言葉にするところ。不機嫌になっても人や物に当たらないところ。自分に出来ることであれば率先して行うところ。誰かの為の努力を惜しまないところ。
 目線や歩幅を自然に合わせてくれるところ。触れる時に強引ではあっても乱暴では無いところ。どんな不安も一瞬で溶けるような笑顔を向けてくれるところ。
 そこまで考えてスカーレットは思い至った。全部、自分を特別扱いしているだけではないかと。
 他の人間、とくに令嬢にそのような態度を取ればオズはたちまち女性たちの憧れの的になってしまうことだろう。それは、嫌だ。とても嫌だ。
「やっぱりいいです……」
「ほらぁ」
 けらけらと実に楽しそうにオズが笑う。
 その屈託のない笑顔だけで女性を魅了できることを本人は知らないようだ。
 いつの間にか空になってしまった食器に名残惜しさを覚えながら二人は店を後にした。
 もう屋敷に帰ってしまうのだろうか。あっという間だった楽しい時間が終わってしまう。スカーレットが寂しさに目を伏せた時だった。
「ところでレティはさ」
 耳元で囁かれる声が纏う色香につい足が止まる。
「男が女の子に服を贈る意味って知ってる?」
 贈り物には得てして意味を含むものが多い。時計なら同じ時を、靴であれば同じ道を。花であれば相手の笑顔や幸福を。なら、恋人に服を贈る意味、特に男性から女性へということは。
 スカーレットは弾かれたように顔を上げる。
「着てほしい服があるんだ」
 うっそりと弧を描く笑みには見覚えがある。あの時はただ見蕩れただけだった。そして今、痛いくらいの早鐘を打つ心臓はきっと砂糖菓子で出来ている。
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