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同級生と白装束の女
同級生と白装束の女2
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近くの公園に急いだ和夫は、遠目から木陰のベンチに座る紀之を発見した。が、側に女がいる。繁華街も近い公園では違和感のある白装束姿で、長い黒髪を垂らしている女は、胸元から白く透き通るような乳房を片方はだけさせ、紀之へ吸わせている。紀之は不敵な笑みを浮かべながら、乳房の薄紅の突起を口に含んでよだれと白い液を垂らしている。
まさか白昼の公園で堂々と破廉恥な行為が行われていることに驚きを覚えた和夫は買ってきた弁当の入ったコンビニの袋を落としそうになった。夏の強い日差しが、フラッシュのようにたかれ、和夫にまためまいを及ぼす。一瞬のめまいが覚めた和夫の視界には、先ほどの女は見えずに、笑みの欠片も消えた生気のない紀之だけが見えた。和夫は幻覚でも見たのかと思いながら、まだくらりとした感じを覚えていた。
「やばい、日射病だろうか。これは休まなければ」
紀之のベンチへと寄って、弁当とお茶を渡し、自分のお茶を開けて、ぐいぐいと飲む和夫の汗腺からは、飲んだお茶がそのまま流れ出てくるように汗が流れた。
紀之は自分で水をせがんでおきながら、お茶をあけようともせずにひざの上に置いている。
「なあ、和夫、こんな歌知ってるか?」
紀之が渡された弁当を見つめて、ぼそりと吐き出す。
かごめかごめ
籠の中の鳥は
いついつ出やる
夜明けの晩に
ツルとカメがすべった
後ろの正面だあれ
「ん? 知ってるよ? 中心で一人しゃがんで、その周りを子供がぐるぐる回って、後ろの正面誰とか当てるやつだろ」
和夫が弁当を口にしながら紀之を見る。紀之は弱かったが、はっきりと言う。
「彼女が、教えてくれないんだよ」
まるで話がかみ合わない。何のことをしゃべっているのか理解できず、いぶかしがる和夫を無視しながら、紀之は話し続ける。
「俺は……アイシテイルのに」
紀之の「アイシテイル」という響きは、どこか飢えた亡者の静かなうめきだった。さすがに尋常ではなさそうな執着心を感じた和夫は心配になってきた。
「お前、大丈夫か?」
そんなことはどうでもいいんだ。どうして俺は彼女の名前を知らないんだ。どうして彼女は俺に名前を教えてくれないんだ。
彼女は優しい。彼女は俺を愛しく思ってくれている。彼女は俺を見守ってくれている。
彼女は俺のものだ。彼女は俺のものだ。彼女は俺のものだ。彼女は俺のものだ。
彼女は誰にも渡さない。俺だけのものだ。誰にも渡さないぞ。誰も邪魔はできない。邪魔はさせない。
貧乏ゆすりをしながら呪術でも唱えているかのようにつぶやいている紀之の瞳は見開き、ギラリと何かを凝視していた。貧乏ゆすりのために和夫が買ってきた弁当がぼとりと地に落ちる。つぶやき声は濡れ足がひたひたと迫ってくるようで、どんどん大きくなり、それにつれて貧乏ゆすりも痙攣のように激しくなってくる。
「何を教えてくれないんだ?」
弁当を拾う気も起きなかった和夫の声は紀之に聞こえていなかった。近くにいるだけで妙な寒気を和夫は覚えていた。
――キテ……ノリユキサン……コッチヨ……
紀之の頭の中に女の声が響く。青いガラスのように透き通った声。いつも自分を優しく呼んでくれる優しい声。冷たくも包まれるような、安らぎの声。あの声に、俺は安心していたはずなんだ。
紀之は立ち上がり、落ちた弁当を踏みつけ、神社の境内へ、ふらふらと歩き出す。
異常な雰囲気を感じた和夫は踏みつけられた弁当に怒りを覚えるよりも、操られ引き付けられるようにして神社へと向かう紀之を制止しようと声を上げた。嫌な予感だけがする。
「お、おい! 紀之! どこ行くんだ!」
その時、立ち上がろうとした和夫は突然のめまいで再びベンチへとへたり込んでしまった。せみの声が余計に頭に響いてくるようで痛かった。
「こりゃ、本当に日射病だ」
これでは紀之を追うことができないと諦め、和夫は紀之が残したお茶も飲んでベンチに寝転んでしまった。
紀之は夏の強い日差しが遮られた木陰の階段を上る。境内へ続く階段の一段一段が救いへの道だった。力ない幽鬼の足取りでゆっくりと上り、渇いたのどをかすれた呼吸でヒーヒーと鳴らしている。
紀之の脳裏には白装束の女の硬くなった乳首の感触が宿っている。唇で挟んだ感触や、口の中に含んだときに広がる淡く甘い乳の香りと味が紀之の股間を熱くさせ、荒々しく吸った時、乳首の先からほとばしる母乳の甘美な喜びを感じていた。
ここを上れば、またおいしいミルクが飲める。
おいしいミルク。おいしいミルク。おいしいミルク。おいしいミルク。
甘くておいしいミルク。
彼女の乳房から流れる白い液体は、紀之の体中を染み満たし、紀之を虜にしていた。女の母乳を口にした日から紀之は、他のものを食べる気がなくなり、女の乳房を麻薬の禁断症状のように求めた。
彼女に会える。彼女に会える。彼女は俺のもの。彼女は俺のもの。
――ソウ、ワタシハ、アナタノモノヨ……ダカラキテ……ハヤクキテ……
まさか白昼の公園で堂々と破廉恥な行為が行われていることに驚きを覚えた和夫は買ってきた弁当の入ったコンビニの袋を落としそうになった。夏の強い日差しが、フラッシュのようにたかれ、和夫にまためまいを及ぼす。一瞬のめまいが覚めた和夫の視界には、先ほどの女は見えずに、笑みの欠片も消えた生気のない紀之だけが見えた。和夫は幻覚でも見たのかと思いながら、まだくらりとした感じを覚えていた。
「やばい、日射病だろうか。これは休まなければ」
紀之のベンチへと寄って、弁当とお茶を渡し、自分のお茶を開けて、ぐいぐいと飲む和夫の汗腺からは、飲んだお茶がそのまま流れ出てくるように汗が流れた。
紀之は自分で水をせがんでおきながら、お茶をあけようともせずにひざの上に置いている。
「なあ、和夫、こんな歌知ってるか?」
紀之が渡された弁当を見つめて、ぼそりと吐き出す。
かごめかごめ
籠の中の鳥は
いついつ出やる
夜明けの晩に
ツルとカメがすべった
後ろの正面だあれ
「ん? 知ってるよ? 中心で一人しゃがんで、その周りを子供がぐるぐる回って、後ろの正面誰とか当てるやつだろ」
和夫が弁当を口にしながら紀之を見る。紀之は弱かったが、はっきりと言う。
「彼女が、教えてくれないんだよ」
まるで話がかみ合わない。何のことをしゃべっているのか理解できず、いぶかしがる和夫を無視しながら、紀之は話し続ける。
「俺は……アイシテイルのに」
紀之の「アイシテイル」という響きは、どこか飢えた亡者の静かなうめきだった。さすがに尋常ではなさそうな執着心を感じた和夫は心配になってきた。
「お前、大丈夫か?」
そんなことはどうでもいいんだ。どうして俺は彼女の名前を知らないんだ。どうして彼女は俺に名前を教えてくれないんだ。
彼女は優しい。彼女は俺を愛しく思ってくれている。彼女は俺を見守ってくれている。
彼女は俺のものだ。彼女は俺のものだ。彼女は俺のものだ。彼女は俺のものだ。
彼女は誰にも渡さない。俺だけのものだ。誰にも渡さないぞ。誰も邪魔はできない。邪魔はさせない。
貧乏ゆすりをしながら呪術でも唱えているかのようにつぶやいている紀之の瞳は見開き、ギラリと何かを凝視していた。貧乏ゆすりのために和夫が買ってきた弁当がぼとりと地に落ちる。つぶやき声は濡れ足がひたひたと迫ってくるようで、どんどん大きくなり、それにつれて貧乏ゆすりも痙攣のように激しくなってくる。
「何を教えてくれないんだ?」
弁当を拾う気も起きなかった和夫の声は紀之に聞こえていなかった。近くにいるだけで妙な寒気を和夫は覚えていた。
――キテ……ノリユキサン……コッチヨ……
紀之の頭の中に女の声が響く。青いガラスのように透き通った声。いつも自分を優しく呼んでくれる優しい声。冷たくも包まれるような、安らぎの声。あの声に、俺は安心していたはずなんだ。
紀之は立ち上がり、落ちた弁当を踏みつけ、神社の境内へ、ふらふらと歩き出す。
異常な雰囲気を感じた和夫は踏みつけられた弁当に怒りを覚えるよりも、操られ引き付けられるようにして神社へと向かう紀之を制止しようと声を上げた。嫌な予感だけがする。
「お、おい! 紀之! どこ行くんだ!」
その時、立ち上がろうとした和夫は突然のめまいで再びベンチへとへたり込んでしまった。せみの声が余計に頭に響いてくるようで痛かった。
「こりゃ、本当に日射病だ」
これでは紀之を追うことができないと諦め、和夫は紀之が残したお茶も飲んでベンチに寝転んでしまった。
紀之は夏の強い日差しが遮られた木陰の階段を上る。境内へ続く階段の一段一段が救いへの道だった。力ない幽鬼の足取りでゆっくりと上り、渇いたのどをかすれた呼吸でヒーヒーと鳴らしている。
紀之の脳裏には白装束の女の硬くなった乳首の感触が宿っている。唇で挟んだ感触や、口の中に含んだときに広がる淡く甘い乳の香りと味が紀之の股間を熱くさせ、荒々しく吸った時、乳首の先からほとばしる母乳の甘美な喜びを感じていた。
ここを上れば、またおいしいミルクが飲める。
おいしいミルク。おいしいミルク。おいしいミルク。おいしいミルク。
甘くておいしいミルク。
彼女の乳房から流れる白い液体は、紀之の体中を染み満たし、紀之を虜にしていた。女の母乳を口にした日から紀之は、他のものを食べる気がなくなり、女の乳房を麻薬の禁断症状のように求めた。
彼女に会える。彼女に会える。彼女は俺のもの。彼女は俺のもの。
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