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チャイコフスキーの薔薇1
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「おじいちゃん。今日は食べたいものありますか?」
ヘルパーのリサの声に返事すらせず、つまらなそうに椅子に座って窓の外を眺めている老人。
「今日のは、煮つけなんだけど、おじいちゃんのお口に合うといいんだけど……」
老人はタケノコを一口含んで、お椀を投げ飛ばした。
「ごめんなさい。お口に合わなかったみたいね」
リサは壁にぶつかって散乱した煮つけの里芋や大根や人参を丁寧に拾って、かろうじて割れなかったお椀に戻した。
リサはそれらを洗ってタッパーに詰めた。もったいないので、いつも自分が食べていた。
「それじゃあ、もう帰りますから」
見向きもしない老人に礼をして、ようやく車に乗り込んだ時には深いため息が出ていた。
(なんなの……いつもいつも……)
不愉快な思いでいっぱいだったが、今日の報告をしようと孫娘のところへと行く。
「ごめんなさい。あなたで十二人目なんです。みんな、おじいちゃんがあんな調子だからすぐやめちゃって……」
「何か、理由があるんですか?」
「さあ? お父さんは小さい頃に養子に出されてしまって、おばあちゃんはもういないし、音楽をやっていたということぐらいしかわからないんです。お父さんには音楽の才能がないから家から追い出されたって」
「そんな……お気の毒に……」
「私は声が綺麗だからしきりに声楽をやれって言われているけれど、それでもおじいちゃんの機嫌のいい時しか近づけないし、なんか、大変なこと押し付けちゃってごめんなさい。でも、本当はとても優しいおじいちゃんなんですよ。変わっているだけで」
高校一年生にしては随分と利発でしっかりしている子だなとリサは思った。肝心の息子に当たる「お父さん」には大変冷たくあしらわれるので、リサはこの子の真剣な思いに接するたびに、もう少しがんばってみようかなという気を奮い立たせていた。
ある日、老人が珍しくテレビでニュース番組を見ているなとリサが思っていたら、男性キャスターが
「四月十七日、今日は何の日がご存知ですか?」
とお決まりのように横にいる女性キャスターに振っていた。
「今日は千九百七十年、四月十一日に打ち上げられたアポロ十三号が、絶体絶命の危機から見事に地球に生還した日なんです」
「そうなんですか」とオーバーに答える女性キャスターの声に、映像とともに解説が始まる。
船の電線がショートし、酸素タンクが爆発したことで、深刻な電力と水不足に見舞われながらも、的確な危機対処によって無事に地球に生還したという内容だった。映画にもなったのでご存知の方も多いと思いますが、との解説にリサも前に見たトム・ハンクスが出ていた映画を思い出していた。
ヘルパーのリサの声に返事すらせず、つまらなそうに椅子に座って窓の外を眺めている老人。
「今日のは、煮つけなんだけど、おじいちゃんのお口に合うといいんだけど……」
老人はタケノコを一口含んで、お椀を投げ飛ばした。
「ごめんなさい。お口に合わなかったみたいね」
リサは壁にぶつかって散乱した煮つけの里芋や大根や人参を丁寧に拾って、かろうじて割れなかったお椀に戻した。
リサはそれらを洗ってタッパーに詰めた。もったいないので、いつも自分が食べていた。
「それじゃあ、もう帰りますから」
見向きもしない老人に礼をして、ようやく車に乗り込んだ時には深いため息が出ていた。
(なんなの……いつもいつも……)
不愉快な思いでいっぱいだったが、今日の報告をしようと孫娘のところへと行く。
「ごめんなさい。あなたで十二人目なんです。みんな、おじいちゃんがあんな調子だからすぐやめちゃって……」
「何か、理由があるんですか?」
「さあ? お父さんは小さい頃に養子に出されてしまって、おばあちゃんはもういないし、音楽をやっていたということぐらいしかわからないんです。お父さんには音楽の才能がないから家から追い出されたって」
「そんな……お気の毒に……」
「私は声が綺麗だからしきりに声楽をやれって言われているけれど、それでもおじいちゃんの機嫌のいい時しか近づけないし、なんか、大変なこと押し付けちゃってごめんなさい。でも、本当はとても優しいおじいちゃんなんですよ。変わっているだけで」
高校一年生にしては随分と利発でしっかりしている子だなとリサは思った。肝心の息子に当たる「お父さん」には大変冷たくあしらわれるので、リサはこの子の真剣な思いに接するたびに、もう少しがんばってみようかなという気を奮い立たせていた。
ある日、老人が珍しくテレビでニュース番組を見ているなとリサが思っていたら、男性キャスターが
「四月十七日、今日は何の日がご存知ですか?」
とお決まりのように横にいる女性キャスターに振っていた。
「今日は千九百七十年、四月十一日に打ち上げられたアポロ十三号が、絶体絶命の危機から見事に地球に生還した日なんです」
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